ヨーロッパを震撼させ、それまで宇宙の中心を自負していた人間を世界の場末へと追いやった地動説。
この知的衝撃に匹敵する屈折を、京都は左京区百万遍交差点で味わうことが出来る。
フィフティーン・セブンティーン CAFE PROVERBS
「はじめてだから 戸惑うけれど」やってきたこの店、自然食をコンセプトとしたベジタリアンカフェとして営業しており、ランチ時には多くの外国人の集う憩いの場となっている。
ガラス張りの開放的な店内から醸し出されるヨーロッパのカフェ情緒は脂ぎった薄汚い男子学生とはまったくもって無縁とも思われるが、ここの名物メニューこそがなにを隠そうラーメンなのだ。それも豆乳ラーメン。
そもそも中華料理発祥であるラーメンは、大火力と油、この二大要素とは切っても切り離せない関係にあるというのが僕の持論である。豆乳などというあっさり系超健康的食品をスープに使うというのは言語道断、中華三千年への冒涜であると独り憤慨していたのだがやはり食わず嫌いというのは良くない。知らぬものについては沈黙せねばならないのだ。
そうは言っても自分の嗜好というのはそうそう曲げられるものでもない。
訝しげな顔をしながらも友人とともに豆乳ラーメンを注文。すると、ランチタイムだからと食後のお茶がついてくるらしい。
(ラーメンには水だ、水。)
野村監督ばりのボヤキをかましながらレモンティーを注文。
この時、脳内ではレモン色とミルクティが自動再生されたことについては割愛させていただく。
店内から聞こえてくる言葉に耳を傾けながら
「あれはスペイン語かな?」
「ちょっと待って、さっきから形態素のような接尾辞が観察できるよ。間違いない、膠着語だ。印欧語族じゃないね。」
「」
などと話していると、柔らかな黒色の丼に抱かれた豆乳ラーメンが運ばれてきた。
ふぁっ!?
見た目に関して言えば、もう満点近いのではないだろうか。
母性を感じさせる肌色の海に浮かんだ可愛らしい揚げ豆腐と凛々しい白髪ネギ。
豆乳ラーメンというから、てっきり市販されているキッコーマンの調整豆乳のようなものを思い浮かべていた。
外観、香りからして完全にラーメン用にカスタマイズされているじゃないか。煮詰められたスープから醸し出される香ばしい匂いはごま油だろうか。
スープを一口。
中華三千年の歴史が脊髄を駆け巡る。
そして僕はラーメン界の場末へと追いやられた。
甘い、甘いのだ。それも糖の甘みではない、豆乳それ自体の甘みだ。一口また一口とスープを飲み下す度に一歩また一歩と世界の場末へと追い詰められていく。
チャーシューの代わりである揚げ豆腐、これもまた甘醤油風味に味付けされており、箸の往復作業を一向に飽きさせない。
ただ残念なのはやや麺がシコシコし過ぎている点か。しかし、それを補っても余りあるスープの圧倒的な旨さ。
今すぐ水道業者を呼んで、うちの蛇口からこのスープが流れるようにしてほしい。
豆乳スープのシャワーを浴びたい。浴びさせてくれ。このスープでチノパンを洗いたい。洗わせてくれ。
女性にも自信を持ってオススメできるこのお店
フィフティーン・セブンティーン (CAFE PROVERBS 15 17)
夢見る十五歳も、初めてで戸惑っている十七歳もぜひ訪れて頂きたい。
寒空のもと、満面のしたり顔で。
(文・らーめん亭凡才)
※現在閉店となっています。