日本認知科学会「学習と対話」研究分科会
第57回「オンラインにおける学習と対話」
◆開催日時:11月29日(日) 14:00~17:00
◆場所:オンライン zoom (zoomミーティングのURL等は後日お知らせいたします)
◆参加費:無料
◆趣旨
2020年は新型コロナ感染症への対応として、全世界的にオンライン活動が推進されたように思う。2020年度の認知科学会大会もオンライン開催となり、授業のオンライン化、研究活動のオンライン化、事務作業のオンライン化などに取り組み始めた方も多いであろう。本分科会は「学習と対話」がテーマであるが、学校を始めとした多くの学習もオンラインとなり、友人や同僚、さらには家族との対話さえもオンライン化されている。この状況は、新型コロナによりやむなく、十分な準備もなく始まったことであり、様々な困難や問題を抱えながら試行錯誤しているところであろう。しかし見方を変えれば、学習や対話のオンライン化に関する実験的な実践活動を、多くの認知科学研究者が行っているという貴重な状況でもある。現在の取り組みを振り返り、実践活動と各自の学問知とを照らし合わせることで、新たな研究上の問題の発見や仮説の生成、現実の問題(困難)を解決するような手法・工夫の考案、開発が必要な技術、理論や専門知と現実とのギャップなど、様々な気付きがなされることも期待できる。
そこで、本年度の分科会では、学習と対話に関して異なる専門領域や理論を扱っている研究者に、メディアを介した教育(オンライン授業)という共通の場面での学習と対話について自らの実践例や工夫を紹介して頂き、その実践経験を学問知へのあてはめを試みてもらいたい。これにより、オンライン授業という共通する実践を多角的に捉え、理論と実践の融合をはかる機会としたい。
◆プログラム:(司会進行:粟津俊二(実践女子大学))
14:00-14:10 趣旨説明:粟津俊二(実践女子大学) 14:10-15:20 Part1:オンライン学習と対面学習 話題提供1 「物的世界に根ざす共同体〈心体知〉の学習ーオンライン環境では何が失われるのかー」 榎本美香氏(東京工科大学) 話題提供2 「オンラインによる身体スキルの学習と課題点」 山田雅敏氏(常葉大学) 話題提供3 「オンライン授業でのコミュニケーションを考える: 対面コミュニケーションとの比較検討」 馬田一郎氏(株式会社KDDI総合研究所) 15:20-15:30 休憩および全体討議用質問収集(チャット) 15:30-16:40 Part2:オンライン学習の発展 話題提供4 「オンラインを通じた学習方略・学習観の支援 ー日々の指導実践から現場との実践的協同研究までー」 植阪友理氏(東京大学) 話題提供5 「講義しないオンライン授業」 寺尾敦氏(青山学院大学) 話題提供6 「協調学習ハイブリッド化計画」 白水始氏(国立教育政策研究所/東京大学)
16:40-16:50 休憩および全体討議用質問収集(チャット) 16:50-17:20 全体質疑・討論 16:20-17:30 事務連絡等、閉会
◆参加申し込み方法
研究会への参加をご希望の方は、zoomのURL等をお知らせいたしますので、11/26までにご参加登録をお願いいたします(26日まで延長いたしました)。
事前参加登録のURL: https://forms.gle/DMwfxQ9rSfXbEEbX6
(重要)第57回分科会「オンラインにおける学習と対話」の事前登録者(11月22日までに登録した方)へ当日会場案内のメールをお送りします。分科会からの案内メールが未着の方は、事前登録で入力した連絡用メールアドレスが間違っている可能性がありますので、再度入力をお願いいたします。
◆ 発表の概要 ◆ 「物的世界に根ざす共同体〈心体知〉の学習ーオンライン環境では何が失われるのかー」 榎本美香(東京工科大学) 本発表では、祭りの支度をともに行うことで後継者世代が先達の世代から知識〈知〉や技能〈体〉だけでなく、間主観的価値観や風習・慣習・社会的規範など、成員の心がけ〈心〉を学んでいくやり方を明らかにする。 分析対象は、長野県野沢温泉村の道祖神祭りの支度を担う三夜講という組織の人々である。 分析では、縄結びや木の操作の技能を教える中で、「美しい形(なり)」になるようにという心がけが学ばれる様を示す。それを通じて、〈心〉と〈体〉と〈知〉は三身一体として学ばれることを示す。また、〈心〉が学ばれればそこからの応用で、新たな活動においても〈体〉と〈知〉にあたる物事のやり方が実践可能になるという学習モデルを示す。最後に、この共同体〈心体知〉の学ばれ方とZoom等を利用したオンライン授業の違いについて考察する。 「オンラインによる身体スキルの学習と課題点」 山田雅敏 (常葉大学) スポーツのコーチングにおいて,より高度な身体スキル獲得を目指す学習者と,適宜ジェスチャーを交えながら,言語的指導により身体スキルを伝授するコーチとの円滑なコミュニケーションが重要となる.