AFNS NEWS LETTER No.24

AFNS NEWS LETTER

No.24 May 2018

アジア民間説話学会 [The Asian Folk Narrative Society]

日本支部事務局:立命館大学文学部 鵜野祐介研究室気付

〒603-8577 京都市北区等持院北町56-1 tel 075-466-3142 e-mail: y-uno@fc.ritsumei.ac.jp

学会HP : https://sites.google.com/site/afns2011/ (年会費:正会員3,000円、準会員 [学部学生] 1,000円)

<巻 頭 言>

鵜野祐介

「うるわし五月に つぼみもひらけば 我が胸やさしく 愛のはなめばゆ/うるわし五月に 小鳥も歌えば 我がおもいあかしぬ あくがれし君に」(北沢方邦訳・作詞、ドイツ民謡「うるわし五月に」より)――。

皆様いかがお過ごしでしょうか? アジア民間説話学会は、1994年3月の設立から今年で24年を迎えました。この間、初代代表稲田浩二先生のご逝去をはじめ様々なことがございましたが、多くの皆様のご熱意とご支援のおかげで今日まで歩んで来ることができました。改めてお礼申し上げます。

今年6月1~3日、韓国・光州広域市の全南大学校において第15回国際大会が開催されます。今回の主題は「東アジアの説話の中の異界」で、日本支部からは会員5名、非会員2名、計7名の方が参加の予定です。大会の様子は次号にてお伝えいたします。

本号には、今年2月に開催された日本支部2017年度大会における話題提供や昔語りについて詳しく紹介しました。特に、大会に参加できなかった皆様、どうぞじっくりとお読みいただき、ご感想をお寄せください。また来年2月17日に開催予定の日本支部2018年度大会にはぜひご参加くださいますようお願い申し上げます。

2017年度活動報告

「日本支部2017年度総会・研究大会」

(2018年2月18日、立命館大学衣笠キャンパス)

<総会>

1.2017年度活動報告

2.会計報告(後述)

3.2018年度活動計画(後述)

<研究大会>

13:20‐14:05 話題提供1 宮井章子

「『猿婿入り』はどう語られたか

-5人の話者の語りを考える-」

14:10‐14:55 話題提供2 朴美暻

「相思蛇説話からみる韓国社会と女性

-『韓国口碑文学大系』を中心に-」

15:10‐15:55 話題提供3 酒井董美

「昔話『金の犬こ』を考える -異郷からの招待-」

16:00‐16:30 昔語り 黄地百合子

◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊

話題提供1

「猿聟入り」はどう語られたか

―5人の話者の語りを考える―

宮井章子

語られるものである昔話は、話者によって違いが出る。その違いはどこから生まれるのか。独自の生活・背景をもった5人の話者の語る「猿聟入り」を比較して、考えてみた。

①佐藤孝一(1920年生。山形県):爺は旱魃による一家全滅を避けるために娘を猿の嫁にやる決断をし、総領娘は「跡取りだから」と猿との結婚を断り、末娘は「それなら自分が」と受け入れる、と皆が「立場」に立って行動する。里帰りの日には末娘が「人間の社会では」と猿にするべきことを教える。この理屈っぽさは、お伽衆の流れをくむ名家の当主で村の指導者であった話者の実生活からくるのだろう。彼の語りの殆どが村の生き辞引きとしての大人対象のものであったということも、語り口に影響していると思われる。

②永浦誠喜(1909年生。宮城県):爺は「田に水をはるから娘を嫁に」という猿の申し出に「ああ、ええとも」と即答。水をはられた田を見て大喜びする。稲作農民である話者の実感の出た語りである。猿には田の神の名残があるが両者は親しげで、猿が流れていく場面も含めて語り口は気楽で明るい。団欒の中で祖母の昔話を聞いて育ち、成人後は子どもたちを集めて昔話を語ったという話者の「昔話は楽しいものだ」という昔話観が感じられる語りである。

③波多野ヨスミ(1910年生。新潟県):猿は爺に脅しをかけ、拒否する爺を無視して一方的に手伝い、嫁もらいの日を告げる。この横暴な猿はしかし、里帰りの日には娘の思い通りに動かされ、川に落ちて流されてしまう。娘に気に入られたいという猿の気持ちを利用する娘のしたたかさと強さは、小学校を優等生で通し、作物栽培と販売に才覚を発揮するしっかり者の嫁であった話者の実生活・自信と重なるものだと言えよう。

