花崎昇平さん
2012年度 展覧会支援の部 受賞
2012年度 展覧会支援の部 受賞
毎日、創作の試行錯誤を楽しみながら、描くことを続けている。
子どもの頃から絵は得意で、学生時代はよく美術館に通っていた。研究者の道が頓挫したのを機にアートの道を選び、精神疾患と付き合いながら、生きがいとして制作を続けてきた。
アワードは、ネットで知り軽い気持ちで応募した。
「在廊するため毎日、銀座のキラキラしたクリスマスの道を歩いたことが印象に残っています。その後、大きく変わったことはありませんが、より絵に本腰入れて取り組むようになりました」
当初は屋外写生が中心だったが、名画の印象を頼りに自分なりの表現を探り、少しずつ現代的な表現にも挑んできた。その約10年の模索のなかで、抽象画が好きであること、モノクロが向いていること、絵具が好きではないことに気づき、最近は、板に石膏を塗り釘状の道具で引っ搔いて描くドローイング「trace」シリーズを制作しているそうだ。
「テーマが絞られてきたので、コツコツと丁寧な作品作りをしていきたい。まずは、そこから。その先は、またコンペなどを狙いたい。作品を売ることは、さほど興味がないので、絵を教えるなど、アートで何か社会的な活動をしたいと思っています」
(2018/10/16 自宅のある高松市内にて)
1973年生まれ、香川県在住。
大学を卒業後、セツ・モードセミナーに通い2002年「セツ・アート展」入選。2004年から様々な手法で絵画を制作。近年は抽象画に力を入れる。2005年香川県勤労者美術展奨励賞受賞、横浜市民ギャラリーあざみ野 Fellow Art Gallery「花崎昇平展」(2012)、ギャラリー・アート・ポイント「ART POINT Selection V 2014」(2014)など。
岡崎智美(横浜美術館 主任エデュケーター)
今年でエイブル・アート・アワード審査会への参加は2度目となりますが、昨年審査会で拝見した方たちの作品世界がさらに深みを増し、充実した内容となっていることに驚きを隠せませんでした。
また新しく応募してくださった方の中にも素晴らしい作品が多々あり、毎回のことですが一人の方を選考するのは大変困難でした。
カタノヨシトさんの作品は、可愛らしい動物の絵が入ったカレンダー?を画面全体ありえないほど精密にかつ彩色豊かに描くことでただならぬ異彩と迫力を放ち、目を奪われました。
尾崎文彦さんの簡略化されたユーモラスな動物たちは、よくぞこのような表情を捉え、このような線が引けるものだ!と感嘆しきりでした。 最近美術館の展覧会で障がいのある方の作品を発表する機会も増えてきましたが、ようやく障がいのあるなしに関わらず、力ある作品を評価していこうという目が開かれてきているのだと思います。しかしながら美術館サイドからすれば、まだまだ障がいのある方の作品に出会うことは困難です。
作家自身でプロデュースできる方もいらっしゃいますが、それが難しい場合、その人の才能に気づき、環境を整え、作品を手元に残してくれる存在がなくしてはあり得ません。作家の皆さん、そしてその作家の制作をサポートしているご家族や施設の方、そしてエイブルアートのこの活動に心からの敬意を表したいと思います。
サイモン順子(アトリエ・ポレポレ リーダー)
テーブルの上に並べられた46件。 選考が始まるまでにまず目に飛び込んできたのが写真とも墨絵とも思えるモノクロの作品だった。
1件1件見ているとなんとなくやるせない気分になって行った。確かに年を追うごとに作品のレベルは高くなっているようだが、”今、生きている”という作品に出会えなくなっている。
その点、上記の花崎昇平さんの作品には、それを感じさせてくれる”六感”的なものがある。又、黒という最も難しい”色”からそれを表現したのには驚きさえ覚えた。
46件の中に数件、すでに見たことのある方々の作品に出会えたのも、うれしかったが、あえてアワードに応募されたのには、やはり個展であるということに大きな意味があってのことではないだろうか。
長崎剛志(庭園美術家)
