3 宇宙船はこうして飛んでいる

わたしは宇宙船のことに触れた手紙を初めて読んだとき、あらゆる角度からその内容を検討してみた。

移動には二つの方法があると書かれている。第一の移動方式は、惑星間の旅行のためのもので、それには宇宙の二枚の薄い層の変化に関連した操作が必要だそうだ。

今のところそんな話は、わたしには現実味を帯びているとは思われない。

第二の移動方式は、もっとわれわれに理解しやすいものだ。この方式を、UFOの現象に関して得られた数々の証言と結びつけて考えることも可能であろう。

ユミットは宇宙船の機体に生じる磁場の数値を、明確に規定された距離に連動させているから、この距離さえ分かれば機体の周囲の磁場の強度を計算できる仕組みだ。

側壁のイオン化装置も登場するが、これは機体をくまなく覆っているようだ。

このシステムによって機体の周囲に電荷というか、正確にはマイナスイオンがまさに群がるように発生する。

推進システムを補完するものとして、機体を取り囲むようにソレノイドが付いている。※1

他の手紙には、推進方法にはMHDという略号でよく知られる磁気流体力学が応用されているとある。

実際にはすべてがひとつの資料としてまとめられているわけではなく、断片的な情報がいろいろな手紙に散在しているのである。

ある手紙にはピンポンの球ほどの大きさの小さな機械のことが載っているが、これは明らかにMHDを用いたものであり、

主として機体の周囲の空気のイオン化状態の変調と組み合わせた可変磁場によって揚力を得るものだ。※2

当時はわたしはこれらの情報を真に科学的な見地から分析しはじめていた。じきにそれは実験と計算の作業が主体となった。

ユミットの手紙の内容を直接もとにしたこれらのモデルは、「気体環境と機体周囲の勾配のコントロール」が可能なことを示していた。

機体の周囲が光っているのは、惑星ウンモから来たものであろうと他の星からのものであろうと、まさに周囲の空気に作用を及ぼす側壁システムによってイオンが生じるためなのだ。

