【刊行物】『はじめてのウィトゲンシュタイン』(NHKブックス)
投稿日: 2020/12/26 6:33:46
2020年12月25日に、『はじめてのウィトゲンシュタイン』(NHKブックス)を刊行しました。
本書は、現代を代表する哲学者ウィトゲンシュタインにはじめて出会う人のための、
文字通りの入門書です。彼の生涯の遍歴と思考の変遷を、ともに詳しく跡づけながら、
その哲学の全体像を描いていきます。
本書を読むために、哲学やウィトゲンシュタインについての前提知識は必要ありません。
彼の思考を追体験することではじめて気づかされる私たち自身の姿、思いがけず照らし出される
世界の相貌というものが、確かに存在します。本書はそれを浮き彫りにするための一書です。
ただし本書は、ウィトゲンシュタインの各著作や各テーマを網羅的に広く薄く紹介していくもの
とは異なります。(その種の便利な概説書はすでに何冊も存在しますし、そのいくつかは本書の
文献案内で紹介します。)
本書はむしろ、彼の議論に通底する核心部分をじっくりと跡づけるものです。
一見すると錯綜している彼の叙述を支える骨格に迫りつつ、多彩に展開し細分化していく議論の
根幹をつかみ取ること。その作業を通じて、ウィトゲンシュタイン哲学という豊穣な森(しかし、
人を迷子にさせる謎めいた森)を歩き回るための良きガイドとなることを、本書では目指しています。
なかでも本書は、彼の「前期」と「後期」の対比に焦点を当てています。彼の若き日の思考と、
壮年期以降にあらためて紡いだ思考との間には、具体的にどのような違いがあるのか。彼は、
自分自身の思考をなぜ、どのように乗り越えようとしたのか。本書はこの問題の探究を軸に展開します。
前期から後期へ――彼の思想的転回の内実を知ることは、たんに彼の哲学を理解するのに不可欠なだけ
ではありません。私たち自身が知らずとどういったものの見方や考え方に囚われているのか、また、
そこから抜け出すために何が必要なのかをめぐって、極めて重要な手掛かりが得られるはずです。
また、本書は、各章の間に合計3つの文献案内を配置し、ウィトゲンシュタインの著作の生成プロセスを
詳しく解説したうえで、彼の重要な遺稿および関連する参考文献(書籍、論文)を数多く紹介しています。
そのため、ウィトゲンシュタイン研究を志す方にも資する一冊になっていると思います。
さらに、アーカイブ管理者のMichael Nedo氏と直接交渉し、ウィトゲンシュタインのあまり知られて
いない写真も本書に数多く収録することができました。
ぎりぎりの調整を重ねて、価格も、B6判320ページの分量に比して低く抑えられました。
多くの方が手に取ってくださることを願っています。
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【目次】
序章 嵐のなかの道標
第一章 沈黙への軌跡 ――前期
1節 『論理哲学論考』が世に出るまで
2節 『論理哲学論考』とはどのような書物か
3節 語りえないものたち①――論理
4節 語りえないものたち②――存在
5節 語りえないものたち③――独我論、実在論
6節 語りえないものたち④――決定論、自由意志論
7節 語りえないものたち⑤――価値、幸福、死など
8節 使い捨ての梯子としての『論理哲学論考』
文献案内① 著作の生成プロセス、前期にまつわる文献
第二章 世界を見渡す方法 ――後期
1節 哲学への回帰の道
2節 ケンブリッジへの帰還
3節 「像」による幻惑としての哲学的混乱
4節 哲学的混乱の自覚を促す道
5節 前期ウィトゲンシュタインが囚われた「像」
6節 規則のパラドックス、言語ゲーム、家族的類似性
7節 「形態学」という方法論――ゲーテからウィトゲンシュタインへ
8節 創造的、臨床的、触発的
文献案内② 後期にまつわる文献
第三章 鼓舞する哲学
1節 晩年に向かう10年の歩み
2節 後期の主題の断片①――心
3節 後期の主題の断片②――知識
4節 後期の主題の断片③――アスペクトの閃き
5節 鏡と勇気
6節 嵐に立つ者たちに
文献案内③ 講演、日記、伝記、概説
あとがき
人名索引
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