④杉本キクエ(1898年生。新潟県。瞽女):杉本は話の流れの中に自分の感想や思いを挟む。「伝えられてきた」と言うより、瞽女である自分の世界から見た昔話である。特に結末の「はしっこいから、いい所へ嫁になったって。そういうお話<笑>」の笑いには、幼いうちに親元を離れ瞽女の世界で一生を送った話者の、自分たちとは違う「世間」を見る目が表れているようである。

⑤賀島飛左(1896年生。岡山県):末娘は嫁入りの途中で猿を川に突き落として殺す。手を下してまで猿との婚姻を拒絶したのに、他家には嫁がず、「お猿かわいや」と歌いながら機を織って繁盛する。一方、猿の「想い」は「おふじかわいや」と橋を鳴らし、娘はさらに繁盛する。この末娘の行動、娘と猿との関係には、話者の女中奉公や女工寮での経験、酒飲みで女遊びもけっこうやった夫との長く睦まじい結婚生活、そこからの「男は子どもより扱いよい」という男性観等が反映されていると思われる。

各話者の生活・経験・環境・性格等と繋がると思える部分は他にも複数あるが、どれも主観に留まっている。研究会で頂いたご指摘をヒントに、視野を広げて根拠を考えたい。

◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊

宮井氏の発表へのコメント

高島葉子

出自や経歴の異なる5人の話者による「猿婿入り」を比較し、それぞれの語りの特徴、個性とその背景を考察した報告であった。5人の話者は、佐藤孝一、永浦誠喜、波多野ヨスミ、杉本キクエ、賀島飛左である。まず、話者の生まれ、育ち、家族、結婚、経歴、職業などが紹介され、その後、比較を通して語りの特徴が指摘され、最後にその特徴や個性についての考察が話者の実生活と関連づけてなされた。レジュメに記載された情報内容は、資料1,2,3において表にまとめられ、5人の話者の経歴、語りの比較が容易にできるように工夫されていた。特に資料3として提示された表では、語りの詳細が『日本昔話通観 タイプインデックス』によるモチーフ①、②、③、④ごとに整理され、語りの違いを理解するうえで非常に役に立つものであった。

いくつか興味深い指摘がなされた。例えば、佐藤はお伽衆の流れをくむ家の長男として生まれて地域の指導的立場にあったが、これが話にも反映している。他の話者の語りでは、猿の嫁になってくれと爺に頼まれた姉娘は「ばかな」と感情的に拒絶するが、佐藤の場合は「跡取りだから嫁にはいけない」と理屈をつけて断る。また、6歳で親元を離れ、ほぼ一生を瞽女世界で生きた杉本の語りには、厳しい実生活から得た「弱い者は負けて当然」という世界観が表出する。猿の捉え方にも話者ごとに大きな違いがある。佐藤は、猿を、田に水を入れる力を持つ田の神・水の神としての神性、人間に対する優位性を感じさせる存在として語っている。猿は娘をあたかも水と引き換えの「生贄」のように要求する。ところが、永浦の猿は水を入れる力はあるが神性は薄く、爺は親しげな口調で猿に水をかけてくれと頼む。波多野の語りでは、猿は搾取する者という悪役的位置づけにあり、爺を「殺すぞ」と脅して娘を嫁に差し出すように要求する。

話者の語りの特徴が個人的なものなのか、あるいは地域における特徴なのか、また、男女による語りの違いはどのようなものかなど、今後の研究の展開が期待される。

◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊

話題提供2

相思蛇説話からみる韓国社会と女性

―『韓国口碑文学大系』を中心に―

朴美暻

本報告では、韓国の相思蛇説話について、特に男性が蛇になる説話とそうした説話が伝わっている地域の特徴に注目して紹介し、考察した。

相思蛇説話とは、人が誰かを好きになる気持ちが大きくなりその欲望と執着で蛇(相思蛇)になり、相思蛇が思慕の対象に取り付き(取り付こうとし)、最終的に相思蛇が引き離されたり死んだりして解決する(相思解き)という構成要素をもつ説話類型のことである。本報告では、1980年に刊行された『韓国口碑文学大系』(増補版を含む)のなかに収録された59編の相思蛇説話(男性蛇説話41編、女性蛇説話18編)を検討の対象とした。