MHDは主として、ユミットたちが単に地球における物理的空間を移動するためだけの、秘密の小道具と言える。

地中を潜る卵型もしかり。空気をイオン化するかわりに岩を溶かすことによって、進むべき場所を電導体に変えてしまうのである。

ユミット宇宙船の外形とその部分的断面図

上蓋の部分には宇宙船のエネルギー源や反物質のストック、機体を管理するコンピューターなどが描かれている。

円盤の外線の部分には三つのソレノイドによるシステムがあり、同位相の交流が流れているが、これらの円いターンの部分では電流の方向は周期的に変化する。

これらのターンは、ここには描かれていないが機体の表面に配置された、ごく小さな側壁イオン化装置によって生じたプラズマと接している。

イオン化と可変磁場の組合せによって、誘導効果による強力なガス流が生じ、機体の外側に対しては遠心性で、内側に対しては求心性を示す〈巻末の科学論文でも詳述)。

宇宙船の内部にはドーナツ形の居住空間がある。

停止時にはこの空間は固定される、というか正確には機内の中心部にはっきりと見える回り継ぎ手を介して機体に貼り付くことになる。

機体が定速で航行する場合は、ドーナツ空間はゆっくりと自転して人工重力をつくり出す。

図を見ても分かるように乗員の位置は遠心力のために水平になっている。このような運動によつて生じる嘔吐感を予防するために、内耳にはインプラントが埋めこまれている。

乗員の宇宙服はきわめて精巧なものである。

服は直接肌に触れるようなことはなく、生命維持機能をことごとく管理し、栄養を与え、温度調節を行ない、アヌスに付けられた管によって老廃物をヘリウムに変換し排出する。

乗員の顔を覆っているものは大きなスクリーンと、円錐台形のベースで、ここには肉眼では見えないような、立体カラーのきわめて高解像度の映像が映し出される。

さらに、高品位の聴覚や触覚や嗅覚のシミュレーションも同様にサポートされている。これはつまり1967年あたりから提唱されている「バーチャル・リアリティ」である。

このスクリーンは宇宙船の外側にあるセンサーとも接続できるから、乗員は窓から外を見なくとも外の世界をどの角度からも見ることが可能。

また日頃から慣れ親しんでいるイメージを眺めることも、メッセージを受けとることも、質的には完璧な総合的イメージを受けとることもできるようになっている。

断続的加速の段階ではドーナツ形空間には、交流電界効果によって急速度で固体から液体に、またはその逆に変わるゼリーが充頒されている。

加速しないときはこのゼリーはポンプでボディと居住空間の透き間に排出される。

着陸時には伸縮可能な脚が出てくる。出入りは機体の下部から行なう。

ドーナツ形居住空間の外壁は超伝導の素材でできており、推進時は超空間の移動の際に発生する可変磁場の害から乗員を保護している。

****************************************************************

この段階ではUFOが、現実の何かと似ているかどうかを断定することも、ユミットの手紙が他の惑星の住民から発せられているのかどうかについても、結論を下すことはできない。

手紙には「最初の探検に使用した機材は今もそこに置いてある。

われわれが地球人の政府に正体を明かすことにした場合には、それがユミットの存在の物的証拠となろう」と、はっきり書かれている。

にもかかわらず、デイニュの周辺にこの探検隊が二年間隠れ家として使用した形跡のある洞窟が存在するかどうか、それは誰にも何とも言えないのである。

誰かこの辺りの地理に詳しい人が、この追跡ゲームを考えだして、われわれが忍耐強くそれに参加したということなのかもしれない。洞窟のあるなしは別問題だ。

MHDの勉強は、難しいけれど実り豊かなものであった。

年月が経つにつれて、苦労して得られた科学の成果※3もそれなりに蓄積された。

MHDという言葉は、スペインに届けられた手紙の中に発見されたものだが、わたしはすぐにこれに興味を惹かれた。

そして早くも一九七六年にはその最初の成果を得ることができた。 『科学と生命』誌※4、一九九一年四月号の巻頭を飾ったのは、「MHD潜水」であった。

その後半にはこの領域における最近の主たる成果を発表した膨大な論文が掲載されている。 論文には日本が建造して試運転の段階にある巡視艇の写真が載っていた。

搭載されている二機のMHD推進装置は、わたしがテレビに出演して、塩水を張った小さなプールで航行させたものとまったく同じものである。

側壁の加速器が図解されているが、これとてわたしがすでに一九七五年に実験していたものだ。

友人のファリオルスはこれを読んで、「君の名前が引用されていないじゃないか」と言った。

「ぼくは一九七四年と七五年にMHDをテーマにした二本の論文を、パリ科学アカデミー※6報告についてのコメントと一緒に、日本でも※7発表したはずなんだがなあ」

「君の名前はわざと忘れられたんだとは思わないかい?

「決まってるさ、そんなこと。君にだって理由は分かるだろう。

潜水艦が電磁気を動力にするのはまだ良いとしても、重量に対するパワーレシオを上げていけば、潜水艦はもう航行できないよ。

空中に飛び出して、衝撃波音も出さずに極超音速で飛行してしまうんだから。そういうことはみんな話をしたし、たくさん論文も書いた。

ぼくが指導教授になって、このテーマでドクター論文を書いたエンジニアもいるくらいなんだ。

今すぐどうということはないかもしれないが、このプロセスはどんどん進行している。

誰にも止められやしないさ。六〇年代初めのユミットからの手紙が、今になってようやく具体化しかけているんだからね」

「それで?」

「まあぼくとしては、正体はなんだか知らないけど、とにかくこうやってぼくらに知識の種を蒔いてくれる存在がほんとうはどういうつもりでいるのか、それは理解できないにしても、この件に関して自分の知りえる限りを報告するのが、科学者としてのぼくの義務だと思うんだ」

※1 円筒コイルに銅線を巻いたもの0銅線に電流を流すと、両端付近を除いて、円筒の内部には、軸方向に-定の磁場ができるが、外部には磁場ができない。

※2 時間的に変動させることのできる磁場。

※3 本書の巻末資料を参照のこと。

※4 『science et vie』フランスの代表的な月刊科学雑誌。一般向けだが、かなり高度な内容を紹介している。

※5 フランス国営第二テレビの『Xタイム』という番組。

※6 アカデミーフランセーズ(日本の学士院に相当)の科学部門。数学と物理学の二部門に分かれ限定会員l三〇名を擁する。会員になるのは科学者として最高の名誉だとされている。

※7 巻末資料5を参照のこと。一九八七年、筑波のMHD国際学会で発表された。