藤橋貴之さん

2003年度 展覧会支援の部 受賞

美しき色、奏でる景色

ドナウ河のクルーズ船2010年 色鉛筆・紙

受賞の3年後に就職してからは、仕事を終えた夜に家で描き、月に1~2点ほど新作を仕上げている。

絵を描き始めたのは、20歳。余暇活動グループのなかで、表現に目覚めていった。

「絵画の時間にスケッチに出掛けると、仲間は好き勝手なものを描いているのに、藤橋さんは風景を画面にバランス良くきっちりと描いていました」とスタッフの松村和子さん。次第に素朴な風景から多色でリズミカルな明るい景色へと変化していったという。

アワードには、2年続けて応募。1年目はグループが「小さなアトリエ支援の部」を受賞したが、翌年も挑み受賞した。受賞者展では、「せっかく銀座でやるのだから」と数ヶ月かけて全紙サイズの作品も描き、20年間の集大成を披露した。

「東京に行ったり、地元紙で取り上げられたり、初めてのことの連続だったようですが、その後は、本人よりご家族や周りが変わりましたね。みんなにすごいと認められたことが、自信になったと思います」

今も月2回は40年近く参加しているグループの工房に通い、展覧会へ向けて新作を制作。額装などもスタッフと一緒に手掛けている。目標は、「海外スケッチ旅行!」。やさしい声で力強く答えた。

(2018/9/22  ju:彩ギャラリーにて)

「琵琶湖大橋をのぞむ1999年 色鉛筆・紙
「結婚式のダンス」2007年 色鉛筆・紙
「バルト海クルーズ」2013年 色鉛筆・紙
「リエカのカーニバル」2018年 色鉛筆・紙

ふじはし・たかし

1963年生まれ、京都市在住。
1983年より新明塾に所属し創作を続けている。エイブル・アート・近畿「ひと・アート・まち京都」(2001)、個展「平凡な日常の風景」(2006)、もうひとつの美術館「いえとまちのかたち」(2014)、京都障害者芸術祭・共生の芸術展「DOOR」(みずのき美術館企画・2014、2015)、東京2020大会関連企画「アール・ブリュット ―日本人と自然―」(2020)他。

【再録】2003年度アワード選考評

※選考者の肩書き等は当時のものです。また「展覧会支援の部」だけでなく「制作支援の部」に関するコメントもあります。

サイモン 順子(アートカウンセラー)

前回までは、殿方の中で一人身を縮めていたのですが、今回はなんと2対4という女性の多い華やいだ選考会でした。しかも制作支援は応募の数こそ昨年を少し下回りましたが、内容がともかく華やか!というか、今までの展開とは違う新たな動きに驚かされました。

まず、驚きのNo.1は、養護学校からの応募でしょう。私自身、近年、養護学校の先生方とお話をする機会が多くなってきているのですが、今学校(全て)において美術や音楽の『授業』が軽んじられている現状に深い不安、いきどおりを感じている所だっただけに、「県立福井南養護学校」からの応募はその切実な声が感じられ、3重円で選びました。しかし、この問題はエイブル・アート・アワードによって解決されるべきものでなく、教育、いや社会問題として考えるべきものだと思いました。

教育・社会問題という点では、「フリースクール湘南ライナス学園」への支援も、ADHD、学習障害、発達障害児に芸術の果たす役割の大きさを再び痛感させられました。

意外性No.3は、演劇サークル「表現クラブがやがや」(ネーミングが面白い)について、個人的にも演劇は総合芸術だと思っているので、いつかやってみたいと思っていることを実現しているので大いにご活躍を!

No.4の「ミュージアム・アクセス・ビュー」について、視覚に障害のある人たちとの作品鑑賞というこれまでの活動自体が素晴らしいのに、視覚障害者の作品制作(ワークショップ)へと展開を広げている点に驚きました。かつて、展覧会支援をさせていただいたまたも光島貴之氏をはじめとする皆さんの意欲に圧倒されました。そして、添付資料の明るい顔かおのスナップ写真に負けました。

最後に、精神病院での造形活動をすすめている「袋田病院造形教室」が油彩の特性を見ぬかれたのは素晴らしい。

いずれも今後のエイブル・アート・アワードの展開が面白くなりそうでもありますが、また同時にその意味の大きさを実感しました。

高橋 直裕(世田谷美術館学芸員)

今年の展覧会支援の部には、29件ものご応募をいただきました。これは、1998年にエイブル・アート・アワードが開始されて以来最高の数です。しかも応募作品の質も高く、例年にも増して選考委員泣かせの年になりました。こうした優れた作品が数多く寄せられる一因には、このエイブル・アート・アワードの存在や趣旨がこれまで以上に広く周知されるようになってきた、ということがあるのではないかと思います。応募作品が多ければ多いほど選考も難渋を極めますが、それは同時に埋もれた才能が世に出る確立も高くなることを意味します。これからも、選考委員を悩ませるべく多数のご応募をいただけますようお願いいたします。

今回の応募作品についてですが、例年のごとくグループ、団体でご応募された中に「これは!」と思う制作者が多くいらっしゃいました。昨年の選考総評でもグループでご応募されたことが不利に働いた例がありましたが、やはり個人でご応募されるのがよいのではないかと思います。今回支援が決定した新明塾の藤橋さんは、そういった事情で昨年惜しくも支援を受けられず、「翌年ぜひ単独でのご応募を」という呼び掛けに応じて再度ご応募された方です。選考の最終段階まで残った支援候補は何人かいらっしゃいましたが、その中で藤橋さんが幾分有利であったことは否めません。

