東美名子さん
2008年度 展覧会支援の部 受賞
2008年度 展覧会支援の部 受賞
10歳からアトリエ・ポレポレに通い25年以上、創作を続けている。
当初の画風は、明るく色彩に満ちたものだったが、中学から高校にかけて祖父の死、そして広島と沖縄への修学旅行を機に一変した。旅先の宿舎では、ひとり、ひめゆりの塔の栞を読み、帰宅後、戦没者への哀悼を込めた作品『かがりび』を制作。そこから、心の葛藤を反映した作風が生まれた。深い悲しみや苦しみを真正面から受け止め、約3年、過換気を起こす程、辛い日々を過ごしたが、その経験により「絵に向かう気持ちが変わった」と振り返る。
アワードには、受賞者展の会場(ガレリア・グラフィカbis)が「かっこよかったから」応募。一度は落選したが、周囲の励ましもあり、翌年も挑戦し受賞した。受賞者展は、「すごくうれしかった。みんなが来てくれて、お料理を作ってくれて楽しかった」。記憶には、誰が何をしていたか、会場の様子が鮮明に残っている。
現在は、時々好きな歌を口ずさみながら創作を楽しんでいる。「心に浮かぶことを思いっきり描きたい。アニメを描きたい。絵をがんばります!」と益々意欲を燃やしている。
(2018/9/22 アトリエ・ポレポレにて)
1985年生まれ、東京都在住。
2002 年「Art scholarship 2001 現代美術賞」 岡部あおみ審査員部門入選。世田谷美術館「KALEIDSCOPE-6人の個性と表現-」(2003)を経て個展・受賞展多数。2010年 NHK教育テレビ「ニャンちゅう!宇宙!放送チュー」(現タイトル)内アニメーション「ネイバーズ」他イラスト担当を経て、イラスト提供多数(現在再放映中)。モダンアート協会会友。
Facebook:@mina.higashiminako
サイモン 順子(アートカウンセラー)
今回は30件という数もさることながら、11年前にエイブル・アート・アワードが発足した時の選考規準を見直しをせまられているのではないかと思われる応募が多く、選考は難航しました。社会状況からやむをえないことかもしれませんが、やはり「アート」の原点を見据えて行きたいと思いました。
その意味で、八王子市の「にんじんの家、絵の会」、大阪市の「ライフサポート協会」は個々を第一に考えた活動、内容がすばらしいです。「にんじんの家、絵の会」の鳥潟さんは、30年も続けられている活動家で、「一番大切に思っていることは、各々が自分の世界に入り込んで思いのたけを発散させ、すっきりした気分で、家に帰ってもらうことです」と記されたのに感動しました。
又今回は、アート活動に力を入れ、地域内外でも大きな活動をされていたグループからの応募があったことが驚きであると同時に、やはり上に記した情勢の変化が、活動を続けて行く上で、大なり小なりむずかしくなって来ているのではという危機感を感じずにはいられませんでした。
出来た作品を展示したり、販売することは少しも否定しているのではありませんが、販売するための作品を製作する。それを制作活動とするのはいかがなものでしょうか。
高橋 直裕(世田谷美術館学芸員)
昨年の講評で『今年ほど選考に悶絶させられたことはありませんでした。まさに嬉しい悲鳴といったところでしょうか。来年もこの興奮を味わえることを祈っています。』と結びの言葉を綴ったのですが、まさかそれが本当になるとは思ってもいませんでした。
昨年、最後の最後までアワード候補作家として選考者を悩ませた澤井玲衣子さんと東美名子さんのお二人が今年も最終選考まで残り、昨年同様長時間に及ぶ議論が行われました。どちらも作品のレベルは非常に高く、なお且つ非凡な才能の持ち主です。できればお二人ともに展覧会を開催して欲しい、というのが正直な気持ちでした。しかし、アワードの枠は1名。結局議論の末、東美名子さんに決まりました。
理由としては、東さんの今年制作された作品群が昨年よりも格段に良くなり完成度が上がっていること。年齢が若くこれからの成長が期待でき、今回のアワードをきっかけとして更にその才能を飛躍させてもらえるのではないか、という期待によるものでした。従って、東さんの作品が澤井さんの作品より勝っているという評価で選考が行われた訳では決してないのです。またそうした評価も今回は不要でした。
ダイナミックさと繊細さを併せ持った筆致と絶妙な構成力が魅力の澤井作品に対して、作者の中に内在する深い精神世界に観る者を引き込んでしまう、吸引力の強さが東作品の魅力です。このように、全く異なった魅力を持つ作品を比較対照すること自体無理であり、また意味のない行為なのです。今回の選考会ではそれを敢えて行わなくてはならないところに最大の苦渋苦難があったことにご理解をいただきたいと思います。
