アドラー派心理療法では、一般的に神経症や問題行動の原因とされる出来事(失敗やショックを受ける様な体験)は、それらが始まる「きっかけ」と捉えます。神経症や問題行動は、むしろ不適切なライフスタイルによって生じると考えます。このため、ライフスタイルを適切なものに変えない限り、今ある神経症や問題行動を改善したとしても、違う形で再発する可能性があるとします。
ライフスタイルはとても幅の広い概念ですが、私は次の三点に集約して捉えています。①自己や他者をどのように見ているか(例えば、自分に能力や価値があるか、他者は仲間か敵か)、②人生の目標はどのようなものか(例えば、利他的か利己的か、現実的か空想的か)、③問題や課題にどう取り組むか(例えば、改善するか諦めるか)、です。
例をあげて検討しましょう。
ある人物が、他者は自分にとって危険な存在で、自分は常に他者に脅かされていて、かつ自分にはその状況は改善できないと強く思い込んでいるとします。その人は、他者の乱暴な一言がきっかけとなって、容易に不安神経症に陥るかもしれません。
この場合、過去に受けた言葉の暴力が神経症の原因だと考えるのが一般的ですが、同じような言葉の暴力を受けても神経症にならない人も居ます。だとすると、むしろ、「他者は自分にとって危険な存在で……」と考えるライフスタイルにこそ、問題があると考えることができます。
仮に、今ある症状が表面的には治まったとしても、ライフスタイルが変わらない限り、別のきっかけで容易に再発するだろうことは想像に難くありません。
そこで、アドラー派心理療法では、クライエントのライフスタイルを変化させることに力を入れます(他にも、関連して、劣等感の克服、共同体感覚の育成も行います)。
先の例では、自身のライフスタイルを認識してもらった上で、人は基本的に協力的な存在であり、自分にも人々と協力して社会を良くしていく力があることを理解してもらい、それを実践することで、不安感は治まってくるでしょう。
ところで、神経症や問題行動には、もう一つの側面があります。それは、神経症や問題行動は、クライエントの目標を達成する手段になっているということです。
先の例では、クライエントは、不安神経症によって、自分を傷つける可能性のある出来事から自身を遠ざけることができます。特定の人物を避けたり、学校や会社に行けなくなったり、家に引きこもったりするからです。
このことは、危険を避けるという目標の手段として、神経症が生じたり、維持されていると捉えることもできます。
アドラー派心理療法では、神経症や問題行動は、元々神経症になり易いライフスタイルを持った人が(神経症的性格と言います)、何らかの目標のために(例えば、自分を危険から守るために)、無自覚的に生じさせ、維持しているとも捉えます。この様な考え方を目的因論と言います。
この観点からも、まずはクライエントに神経症の目標を認識してもらった上で、やはりライフスタイルを変えていく必要性があると言えます。