シャイアーの

アニュアルレポート

シャイアーのアニュアルレポートを見るとメガファーマを凌駕しそうな情報量と体裁の美しさに圧倒されます。しかし、忘れてはならないのはシャイアーの株価が年初から3月末までに20%も下落していた事実です。このように素晴らしいプレゼンテーションにもかかわらず、株式市場がシャイアーを信用しなかった背景には何があったのでしょうか 。 >参照(Yahoo株価チャート)

シャイアーが過去2年間に売上高を2.4倍とするM&Aによって抱え込んだ無形固定資産が、競合製品ヘムライブラの出現によって毀損するという懸念が影響したと考えます。この点については項を改め、「M&Aの副作用」として説明します。

ここでは、アニュアルレポート16ページ Strategic report(戦略報告)のKey performance indicators(主要業績指標)に注目しました。

Non GAAP Net debt / Non GAAP EBITDAが2.9倍となり、前年の4.8倍から大幅に改善

Non GAAP EBITDA marginが43%となり、前年41%から改善

Non GAAP adjusted ROICは0.4パーセント低下、6.6%

EBITDA関連の指標はいずれも大型M&A(バクスアルタ買収)以前の2015年水準に復帰したことがハイライトされています。製薬企業のアニュアルレポートで見ることは極めて珍しい指標です。例えば米国メルクの2017年業績指標はGAAP EPS および、M&A関連費用を控除したNon GAAP EPSを補助的に記載しています。単純明快であり、そもそもEBITDAに関する記載は見当たりません。ファイザーはAdjusted EPSを前面に押し出して、GAAP EPSの方が補助的になっていますが、それでもEBITDAは一切用いていません。

EBITDAを経営指標とするのは極めて異例です。ところが、タケダ経営陣が買収提案に使用している指標はシャイアーと全く同じで

「純有利子負債/EBITDA倍率は、中期的には2.0倍以下の水準を目標とし、、、」

「買収完了後、最初の通期事業年度にROICはタケダの資本コストを上回る見通し」

など、シャイアーのアニュアルレポートとそっくりなのです。EBITDAと同様に「ROIC」も一般株主には無縁の経営指標です。シャイアーと同じく、米国会計基準で決算しているメルクとファイザーのアニュアルレポートを見ても、このような記載は見当たりません。

2年前に英国でシェル石油が英国ガス(BG)を買収した時にROICを使用していますで、M&Aでは有効な説明なのかもしれません。シェルとBGのM&Aは英国のTakeover Codeに則って実施されていたので、タケダShire案件を指南している投資銀行が大いに参考としているようです。

2017年1月にタケダが実施したARIAD社買収の説明資料ではEBITDAもROICも使用されていません。今回のタケダShire案件はタケダ側の提案ですが、その資料はあたかもシャイアーが作成したかのように見えてきます。少なくともこれまでの武田薬品には全く存在しなかった文化が、すでに入り込んでいるように感じます。

shire-annual-report-2017.pdf