AFNS NEWS LETTER No.20

(年会費:正会員3,000円、準会員 [学部学生] 1,000円)

<巻 頭 言>

鵜野祐介

今年もまた、新緑萌える季節が巡ってまいりました。会員の皆様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。私共アジア民間説話学会も1994年3月の創設以来21年目を迎え、本ニューズレターも節目の第20号を数えております。この間、韓国や中国の方々との、民間説話研究を通しての親睦と交流の中で、互いの国や民族の歴史と文化の独自性を尊重しながら、東アジアという土壌に根付いた無形文化財としての民間説話の共通性をいくつも発見できたことが、本学会の何よりの成果と考えております。

昨今、政治やジャーナリズムの世界では「反◯」「嫌◯」といった標語が連日踊っています。観光スポットやスポーツ観戦の場にまで「外国人お断り」「ジャパニーズ・オンリー」の文字が揺れる、そんな状況に胸を痛めているのは私だけではないでしょう。いずれの国のリーダーたちも、自らへの支持率を高めるために、愛国心と排外主義を戦略的に利用していることは明白です。けれど最も憂うべきは、現在の国政リーダーたちが、直接顔を合わせて互いの声に耳を傾けようとしないことだと思われます。

これは政治家だけの話ではありません。ヘイト・スピーチに情熱を傾ける若い人たちも、もしも一緒に話したり食事したりしたことのある韓国人や中国人の友だちがいたなら、きっとあんなふうにはふるまえないでしょう。その友だちの悲しむ顔が目に浮かび、震える声が聞こえてくるはずだからです。出会いと対話の場を持ち、歌やおはなしといった「声の文化」を共有することができたなら、相手の顔が浮かばない「ガイ人」から、具体的な顔が思い浮び気軽に近所づきあいのできる「お隣さん」へと、韓国や中国の人たちに対する認識も変わってくるのではないでしょうか。

本学会会員の辻星児先生が世話役を務められ、今年度で3年目を迎える、日中韓3ヵ国の大学生が2年間3ヵ国の大学を巡回しながら共同生活を送る「キャンパス・アジア」プログラムも、若者たちがこうした「顔が思い浮かぶお隣さん」との近所づきあいをしていくための大変意義深い活動だと思います。そして本学会もまた、2年に一度顔を合わせて、民間説話という「声の文化」について、互いの声に耳を傾け議論を交わすことができる、かけがえのない交友の場です。

今年8月22日から24日まで、第13回国際シンポジウム大会を岡山市で開催いたします。詳しくは次頁以下の大会プログラムをご覧ください。会員の皆様ご自身はもちろんのこと、お知り合いや教え子さんはじめ若い方々にも是非お声掛けいただいて、多くの皆様にご参加いただき、日中韓3ヵ国の親睦の輪がより一層広がっていくことを心より期待しております。

2013年度活動報告

「日本支部2013年度総会・研究大会」

(2014年2月15日、立命館大学)

<総会>

1.2013年度活動報告

2.会計報告(後述)

3.2014年度活動計画(後述)

<研究大会>

研究発表1 中野敦子「キジムナーの原像 -済州島のトッケビとの比較を通して-」

研究発表2 宮井章子

「弘法大師空海と〈祀られる犬〉をめぐって」

研究発表3 鵜野祐介「日本型聖母子像の変容 -「蛇女房」から松谷みよ子『龍の子太郎』へ-」

2013年度会計報告

(2013.2.1~2014.1.31)

<収入>

・前年度繰越金 393,028(円)

・2011年度分会費 3,000

・2012年度分会費 15,000

・2013年度分会費 66,000

・2014年度分会費 3,000

・2013年度賛助会費 5,000

・利息 48

(2012年度総会・研究大会)

・参加費 6,500

収入合計 491,576

<支出>

・通信費 4,920

・総会・研究大会諸経費 850

支出合計 5,770

2013年度残金 491,576-5,770=485,806円

会計:山中郁子、宮井章子、会計監査:中塚和代

2014年度活動報告

A.第13回国際シンポジウム大会

主題:「東アジアの昔話における〈家族〉」

期日:2014年8月22日(金)~24日(日)

会場:ピュアリティまきび

(岡山市北区下石井2-6-41)

<8月22日(金)>

18:00~20:00 歓迎懇親会

<8月23日(土)>

9:00~ 受付

9:30~9:50 開会式

開会の辞 中国代表 林継富(中央民族大学)

韓国代表 金容儀(全南大学校)

日本代表 鵜野祐介(立命館大学)

