"良いもの"は受け継がれなければならない。
クラシック音楽がその典型例であろう。バッハに始まり、ベートーヴェン、私の敬愛するショパン、ひいてはストラヴィンスキー、武満徹。
クラシック400年の歴史と比するには些か荷は重いが、この「京都食訪」も紛れもなく"良いもの”である。
すなわち、受け継がれねばならぬものである。
私が長い沈黙を破るべく筆を取ったのも偏にそのためである。
まさに「名文の宝庫」たるこの「京都食訪」。
その中でもひと際名文との呼び声が高いのが、師にんじんの絶筆-"夢を語れ"。
今回紹介するのはそんな"夢を語れ"と肩を並べる二郎インスパイア、"池田屋"である。
高野より北上すること約10分。人気店"高安"の向かいにのれんを掲げるこの店。
店自体はかなり小ぢんまりとしているのだが、どこか迫力がある。創業五十有余年、これが貫録というものであろう。
店内に入るとロッチ中岡そっくりの店員が無愛想だが心のこもった笑顔で迎えてくれる。
中ラーメン 400g 780円 を購入して席に着く。
無機質な水色のれんげ、木製の赤いカウンター、壁に貼られた3年前に終了しているイベントのビラ、店内に流れるレベッカのフレンズ、、、
などに囲まれてほっこりしていると店長から一声。
「にんにく、いれますか?」
なんたる心地よい響き。止まっていた時間が動き出す。
にんにくアリ、野菜増し、アブラ増し、カラメで。
そう答えたのちに私の目の前に出されたそのラーメン。
”ディ モールト!”-私は思わずそう口に出さずにはいられなかった。
非乳化のスープに浮く脂は言うなればダイヤモンド。真珠色のもやし。豚肉のトパーズ。ふりかかる唐辛子はルビーといったところか。
よく混ぜて口に運ぶ。
旨い。シンプルに旨い。
脂が”シアワセ" となって体中を駆け巡る。
繊細で調和のとれた味を持つ夢を語れをショパンとするならば、こちらはメッセージ性・インパクトがより強く、印象派と呼ぶのが適切であろう。まさにラヴェルだ。
時折スープも味わいながら、肉ともやしと麺をワシワシと無心に食べ進める。
ふと我に返ると400gもあったという麺が綺麗に腹の中に納まってしまう。
「御馳走さまでした」
ロッチに別れを告げると、えもいはれぬ幸福感につつまれながら店を後にする。
池田屋。
此処のラーメンが"良いもの"であることに疑いの余地を挟む必要はどうやらなさそうである。
まだ行ったことのない、という不幸な諸賢は明日にでも行くことを強く勧める。明日が無理ならあさってでよい。行け。
不定休なのでtwitterなどで確認していくと吉。
(文責:ごとー) 2015.9.23