韓国の相思蛇説話は、割合としては男性が蛇になるものが多く、身分違いあるいは社会的障害のある恋として語られるのが典型的である。女性が蛇になる場合は「相思解き」が成功した後に男が出世する結末のものも見られるが、男性が蛇になる場合は、蛇が取り付く前に防いだり取り付いた蛇を殺して引き離したりするもののほか、蛇と女性が一緒に死ぬ悲劇的結末のものも多く見られる。

ある地域で蛇と女が崖や絶壁の岩から落ちて死んだという説話が語られる際に、現実にその地域に存在する崖や綺麗な絶壁の大きい岩を指して相思岩(サンサバウ)と呼び、岩壁登山の人気スポットとして地方自治体のホームページに説話とともに紹介されているものもある。地理的に海岸線が複雑で海岸に沿って山脈がある慶尚南道の南海岸に多く見られるため、相思岩とともに相思蛇説話も多く伝わっていると見られる。

特に慶尚道の相思蛇説話には、他の地域と異なる特徴が多い。まず、韓国の相思蛇が概ね男が蛇になる話である反面、慶尚南道と慶尚北道にのみ女性が蛇になる話が存在する。そして、男性が蛇になる話の中でも僧侶が主人公として登場する話も慶尚南道にのみ存在する。僧侶型では「血(経血)」を厄払いに使うなど、汚れたものでありながら同時に女性の再生産の力を表すものとして月経のモチーフが使われている。こうした慶尚道地方の相思蛇説話について、地域性と歴史性を踏まえた上で考察していくことが今後の課題である。

また、1980年代の韓国は、ソウルオリンピックなどを契機として社会全体にナショナリズムの高揚が見られた時期であり、説話・伝承は韓国の精神や地域の歴史を表すものとして関心が高まっていた。そうした背景が『韓国口碑文学大系』の口伝説話収集にも影響して、相思蛇説話についても地域の名所とつながり地域歴史の一部として伝説の形で伝えられているものが多く採録されたと考えられる。このように、説話が収集された時期の歴史的・社会的背景を踏まえることも重要である。

◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊

朴氏の発表へのコメント

中塚和代

相思とは人を好きになる気持ち、相思蛇とはその気持ちが大きくなったあまり、その欲望と執着で蛇となったものと、レジュメ(p.1)に説明されている。この類話で思い浮かぶ日本の話は、安珍と清姫の道成寺伝説であるが、女が蛇になる話である。男が蛇になる話が多いと述べられた韓国の発表に、どんな話なのか、興味をもって聞かせてもらった。尚、日本語の「相思」には「互いに」の意味も含む(『広辞苑』)が、ここでは発表者の用語説明に添って考えていくこととする。

発表の資料は『韓国口碑文学大系』にある相思蛇説話の中の男性が蛇になる話である。伝承地域の特徴と蛇になる原因・結末から、韓国の説話のもつ特徴を明らかにしたいとのこと。

相思蛇の話は韓国南東部地域に多く、女が蛇になる話はこの地域に限られているという。一方、男が蛇になる話は、全国的に採話されている(レジュメp.2図)。

男が蛇になる原因は、好きになった女が天子や両班など身分違いの家柄の娘、濃い血縁、そして僧侶の場合であった。蛇になって思いを叶えたいという気持ちが窺える。

しかしその結末は、身分の高い家の娘に思いを寄せた男4人は皆病んで死に(4篇)、蛇となって娘に近づく。沐浴で、または「結婚式」をしてもらって離れていく蛇と、蛇として再度死ぬものが各2篇。僧侶と青年たちの話では、娘の相思解き(取り付いた蛇を離す)や月経血付着チマで姿を隠すも、男たちは死なない。僧侶の鼻から出た蛇なども娘から離れる(2篇)。覗き見した娘と坊さんは転落死。従姉妹を恋した男も急死し蛇となった後、食われる。

