(はしがき)
核不拡散レジームに対峙する核威嚇と核共有
(はしがき)
核不拡散レジームに対峙する核威嚇と核共有
本稿は、2022年8月1日~26日まで、アメリカ・ニューヨークの国連本部で開催された第10回NPT再検討会議に併せ、2022年8月2日付けで核政策法律家委員会(LCNP)がウェブ上に公開した提言書を訳出したものである。周知のとおり、第10回NPT再検討会議は、前回の再検討会議に続き、2回連続で最終文書のコンセンサス採択に失敗して閉会することとなったが、2026年に開催予定の次回の再検討会議に至る一連のサイクルを見据えれば、本稿で議論される核威嚇と核共有、これに関連する消極的安全保証の強化、AUKUSの原子力潜水艦取引を契機とした高濃縮ウランの拡散など各国の安全保障とも強く関連する問題への対応は、引き続きNPT体制の維持・強化に関わる主要な論点となることが予想されるのであり、その賛否を含め、本稿で示された提言は、今後の市民社会の活動、ひいては核兵器のない世界に向けた具体的な政策の評価においても参考となる点があろう。
LCNPは、法学者と弁護士を中心として構成されるアメリカの代表的な反核NGOであり、1981年の設立以降、40年以上の長きにわたり、ニューヨークを拠点として、国際法とアメリカ国内法の観点からの核兵器廃絶に特化した調査・研究、そこから得られた法的・政策的知見に基づくアドボカシー活動を継続している。1989年に設立された国際反核法律家協会(International Association of Lawyers Against Nuclear Arms:IALANA)のアメリカにおける加入団体であり、LCNPのニューヨーク本部はIALANAの国連オフィスを兼ねている。また、LCNPは、IALANAと同じく、2007年に発足した核兵器廃絶国際キャンペーン(International Campaign to Abolish Nuclear Weapons:ICAN)の構成団体である。LCNPとICANとの関係について、その一端が窺われる論稿として、例えば、ジョン・バロース(訳:森川泰宏)「核兵器の人道的影響に関する国際会議と核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN):オスロ会議の報告」反核法律家76号(2013年)26-31頁(日本反核法律家協会(JALANA)のウェブサイトで利用可能)がある。LCNPの過去の提言を含む詳細については、LCNPのウェブサイトを参照されたい。
ウェブサイトのURLについては、2023年6月18日の時点で接続を確認した。また、訳出に当たって、一部の構成と注の表記を訳者が調整した。〔 〕は訳者が補ったものであり、訳注を兼ねている。本文中のTPNWの日本語訳は、ダニエル・リエティカー/マンフレッド・モーア/山田寿則(訳:山田寿則)「核兵器禁止条約 逐条解説」反核法律家別冊(2023年)所収の訳文によった。
なお、核軍縮・廃絶派のアクターの視座からNATOの核共有を論評・批判する論稿として、小倉康久「NATOの核戦略:新戦略概念の検討」(浦田賢治編著(訳:伊藤勧・城秀孝・森川泰宏)『核抑止の理論:国際法からの挑戦』(日本評論社、2011年)所収、同書50-62頁)、ベルント・ハーンフェルト(訳:森川泰宏)「核共有違法論」反核法律家113号(2022年)40-55頁(JALANAのウェブサイトで利用可能)がある。また、国際人道法(International Humanitarian Law:IHL)ないし武力紛争法(Law of Armed Conflict:LOAC(ロアック))の観点から、ロシアによるウクライナ侵攻についての国際法上の論点を示す有用かつ信頼できるウェブ上の資料として、真山全「露ウクライナ侵攻関係国際法暫定論点メモ―jus ad bellum とjus in bello 」(長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)他共催「緊急討論:ウクライナ危機II」(2022年3月25日、改同年4月5日))、特に本稿の議論と深く関係する核威嚇と核共有についての指摘につき、同8-9頁(RECNAのウェブサイトで利用可能)もあるので、本稿と併せて参照されることをお勧めする。