本稿は、日本反核法律家協会(JALANA)で行われた「核兵器問題フォーラム(略称:核フォーラム)」において報告した内容(「国際刑事裁判所設立までの経緯と今後の課題」)に若干の修正を施したものである。
戦争犯罪、ジェノサイド罪、人道に対する犯罪など、国際社会が最も関心を持つ犯罪を犯した個人を訴追・処罰する常設の国際刑事裁判所(International Criminal Court:ICC)の活動への関心は、専門家のみならず、一般においても、さらに増加していくことが予想される。その一方で、ICCがどのような経緯を経て設立されたのかについては、必ずしも多くの理解が得られているわけではない。
そこで、本稿においては、ICCに関心を有する弁護士等の法律実務家を念頭において、専門的かつ難解な説明になりがちなICC設立までの歴史的経緯を「第2次世界大戦前」、「第2次世界大戦後から冷戦終結まで」、「冷戦終結後の展開」、「ICC設立までの動向」に便宜的に区分して、先行研究を参照しつつ、できるだけわかりやすく平易に略述することを試みた。
そのうえで、条約で設立されたICCの主要な法的意義として、これまでの経緯との比較から、主要国際犯罪、特に「人道に対する罪」が成文化されたことに加え、国際社会における常設裁判所としての普遍性から、従来の国際刑事裁判が抱えていた管轄権問題を解消し、また、国際社会の平和と安全に貢献する犯罪抑止的な裁判所として機能することが期待されていることを指摘した。