しかし、こうした諸般の事情はともかくとして、藤橋さんの作品が非常に魅力的であったことが支援決定の一番の理由でした。いずれにしても大変な激戦の末であったことも併せてご報告することで総評とさせていただきます。

橋本 安弘(大成建設・社会交流センター)

「制作支援の部」の応募が31件と昨年(40件)より減じた分、「展覧会支援の部」の応募が19件から29件へと大幅に増加して、応募総数は過去最高の60件。審査選考の苦労も昨年同様大変でしたが、ベテランのサイモンさん、高橋さんに、新たに加わっていただいた方々と合わせ6名で、何とか所期の選考が出来て、ホットしました。終わった後、帰りの電車で一緒になった、初経験の及川さんが思わず「疲れたわ」とおっしゃったのは、二度目の私でも実感でした。

応募資料と写真等での審査になるので、選考ポイントをそれぞれ的確に持ってあたることが大切でした。特に、「制作支援の部」では各項目の記載事項からグループの分野、性格や必要度を読み取ることで、絞り込んで行かざるを得ません。第1次に残った10件余から5件にする際、甲乙付け難いケースがありましたが、やはり応募者の思い・努力が資料から立ち上ってくることが最終の判断になりました。それに比べると、「展覧会支援の部」は件数こそ多くなりましたが、グループ応募は印象が散るのは避けられず、比較的すんなりと7件から最終2件に絞られ、昨年グループ応募で惜しかった藤崎さんに決定しました。彼の絵の持つ迫力と楽しさが12月に銀座の画廊で披露されるのは、審査に携わった一人として大変嬉しく思います。

及川 則子(富士ゼロックス端数倶楽部)

制作支援の部はたくさんの応募から選考するのは大変な作業であり責任も感じました。私の会社の端数倶楽部でも施設や団体への寄付選考は大きな仕事なのですが、書類だけでなくなるべく現場を訪ねていった寄付申請推薦者の生の声を重んじています。制作現場に足を運び現場を見たいと思いました。申請書の書き方や熱意も大切です。全国にいるエイブル・アート・ジャパンの会員や関係者の協力を得て、現場を見て決めるやり方もあると感じました。

今回、養護学校、フリースクール、精神科の病院など、これまでと異なる支援先が多く選ばれましたが、これは単なる時代の影響ではありません。それぞれの書類から現場の熱意を感じることができたからであったことを強調しておきたいと思います。

展覧会支援の部は送付されてきた写真等を見ながらの選考でしたが、私が実物を見たいと思ったのは、もみの木園創作課(鳥取県米子市)としてグループで応募された中のおひとり、足立さんの「竹の子」という作品でした。全体的にグループでの応募は、限られたスペースでの展示ということもあり、不利なのではないかと感じました。

選考会では、盛岡杉生園(岩手県盛岡市)の高橋和彦さんの作品と、新明塾(京都市)の藤崎貴之さんの作品が最後まで残り接戦でした。高橋さんの資料は、作品数が膨大で逆に焦点が絞りづらかった感があります。これはすべての方に言えることですが、的確に魅力的に情報を伝えることの大切さも感じました。

初めて審査に参加させて頂き、応募者のみなさんの熱意を感じることができました。ありがとうございました。

佐々木 裕子(富士ゼロックス端数倶楽部)

選考会という場で申し訳ないかもしれませんが、選考に当たっては何の知見も持ち合わせていないので一鑑賞者として初めて同席させていただきました。作品を見るまでは、どんな作品なのだろうか?とドキドキしていました。いざ作品を目の前にしてみるとどれも独創的、個性的で、唯一の作品ばかりで、とても楽しく鑑賞させていただきました。

この賞への応募が年々増えているというお話もうかがい、障がい者芸術活動にとって光のひとつであると実感いたしました。

早川 祥子、前田 麻名(認定NPO法人PIJD基金)

6 年目を迎える「エイブル・アート・アワード」に、今までは支援活動だけをさせていただいておりましたが、今回、初めて選考会に参加させていただきました。応募作品数も去年と比べると多くなり、カテゴリーはもとより内容も大変充実したものになっているとのこと、大変喜ばしいことで、かつ、ありがたいことだと感謝いたしました。また、制作支援の部31件中5件、展覧会の部29件中1点を選ぶことの難しさは言いがたく、初めてなだけにいろいろな意味で新鮮な驚きはかくせませんでした。

それぞれ応募資料をもとに作品を選考するのですが、制作者の研ぎ澄まされた感性から生まれる作品は全ての人を支援して差し上げたいと思うほど見事なものでした。作品を制作する皆さんの純粋な心は色使いにも表れ、一つひとつの作品から発せられるオーラはまさしく“アートセラピー”そのもので、選考で疲れた私たちの心を癒してくれました。無論、作家の方々を支えるグループの人たちの暖かい活動も見逃すわけにいきません。そんな両面からの選考の難しさを痛感しました。

彼らの制作意欲を高め、質と幅を広げられるように、支援金を有効に使っていただきたいのはもちろんのことですが、それ以上に、12月に開催される展覧会をより多くの人たちに見ていただけることを切に願っております。