光島貴之さん
1998年度 展覧会支援の部 受賞
1998年度 展覧会支援の部 受賞
2020年にギャラリー兼アトリエを開設。鍼灸師の傍ら、様々な表現者とも交流して作家としての新境地を目指している。
10歳で失明。立体のさわる鑑賞を機に38歳で粘土の造形を、3年目からは平面にラインテープを施し触覚で観る作品の制作を始め、44歳の時に長野パラリンピック関連の芸術祭で大賞(立体)と銀賞(平面)を受賞した。そこから積極的に動き出し、第一回の受賞者に選ばれたが、当時は展覧会会場が未定だったという。
「候補のなかでギャラリーKがいいと言ったら、太田さん(担当者)に『ギャラリーKでやるということは、現代アートということになりますよ』と言われました。当時は意味がわからなかったが、表現を続けていくなかで、現代アートなのか、障害者アートなのか、自分の表現の位置付けを考え続けています」
以後、「さわっておもしろいものは、見てもおもしろい」をコンセプトに、近年では大規模なインスタレーションや触覚コラージュなど新たな手法を試み、精力的に触覚表現の世界を広げている。
「身体表現も、もっとやりたい。現代アートとして、ギャラリーで個展を開き作品を販売したい。そして野望は、70歳までにヨーロッパ進出することです」
(2018/9/18 鍼灸院にて)
1954年生まれ、京都府在住。
1998年「'98アートパラリンピック長野」大賞・銀賞を受賞。以後、埼玉県立美術館や米・サンディエゴ美術館をはじめ数々の展覧会に出展。ライブや講演等も行う。近年は「MOTサテライト2019 ひろがる地図」(東京都現代美術館)、長野県立美術館・アートラボ「光島貴之展 でこ・ぼこ・ながの」(2021)など。2020年西陣織工場を改修し「アトリエみつしま Sawa-Tadori」を開設。https://mitsushima-art.jimdofree.com/
■絵を描く
ぼくは、絵を描いています。こんな風に言うと、10才頃に完全に失明したぼくがどのように絵を描いているのか不思議に思われる人もあるでしょう。
レトラ・ラインというデザイナーが使う製図用のテープと、カッティングシートをハサミやカッターナイフで切り抜いて画用紙に貼り付けています。簡単に言えば、貼り絵のようなものです。レトラ・ラインには、12種類ほどの色があり、幅も0.4ミリから5ミリまで、0.1ミリ単位でいろんな太さが用意されています。伸縮性もあるので、微妙なカーブも描けます。カッティングシートは、裏に接着材が付いたシールのようなもので、色はかなりたくさんそろっています。このテープを使い始めたのは、今から3年前です。フラービオ・ティトロというイタリア人でイギリスに住む全盲の石彫作家に、石川県の七尾の野外彫刻展で出会ったのがきっかけです。彼は、彫刻を構想する過程で、レトラ・ラインで下書きをしていました。彼にそのドローイングのスケッチブックを見せてもらったとき、「これならぼくにも絵が描けるかもしれない!」と思いました。20才で自動車事故で失明した彼の絵は、遠近法が使われていて、生まれつき視力の悪かったぼくには理解しにくいところもありました。しかし、表現手段としては、納得いくものでした。むかしぼくは、地域の普通学級に学ぶ全盲の子どもの点字教科書作りに関わっていました。その時に、レトラ・ラインで図形を表したり、地図に使ったりしていました。当時は、それで絵を描くなんて考えもしませんでしたが、七尾で彼のドローイングをさわったとき、不思議と愛着を感じたのはそんな経過があったからかもしれません。
このようにして描き始めたさわって楽しめる絵をぼくは、「さわる絵画」と読んでいます。
■見える人のまねはしたくない
生まれ付きのぼくの視力は、0.01程度。ものの輪郭や、黒や白、赤や青色のハッキリした色の記憶はありますが、複雑な色は記憶の彼方へ沈もうとしています。だから、最初は、黒のレトラ・ラインだけを使っていました。徐々に自分の記憶をよみがえらせて、赤や、オレンジ色、スカイブルーなどを使うようになりました。線だけではなく、面としての形も使ってみたらという友人のアドバイスもあって、カッティングシートもぼくの絵の具の一つに加えました。
モチーフは、缶コーヒーや、ビール瓶、人の顔。さわれるものならなんでもいいのです。遠近法が分かってないぼくは、さわったままを絵にしようとします。缶コーヒーの丸い底を描いて、側面は、直方体、上のタブの部分も描く。とにかくさわったままを全部描こうとするので展開図のようになります。全体をさわれない物も想像で描いてしまいます。しゃべっている人の声や話し方から受ける印象を絵にしたり、自分の気持ちを線やかたちで表すこともあります。決して見える人の描き方をまねようとは思いません。
では、ぼくは絵でなにを表現しようとしているのか! 日常感じている触覚的な世界を見える人に伝えたい。見えないぼく自身を丸ごと世界に投げ出したい。音風景、あふれ出す形のイメージ。それらを見える人との関係の中で表現していきたい。これがぼくの願いです。
■連画へのアクセス
今、チャレンジしているのは、「連画」(連なる絵)です。ぼくの描いた絵をコンピューターグラフィックをやっている晴眼者のアーティストに送る。スキャナーでぼくの絵をコンピューターに取り込んだアーティストは、ぼくの絵からイメージを広げたり、気に入ったところを切り出したりしながら、新しい絵を描く。そのままではぼくが認識できないので、立体コピーやカッティングマシーンを使ってさわって分かる絵画に仕上げ、ぼくが受け取る。今度は、ぼくがその絵を元に、切り貼りして次の絵を描く。そのときどきの思いも電子メールでやり取りしながら、往復書簡のようなやり方で作品が動いていく。
見える世界と見えない世界のコミュニケーションを通して、お互いの感覚を刺激し会う。ぼくは、忘れかけていた色のイメージを取り戻したり、新しく色のイメージを頭の中で再構築していく。使いたい色も徐々に増えていく。
これを「触覚連画」と称してホームページ上でも公開し始めました。まだまだアナログ対デジタルといった感じでネット上だけでうまく進んでいるわけではありません。今後の課題としては、ぼくがマウスで描く。そして、画面を即座に確認する。これらの作業ができるようにするためのハード的な開発です。これらは、アクセステクノロジーに集う人々のさまざまなお知恵をお借りする必要もありそうだと思い、この試みをここで発表させていただきました。もし、興味のある方がおられましたら次のURLで「触覚連画」をご覧ください。
http://www.renga.com/05touch/05.htm
ぼくの絵は、あなたの絵の中で
あなたの絵は、ぼくの絵の中で
新たな発見をしながら連なっていく
どこか深いところで共有できる感動を求めて。