溝上強さん

2015年度 展覧会支援の部 受賞

果てない空想世界

「トノサマバッタ(ある夏の日の出逢い)」2018年 アクリル・イラストボード

自称「へそまがりアーティスト」。自宅での制作は、母親と9時半から17時と決めているが、「あくびをしながら描いている」とおどける。

幼い頃から怪獣や妖怪が好きで、奇怪な空想画を描き続ける一方、成長するにつれて社会風刺をきかせた絵画やポップなイラストも創作し、作品の幅を広げてきた。

受賞時は、会場の外でご縁に恵まれた。浅草寺に個展の成功を祈願した後、立ち寄ったアミューズミュージアム(布文化と浮世絵の美術館)で美術関係者と知り合い、都内の妖怪展への長期出展に繋がった。観音さまのお告げか、参拝時に引いたおみくじは、母親も自身も大吉だったという。

地元では、街イベントにも積極的に参加して、客のイメージキャラクターを描くパフォーマンスなども行っている。出産祝などのイラスト依頼が増えてきたため、依頼された仕事は1階、自由な創作は2階と決めて制作に励んでいる。

描き出すとイメージが降りて来て、思いも寄らない作品になることも多い。手が追い付かず、下描きがたまっているそうだ。最近は、空想が画面に収まらず、裏に物語を書くこともある。

描くことは、「楽しいよりも好き」。今後は、「流れに任せる、それしかない!」とまたおどけるように語る。

2018/11/19 自宅にて)

闘怪山(とうかいざん)2004年 アクリル・カンヴァス
青魂2009年 アクリル・カンヴァス
誘惑2009年 アクリル・カンヴァス
DNAの記憶2006年 アクリル・カンヴァス
「へそまがりカルタ」一部
2014年
「世知辛い世界」2014年 アクリル・イラストボード

みぞかみ・つよし

1987年生まれ、⾧崎県在住。8歳から絵画教室に通い、十代から地元絵画展等に入選。県内で個展の開催を始める。2016年全国障害者アート公募展「みんな北斎」最高賞受賞。他、全国規模の展覧会に多数出展。2010年⾧崎放送で特集され、2019年作品が同局の番組キャラクターにも採用。2021年(株)メンバーズに入社し、アーティストとして活動中。

【再録】2015年度アワード選考評

※選考者の肩書き等は当時のものです。また「展覧会支援の部」だけでなく「制作支援の部」「小さなアトリエ支援の部」に関するコメントもあります。

小林敬生(版画家/ 多摩美術大学名誉教授)

「選考所感」

はじめてエイブル・アート・アワードの選考に出席する事になった時、意識したのは“障害のある人”という事を念頭に置かない、という事であった。

「芸術作品は作品世界が全てであって、障害云々は関係ない」と私は考えているからである。

銀座の一等地、ガレリア・グラフィカでの個展、それに相応しい作品を選ぶ……。

作品のレベルは当然として、他に類を見ない魅力を持った作品世界が要求される。

はじめ気になる作品があったが、「何年か前に選ばれた作品に似ている」という指摘があって推薦を断念した。

結果、溝上強さんの作品を推した。全てではない。《ようこそパンダのモンスターツアーへ》という作品シリーズと《妖怪掛け軸》に惹かれた。

立体造形も手がけているという事であれば、是非とも立体作品に描画してほしい。

いずれにしても世俗のありようなど全く意識することなくただひたすら自分のイメージを描く…その“ひたすら”が胸を打つ。

他に阿部鉄平さんと谷村虎之介さんに注目した。2人共に自分の表現世界を確立した時すばらしい美術家として岐立しているであろう…と予感する。

佐藤直子(横浜市民ギャラリーあざみ野 学芸員)

このたびは、17回目となる「エイブル・アート・アワード」の審査という貴重な機会をいただき、ありがとうございました。

受賞者の溝上強さんの応募作はいずれも生のエネルギーに満ちており、今後さらなる深まりが期待できる作品群でした。

銀座のギャラリー空間では、これまで制作してきた数多くの作品をどのように構成していくのか、期待が膨らみます。 また、今回惜しくも選外となった応募者の作品にも優れたものがありました。

本間泉さんの描く、結果的に抽象に辿りついたであろう画面は、謎のかたちが見え隠れしつつも均整がとれていて、印象的でした。

焼きゴテと色鉛筆を駆使して板にカラフルな動物や鳥類を描く阿山隆之さんの作品は、木製の雨戸や天板を支持体にし、 独自の手法を用いて色彩や造形の楽しさを伝えてくれます。

そのほか、ユニークで不可思議な無数の生き物を描く岡田文さんや色彩のセンスが光るウルシマトモコさんなど、 ペン画の小品で光る作品があったことも最後に記しておきます。

中津川浩章(美術作家・アートディレクター)

2015年のアワードは溝上強さんに決定しました。

溝上さんの動物を表現した作品はカラフルそしてユーモラスなフォルムを持ちつつどこか不気味な世界を感じさせます。 平面性に支えられた過剰な装飾性の表現、そこに溝上さんの生きる意志と希望が詰まっていると感じられました。

