拙著「統計力学の基礎I」を教科書とする読者と教員の方のための御参考
清水明
last update : 2024/10/20
清水明
last update : 2024/10/20
本書第I巻は、大学1、2年生向けに筆者が講義してきた内容に、大学院生や研究者にもお役に立ちそうな内容を加えて首尾一貫した論理になるように再構成したものです。 そのため、以下の内容だけ講義(または輪講)するようにすれば、初学者向けの統計力学の教科書としても使えるようになっております。
統計力学の基本原理と古典系への応用までを講義(または輪講)する場合のプラン例
熱力学をUVN表示で習っていないと,ミクロカノニカル集団も,異なる 統計集団の間の関係も理解しづらくなりますので,2章が必要だと考えています. ただ,各大学のシラバス次第では,ここを「単純な気体などでは平衡状態が(U,V,N)で指定できるよ」ということだけ伝えて済ませるのもありなのかもしれません.
10.3.4項, 10.4節の「アンサンブルの等価性」は,ほとんどの教科書には出てこないし,筆者が物理学科で受けた講義でも習った記憶がありません.ましてや,本書のように熱力学関数と状態の等価性にきちんと分けて解説した教科書は極めて珍しいです.ということは,標準的なカリキュラムでは略してもいいことになっているのかもしれませんので,各大学のシラバス次第で略せます.ただ,個人的には,これは統計力学を理解する上できわめて重要な事項だと思っています.
逆に言えば,「このような核心とも言えることをきちんと教えていないことが, 標準的なカリキュラムの問題点ではないか」と考えたのが, この教科書を上梓した理由のひとつです.ですので,これらの重要事項を シラバスに組み込んでいただければ嬉しいです.
初等量子力学を既習の学生に,上記に加えて量子系の統計力学の初歩を講義(または輪講)する場合に,追加する章の例
13.7節は,自由粒子系などの扱いに必要なFock空間を,生成消滅演算子を 導入することなく最短距離で教える内容になっています. もしも座標表示から出発する形で「第二量子化」を学んだ学生がいる場合には, (それは附録Dに書きましたように光子などには適用できないから統計力学には 不適なので) かえって理解の妨げになってしまうので,それをいったん忘れるように指導して あげてください. なお,Fock空間を構成するには, 一般には生成消滅演算子の導入を必要とするわけですが, それは続巻で必要になった所で説明します.
15章は,通常は誤魔化してしまうボゾン系独特の面倒な点もきちんと説明したので, 学生が難しいと感じるかもしれません.ですので,略してもいいと思います. 「シラバス上は必要だが時間が足りない」という場合には, 「詳しいことは教科書にあるが,結果としてはこのように計算すればいい」 という説明の仕方で時間を節約すればいいかと思います.
「理屈はいいから(定期試験に出るような易しい)問題の計算の仕方を教えてくれ」という学生さんの場合
私の経験では,大学で学部学生を対象に講義をしていると,こういうことを言ってくる学生さんが,一定数います.(私は,講義では怒ったことがないので,こういう正直なことも言いやすいようです.)
そのように言ってくる学生さんは,受験勉強などをしていたときに,問題集を解くことから始めた方が効率的だったという経験を持っているのかもしれません.あるいは,定期試験にパスすることだけを目的としているケースもあるでしょう.
理由を突き止めるのは簡単ではないし,そもそも人によって理由は異なるでしょうから,前者が理由であると仮定して,私は「そういうやり方は,大学以上では止めた方がいいと思うよ」と,一応はアドバイスします.
このアドバイスが受け入れられなかった場合には,まあ,「習うより慣れろ」というやり方もそれなりにメリットはありますから,「そのような用途には,次のように読めばいいよ」と教えてあげてください.
易しい問題が解けるようになる最短コース: 1.1節, 1.2節, 1.5.1項, 2.1節, 5.2.5項, 5.2.7項, 6.1.4項, 7.2.3項, 7.4節, 10.1.3項, 10.3.5項, 10.5節, 10.6節, 11.1.2項, 12.1節, 12.2節, 12.3節, 14章を順に読む(途中は飛ばす).これで易しい問題の解き方は終了するので,その後で,飛ばした部分で気になる所を読む.
いずれのパターンの講義でも,以下のことをお願いしたいと思います.
講義の際には,詳細な議論はテキストに書いてありますから,要点だけを講義すればよいと 思います.
講義と並行して演習の時間があると理想的ですが,それが設けられていない場合には,毎回レポート問題を(本書の練 習問題の中からでも構いませんから)出して,各回の講義の内容を,学生に着実に理解させるようにお願いいたします.
当然のことではありますが,復習を欠かさないように学生に 強く言ってあげてください.本書は,最小限の仮定(要請)から様々な結果を導き出してゆくスタイルですから,とりわけ復習が大事です.