男が蛇となる話は、結ばれないことは疎か、蛇となり女を追うも願いは阻まれてしまう。そこに身分と血縁の秩序を冒す者を許さないという強いメッセージを感じさせられる。

加えて、覗き見など「淫乱な女性を戒め…そうした価値観を…(女性もまた)…内面化して…いた」ことが窺われると、まとめられている(レジュメp.4)。「民衆はこのように暮らしてもらいたい」と迫ってくるこの話型に、韓国社会の歴史的な歩みも覗かせているのかもしれない。

◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊

話題提供3

昔話「金の犬こ」を考える -異郷からの招待-

酒井董美

島根県仁多郡奥出雲町下阿井の井上掏佶さん(明治19年生)から、昭和46年5月30日にうかがった話である。

【梗概】物語の主人公、貧乏人の吾一が竜宮界に招かれ、毎朝丁銀を一枚だけ食べさせれば大判を一枚出す呪宝「金の犬こ」をもらう。家は豊かになる。嫁の親である欲張り長者が犬を借りて帰り二枚食べさせたので犬は死ぬ。吾一は犬の死骸を持ち帰り、榎の元へ埋めると、翌日、大判、小判などがいっぱいになり、また金持ちになった。吾一はその榎で作った臼と杵で「千石万石数知れず」と唱えて米を搗くと、臼に米が溢れる。長者が借りて帰り搗くと米は散ってしまうので立腹してそれを焼いてしまう。吾一がせめてその灰でもとももらって帰り、殿様の山で木を伐っていると殿様が「何者か」と問われるので「日本一の花咲爺」と答える。殿様は「それなら花を咲かせよ」と命じられる。灰を振ると全山花盛りになり、褒美をもらう。長者が真似ると花は咲かず、殿様の目に灰が入り、怒った殿様に斬り殺される。

【解説】物語は隣人型で展開して行く。話の山場は三回ある。①吾一・犬は財貨を産む(長者・犬を殺す)、②米が増える(米が減る)、③山に花が咲く(花は咲かない)。その結果、吾一は殿様から褒美をもらい。長者は罰せられ殺される。つまり、この話には独創を尊び、模倣を嫌う先祖の教えが流れている。

紙面では詳しく書けないが、話には私たちがものを粗末にせず、余り物は祖霊界へお返しようとする風習(杵を川に落として祖霊界へ返す)や、米を搗くときの唱え「千石、万石、数知れず」が、豊作を願う農家の正月の行事「田打ち正月」の唱え言(国土の広き荒れ野を 田となして 鍬のみ矛や露の玉米 一鍬に千石 二鍬に万石 千石 万石 数知れず)の援用。榎の枝に金銀大判小判がなるところは、労作歌である餅搗き歌の詞章(これのお背戸にゃ 二股榎 榎の実ならいで チョイト 金がなる)の精神が生かされているなど、この話の中にはわが国の人びとの昔からの信仰や風習がいろいろと盛り込まれ、独創を尊び模倣を排除する祖先の人たちの子孫への教えが込められた昔話であることを示している。たかが昔話、されど昔話だと言えるのではなかろうか。

◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊

酒井先生の発表へのコメント

鵜野祐介

酒井先生の話題提供は、2018年6月に行われる第15回国際シンポジウムでの研究発表の予告編となるもので、IT話型分類で言えば「竜宮犬」と「犬むかし―花咲か爺型」の複合話型と見なし得る島根県の昔話「金の犬コ」のテキストを、ご自身の採訪記録に基づいて、貴重な音声資料や先生ご自身の歌唱も交えながら紹介されるとともに、この話を構成するいくつかのモチーフや詞章の民俗学的な背景を探っていくというご発表であった。

半世紀以上にわたる山陰両県での昔話や歌謡のフィールドワークに基づく酒井先生のご研究は、山陰地方というローカルに徹しつつも東アジアひいては世界というグローバルへと開かれた視点を保持しておられるのが特徴だが、今回のご発表もまたその好例と言える。ご指摘のあった山陰地方の諸儀礼・諸習俗の類例が朝鮮半島や中国においてどのように伝承され、そしてそこには東アジアの人びとのどのような世界観や死生観が投影しているかについて、6月の国際シンポジウムで大いに議論されることを期待したい。

◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊

昔語り〈祖母と母から受け継いだ昔話〉

黄地百合子

私は、子ども時代に祖母に昔話を語ってもらった経験があります。4歳から7、8歳の頃、盆正月に母の実家に泊まりに行くと、私達姉妹やいとこ達が並んで布団に入った所へ祖母がやって来て、皆が寝入るまでの間、毎晩のように幾つかの昔話をしてくれました。それは、幼い私にとって何とも言えず心躍る時間であったことを思い出します。また、リズムのある決まり文句の数々は今でも祖母の語り口調が頭の中に甦ってきます。その時の私は、祖母の話が「昔話」と呼ばれることなど知るよしもなく、ただ「おばあちゃんの話は楽しい」と思う素朴な聞き手であったのですが、今思えば実に貴重な経験だったと言えます。その祖母・松本イエは、奈良県斑鳩町で生まれ育ち、同県の広陵町に嫁いで昭和40年に65歳で亡くなりました。

母・松本智恵子は、結婚後は桜井市で暮らしましたが、子どもの頃にやはり母親(私の祖母)から何度も聞いており、祖母の話は母に受け継がれました。話好きであった母は祖母以外の人から聞いたものや伝説等も含め、約35話を覚えていました。早くから昔話の伝承は非常に少ないと言われた奈良県北部において、3年前94歳で亡くなるまで豊かな表現で語り続けた智恵子は、奈良県の語り手として希少な存在であったと思います。

私は母の話を40年余りの間に何度もテープレコーダーやビデオに記録し、祖母の話と母の語りについての論考を何回か発表しました。ただ、自分が語ることはあまりなく、時々自身の子どもや孫に、高校に勤務していた頃生徒達に少し語ったことがある程度でした。しかし最近、私が祖母や母から伝えられた昔話をいろいろな方に聞いてもらっても良いのではないか、と思うようになりました。そこで、アジア民間説話学会の研究大会で昔語りをさせていただきたいとお願いしたのです。

当日は、まず私が大好きな話の中から「なまけ半助」を語りました。怠け者の半助が歌う帽子に導かれて行き、最後には働き者になって幸福を手に入れる話で、帽子が歌う歌がとても楽しく、その歌がストーリーを進める鍵にもなります。しかも、私が調べた限りでは他所で同じ展開の話が伝承されていない珍しい話です。その後は、用意した7話の中から参加者の聞きたいと思われる話を選んでいただき、「狼の金の玉」(通観では「狼のまつ毛」)と「お日様とお月様と雷様の旅」(通観では「月日のたつのは早い」)を語らせていただきました。

語ってみると、子供や孫・高校生に語った時に比べて自分でも驚くほど感覚が違い、聞き手や場によってこんなにも語りが変わるのか、と思いました。そういうことは、母の語りで当然知っていましたし、他の多くの語り手についてもよく言われることですが、身を以て実感したと言えます。最初は大人の方達が聞き手なので緊張していましたが、語っている途中に聞き手の熱心さが伝わってくると、私の方も調子が上がる感じを味わいました。また後で、「楽しかった」「面白かった」等のお言葉をいただけたのも大変嬉しいことでした。今後も、機会があれば祖母や母から受け継いだ語りをいろんな方に聞いていただけるようになりたいものです。

◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊

黄地百合子先生の「語り手デビュー」 立石展大

2017年度研究大会の最後に、黄地百合子先生から「昔語り〈祖母と母から受け継いだ昔話〉」として、20分ほど語りを伺った。

黄地先生自身は、これまで母方のお祖母様である松本イエさんとお母様の松本智恵子さんの語りを聞いて来られた。お祖母様からは、ご自身が小学生のころ夏休みに訪ねた折りなどに聞かれたとのこと。お母様からは、昔話、伝説、世間話を合わせて35話ほど聞かれている。ご自身は、これまでお子さんやお孫さんに語ることはあった。ただ、大人に対して語るのは今回が初めてで「昔話を語るのは、研究発表よりも緊張する」とのことだった。

黄地先生から配付された資料には、「長い話(10分以上かかるもの)」(2話)と「中くらいの長さの話(5分から10分までのもの)」(3話)と「短い話(5分以内のもの)」(3話)がそれぞれ挙げられていた。この8話については語れるということで、当日は、この中からリクエストをする方式で3話を語っていただいた。特に興味深かったのは、「長い話」の「なまけ半助」であった。これは孤立伝承の昔話で面白い呪宝譚だった。

