谷村虎之介さん
2017年度 展覧会支援の部 受賞
2017年度 展覧会支援の部 受賞
最近は来場者の似顔絵も描いている。「一昨年の2人展で来場した木版画家の先生を突然、描き始めました。先生に『作品に自信を持てるようになった証拠』といわれ、成長を実感しました」と母・祥子さんはうれしそうに話す。
幼い頃から水族館や歌舞伎が好きで、魚に始まり中学に上がると役者絵を描き始めた。
「3年間通ったアトリエの先生が、好きなものを自由に描かせてくれたことがきっかけです。15歳の初個展以降は、贈られた花も描くようになりました」
翌年エイブルアート芸術大学に通い始め、応募3年目でアワードを受賞。
「銀座の受賞者展では、通りがかりに鑑賞して下さる方もたくさんいて、歌舞伎関係者にも観てもらえたことが家族のよい思い出になっています」
以後、発表の機会も関わる人も増え、周りは変化したが、本人は変わらず同じ満足度で描き続けているそうだ。しかし繰り返し描いている役者絵では、微妙に表情を変えたり独自に背景を加えたりと少しずつ進化している。
今、展覧会は特別な場所。描くことを介して様々な人との交流を楽しみ、終わると「また来ます」と元気な声で力強くいう。きっとその決意をモチベーションに、新たな作品を生み続けているのだろう。
(2018/10/15 エイブルアート芸術大学にて)
「水盤に散りばめたバラ」
2022年 インク・水彩・アクリル・紙
模写 クリムト「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」
2018年 水彩・アクリル・紙
模写 伊藤若冲「虎図 部分」
2020年 紙本着色
歌舞伎「義経千本桜 吉野山」佐藤忠信
2016年 紙本着色
歌舞伎「毛抜」粂寺弾正
2016年 紙本着色
1998年生まれ、千葉県在住。2012年千葉幕張ロータリークラブ主催「アートフレンズ展」に「がんばれ日本『津軽凧』」を出展。2014年成田ユニバーサル美術館にて初の個展を開催。同年「林原国際芸術祭」グランプリおよび中津川浩章賞受賞。2016年「第47回元陽展」入選および新人賞受賞。2016年より毎年「六本木スペース ビリオン」「ギャラリー ランクスアイ」(東京・目黒)にて2人展や個展を開催。グループ展にも参加している。
Facebook:@StudioTora1998
Instagram:toranosuke_tanimura
小林敬生(版画家/ 多摩美術大学名誉教授)
この審査も3回目である。今回はレベルの高い作品が集った、最終候補が8名にのぼった事がその証左である。
その中で私は 谷村虎之介君を強く推した。3年前初めて見て以来成長を楽しみにしていた逸材である。
期待にたがわず君の表現世界は一層の進化をみせ、和紙や顔料などの材料研究も確かで、安心して推薦出来るレベルに達したと評価したからである。
3歳から水族館に通い、7歳からは歌舞伎座に通い始めたという。その成果であろう、歌舞伎シリーズは君独特の視点と感性もあって単なる役者絵を遥かに超えたリアリティーがある。
大袈裟に言うなら写楽の役者絵を彷彿させる絵画世界にまで昇華しているように思う。ご両親の愛情とご苦労が実を結びつつあるを喜びたい。
その他の候補作品も魅力的であったがその中では十亀史子さんの 、顔のシリーズに注目した。フオルムと同時に大胆な色面に才気を見る。
今一人、須田雄馬君の絵画世界も楽しみである。
テーマ、その他、他に類があると言えばあるが大自然の中で伸びやかに生命を謳歌している鳥や動物たち、その躍動する生命力を表現するフオルムと色彩感覚は君の感性そのものと思う。
ただひたすら楽しく思うがままに描き続けて欲しい。
近い将来「須田ワールド」が私たちを楽しませてくれるだろうことを予感する。
佐藤直子(横浜市民ギャラリーあざみ野学芸員)
このたびは、第19回「エイブル・アート・アワード(AAA)」の審査に参加させていただきありがとうございました。