また、澤井さん、東さんと並んで選考者一同の注目を浴びたのが、これも昨年同様に松尾由佳さんの作品でした。前回よりも更に水彩画の技術が向上し、清楚で極めて美しい画面になっています。勿論完成度も高く、透明感のある色彩のハーモニーが気品溢れる作品にしており、文句のつけどころがありません。ただ、前者二人の個性があまりにも強烈なため、おとなしく控えめに見えてしまったところが不運だったといえます。
加えて、グループと個人と二通りのプレゼンテーションをしていただいた川口太陽の家・工房集の皆さんの意欲も高く評価したいと思います。惜しむらくは、作家の数が多かったため、個々の作家の印象そのものが希薄に感じられてしまったことです。次回は作家を絞り込んだうえで、是非再挑戦していただきたいと思います。
エイブル・アート・アワード「展覧会支援の部」は毎年1名もしくは1グループといった制約がありますが、昨年、今年のように年々応募作品のレベルが向上してきますと、涙を呑んで見送らなくてはならない作家が増えてきます。支援の数を増やすことが最善の解決策であることは明確ですが、それにはどうしても資金が必要となってきます。従って暫くの間はいわば「順番待ち」の状態が続くかもしれません。そうした状況をご理解いただき、今年応募された方々にはどうか来年もご応募いただきますよう御願いをいたします。
中津川 浩章(美術家)
「制作支援の部」
今回も興味深いグループがたくさんありました。そんな中で、すでに様々な展開し継続をしている制作活動の草分け的なグループがいくつか応募してきていて、そんなところからも、現実・現場は厳しい状況にあるのだなあと、あらためて感じました。
支援は、現実の中で、さらに制作費のサポートがなかったらグループの展開どころか、継続もできないかもしれないグループ。画材があればもっと表現の可能性が広がっていき、魅力的な表現につながっていくことを感じさせるグループに決まった様に思えます。 そこであらためて感じる大切なことは、作品の評価、売買ではなく、ものをつくること、表現することの原点です。ひとりの人間が表現に向きあうということの切実さ、そしてその世界の深まりが様々な物事を展開していく、大きな要因になっているということです。順序が逆転してしまうとその大切な原点を見失いがちになる危険性がある様な気がします。
厳しい現実があることはよく理解できますが、だからこそ粘り強くひとりひとりの孤独な魂と向きあって、ささやかな声に耳を傾け、新たな表現の可能性をさぐって欲しいと感じました。
「展覧会支援の部」
前回も悩みましたが、今回はさらに迷い悩みました。紆余曲折があり、最終的に澤井玲衣子さん、東美名子さんの二人に絞られましたが、ここからが大変でした。傾向の異なる優れた作品に優劣をつけることはできません。しかしどちらかを選ばなければならないわけです。 結果的には東美名子さんに決定しました。そこで決め手となったのは、すでに出来上がっている障害者アートのイメージから離れつつある作品であったということです。どういったことかというと、いわゆる障害者アートにみられる記号の反復やスクリブル(なぐりがき)的な特徴から離れ、そこにあるのはただ圧倒的な絵画だったということです。
清らかでいながらで、強く激しい感情が幾重にも重なりあい層となって成立している、よい意味で方法論が見えてこない作品でした。それは毎回素手で世界を掴み取ろうとする行為の反映であり、絵を描くことに慣れず、いつも自分自身の存在に対する怖れと戦っている行為のプロセスが、絵として現れてきた感覚です。その感覚がしっかりと手渡されるとき、東美名子さんの障害を持つことの意味も一緒に手渡される気がしました。障害をもつ、もたないに関わらず、それは人間であるならば実は内側に誰でもが持っている感覚です。彼女に障害があるからこそ、それがはっきりとしたかたちで表現され、目に見える絵画として存在しているのです。描くことが希望とつながっている開かれた絵画を、多くの人に見てほしいと感じました。
滝川 潔(富士ゼロックス株式会社 CSR部/端数倶楽部事務局長)
「制作支援の部」
・にんじんの家絵の会
活動目的(自分の世界に入り込んで思いのたけを発散する)がはっきりしており、画材の提供が急務。
・ウバウバUNIT
「ありのままの自己表現」という活動目的と支援金の使用目的がはっきりとしている。