そのほかに気になったのは本間泉さんの作品、特にモノクロのドローイングです。 激しいペインティングの作品は写真のせいか細部がわかりにくくて少し残念でした。

小林孝至さんも毎回パワフルな作品ばかりで圧倒されます。ただ、あまりに作品が多様なためもっと絞りこむことが必要だと感じました。

谷村虎之介さんも魅力的な作品ばかりで様々な可能性を秘めていると感じました。まだ18歳ということもあって今後に期待します。

選考で感じたことは、作品のセレクトや写真のクオリティによってかなり違って見えてくることです。

自身の作品を自分で選ぶとどうしても客観性に欠けたセレクトになりがちです。 セレクトや撮影に施設のスタッフなど第三者の目線が入ることでその作家の個性やよいところがはっきりと見えてくることがあります。

障害がある方のアートも作品のクオリティだけでなくどのように見せるのかを考える時期に入ってきたとも言えます。

細かいことですが、このような積み重ねによっていつの日か障害者アートと健常者のアートという垣根が取り払われることになることを夢見ます。

またそうした中で今回サポートが薄くなりがちな施設に属さない作家に光が当たったことも喜ばしいことでした。

真住貴子(国立新美術館学芸員)

初めて審査させていただきましたが、いろいろな作品を拝見できて楽しかったです。

ただ、写真で審査したせいかもしれませんが、みな個性的な作品なのに、期待していたよりはおとなしい作品が多かったように思います。

受賞候補がしぼられた時、阿山隆之さん、小林孝至さん、溝上強さんの3人の争いになりました。

ここまで来ると判断材料は作品の優劣ではなく、個展で展示をした時の見え方、効果という展覧会を作る側の視点の働き、 そうした面でバランスの良かった溝上さんが受賞されました。

花王ハートポケット倶楽部

手足の不自由な子どもをキャンプに連れて行く活動支援を通じて知っている子どもたちにも、このような才能があるのかも・・・思いながらみさせていただきました。

選考させていただいた『小さなアトリエ支援』の応募作品からは、どのアトリエの取り組みにも創作する楽しさや熱意が溢れていて、みているこちらまで創りたくなってきました。 取り組みは実に多彩で、全国で熱心な取り組みがあることを肌で感じることができました。

今回選ばせていただいた「あーとらんどくらぶ」様の作品は、どれも身近なものに創意工夫を加えながら完成度高く、 これからも創作熱意溢れる作品に触れられることを楽しみにしています。

花王株式会社

選考させていただいた『小さなアトリエ支援』の応募作品は、どれも鮮烈で美しいことに驚き、感動しながら、選出には大いに悩みました。

今回選ばせていただいたNPO法人 アールドヴィーブル様は、活動規模や、発信においても子どもから大人まで幅広い年代層を巻き込んで工夫している点がふさわしい と思いました。

選考では多く作品を通じて、伝統ある漆工芸の存続に向けた活動、折り紙づくりを通して障がいの壁のないユニバーサル社会の実現を目指した活動など、 多彩な活動が展開されていることを知りました。

今後も様々な世代や境遇の人々が参加できる活動が続き広がっていくことを願っています。

株式会社フェリシモ UNICOLART基金 芦田晃人

エイブル・アート・アワード選考会に参加させていただきました、株式会社フェリシモ UNICOLART基金担当の芦田です。

この度はUNICOLAT基金より、将来のアーティスト育成やアートを通じた交流を行う団体様を対象とした「小さなアトリエ支援の部」を新たに創設いただきました。

選考会は、専門家の方々を中心に長時間に渡ってさまざまな角度から議論がかわされ、慎重に進んでいきました。

展覧会支援の部への応募では個性豊かなアーティストからの応募が集まり、大きな可能性をあらためて感じました。

小さなアトリエ支援の部への応募団体様の多くは、志は高く活動をされているが資金的に十分でない方がおられ、そういった方々への支援へとつながること をうれしく思います。

今後、小さなアトリエ支援の部での支援団体からその才能がさらにひらかれ、展覧会支援の部に応募されたアーティストのような方々が輩出されてきますと、 さらにアワードの意義が高まるのではと感じました。

この度は貴重な機会をいただき、ありがとうございました。

花王ハートポケット倶楽部・運営委員(感想)

障がいのある方のアート・・・とひとくくりで表せないくらい多様な表現の作品が応募されており、その表現の多様さに驚きました。

手先が不自由ななか、それを独自の絵画表現に昇華しているものや、細密で根気のいる手法を、労をいとわず一心に打ち込んだ様子が見られるものや、 題材の選び方、構成がユニークなものなど、障がいがあるがゆえに、アート性が高められている面もあり、それが「エイブル・アート」の魅力なんだなあと感じました。

私がいちばん印象に残ったのは、自閉症の方が描いた、旅の行程の作品。白い紙に、20泊21日の旅の行程が、黒い文字だけでびっしり描かれていて、 文字が重なり合うその幾何学的な造形が、とてもかっこよかったのです。これは、包装紙とかにしたらいいかもしれないと思いました。

「エイブル・アート・ジャパン」さんは、障がいのある方のアートをプロとしてひとりだちができるように支援する活動を行っていて、 今回の『エイブル・アート・アワード2015』の選出も、新しい作家の登竜門としての意味合いがあるようでした。

純粋に芸術として作家を目指す人もいるし、商業デザインとして、Tシャツのデザインにしたり、グッズにして収入を得る道もあり、支援の方法も様々でした。

実際、作品を鑑賞すると、障がいがあるのにがんばっている・・ということ健常者側の偏った認識を打ち砕くような、障がいがあるからおもしろくなっている、 障がいのありなしなど関係なしに心に迫ってくる、という作品ばかりで、アートが引き出す人間の可能性ってすごいなあと実感しました。