2020年12月R&D説明会について

「考える会」の見解


Wave1presentation_jp.pdf

はじめに

昨年(2019年)11月に新生武田薬品(以下タケダ)として開催された第1回R&D説明会と比べると、本年(12月9日開催:NY時間12月8日)は、パイプラインの各品目予測数値が示されたという点では評価している。しかしながら、2030年の目標とする売上収益5兆円の根拠を示す説明が不十分であったことから、株式市場の反応は冷ややかであった。全体にわたり内容的に、直ちに理解することが出来ないところが多々みられるが、以下2点の論点につき考察してみたい。

パイプラインの評価額1兆5000億円については、全品目成功確率を100%と仮定した数値である。一方で、その成功確率を半分以下に見積もり、6000億円程度が「WAVE 1 PTS調整後」としてグラフに示されているために、内容的に信憑性を損なうものではないと思われる。しかしながら、明確な根拠がないと感じられる数値を10年後の目標として掲げるのは無謀であるとの印象はぬぐえない。

更に問題なのは、 最大プロジェクト として60億ドル(6500億円)を見込むオレキシン化合物のナルコレプシー治療薬である。額面通りに実現すれば、グローバル製品の売上ランキングではトップ10に入ることになる。しかし、希少病治療薬におけるこれまでの最大売上は、アレクシオンファーマのヘモグロビン尿症治療薬ソリリスの39億ドル(4200億円)であり、ランキングは21位である。タケダのナルコレプシー治療薬はTAK-925(注射剤)がフェーズ1を終了、TAK-994(経口剤)は登録症例数202例を目標とするフェーズ2試験段階にある。完了するのは2021年5月の予定、フェーズ3試験にも着手していない段階であり、現時点での予測がぶれることもありうる。この点について、詳細な開示がないのは残念である。2021年4月6日予定の投資家イベントにおける詳細説明が待たれる。

既存製品の減少額は45億ドルにとどまらないのではと予測する。説明資料8ページのグラフでは、2019年度に3300億円だった血友病領域は、2000億円前後へと40%ほどしか減少しない 想定と思われるが、さらに1000億円減少し、3分の1(1100億円)以下となる可能性が高いのではないかと思われるその根拠は、ロシュの二重特異性抗体ヘムライブラだけでなく、バイエルのJivi、ノボノルディスクのESPEROCT、サノフィのEloctateといったPEG化遺伝子組み換えファクターVIII製剤との競合が激化していることにより、アドベイトの後継品アディノベイトの成長は見込めないと推察するからである。さらに、ファイザーが発表した新規抗TFPI抗体やフェーズ3に進んだ遺伝子治療SB-525など、開発中のさまざまな競合品が5年後には市場参入している可能性がある。 

仮に、全体の売上減少額が想定通り45億ドルにとどまるとしても、グローバルブランドによる上乗せ額として想定する80億ドル(8500億円)45億ドルを下回る可能性が高く、売上収益は横ばいから微増にとどまると思われる。

タケダが最も期待する製品は、65億ドル(2019年比33億ドル増加)の売上を見込む潰瘍性大腸炎治療薬エンティビオである。しかし、市場競合と開発パイプラインの状況を鑑みると、エンティビオの売上は47億ドル(5000億円)程度、15億ドルの増加にとどまると推測される。競合品の状況を見ると、ヤンセンの抗IL-23抗体ステラーラ(適応症:潰瘍性大腸炎/クローン病、尋常性乾癬、乾癬性関節炎の売上は、2019年67億ドルでグローバル医薬品売上8位となっている。一方でエンティビオには消化器領域の適応症しかな、経口JAK阻害剤の抗リウマチ薬が潰瘍性大腸炎へ適応拡大されることで、競合が激化すると予想される。

多発性骨髄腫治療薬ニンラーロに対する期待も過剰気味である。一次療法の効能追加に失敗し、高位予想20億ドルどころか、低位予想の15億ドルも厳しい状況である。同じ2015年に発売されたヤンセンのダーザレックスは、昨年、一次療法の効能が追加され、売上は1000億円増加、3000億円に達している。

添付レポートにおいてエンティビオとニンラーロの現状を分析し、タケダが想定する3つの数値、

(1) 2030年5兆円の売上収益

(2) 2024年までの主力品減少額 45億ドル

(3) 2024年までのグローバル製品の上乗せ80億ドル

について、現実性を考察する。

まとめ

タケダが想定する以下3つの数値からみて、シャイアー社統合の成否について考察する。

(1) 2030年兆円の売上収益

(2) 2024年までの主力品の売り上げ減少額は45億ドル

(3) グローバル製品の上乗せ(売上増加)80億ドル

 10年後の売上収益目標5兆円についベストケース(成功確率100%)の場合の研究開発パイプライン貢献額 1兆5000億円の内、旧シャイアー社製品の合計は4000億円以下(34億ドル)で、成功確率を50%としても2000億円でしかない。一方、タケダが年後に想定する45億ドル(4800億円)の売上減少は、2/3以上(3300億円)がシャイアー社製品によるものとみられる。

さらに、2024年までに米国において特許満了となる11品目の内、10品目(2019年度売上合計4300億円)がシャイアー社製品である。このような状況から見ると、公表された2030年までのタケダの売上予想額 において シャイアー社買収貢献していないと推測される。

年後(2024年度)にタケダが期待する「グローバルブランド12品目による80億ドル以上の上乗せ」については、実現の可能性が低いと思われるが、この数値においても旧シャイアー品目の貢献度は1/3以下、26億ドル(2800億円)にとどまるとみられる。

このようにタケダが示している製品売上予想値を分析してみると、シャイアー社買収が必ずしもタケダの将来の成長に貢献していないのではないか、タケダはシャイアー社買収の成果を過大評価しているのではないかと思わざるをえない。

既存製品の減少額がタケダの想定通り45億ドルにとどまるか否か、これを上回るとるグローバルブランドによる80億ドル上乗せの現実性問われるところである。現在の苦境を打開し、10年後のタケダの展望を描くためには、新たな新製品戦略策定が急務である。

以上

2タケダ薬品のR^LL0D説明会01142030HP版2.pdf