なまけ半助が家を追い出されるが、家宝のボロボロの帽子だけをもらって歩き始めた。しかし帽子は風に飛ばされ「♪なまけ半助ここまでござれ、ここまできたら甘酒進上、鍬やろ~鋤やろ~田でも畑(はた)でも万作じゃ~」と歌い始める。帽子を捕まえようとするたびに帽子は風に飛ばされ、追いかける内に造り酒屋まで導かれる。最後は造り酒屋で働く内に「はたらき半助」に変わって、そこのお嬢さんとも結ばれる。途中たびたび帽子が歌い、この節回しがとても心地よく、話を楽しませていただいた。

研究者としての経歴を積まれてきた黄地先生の「語り手デビュー」に興味を抱いて参加した、非会員の参加者もいらっしゃった。黄地先生の語りは、落ち着いた語り口でとても聞きやすく、今後の語り手としてのご活躍も楽しみなひとときであった。

◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊

2017年度会計報告 (2017.2.1~2018.1.31)

<収入>

・前年度繰越金 328,275(円)

・2014年度分会費 3,000

・2015年度分会費 3,000

・2016年度分会費 9,000

・2017年度分会費 69,000

・入会金 2,000

(2016年度総会・研究大会)

・参加費 11,000

・懇親会費 55,000

収入合計 480,275

<支出>

・通信費 3,594

・総会・研究大会諸経費 1,685

・懇親会費 60,000

支出合計 65,279

2017年度残金 480,275-65,279=414,996円

会計:山中郁子、宮井章子、会計監査:中塚和代

2017年度活動計画

A.アジア民間説話学会 第15回国際大会

主題「東アジアの説話の中の異界」

2018年6月1日(金)∼ 3日(日)全南大学校

<プログラム>

6月1日(金)

19 : 00 歓迎晩餐会

6月 2日(土)

10 : 00 開会式

開会の辞 金容儀(韓国、全南大学校)

歓迎の辞 ***(アジア文化研究所長)

中国代表の挨拶 林継富(中央民族大学)

日本代表の挨拶 鵜野祐介(立命館大学)

10:30‐12:00 第一セッション

10 : 30 ∼ 11 : 00 林継富(中央民族大学)

『護国威霊西王母宝巻』における神話叙事分析

11 : 00 ∼ 11 : 30 王丹(中央民族大学)

中国妖怪説話の「異界」研究

―五家溝故事村の考察をもとに―

11 : 30 ∼ 12 : 00 畢雪飛(浙江農林科技大学)

中国異界の想像 ―「異界」の概念から―

14:00 – 15:30 第二セッション

14 : 00 ∼ 14 : 30 鵜野祐介(立命館大学)

浦島説話における水界イメージの精神史的考察

14 : 30 ∼ 15 : 00 酒井董美(島根大学名誉教授)

昔話「金の犬こ」を考える ―異郷からの招待―

15 : 00 ∼ 15 : 30 斧原孝守(前奈良県立奈良高校)

竜宮訪問譚の原像

―東アジアの「釣針喪失譚」をめぐって―

15 : 50 ∼ 17 : 00 総合討論 1

座長:李珠魯(全南大学校)

コメンテーター:崔仁鶴、高島葉子、宮崎康子、梁会錫

6月 3日(日)

10:00 – 12:00 第三セッション

10 : 00 ∼ 10 : 30 徐海淑(全南大学校)

説話を通じてみた異界の象徴と意味

10 : 30 ∼ 11 : 00 朴鐘午(全南大学校)

現世に生きている間に行ってきたあの世:あの世の話

11 : 00 ∼ 11 : 30 宋英淑(全南大学校)

日本説話における異界のイメージ

11 : 30 ∼ 12 : 00 崔嘉珍(全南大学校)

日本の百物語と異界

12 : 00 ∼ 12 :30 総合討論 2

座長:梁会錫 (全南大学校)

コメンテーター:崔仁鶴、高島葉子、宮崎康子

鵜野祐介、林継富、金容儀

12 : 30 ∼ 13:00 閉会式

閉会の辞 崔仁鶴

日本代表の挨拶 鵜野祐介

中国代表の挨拶 林継富

韓国代表の挨拶 金容儀

13 : 00 ∼ 14 : 00 昼食

14 : 00 ∼ バスツアー(光州国立博物館など)