一方,オンラインでは学習者の動作をコーチが直接,修正することができず,かつ限られたアングルからの撮影であることが多いため,映像から得られる情報にも限りがある.したがって対面以上に,機能的・効率的な言語的コミュニケーションがオンライン学習には求められる.ここで言語的コミュニケーションを媒介する言語に関して,学習者の身体スキル獲得を促す一方で,熟達度合は個々人で差があると予想され,さらに言語自体が,学習者の身体スキルを逆に阻害・低下させる可能性が危惧される.そこで本発表では,オンラインにおける身体スキル学習の工夫の一つとして,ラグビー高校日本代表チームで使用された集団語に関する研究成果を紹介し,理論と実践の融合を図る話題を提供したい. 「オンライン授業でのコミュニケーションを考える: 対面コミュニケーションとの比較検討」 馬田 一郎 (KDDI総合研究所) 昨今のCOVID-19による影響で、オンラインでの教育は急速に普及している。これにより、登校が難しい状態でも教育が可能となっており、また効率的な教材の共有が可能であるなどの利点もある。一方で、オンラインでのコミュニケーションでは、ジェスチャーや表情、身体配置、姿勢、声の抑揚、話速などといった非言語・パラ言語のマルチモーダル情報伝達様式が対面の場合とは異なっており、この違いがコミュニケーションに影響を及ぼすことが知られている。こうしたコミュニケーションへの影響は、学習の過程や社会的関係の構築などにも何らかの影響を及ぼすものと考えられる。本話題提供では、コミュニケーションの先行研究および話題提供者がこれまでに行った研究に基づき、コミュニケーションにおけるマルチモーダル情報伝達の影響について検討する。 「オンラインを通じた学習方略・学習観の支援 ー日々の指導実践から現場との実践的協同研究までー」 植阪友理(東京大学) 大学においても,授業を通じて学ばせたい学習内容のみならず,学び方を獲得させることは重要な教育目標であろう。特に,社会に出たあとにも共通するような学び方を獲得しておくことは,学生自身が社会で生きていく上でも重要となる。そのような学び方の例として,例えば,「分からないことをどのように明確化するのか?」や,「自分の既有知識があまりない,難しい話を聞いて理解する必要がある場合にはどのような事前準備が必要か?」,「学術を学び,それを自分の生活に生かしていくためには,授業を受けながらどのような点に着目したり,より深く考えていく必要があるのか?」そうしたことを明示的に学び,実際にその方法を活用しながら授業を学ぶ経験は学習者のその後につながるだろう。教育心理を教える授業を素材に,オンラインで対話的にそうした試みを行った授業を紹介する。さらに,学習内容に強く目が向きがちな高校において,教科に横断的な共通する学習方法に目を向けさせるような学習法 講座を開発している。これについても併せて紹介する。 「教えないプログラミング」 寺尾敦 (青山学院大学) プログラミング初心者の文系学生を対象としたプログラミングの授業で,「教えないプログラミング」の実践を試みてきた.教員は講義を行わない.学習者は,テキストと.テキストの補足解説を行ったウェブ教材を利用して学習を行う.ウェブ教材はプログラミングの学習方法についての教示を含んでいる.質問があれば,学習者と教員が教室にいる対面授業ではその場で,オンライン授業ではLMSあるいはメールで行うことができる.授業の進行,小テストの結果,コマンドの入力履歴からは,対面授業での「教えないプログラミング」は実効性のある方法であることが示された.ただし,ウェブ教材に書かれていることを学生が見落とすことや,必ずしも教示に従わないことがあり,教材や教示の工夫で改善を図る必要が示唆された.オンラインでの「教えないプログラミング」では,十分なデータはないが,学習に困難を感じる学生が増えるようである.教材提示(資料配布)型のオンライン授業について,学生の評価が低い原因を考察する.
「協調学習ハイブリッド化計画」 白水始 (国立教育政策研究所/東京大学) 協調学習とは,学習者一人ひとりが自らの考えを外化し,他者との対話を通じて考えを作り変えていくプロセスである。この際の対話は,何も明瞭なセンテンスに限らず,断片的な語句,つぶやき,ジェスチャ,視線などのマルチモーダルをフルに使って行われる。コロナ禍による授業のオンライン化は,この「対話しながら考える」という微細なインタラクションを相当やり難くした。一方で,児童生徒がオンライン会議システムの小グループ活動で協調学習を行えば,そのグループに校外の教員や研究者も「忍び込んで」児童生徒のつぶやきを聞き取ることができる。本報告では,一人の先生がオンラインで行った授業を参観し,その課題から学んだもう一人の先生が対面で同じ授業を行い,今度は両者が役割を交代した事例を基に,対面とオンライン授業,及びその遠隔授業研究を組み合わせた協調学習のハイブリッドモデルを模索する。 -------------------
みなさまのご参加をお待ちしております。