【刊行物】『このゲームにはゴールがない
――ひとの心の哲学』(筑摩書房)

書き下ろしの新しい単著『このゲームにはゴールがない――ひとの心の哲学』が、筑摩書房から2022年10月15日に刊行されました。

他者の心についての懐疑論を手がかりに、スタンリー・カヴェルとウィトゲンシュタインの哲学を紐解くことで、「ひとの心」というものの本質的な特徴を探究する本です。

私たちはしばしば、他者の感情や思考は振る舞いなどから推測することができるだけで、確実に知ることはできない、という思いにとらわれます。

本書ではまず、この種の懐疑論の特徴と急所を明らかにします。そのうえで、「他者の心についての懐疑論は、懐疑論ではなく悲劇である」とする、カヴェルの特異な議論をたどりながら、「他者の心を知る」とはどういうことか、「他者を受け入れる」ことには何が含まれるのかという問題の核心に迫ります。

そして、以上の論点を踏まえて、そもそも「ひとの心」とは何か、なぜ私たちは心をもつのか、という根本的な問題を問うために、本書はウィトゲンシュタインの「心の哲学」へと踏み入っていきます。

ウィトゲンシュタインは、演技や嘘という契機が不断に織り込まれた言語ゲームを子どもが習得することと、その子どもに心(内面)が発達することとを重ね合わせるという、きわめて重要な議論を展開していますが、その内実を跡づけることを通して、他者とともにある私たちの生活の重要な側面が、避けがたく懐疑的なものであること――かくも不確実なものであること――の意味を探ります。

その道行きは同時に、私たちが日々行なっている言語ゲームには本質的に「ゴールがない」ということと、その意味を明らかにするものとなるはずです。

総じて本書は、「心」とは何か、「他者」とはどのような存在か、「人間的なもの」とはどう特徴づけられるのか、ということに関心を抱く方にも、また、カヴェルとウィトゲンシュタインの哲学に関心のある方にも、類書にない新たな見方を提示する一書になったと思います。

およそ二十年間構想を描き、試行錯誤を重ねて考え続けてきた、自分にとって最も思い入れのある問題に、ようやく一冊の本というかたちを与えることできました。

ぜひ手に取って頂ければ幸いです。

版元ドットコムのページは以下のとおりです。
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784480843272

【目次】
第1章 他者の心についての懐疑論(「秘密の部屋」としての心、外界についての懐疑論 ほか)

第2章 懐疑論の急所(懐疑論の不明瞭さ、異常さ、不真面目さ、規準、文法 ほか)

第3章 懐疑論が示すもの(懐疑論の真実、あるいはその教訓、生活形式への「ただ乗り」としての懐疑論 ほか)

第4章 心の住処(演技の習得、子どもが言語ゲームを始めるとき ほか)