B.日本支部2018年度総会・研究大会

2019年2月17日(日)

立命館大学大阪いばらきC

◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊

情報アラカルト

1.近刊情報

a. 会員の著書・論文(50音順)

◆鵜野祐介

・「殺された子どもの行方―昔話「継子と鳥」とATU720類話にみる〈あわい〉存在としての子ども―」、大野寿子編『グリム童話と表象文化 モティーフ・ジェンダー・ステレオタイプ』勉誠出版(2017/07)所収

・「マンローのアイヌ研究の思想史的淵源としてのタイラーとワーズワス―<アニマ>から<ラマッ>へ―」、日本カレドニア学会『カレドニア』45号(2017/10)所収

◆斧原孝守

・「『宇治拾遺物語』「博打聟入りの事」の中国類話(続)」

『比較民俗学会報』第38巻 第2号所収

・「「人食い妹」(ATU315A)考 東アジアにおける「妹は鬼」の展開」、篠田知和基[編]『文化英雄その他』比較神話学研究組織(2017/12)所収

◆酒井董美

・「世界最古のわらべ唄集・野間義学著『古今童謡』のこと」(上・下)、『日本海新聞』(2018/01/13-14)

◆西村正身

・「『シンドバード物語』の広本と小本について」『作大論集』第8号(2018/03)所収

b. 会員以外の著書

・赤坂憲雄『性食考』岩波書店(2017/07)

・伊藤慎吾編『妖怪・憑依・擬人化の文化史』笠間書院(2016/02)

・大島廣志編『怪異伝承譚 -やま・かわぬま・うみ・つなみ-』アーツアンドクラフツ(2017/10)

・小澤俊夫『ときを紡ぐ(上)昔話をもとめて』小澤昔ばなし研究所(2017/05)

・常光 徹『折々の民俗学』河出書房新社(2016/07)

・天理大学考古学民俗学研究室『モノと図像から探る怪異・妖怪の世界』勉誠出版(2015/03)

・同『モノと図像から探る妖怪・怪獣の誕生』勉誠出版(2016/03)

・同『モノと図像から探る怪異・妖怪の東西』勉誠出版(2017/03)

・西川照子『金太郎の母を探ねて 母子をめぐる日本のカタリ』講談社(2016/04)

・日本口承文芸学会編『こえのことばの現在 口承文芸の歩みと展望』三弥井書店(2017/04)

・野村敬子『女性と昔話』岩田書院(2017/03)

・浜本隆志『シンデレラの謎 なぜ時代を超えて世界中に拡がったのか』河出書房新社(2017/06)

・ボラグ、ミンガド『「スーホの白い馬」の真実 ―モンゴル・中国・日本それぞれの姿』風響社(2016/11)

・真下 厚他『歌を掛け合う人々 東アジアの歌文化』三弥井書店(2017/08)

✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑✑

2.学会等の大会情報

・説話・伝承学会2018年度春季大会

5月12-13日 天理大学

・第42回日本口承文芸学会大会

6月2-3日 関西福祉科学大学

・日本昔話学会2018年度大会

6月30日-7月1日 高千穂大学

・うたとかたりのネットワーク・セミナー

10月21日 立命館大学大阪いばらきキャンパス

・日本児童文学学会2018年度大会

11月24-25日 文教大学越谷キャンパス

(*詳しくは各学会HP・ブログ等をご覧ください。)

◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊

<編 集 後 記>

今年5月下旬に行われるという米朝首脳会談。このニューズレターを編集している5月はじめの時点では、どのような成果が上がるのか予断を許しませんが、朝鮮半島の南と北に分断されて暮らす同じ民族の人びとが、物心ともに、自由に行き来できる日に向けての第一歩となることを願っています。そしていつか、「将軍様」をからかったり頓智でやり込めたりする笑い話としての民間説話が、「北」の人びとの間でも語られる日が来ることを夢想しています。もしかしたら、もうすでに語られているのかも知れませんが…。

ところで、前号において故稲田浩二先生の蔵書の移管について触れました。民博(国立民族学博物館)に連絡を取り、一部だけでも引き取っていただけるよう、辻先生を中心に作業が進められていますが、なかなか思うに任せない現状です。いいご報告ができるといいのですが…。この件またお知らせします。 (鵜野祐介)