秋葉庄平さん
1999年度 展覧会支援の部 受賞
1999年度 展覧会支援の部 受賞
天国でもユーモラスな表情の鬼を作り、みんなを和ませているのだろうか。
「彼は朝ごはんが終わると、誰よりも早くカギを取り、作業棟でひとり黙々と焼き物作りに取り組んでいましたね。手先が器用で、本当に職人みたいな人でした」と作業指導の信夫菊雄さんは振り返る。
焼き物は、施設に入所した45歳から。大きな鬼の置物や手捻りの壺などをたくさん作っていた。その余暇で作った十数年前のゴム版画を、焼き物と一緒にアワードへ出したところ、版画の方が選考委員の目に留まり、受賞が決まったという。
「いや~、あの時は正直ガクッとしましたね。そっちか!って(笑)。銀座には弟さんも見に来てくれました。今思うと彼にとって人生で最高のステージだったんじゃないかな。家族や親戚に認めてもらい、主役になりましたからね」
受賞者展の初日は、ちょうど70歳の誕生日。オープニングが誕生日パーティーになった。その後、山形県内の数十箇所で巡回展「素朴でなつかしい、共感を呼ぶ世」を開催するなど、多くの人に作品を観てもらう機会にも恵まれた。視覚、聴覚、言語に障害があり最晩年は、ほとんど見えない状態だったが、淡々と粘土を捏ね、作品を作り続けていた。
(2018/10/16)
上:「鬼」など大きな焼物の作品/下:懐かしい情景や物語を題材にした版画シリーズ
1930年生まれ。1975年山形県立総合コロニー希望ヶ丘に入所。宮城県美術館県民ギャラリー「秋葉庄平の世界展」(2001)、山形県郷土館文翔館「夢のまんま。展」(2004)他、山形県内を中心に個展を開催。近年はぎゃらりーら・ら・ら「秋葉庄平作品展」(2014)、同「ボーダレスアート展」(2018)、同「肩の力を抜いて自分らしく生きていけばいいんだよ展」(2019)など。2014年他界。
山内 信重(財団法人日本障害者リハビリテーション協会)
今年の制作支援の部には、多数のグループが応募して下さいました。どうもありがとうございます。審査する側は、この応募の多さに、喜びを大いに込めた嬉しい悲鳴を出さずにはいられませんでした。
応募していただいた皆さんの中には、とてもたくさんの資料を同封して下さるグループもあります。自由な形のキャンバスに絵を描いている写真などを見ると、こちらまでわくわくしてしまいます。とても楽しく明るい雰囲気の中でアートに取り組んでいるこのような写真や資料を見ると、応募用紙の文章からさえも躍動感溢れる皆さんの活動が音をたてて伝わってきます。
審査は、今回も昨年同様に、率直に支援をさせていただきたいと感じた5つのグループを選ばせていただきました。どのグループもこれからの活躍が大いに期待されるような、そんな予感がします。
また、応募グループが増えたのと同時に、障害のある人達のアート活動を既成概念のみで捉えて応募いただいているグループもあります。そういったグループは、もしかしたら、今アートに対してどう取り組んでよいのかわからないのかもしれません。大きな壁にぶつかっているのでしょうか?それとも、今までの殻を破りたいのだけれども、殻の中でもがき続けて、どう殻を割っていいのかわからないのかもしれません。
そんな時、急がば回れではないのですが、一度、なぜアートに取り組んでいるのかという原点に戻ってみるのもよいのではないでしょうか。どうぞ大いに道草をして下さい。そして、来年も多数の応募をお待ちしています。
大内 秋子(大成建設株式会社 社会交流部)
まず応募件数が増えたのに驚きました。昨年から蒔かれた種がいろいろな所で芽を出したという感じです。質量とも充実し「選考」に大変苦労しました。応募団体には二つの傾向があって、個性的な作品が創られているグループの周囲には、自由な空気が流れているように思いました。一方、現場のアドバイザーをしている方の影響が作品に同質な結果を現していたり、既成の作品をお手本にしていると思われるものは評価できませんでした。一生懸命まじめに取り組んでおられるのが分かるだけに、少し残念な気がします。全国から送られた申請書を読ませていただいき、障害をもつ人たちの芸術活動をサポートする多くの方々の熱意を感じました。来年を期待しています。
サイモン 順子(アートカウンセラー/日本障害者芸術文化協会評議員)
2年目にして39件という応募はうれしい悲鳴であった。選考にあたって応募用紙を読ませていただいた段階で、我々の意見がほぼ一致していたのはおもしろい現象であったが、実際に一件一件写真、資料を検討させていただいた時点でも、前期の結果と大差はなかった。
やはりこうした活動にかかわる方々のスタンスによってその内容がいかに反映するのかがはっきりうかがえた。選ばれた5つのグループに共通することは内と外との関係を非常に重視していることではないだろうか。つまり、創作活動の意味づけではなく位置づけである。
前年に比べて創意を感じさせるグループ名が並んでいたのも心強い思いがした。
高橋 直裕(世田谷美術館学芸員)
今年で2回目を数えるエイブル・アート・アワードですが、新設されて間もないのにもかかわらず、大変充実した内容のご応募を多数いただき、選考委員全員驚きの声の連続でした。第1回目に引き続きご応募いただいた方や、グループで展覧会開催を計画されている方など、いずれも甲乙つけがたい内容で、選考も随分難航しました。出来ればご応募された皆さん全員に機会を差し上げたい、というのが正直な気持ちでしたが、限られた予算の中ではそれもままなりません。従いまして支援の対象は予定通りの一件のみに絞らざるを得なかったことを、どうかご了承いただきたいと思います。
さて、そうした中で選考委員の目をひきましたのが、秋葉さんという本年とって68才になられる方の作品でした。今から14、5年前に制作されたゴム版画で、とても素朴な表現のものでしたが、その木訥ともいえる画面ゆえに、深い感情が真っ直ぐに伝わってきました。「もっと観たい」という気持ちにさせられたことも、選考にあたっての理由ではありましたが、それよりも「多くの方々に観ていただきたい」と思わせる“共感を呼ぶ世界”を、秋葉さんが持っていらっしゃったことが一番の選考理由でした。
勿論他にも目を引く作品は多くありましたが、以上のことから選考委員全員一致で今回の展覧会支援の部の該当者として、秋葉さんを選出しましたことをご報告申し上げますとともに、皆様のご理解をいただきたくお願い申しあげます。