L. D. Landau and E. M. Lifshitz: Statistical Physics Part 1
当然ながら、その後の物理学の発展により誤りと判明した部分もあるのだが、それでもこの本の深い魅力は変わらない。教科書に書いてあることをなんでも鵜 呑みにする人には向いていないが、自分の頭で考える人にとっては必携と言っても良いだろう。なお、Landau の死語、「記述が古くなったので」という理由で、Part 2 というのが出たが、そっちは、似ても似つかない平凡な本であるので間違えないように。
N. Goldenfeld: Lectures on phase transitions and the renormalization group (Addison-Wesley, 1992)
雑ではあるが、何が本質か、ということが明確に書いてあり、優れた本だと思う。
岩波講座 現代物理学の基礎 第2版 「物性 II 」(岩波書店, 1978)
こういう本はなかなかない。絶版になってしまったのは、あまりに惜しい。英訳版なら入手できるらしいが…。なお、『岩波講座 現代物理学』のシリーズは、第1版、第2版が最高の評価を受けたものであるのに対し、最近出版されたシリーズ(第3版?)は、評判が芳しくない。じっくり 時間をかけて書いたものと、急いで書き上げたものとの違いが出ている。本は、新しいものが良いとは限らない(あまり多くの本が出版されることがなかった時 代の本の方が良い)という典型例だろう。つまり、基礎の部分は、古くても良いからしっかりした本で 勉強し、新しい知識は論文で身につけるようにするのが良いのだろう。
岩波講座 現代物理学の基礎 第2版 「統計物理学」(岩波書店, 1978)
同上。
岩波講座 現代物理学の基礎 第2版 「量子力学II」(岩波書店, 1978)
同上。特に、第16章が秀逸だと思う。
中野藤生・服部真澄:パリティ物理学コース クローズアップ「エルゴード性とは何か」(丸善、1994)
普通、この類の本は、やたらと数学的で、物理的な要点を掴みづらいものが多いのだが、この本は要領よくまとめられている。裏を返せば、カオス の専門家から見るといろいろと不十分な点もあるのかもしれないが、物理はまず大づかみに理解するのが大事だから、この本は大変役に立つ。また、久保-中野 公式(いわゆる久保公式)の成立条件に、混合性が必要であるという記述は、さすがに公式を作った本人であると思わせる。ご本人にお会いしたときに「引用し たいからそのことを書いた論文を教えて下さい」とお願いしたら、「当時は、そんなにはっきりとは意識していなかったから、論文には書いてない」とおっ しゃっていたので、中野先生としても、ご自身のお仕事をカオスという観点から眺め直して書かれたようだ。なお、散逸のない応答(静磁化率など)について は、久保の原論文にも混合性にあたる条件が導いてあるのだが、久保-中野公式は散逸のある応答(DC電気伝導度など)が主眼なのだから、その証明は不十分 である。この論文の II.A に書いたように、散逸のある応答の場合の本当の条件は、まだ解っていないと 思う。
J. W. Negele and H. Orland: Quantum Many-Body Systems (Addison-Wesley, 1988)
普通の本では述べられていなかったり、不注意な(もしくは誤った)記述になっていることが、きちんと述べられている箇所があり、感心する。例えば、「物理 のもっともらしいハミルトニアンについて摂動論をやると、それは収束半径がゼロになり、摂動論というのは漸近展開なんだよ」とか、「ランダウ関数と自由エ ネルギーは、相転移点以下ではずいぶん異なっている」ことなどである(こ れは最近では、僕や田崎さんの熱力学の本も出たので、理解が広まったようだ)。ところで、物理の摂動計算は、次数を上げたら、ある次数から はむしろ近似が悪くなる、というのは、物理屋は、皆、知っているのだろうか?なお、このページの冒頭に書いたように、細かい誤りはたくさんあるようだ。
L. Mandel and E. Wolf: Optical Coherence and Quantum Optics (Cambridge Univ. Press, 1995)
おそろしく分厚い本で、僕もほんの一部しか読んでないので、本当に良い本かと問われると、解らないと答えるしかないのだが、辞書のように何でも書いてあ るので、量子光学の事を調べるのにとても便利。買って損はない。
M. Tinkham: Introduction to Superconductivity, 2nd ed. (McGraw-Hill, 1996)
院生のころに指導教官に薦められて読んだ本だが、今読み返してみると、なんと、symmetry breaking のことが書いてないようだ。それで超伝導の教科書とは…と考え込んでしまったが、まあ、symmetry breaking のことは他の本で勉強することにすれば、いいんじゃないだろうか?(このページの冒頭の「注意」を参照せよ!)
H. B. Callen: Thermodynamics and an introduction to thermostatistics, 2nd edition (Wiley)
熱力学講義ノートにも書いたよう に、気に入らない点も少なくない。しかし、熱力学に幾種類かの定式化がある中で、Tisza-Callen流の定式化(=統計力学を基礎から考えるときに とても便利)を行っているのは、筆者が知る限りこの本しかない。
追記07/05/27:エントロピーを示量変数の関数として表した式により熱力学がすっきりと理解できるこ とは、Gibbsが発見したらしいので、「Tisza-Callen流」と言うよりはGibbs流である。不思議なことに、こ の美しい流儀の教科書は、長い間この本しかなかった。そのために、気に入らなくても推薦していたのだが、Gibbs流の初めての本格的な教科書が出版された今となっては、もはやCallenの本を推薦 する理由はなくなった。自分で言うのも何だが、この新しい本は、正確さ・一般性・現代性・論理の美しさなどの点において、Callenの本を遥かにしのい でいると思う(そうでなければわざわざ新しい本を書いたりしないから当たり前だが)。
小倉久直:物理・工学のための確率過程論(コロナ社, 1978)
確率過程論は、物理の重要な道具のひとつであるが、数学書で真面目に勉強すると、えらく手間がかかる。確率過程の物理の専門家になるならいざ知らず、僕 のように、他の興味で計算していたら確率過程論の知識が必要になった、というような場合には、素人にもエッセンスと結果とが分かるような本があると助か る。この本は、そういう用途に非常に便利だと思うのだが、なぜか知名度は低いと思う。僕も、評判を聞いて買った訳ではなく、学生時代に本屋で見かけて買っ て、予想外のお買い得だったと喜んだのである。(「恐らく絶版。惜しい」と書いたら、理科大の 学生さんが、「たまに書店で見かけます。まだ絶版にはなっていないのではないでしょうか」と知らせてくださいました。)