社会に作品が飛び出していく瞬間に立ち会うので心臓が動く。先日までの庭を見る旅行で石を睨みつけていたので、その眼が選考の中で少し残っていた。今回選ばれた花崎さんのモノトーン作品を見た時、絵の中の淡い輪郭線を持つ二人の背景を想像した。それはすこしロマンティックで恥ずかしいものなので秘密にしておくことにするが、新鮮な風が展覧会場を吹き抜けると想う。
また、何度も挑戦をしている作品の発展しているエネルギーを見ることもできた。次回に産まれてくる作品がもつ芸術の可能性が社会のランドスケープをどう切り裂いていくかどきどきする。
中津川浩章(美術作家/アートディレクター)
1年ぶりで選考会に出席して、新鮮な気持ちで作品に出会うことができたように感じられました。また、選考にあたっては理屈ではなく直接感に訴えてくる作品を期待して臨みました。今回じっくりと作品を見る中で最初に僕の感覚に突き刺さってきたのは花崎昇平さんの作品でした。M・デュマスを彷彿させるざっくりとした水彩画でモノクロームの色彩と滲みがイメージの拡がりを持ち、まっすぐこちらのハートに届いてきました。
描かれている対象もカップルばかりで、なんだか見ていてしあわせな気持ちになりました。様々な写真からモティーフを使っているのかと類推しますが、写真というメディア性の批評ではなく描くことの自由さ、喜びそしてためらいなど、現在を生きているリアルな感覚を十分に感じ取ることができ、改めて「絵画」の魅力を感じることができました。
表現していくことは楽しいことばかりではないと思いますが、これを契機にさらに世界を広げていってほしいと感じました。伴に選考に当たった方々の支持を得て今回のアワードとなりました。
おめでとうございます。
高内美和(花王株式会社 社会貢献部)
花王は、よきモノづくりを通じて、豊かな生活文化の実現を目指しています。どなたでもお使いいただく製品を提供していますので、障害のあるなしに関わらず、誰もがより良い生活を過ごせるよう、社会貢献活動においても、バリアフリーの理解と共有を目指す活動を行っています。その1つとして、2004年より、エイブル・アート・アワードのご支援をさせていただいています。
私自身、数年ぶりに選考会に出席させていただきました。芸術に関する専門知識は全くないので、技術の面からの評価や選考はできませんが、素人ながら、作品を通じて、人と人とがつながることができればと、「心地良くさせてくれる作品」「心を引きつけられる作品」などの視点を大切にさせていただきました。
障害のある作家の方々の芸術活動を応援することと同時に、作品や展覧会を通じて、多様な方々が出会い、お互いを理解する機会が提供できればと思います。
中山杏子(花王株式会社 ハートポケット倶楽部)
ハートポケット倶楽部は、花王グループ社員による社会的支援を目的とした社員参加型社会貢献組織です。このエイブル・アート・アワードへは、倶楽部設立当初から支援をさせていただいています。
私は今回初めて選考会に参加させていただいたのですが、想像していたよりもずっとオリジナリティーに溢れた作品ばかりで驚いたと同時に、とても楽しく拝見いたしました。選考は非常に難しく、出来ればどの作品も世の中のたくさんの方に見ていただきたい思いでした。
毎年すばらしい作品が数多く集まるこの活動に、倶楽部会員である社員たちもとても関心をもっております。これからも、たくさんの芸術作品を拝見できることを会員一同楽しみにしております。
松本 祐介(松田油絵具株式会社)
過去に美術教育を受けていたりすると、往々にして上手く見せようとか、かっこよく見せようとするものですが、今回拝見した作品群にはそういった型にはまっている作品が少なく、本当に楽しんで絵を描いているという印象を受けました。
好きなものを好きなだけ描く。好きな色で好きなように描く。
今回の展覧会で、絵を描く事の楽しさを改めて実感すると同時に、表現する事の原点を見れた気がしました。
中でも三谷広さんの作品は、画面に好きなものをカラフルに盛り沢山に描き、もっと画面が大きければもっともっと色々な物が描けるんじゃないかという画面の外への広がりを感じました。また、小林幹夫さんの作品は、クレヨンで電車を力強く描いていて、勢いのあるタッチにより電車の疾走感を感じさせるように描いていたのが好印象でした。
他にも気になる作家・作品がありましたが、上記の作家が選考から一日経ってなお、印象に残っております。