2021年第3四半期業績について
はじめに
本資料では、タケダ薬品の最新の決算短信を概観しながら経営状態を確認した上で、グローバル企業との業績比較から、株価と債券格付けの現状分析を試みる。
タケダ薬品の第3四半期決算(9ヵ月)における売上収益の伸び率は、実質0.7%と低迷し、営業利益(コア)はマイナス 2.9%。一方、グローバル製薬企業の2021年の決算は、コロナ特需を除外しても、売上収益伸び率が 7%と好調であり、タケダ薬品の医薬品売上ランキングは前年(2020年)の 9位から 12位へと転落している。
2018年、シャイアー買収時に「世界のトップ10企業の仲間入り」を標ぼうしていたが、現下のパイプラインの状況からみて、実現はかなり難しいのではないかと思われる。このような背景から、株価は昨年(2021年)一年間で 10%以上も下落。同期間に、22%上昇した米国市場(S&P500指数)や、11%上昇した日本市場(TOPIX指数)を大きく下回った。
その結果、2021年の株主総利回り(TSR)は、180円の高配当を加えてもマイナス 6%。ウェバーCEO在任の 7年間でみると、180円の高配当を維持しながらも株価は半減、株主総利回り(TSR)は年率マイナス 4%。国内外の主要製薬企業のなかで唯一マイナスとなる業績であり、市場のリターン(S&P +12%/年、TOPIX +5%/年)と比較しても、業績良好とは言えず、債券格付けも最低水準で推移している。研究開発面においても、期待できる新製品が開発されていないという市場評価により、R&Dパイプラインの説明会が開催されるたびに、株価は下落している。
このような経営状況及び市場評価を受け止めた上で、経営陣のより一層の奮起を期待したい。
まとめ
タケダ薬品の第3四半期決算(累積)における売上収益の伸び率(+11%)は 、国内糖尿病事業の売却収益(5.5%)および為替影響(4.7%)を除外すると、実質 0.7%と低迷し、Core営業利益はマイナス 2.9%。
グローバル製薬企業の2021年決算における売上収益成長率の中央値は、全体で 10%前後、コロナ特需の影響を除外しても、 7%前後であった。このような状況を背景に、タケダ薬品のグローバル医薬品売上ランキングは、前年(2020年)の 9位から 12位へと転落した。
国内企業の12月期(主に第3四半期 9か月、および12月決算の中外製薬、大塚ホールディングス、協和キリンは12か月)の売上成長率は、前年比マイナス 2%の塩野義~プラス 27%の中外製薬までと数値は幅広く分布しているが、その中央値は、実質ベースでプラス 7%。ここでもタケダ薬品は、+0.7%と低水準にある。このような業績低迷を反映して、タケダ薬品の株価(3,499円)は純資産倍率 1.0倍(3,423円)を下回りそうな危険領域にまで低下している。
時価総額も、アッヴィ(4位)、ノボ(5位)、リリー(6位)が25兆円前後へと大幅に増加しているのに対し、タケダ薬品は 5兆円前後で低迷し、シャイアー買収に投じた 7兆円が雲散霧消したかのような状況である。株主総利回り(TSR)は、ウェバーCEOの在任 7年間で年率マイナス 4%。TSRが市場を上回ったのは2017年だけであり、シャイアー買収を発表した2018年にはマイナス 29%を記録、その後プラスとなったのは2019年(+0.5%)だけであった。
債券市場においても、 2017年まで A1だった Moody’sによる格付けは、シャイアー統合後は Baa2まで4段階格下げ。見通しは Positiveとされているものの、5年経ったいまも、1段階の格上げも実現していない。
2017年時点で同じ A1だったアステラス製薬が 2段階格下げの A3、第一三共は 1段階格下げのA2に。タケダ薬品は未だ Baa2と、製薬企業のなかでは最低の格付けのままである。このような状況から判断して、株式及び債券市場ではシャイアー社買収は、かならずしも評価されていないと言わざるを得ない。