『現代倫理学基本論文集III――規範倫理学篇2』(大庭健編、古田徹也監訳、勁草書房)の見本が完成しました。8月25日頃から書店に並び始める予定です。
契約論、契約主義、そして徳倫理学の記念碑的文献を収録し、詳細な解説を付したアンソロジーです。
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784326199723
本巻には5本の論攷が収められています。
1本目は、現代における契約論(contractarianism)の牽引者であるデイヴィッド・ゴティエの論文「なぜ契約論か?」です。
この論文には彼の道徳理論の骨子がまとめられているため、ホッブズ主義的な契約論の現在を知るのに恰好の文献だと言えます。
2本目の「契約主義の構造」は、契約論としばしば区別される契約主義(contractualism)の代表格T・M・スキャンロンの主著What We Owe to Each otherからの抜粋です。
「理由」という概念および「理に適うもの」という観念を基軸にした、独自の興味深い道徳理論が展開されています。
3本目は、G・E・M・アンスコムの「現代道徳哲学」です。
現代の徳倫理学の先駆と称される画期的な論文ですが、同時に、難読・難解であることでも有名です。今回が本邦初訳ですが、訳文を練り上げ、独自に小見出しを付けるなどの工夫を重ねることで、大分読みやすくなっていると思います。
4本目は、マイケル・スロートの論文「行為者基底的な徳倫理学」です。
スロートはこの論文で、〈行為に対する道徳的な評価は、究極的には行為者の有徳な内面的状態のみに基づく〉という清新な議論を展開し、この立場と義務論の違いや、功利主義と比べてもつ利点などを包括的に論じています。
最後の5本目は、スロートとともに徳倫理学の代表的論客に数え入れられるロザリンド・ハーストハウスの著名な論文、「規範的な徳倫理学」です。
彼女は、徳倫理学が行為の指針を与えることができ、義務論や功利主義の向こうを張るライバルとなりうることを、粘り強く説得的に示していきます。
また、本巻には60ページにおよぶ監訳者解説も付し、そこでは、各文献の解題のほか、そもそも契約論と契約主義はどう違うのか、徳倫理学の特徴とは何か、といった基礎知識の説明も行っています。この解説を足掛かりに、現代の本格的な規範倫理学の議論に踏み入ることができると思います。
なお、本巻(第III巻)は、『現代倫理学基本論文集』全三巻本の最終巻にあたりますが、他の巻に先駆けて、最初に本巻が刊行されます。今後も随時、第II巻(規範倫理学篇1)、第I巻(メタ倫理学篇)という順番で刊行が続く予定です。
それから現在、勁草書房編集部のウェブサイト「けいそうビブリオフィル」にて、監訳者まえがきと、監訳者解説の一部(アンスコム「現代道徳哲学」の解説の序盤)が公開されています。
ご購入の検討にあたっての参考になれば幸いです。