【刊行物】『現代倫理学基本論文集II――規範倫理学篇1』(勁草書房)

『現代倫理学基本論文集II――規範倫理学篇1』(大庭健編、古田徹也監訳、勁草書房)が刊行されます。12月22日前後から書店に並び始める予定です。

第III巻では契約論と徳倫理学を扱いましたが、本巻ではいよいよ、義務論と功利主義の必読文献を収録しています。

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784326199730


本巻には4本の論攷が収められています。

一本目は、クリスティン・コースガードの著名な論文「カントの普遍的法則の方式」です。本論文で彼女は、カントの普遍化原理をめぐる精緻な解釈を展開しながら、カントが目指した義務論的倫理学の体系を十全なかたちで構築することを目指しています。


二本目は、英米圏のカント研究を牽引する人物のひとりバーバラ・ハーマンの論文「性格のための余地を設ける」です。

彼女は徳倫理学の成果をカント倫理学に取り入れつつ、成長の結果獲得される個々人の性格が道徳的な判断をかたちづくる次第を、徳倫理学とは異なる仕方で描き出しています。


三本目は、R・B・ブラントの主著『善と正の理論』からの抜粋です。

ブラントは、現代における功利主義の展開に最も大きな影響を与えた論者のひとりで、その立場は「理想的規則功利主義」とも呼ばれます。彼の理論の内実と、対立する諸理論との相違点が、本論攷において詳述されています。


最後の四本目は、現代の功利主義陣営の代表格であるR・M・ヘアの論文「倫理学理論と功利主義」です。

「指令性」と「普遍化可能性」を道徳判断の論理的特性として取り出し、そこから彼流のハイブリッドな功利主義を導出するという、彼の理論の勘所を、本論文を通して跡づけることができます。


また、本巻には、第III巻と同様、50ページ以上の監訳者解説も収録しており、そこでは各文献の解題のほか、義務論やカント主義とは何か、現代の功利主義とはどのようなものか、などの説明も行っています。各文献ごとの訳注も充実していますから、幅広い層の方に読んでいただけると思います。+


なお、本巻(規範倫理学篇1)は、『現代倫理学基本論文集』全三巻本の第II巻にあたります。既刊の第III巻(規範倫理学2)とあわせて、現代の規範倫理学の基本文献を広くカバーするものとなりました。

残る第I巻(メタ倫理学篇)は、奥田太郎さんの監訳で、来年中に刊行される予定です。

同シリーズの監訳者としての私のお役目は、この第II巻の刊行をもって終了です。三年間、この仕事に膨大な時間と労力を費やしてきました。ようやく解放され、いまは感無量です。

学生や研究者だけではなく、現代の倫理学に関心のある多くの方々が手に取ってくださることを願っています。


ちなみに現在、勁草書房編集部のウェブサイト「けいそうビブリオフィル」にて、監訳者解説の冒頭部分と、コースガード「カントの普遍的法則の方式」の解説の序盤が公開されています。ご購入の検討にあたっての参考になれば幸いです。