(はしがき)
米国の核軍拡は不要であり核戦争のリスクを増大させる:米国議会戦略態勢委員会の最終報告書に対する見解
(はしがき)
米国の核軍拡は不要であり核戦争のリスクを増大させる:米国議会戦略態勢委員会の最終報告書に対する見解
本稿は、2023年10月に公表された米国議会戦略態勢委員会(The Congressional Commission on the Strategic Posture of the United States)の最終報告書について、核政策法律家委員会(LCNP)がウェブ上に公表した声明を訳出したものである。米国議会戦略態勢委員会は、長期的な米国の戦略態勢を調査し、大統領と議会に勧告することを目的として、2022年会計年度の米国国防権限(授権)法(FY2022 NDAA)に基づいて設置された超党派の諮問委員会である。FY2022 NDAAは、米国議会のウェブサイトにおいて公開されている(上記の委員会の設置目的については、600頁以下(SEC.1687)を参照した)。報告書は、近い将来における米国の核戦略を読み解く有力な一次資料として、いわゆる核抑止派・核軍縮派の如何を問わず、学術的な研究の基礎となる価値を有するといえるが、これに対し、本稿は、米国の反核コミュニティの立場から、核政策の専門家によってなされた論評や法的な観点も踏まえて報告書の内容を分析・批判する示唆に富む見解として、日本の反核コミュニティないしは市民社会においても広く共有される意義があろう。
LCNPは、法学者と弁護士を中心として構成される米国の代表的な反核NGOであり、1981年の設立以降、40年以上の長きにわたり、ニューヨークを拠点として、国際法と米国国内法の観点からの核兵器廃絶に特化した調査・研究、そこから得られた法的・政策的知見に基づくアドボカシー活動を継続している。1989年に設立された国際反核法律家協会(IALANA)の米国における加入団体であり、LCNPのニューヨーク本部はIALANAの国連オフィスを兼ねている。また、LCNPは、IALANAと同じく、2007年に発足し、2017年のノーベル平和賞を受賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の構成団体である。
なお、核問題についての国際法上の重要トピックに係るLCNPによる近年の主要な提言として、「核不拡散レジームに対峙する核威嚇と核共有」(2022年8月、反核法律家115号(2023年)に掲載、日本反核法律家協会(JALANA)のウェブサイトで利用可能)、「気候保護と核廃絶:人道的軍縮と国際人権法の発展状況からの提言」(2022年11月、反核法律家116・117号(2023年)に掲載、JALANAのウェブサイトで利用可能)がある。
ウェブサイトのURLについては、2024年4月28日の時点で接続を確認した。また、訳出に当たって、一部の注の表記を訳者が調整した。〔 〕は訳者が補ったものであり、訳注を兼ねている。