(要旨)
外国人の逸失利益、休業損害、慰謝料
(要旨)
外国人の逸失利益、休業損害、慰謝料
民事交通事故損害賠償における外国人の人身損害については、従来より、出入国管理及び難民認定法(入管法)上の在留資格制度の規律の下で、一時的に日本に滞在し、将来出国が予定されている外国人の逸失利益の算定において、その基本要素である「日本での就労可能期間」とこれに強く関連する「基礎収入」をどのように認定するのかという問題を中心に議論が展開されてきた。この問題は、1997年(平成9年)に外国人の逸失利益に係る初めての最高裁判決(最判平成9・1・28民集51巻1号78頁)が下され、広く外国人に適用可能な一般準則が示されたことによって一応の決着を見ることとなり、以後、下級審では、この一般準則に従ってある程度の安定的かつ予測可能な判断が下される傾向にある。
ただし、上記の損害算定の基本要素と深く関わる入管法上の在留資格に規定された在留期間の定めとの関係で、具体的な損害算定の場面において、外国人の日本での就労可能期間と基礎収入をいかに考慮して認定するのかについては、時代の変化に合わせた在留資格制度の改正動向も踏まえ、より解像度の高い問題点の把握と慎重な対応が必要となろう。
以上の点に鑑み、本稿では、まず、在留資格別の外国人の類型と現行の在留資格を簡潔に整理し、外国人が当事者となる渉外事件に適用される国際私法(「国際裁判管轄」、「準拠法」(狭義の国際私法)、「外国判決の承認」)上の問題を概観したうえで、近年の入管法改正により創設された在留資格(「高度専門職」、「技能実習」、「介護」、「特定技能」など)との関係も意識しつつ、関連する主要裁判例の傾向にも目を配りながら、本稿の主題である「逸失利益、休業損害、慰謝料」に沿って外国人の人身損害について論じた。
また、交通事故損害賠償の実務と研究に寄与することを念頭に、併せて、『交通事故裁定例集』(2024年時点でぎょうせいより41号まで刊行)に掲載された交通事故紛争処理センター(紛セ)における裁定例の主要事例を10件選り抜いて紹介した。紹介した裁定例は留学生の事例が大半であるが、留学生は、卒業・修了後の在留資格の変更ないし出国後の状況の多様性が増していくことが予想されるのであり、その具体的態様が示されていることからして、実務上参考になる点もあろう。
なお、本稿は紛セの公式見解ではなく、筆者の個人的見解を述べたものである。