10:00~12:00 第一セッション

10:00~10:20 崔元午(光州教育大学校)「(未定)」

10:20~10:40 畢雪飛(浙江農林大学)「中日棄老譚の比較研究」

10:40~11:00 斧原孝守(奈良高校) 「東アジアの『姥捨山』について」

11:00~12:00 総合討論

12:00~13:30 昼食・休憩

13:30~15:30 第二セッション

13:30~13:50 高木立子(北京外国語大学 文化教育専門家)「漢民族の異類女房譚における家族構造」

13:50~14:10 宮井章子(立命館大学聴講生)「日本の異類婚姻譚における親子関係 -「犬娘と蛇息子」を手がかりに-」

14:10~14:30 鵜野祐介(立命館大学)「『蛇女房』譚における母子離別モチーフの歴史的背景と教育人間学的意味」

14:30~15:30 総合討論

15:30~15:45 休憩

15:45~17:45 第三セッション

15:45~16:05 徐海淑(全南大学校)「(未定)」

16:05~16:25 康麗(北京師範大学)「性別規範:女性の話とその伝統意識形態 ―中国の賢い女の話研究―」

16:25~16:45 李秀子(前 中央大学校)「(未定)」

16:45~17:45 総合討論

<8月24日(日)>

8:30~9:15 理事会

9:00~ 受付

9:30~11:50 第四セッション

9:30~9:50 徐永安(湖北十汽車工業大学)「老人の自殺習俗の口頭テキストの歴史的変化」

9:50~10:10 韓順美(朝鮮大学校)「(題目未定)」

10:10~10:30 林継富(中央民族大学)「ある語り手の語る親子二代の話」

10:30~10:50 酒井董美(山陰民俗学会)「民話「子育て幽霊」に見る母性愛」

10:50~11:50 全体討論

12:00~12:15 閉会式

閉会の辞 韓国代表 金容儀(全南大学校)

中国代表 林継富(中央民族大学)

日本代表 鵜野祐介(立命館大学)

☆12:30~18:00 バスツアー

(後楽園-吉備津神社-鬼ノ城)

*参加費:全日程10,000円

(22日8,000円 [外国からの参加者分を一部負担]、23日1,000円、24日午前500円、24日午後500円)

*発表題目や発表順には変更の可能性あり。

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B.日本支部2014年度総会・研究大会

2015年2月14日(土)立命館大学

C.日韓中3カ国共通昔話タイプ資料集の編纂

D.その他

入会者・退会者(2013年3月-2014年2月)

・入会:中野敦子氏

・退会:齋藤君子氏、太原倫子氏

情報アラカルト

1.新刊情報

・稲田和子文・稲田奈穂絵『方言で語る日本昔話30選』みやび出版。

・酒井董美『山陰のわらべ歌・民話文化論』三弥井書店。

・酒井董美『ふるさとの民話 出雲編Ⅱ』『ふるさとの民話 石見編Ⅱ』『ふるさとの民話 隠岐編Ⅱ』ハーベスト出版。

・西村正身・羅黨興共訳、体美呉天竺三蔵康僧会・旧雑譬喩経全訳『壺の中の女』溪水社

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・石井正己編『震災と民話 未来へ語り継ぐために』三弥井書店。

・岡部隆志『神話と自然宗教(アニミズム) 中国雲南省少数民族の精神世界』三弥井書店。

・国立歴史民俗博物館・松尾恒一編『東アジアの宗教文化 越境と変容』岩田書院。

・畑中章宏『津波と観音 十一の顔を持つ水辺の記念碑』亜紀書房。

・花部英雄・松本孝三編『語りの講座 昔話入門』三弥井書店。

・福田晃『沖縄の伝承遺産を拓く 口承神話の展開』三弥井書店。

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2.関連学会の大会情報

・日本口承文芸学会 2014年度大会

6月7-8日 東北大学

・日本昔話学会 平成25年度夏季大会

7月5-6日 東京学芸大学

・アジア児童文学学会 第12回アジア児童文学大会

8月8-12日 韓国・昌原(チャンウォン)市

*詳しくは各学会HPをご覧ください。

書 評

酒井董美著『山陰のわらべ歌・民話文化論』

(三弥井書店)

鵜野祐介

この程刊行された酒井董美氏の著『山陰のわらべ歌・民話文化論』を拝読して、まず評者の脳裏をよぎったのは「ヘリテイジ(文化遺産)」という言葉である。

タイトルに「文化論」と冠した本書には、山陰のわらべ歌や民話を日本のみならず世界に誇りうる貴重な「ヘリテイジ」として位置づけ、次代を担う子どもや若者、彼らを教え育てる親や教師、地域の人びとにこれを継承していってほしいと願う、著者酒井氏の熱い想いが脈打っている。特に、民話のあるべき語り方について説いた論考(第五章)にはその感を強くした。

