(はしがき)
気候保護と核廃絶:人道的軍縮と国際人権法の発展状況からの提言
(はしがき)
気候保護と核廃絶:人道的軍縮と国際人権法の発展状況からの提言
本稿は、前稿(核政策法律家委員会(訳:森川泰宏)「核不拡散レジームに対峙する核威嚇と核共有」反核法律家115号(2023年)18-27頁)に引き続き、核政策法律家委員会(LCNP)による直近の提言書を訳出したものである。
LCNPは、法学者と弁護士を中心として構成される米国の代表的な反核NGOであり、1981年の設立以降、40年以上の長きにわたり、ニューヨークを拠点として、国際法と米国国内法の観点からの核兵器廃絶に特化した調査・研究、そこから得られた法的・政策的知見に基づくアドボカシー活動を継続している。1989年に設立された国際反核法律家協会(IALANA)の米国における加入団体であり、LCNPのニューヨーク本部はIALANAの国連オフィスを兼ねている。また、LCNPは、IALANAと同じく、2007年に発足した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の構成団体である。LCNPとICANとの関係について、その一端が窺われる論稿として、例えば、ジョン・バロース(訳:森川泰宏)「核兵器の人道的影響に関する国際会議と核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN):オスロ会議の報告」反核法律家76号(2013年)26-31頁(日本反核法律家協会(JALANA)のウェブサイトで利用可能)がある。LCNPの過去の提言を含む詳細については、LCNPのウェブサイトを参照されたい。
本稿の要旨は、本文中ないしは関連注記において相当の紙数を割いて明快にまとめられていることから、訳者による特段の解題を要しないものと思われるが、本稿と関連する市民社会による核廃絶の取組みとして、2017年にスイス・バーゼルで開催されたNGO主催の国際会議「核時代における人権、将来世代及び犯罪」(バーゼル会議)とその成果である「人権並びに核兵器及び核・原子力エネルギーに由来する世代間犯罪に関するバーゼル宣言」(バーゼル宣言)の存在について触れておく必要があるだろう。バーゼル会議は、放射線被爆・被曝の医療上の帰結に係る最新情報を専門家間で共有するとともに、将来世代の権利を含む関連する人権について、刑事法の観点を含む法的アプローチを模索することを目的とした国際会議であり、その成果であるバーゼル宣言は、核・原子力の脅威に対処する科学的知見に基づくあるべき法の指標として、繰り返しの参照に耐える価値があると思われる。詳細については、山田寿則「バーゼル会議とその宣言について」反核法律家94号(2018年)45-51頁(JALANAのウェブサイトで利用可能)に詳しいが、バーゼル宣言には、2017年の時点において、本稿でも取り上げられるエコサイド罪とその国際刑事裁判所(ICC)ローマ規程への追加の提案が含まれていることを特に強調しておきたい。なお、バーゼル宣言を受けて、市民社会の立場から米国の議会関係者に向けた政策提言を行った論稿として、アンドレアス・ニデッカー/エミリー・ガイラード/アラン・ウェア(訳:森川泰宏)「核・原子力の脅威と気候変動:我々には将来世代を守る義務がある」反核法律家 95号(2018年)41-45頁(JALANAのウェブサイトで利用可能)もある。
バーゼル宣言でも強調された国際人権法上の将来世代の権利の概念は、気候変動への具体的な対策を求めるSDGsの目標13の後押しを受けて、日本においても、公害対策を基軸とした従来の環境法の基本枠組みの再構築を迫るものとなっている。もっとも、このような発展の動態に、気候変動の脅威のみならず、核兵器の使用による壊滅的な結末を含む核・原子力の脅威を適合させていくためには、なお本稿で示されるような市民社会による現行の環境規範への積極的な働きかけを必要とするように思われる。この点、将来世代の権利を組み込んだ環境法学の体系を展望し、発展させる一助となる直近の注目すべき書籍として、編:奥田進一・長島光一『環境法:将来世代との共生』(成文堂、2023年)があるので、本稿と併せて参照されることをお勧めする。
ウェブサイトのURLについては、2023年10月15日の時点で接続を確認した。また、訳出に当たって、一部の構成と注の表記を訳者が調整した。〔 〕は訳者が補ったものであり、訳注を兼ねている。