中村真由美さん
2016年度 展覧会支援の部 受賞
2016年度 展覧会支援の部 受賞
施設のアトリエで毎日、人の口まねをしたり笑ったりしながらのびのび創作に励んでいる。家での日課は絵日記。小学2年生から約30年、一日の出来事を詳細に描き続けている。
創作のエネルギーは、幼少期から旺盛だった。人物の絵や洋服やフライパン、すべり台などすべて自分で描き、切り抜き組み立てお話を作って遊んでいた。そして学校でも絵画教室でも自由に表現できる環境と人に恵まれ、高校を卒業後は現在の施設で15年ほど、油絵のほかイラストや張り子の制作も続けてきた。
「受賞者展では自分の絵を観てもらえることが嬉しかったようで、会場ではみなさんの前で描くことを楽しんでいました。好きな絵を仕事にできたらと願ってきたので、今の生活を続けていけたら本人も幸せだと思います」と母・郁子さん。
油絵の作品は写真を見ながら描いているが、点描のような勢いのある筆致で動物たちに新たな命を吹き込んでいく。表現のバリエーションを増やすためにスタッフの提案で始めたのが、張り子。油絵と画風は全く異なるが、生命力を感じる丸い瞳の動物たちを次々に制作。創作のなかでたくさんの命を生み出し、世界を広げている。
(2019/7/6 たんぽぽの家アートセンターHANA にて)
1985年生まれ、奈良県在住。2001年よりたんぽぽの家 アートセンターHANAに所属。主な展覧会に2012年「違って独特」(韓国・京畿近代美術館)、2016年「TURNフェス」(東京都美術館)、2020年「中村真由美 個展」(松坂屋上野店)など。2021年「SHIFT Challenged Art 公募展」大賞受賞。京都市立芸術大学とのプロジェクト『OPEN KIT-CHEN』や大阪での巨大壁画プロジェクトにも参加。Né-netや中川政七商店、武田薬品など様々なブランドや企業に作品が起用されている。
小林敬生(版画家/ 多摩美術大学名誉教授)
昨年に比し、応募数が半減したと聞き愕然としたが、パラリンピックなどの影響もあってか、障害者支援の機運が高まり、各地で大規模な展覧会や公募展が開催されるようになったゆえと聞き安堵した。関心の高まり、支援の輪の拡がりは大変よろこばしいと思ったからである。
が、しかし、これが一時期のムードによるもので一過性のものとなりはしないかと危惧する。
私個人は、こうした支援活動は人眼を惹く派手な大型展や、人々の関心を集めようとする催しではなく、地味にコツコツとひそやかに生きつづけるものであってほしいと考えている。
さて、審査である。
私は展覧会支援の作家を中心に選考に当った。4〜5名の気になる作家、作品があったが、その中で突出していたのが中村真由美さんの作品であった。
自分の感性、意識そのままにただひたすら画面を埋めつくす。こうした作品はよく見られる傾向であるが、彼女の場合は徐々に画面空間、余白に対する意識が芽生えたのであろう。2013年以降の作品は絵画として完成の域に近ずきつつあると感じる。
特に2013年の「水牛」に注目した。この画面は画面空間に対する計画や計算の中から生まれたものではなく、描きつづける中で自然に彼女の中に芽生えたのであろう“画面に対する意識”が描かせたものと思う。
写真でしか見る事が出来なかったが実作を眼近にするのを楽しみにしている。
他には阿部鉄平さんの「スペース」と虎之介さんの歌舞伎シリーズが気になる。今後の展開を注視したい。
佐藤直子(横浜市民ギャラリーあざみ野学芸員)
昨年に続いて今年も「エイブル・アート・アワード(AAA)」の審査に参加することができ、このような機会をいただきありがとうございました。
今回、満場一致で受賞された中村真由美さん。100号のキャンバスに描かれた「馬」は、作品資料からも十分に得体の知れない「何か」を感じます。
「水牛」や「ガムラン」と題された他の応募作も、色使いや構図に独自の魅力があります。また、応募作品数の多さも目を引き、意気込みを感じました。中村さんの表現はAAAの募集告知にもある「作家として活躍する可能性を秘めた既成概念にとらわれない」ものだと思います。
残念ながら選外となった応募者のなかでは、山田あこさんのボールペンで描かれたシリーズに注目しています。
全体としては昨年に比べ応募数が少なく、少し寂しい審査会になりましたが、2020年のオリンピック・パラリンピックに向けて俄かに活気づいてきた今だからこそ、地道に創作活動に取り組むアーティストの卵を発掘・応援していきたいと思います。
中津川浩章(美術作家・アートディレクター)
今回アワードを受賞された中村真由美さん。作品写真を見たとき、その宇宙的感覚の拡がりに魅了されました。中村さんは張り子の動物やイラスト的な作品でその存在は知っていましたが、人知れずこのような絵画をかなりの時間をかけて制作していたとは驚きです。
油彩、またアクリルといった素材の違う作品の多様性。ストレートにモティーフを表現する絵画における正面性、点描に近いブラッシュストロークの力強さと的確さ。動物というオーソドックスなモティーフが、その本質的なものを失うことなく変容され、生まれて初めて馬や水牛を目にしたらこのように見えるのではないか、そんなふうに描かれています。障害の有無が意味をなさない、アートとしての魅力を存分に兼ね備えた絵画でした。
他に目を引いた作家を挙げます。小林孝至さんはいつもパワフルでやはり目を奪われました。カミジョウミカさんはユーモアに満ち力強く訴えてくるものがありました。谷村虎之助さんの歌舞伎シリーズは完成度が高く素晴らしかったです。山田あこさんの脳の断面図や細かいブルーのドローイングにも魅せられました。
これまでより応募者数が少なくクオリティが懸念されましたが、蓋を開けてみればやはり力作ぞろい。これからは2020年パラリンピックに向けて芸術関係のイベントも増えていくと思われますが、18回目になるこのエイブル・アート・アワードは独自の歩みと価値を作っていく貴重なコンペだと改めて感じました。
花王ハートポケット倶楽部
中村さんの緻密な観察力と、色使い・筆使いの自由な発想が相まった印象的な作品の数々に惹きつけられました。これからも多くの方に親しんでいただく作品が生まれることを期待しています。
花王株式会社
今年も多くの作品を見させていただくことができました。過去の展覧会支援の受賞者からの紹介でご応募いただいた方がいらっしゃったことも、うれしいことのひとつでした。これからもアーティストの皆さんの挑戦を楽しみにしています。
株式会社フェリシモ UNICOLART基金 芦田晃人
「小さなアトリエ支援の部」によせて
昨年に引き続き、UNICOLART基金より「小さなアトリエ支援の部」を開催していただきました。この部を含め全国より多くのご応募をいただき、誠にありがとうございました。可能性に溢れる応募者様が多く、非常に難しい選考でしたが、今回は「アーピカル☆」様を推薦させていただきました。
選考にあたっては選考基準とさせていただいておりました、「次世代を担うアーティストを育成し、社会に影響を与える可能性のあるグループであること。」という視点を重視しました。
「アーピカル☆」様は、限られた活動予算の中で2007年より着実に活動を続けられていること、作品展等にも出展され活動実績をあげられていること、そして、ひとりひとりに寄り添いながら各自の個性、可能性を伸ばしていこうという趣旨で活動をされていること等が推薦理由としてあげられます。
UNICOLART基金は、「将来のアーティスト育成」という目的で運用されており、「アーピカル☆」様からもの将来、アーティストが生まれてくるという期待を込めて、この度、推薦させていただきました。