現在、世の中には多くの心理療法が存在しますが、アドラー派心理療法と対比されることの多いフロイト派心理療法、そして現在注目されている認知行動療法と対比してみます。
1.フロイト派心理療法(精神分析療法)
フロイト派心理療法では、神経症は、抑圧された外傷体験や、自我・超自我・イドの間の葛藤から生じるとされます。神経症は、原因があって生じると捉えることから、決定論的であると評されます。
※超自我:文化的価値基準を事故の内部に取り込んだもの
※イド:性的欲動、心的エネルギー
(1)神経症の原因
①意識から無意識へ抑圧され排除された外傷体験(精神・性的発達段階で生じた問題を含む)
②自我、超自我、イド間の葛藤
(2)心理療法
意識されていない外傷体験や葛藤に気づくことで問題への洞察を得る
2.アドラー派心理療法
アドラー派心理療法では、一定の条件によって神経症的性格が形作られ、副次的要因がきっかけとなって神経症が生じると考えます。また、別の側面として、本人にとってのある目標の手段として神経症が生じ、維持されていると捉えます(自分を傷つけそうな体験を避ける、など)。この観点から、目的因論的であるとされます。
(1)神経症が生じる条件
劣等感、共同体感覚の欠如、不適切な目標、不適切なライフスタイルなど
(2)副次的要因
嫌悪体験(ひどい失敗の体験)、ショックを受けるような体験など
(3)神経症の目標
自身を傷つけそうな体験を避けることで自尊心を保つこと、他者の関心を自身に向けさせることで他者を支配すること、自身を追い込んだ他者へ復讐することなど
(4)心理療法
劣等感の克服、共同体感覚の育成、目標やライフスタイルの明確化と再方向付
3.認知行動療法
認知行動療法では、心理的な問題を、【環境からの刺激→不適切な反応(認知・行動・感情・生理における反応)→結果】が循環しながら維持されている状態と捉えます。この循環のことを「問題を維持している悪循環」と言います。
この循環において、クライエントの反応は何らかの「機能」を持っており(一時的に不安が軽減される、など)、循環の維持に一役買っています。
また、問題の背景として、素因(クライエントの気質や精神症状など)や発生要因(問題が発生したきっかけ)、発展要因(問題が悪化した要因)を検討します。
(1)問題の背景
素因、発生要因、発展要因
(2)心理的な問題
【刺激→(不適切な)反応→結果】が循環しながら維持されている状態(「問題を維持している悪循環」)。クライエントの反応はこの悪循環を維持する「機能」を持つとされる
(3)心理療法
悪循環を断ち切るために、刺激の制御や、行動、認知、感情、生理に介入する
4.まとめ
アドラー派心理療法は、フロイト派心理療法と同時代に始まりましたが、神経症の捉え方や治療のアプローチは随分と異なります。
フロイト派心理療法は、神経症を引き起こす原因に注目しますが(特に無意識の影響に注目する)、アドラー派心理療法は、原因よりも、クライエントのライフスタイルや、神経症を生じさせ、維持させる、神経症の持つ目標に注目します。
一方、アドラー派心理療法の「ライフスタイル」は、認知行動療法における「認知(認知の歪み)」と似たところのある概念です(どちらも、その人が自己や他者をどのように見ているか、といったことを含みます)。また、神経症や問題行動には目標(認知行動療法では「機能」)があるという点でも似ており、大変興味深いものがあります。
いずれにせよ、様々な心理療法は、問題の状態によって使い分けたり、組み合わせて使うことが可能だと考えます。
図1.心理療法の比較