・障害者余暇自立支援実行委員会
知的障害者、精神障害者、健常者などが一緒になって参加者同士が互いに刺激しあうようなコーディネイトをしている。余暇の活用ではなく才能や可能性を引き出すことを目的としていることがはっきりとしている。
・かしの木創作部門
支援金の使途案が具体的でわかりやすい。
・障害者地域活動支援センター
地域で生活する知的障害者の表現活動を支援している。地域とともに創作をして相互理解支援につなげていることを評価。
「展覧会支援の部」
今回の選考会もたいへん悩み、また楽しませていただきました。
澤井玲衣子さん:昨年衝撃を受けた、ピアニスト、テノールなど一連のモノクロ作品は1年経った今も強烈な印象です。ただ、最近の作品を見ると大胆さや力強さがやや後退し、執拗なドットやパターンの繰り返しといった、内省的な作風に変化していることに意外性を感じ、興味を覚えました。彼女の中に大きな変化が起きつつあるのでしょうか。
東美名子さん:昨年のたくさんの作品は、それぞれに何かを主張しつつも、天真爛漫さというか、無邪気さを感じましたが、今年選考のテーブルに上がった作品は、一見して「すごい」というそんな単純な言葉では言い表せないですが、その場では他に言葉が見つかりませんでした。
とくに「赤い月」は強烈な印象でした。他のしずく、灯り、りゅう、赤い鳥、いずれも昨年の作品から、長足に進歩しています。人は1年でこんなにも絵が変わるものなのでしょうか。表現の技術もさることながら、その絵に彼女のすごい集中力を感じました。
応募作品はいずれも第一級の美術作品だと思います。この作家が障害を抱えているとはにわかに信じられません。多くの方に見てほしいと思いました。
松尾由佳さん:昨年とても気にかかっていましたが、今年の応募作品を見て、一見してうまくなったと感じました。もちろんその画風は依然とても個性的で、風景画として心地よさだけでない何かを感じさせます。松尾さんの中で風景の形、色がどのように分解され、再構成されているのか、と考えさせられました。うまくなったその分、昨年細部に感じた霊気のような印象は薄らぎましたが、それでも何かが違います。日の出を描いた作品はとくに色彩が印象的でした。
奇しくも昨年最終選考に残った方と同じ顔ぶれでしたが、それぞれ作品に際立った変化がありました。
皆さんそれぞれに成長されているようで、とても嬉しく思いましたし、今後の創作活動にますます期待したいと思います。
松田 貴子(花王株式会社/花王ハートポケット倶楽部)
今年度もハートポケット倶楽部と花王(株)からエイブル・アート・アワードへご支援させていただくことができ、また選考会にも参加させていただき大変嬉しくおもいます。
制作支援の部は申請書類からのみの選考で、書類からは熱心に活動を行う気持ちが伝わってきましたが、純粋に芸術に取り組むことだけに向き合うことが難しい現実の厳しさも感じました。
展覧会支援の部は写真での選考でしたが、それぞれに個性があり豊かな芸術性を感じました。また年代ごとに変化する表現も鑑賞として楽しいものでした。どのような展覧会になるのか、今から楽しみです。
AYURA(ジャズ・ヴォーカル/世田谷美術館さくら祭実行委員会)
作品にはそれを制作した人の人生が映る。
何かを体験し、何かを考え、そしてそこから生まれてきた作品たち。
今回、展覧会支援の部で最終選考まで残られたお二人の女性は昨年も最終選考まで残り、惜しくも受賞を逃した方たちだ。
この一年間、何を体験してこられたのだろう?
悔しい思いをバネにして絵筆を握ってきたのだろうと思うがただ悔しいだけでは作品に深みは出ないわけで、悔しさとはまた別の何かがその人の中にあふれてこなければ人の心を打つ作品にはならない。
大賞を受賞された東美名子さんの作品にはその何かが溢れていたように私には思える。
作品の中に宿る普遍的な何かが多くの人を感動に導く。
それを私たちは芸術(アート)と呼び、そういう作品を制作する人たちをアーティストと呼ぶわけで上手下手を超えたところにそれは存在する。 「上手いね」と他人に感心される人が感動も与えることができるかというとそういうわけではない。
それは音楽の世界でも同じである。
毎年砧公園のさくらが咲き 世田谷美術館のさくら祭での野外ライブが近づくと「今年はどんなアーティストが誕生してくるのだろう?」と期待で胸が膨らみそして、私も感動が与えられるステージを創ろうと心密かに決意する。
関わらせていただいているおかげで、モチベーションの高いステージができます。
この場を借りてお礼申し上げます。