今回受賞された谷村虎之介さんの作品との出会いは、2015年に実施された17回目のアワードに遡ります。拝見するのは今回で3回目となりますが、益々制作に打ち込んでいる様子や勢いが応募資料からも伝わってきました。
お気に入りらしい歌舞伎役者のユーモラスな表情や見得をきる姿が日本画の水干絵具を巧みに使い、大胆にみっちりと描かれているのです。
残念ながら選外となった応募者のなかでは、十亀史子さんのアクリルで描いたポートレイトシリーズはオリジナリティに溢れていましたし、緻密な単色画に優れた浅野春香さん、自身の心と体の動きが即時的に伝わり、柔らかさのある勝村知子さんの絵画も魅力的でした。
中津川浩章(美術作家・アートディレクター)
今回で19回目のエイブル・アート・アワード。歴史を重ね、障害者アートを取り巻く環境もずいぶんと変化してきました。
エイブル・アート・ジャパンが長い間ずっと蒔き続けてきた種子が実を結んできたと思います。
全国各地でさまざまなコンペが開催され、作品がパブリックな場所に展示される、障害があるアーティストの作品がごく自然に評価され価値づけられる、そうした機会が格段に増えました。
こうした状況の変化のなかでの今回のアワード。谷村虎之介さんに決まりました。
過去2回応募されていて、その時も評価は高かったのです。歌舞伎役者のとらえ方、装飾的な画面の構成力が素晴らしい。
今回さらにパワーアップし完成度も高まっているという結果の受賞です。
他にも印象に残った作品はSEIYAさん、浅野春香さん、須田雄馬さん、八木志基さん。コンペは受賞作を決めねばならず結果的に白黒がはっきりしてしまいますが、実際はかなりのグラデーションでの評価です。 今後も表現することを続けていってほしいと思います。
真住貴子(国立新美術館主任研究員)
審査に携わって3回目となる。
他の公募展なども意識的に見るようにしているが、そのたびに表現は人の数だけあるものだと思う。
作品と人はイコールではないが、作品を見るのはその作者に会っているようなものだと思う。
今回、3年連続して応募していた谷村虎之介さんの受賞が決まった。
3年前、つまり私が審査初回目の時はあまり印象に残らなかったのだが、2回目の昨年、なかなか気になる存在になってきた。
今年は、より繊細に役者の表情を捉えるようになっており、絵の魅力が一気に上がっての受賞となった。
年に1度の作品を通しての出会いであったが、成長の過程に立ちあえたのはうれしい。
他にも魅力的な作家として浅野春香さんのちょっと不思議なあたたかさ、勝村知子さんの華やかな明るさ、須田雄馬さんの筆の勢いのここちよさ、八木志基さんの素直で元気な力、SEIYAさんの洗練された線の魅力、十亀史子さんの人への洞察力など今後が楽しみな表現があり、頼もしく思った。
株式会社フェリシモ UNICOLART基金 芦田晃人
「小さなアトリエ支援の部」によせて
本年度もUNICOLART基金より「小さなアトリエ支援の部」を開催していただきました。
3部門に渡り多くの応募者があり、それはつまり全国で多くの方々がさまざまな活動をされていることのあらわれで、大変意義深いことだなとあらためて感じました。
「小さなアトリエ支援の部」3年目となる今年は、応募者の方々の実績も積み重なり、選考は非常に難しいものでした。
本年度、重視したポイントは、アトリエでのアート活動が余暇活動に留まらず、障害をもつ方々の生活者としての自立に寄与できる活動を、継続的にされているか、そして将来のビジョンをしっかりと持たれているかという点でした。
その中で2団体様を選定させていただきました。
2団体様ともこのポイントに合致したこと、さらには将来のビジョンに向けて、まさに今からチャレンジされようとしているタイミングでありました。
ご提供する資金がそのチャレンジの成功の一助になることを祈念しております。