また、グローバル(地球規模)なものへの視点とローカル(地方独自)なものへの視点、この両方を併せ持つという意味の造語としての「グローカル」な視点が近年注目されているが、酒井氏の研究にはこの「グローカル」な視点が貫かれていることも指摘しておきたい。山陰のわらべ歌や民話が持っている、県境や国境を越えた共通性と、地域的な独自性の両方を見据えた酒井氏の「グローカル」な研究が、この造語が脚光を浴びる遥か以前から着手されていたことは、十五年前に刊行された前著『山陰の口承文芸論』からも伺え、氏の先見の明に敬服させられる。

本書からはその進展と深化の様相が読み取れ、特に、長年にわたる現地調査と綿密な文献資料の数量解析に基づいて展開された、米子市粟島神社の八百比丘尼伝説や倉吉市打吹山の天女伝説の、全国的・国際的な共通性と地域的な独自性を探求した論考(第一章、第四章)や、「アジアの中の山陰」が強く打ち出された民話論(第三章)は、比較文化論のあるべき方向性を示すものとして注目される。

先日お目にかかった際、「年齢のことを考えてそろそろ引退したい」とおっしゃっていたが、本書を手にして、山陰の文化遺産の継承のために、まだまだご活躍いただきたいとの思いを新たにしている。

(「日本海新聞」2013年11月10日に掲載)

エッセイ

「名前 ドキドキ」

岩男久仁子

「岩男久仁子」と姓名を書けば、まずは性別を間違えられることはない。だが、私が中学生の時、社会科の初授業で「岩男君!岩男君!今日は欠席ですか?」と教員にあてられた。男子には「君」、女子には「さん」と区別して呼んでいたのにもかかわらず、「岩男君!」と力いっぱい間違えられると、とっさに返事ができなかった。なんとか起立して「はい、います!」と存在を示した。その教員が手にしていた座席表は、男子は黒で、女子は赤で名前を表記されていたが、「岩男」の“男”に反応してしまったのだろう。その時の教員は気まずい顔をしていたが、私も気まずかった。

そんな出来事をすっかり忘れた頃の年度初め、私が担当している科目の1回目の講義に出席せず、2回目の時に初めて出席した学生がいた。毎年数名そのような学生がいるので、とりあえず1回目の講義に出席しなかった理由を尋ねてみることにしている。その内の1人の理由に、私は、忘れていた記憶を呼び起こされた。その学生は、私の問いに「先生を間違えてしまったんです。」と答えた。さらに「教室は間違えていなかったのですが、教室に入ろうとしたら、女の先生が黒板の前に立っていたので、この教室ではないと思い、別の教室に行きました。岩男先生は、男の先生だと思ったんです。」と付け加えた。そっち方向の勘違いかと呆れ、中学生の時の「岩男君!」を思い出し、苦笑いをしてしまった。学生が持っていた時間割表を見せてもらうと、「岩男久仁子」と姓名を表示してあった。それでも「岩男」の“男”に反応してしまったのである。

続いて、私の名前とは関係ない話。毎年、夏休みにイソップ寓話についてレポートを書くという課題を出している。レポートについて質問があれば、出席カードに書くように。質問の回答は全員に示すから、些細なことでも遠慮なく書いてほしいと話した。その質問の中に「イソップ寓話は『走れメロス』でもいいですか?」というものがあった。硬直した。しかし、全員に回答を示すと約束した手前、無視するわけにもいかず「『走れメロス』は、ダメです。これは日本の作家の太宰治の作品なので、イソップ寓話では、ありません。」と回答するしかなかった。それを聞いていた学生たちは、小さく吹き出す者、下を向いて小刻みに震え笑いをこらえる者などがおり、ちゃんとわかっている学生の方が多くて安心した。後に、質問した学生がなぜ、このような勘違いしたのか、こっそり教えてくれた。それは『走れメロス』の登場人物が、メロス、セリヌンティウス、ディオニスなど「…ス」で終わる名前だから、ギリシアっぽくて、イソップ寓話だと思い込んだらしい。この度は“ス”に反応した。その学生が「勘違いしていました。先生、すみません!」と明るく言った。傷ついてはいないようだった。よかった。「お願いだから、予想外のことを言わないでほしい」と念じるようになってしまった。

<編集後記>

5巡目となる日本での大会、今回はじめて大阪を離れて岡山で行います。運営費確保のためにも、会費納入はできるだけお早めにお願いできると有難いです。それでは8月にお会いしましょう!(鵜野祐介)

AFNS NEWS LETTER

No.20 May 2013

アジア民間説話学会 [The Asian Folk Narrative Society]

日本支部事務局:立命館大学文学部 鵜野祐介研究室気付

〒603-8577京都市北区等持院北町56-1 tel 075-466-3142

e-mail: y-uno@fc.ritsumei.ac.jp