17.『悪意について」

 人には、三つの本能がある。

生存本能、種存本能、存在本能である。

生存本能は、生きるためのエネルギーを蓄えようとし、

種存本能は、特定の異性との交流を深めようとし、

存在本能は、上の二つの本能を補助するところから発達して、

自己の存在価値を顕示しようとする。


 社会は競争社会である。

生存のエネルギーを奪い合い、

異性を奪い合い、

優位を求めて自己を主張し合う。

それは戦いである。

力があるなら、正々堂々と戦えばいい。

しかし力がないなら、人は勝つために戦略をとる。

敵に実力を出せないようにするのである。

それは相手の秩序を壊すことである。

秩序は、論理的、システム的、バランス的、シンプル的である。

すなわち、不可解、衝動的、アンバランス、混乱にすればいい。

秩序は、安定、豊かさ、楽しさ、満足を生む。

だから敵を、不安定、貧窮、不快、不満にする。

これらの戦略は、自分を優位にするが、

社会や集団にとっては多くは害となる。

しかしそれは、社会や国家の競争にも使われる。

これが人の「悪意」である。


 具体的にいくつか例を上げよう。

①敵を威嚇する。

自分を強く見せて、相手を萎縮させる。

実力を出させにくくする。

②敵の弱点を突く。

相手のミスを指摘する。

正義感を振り回す。

敵を動揺させ、自信を無くさせる。

やる気を無くさせる。

③集団で攻撃をする。

仲間を集めて攻撃する、

または味方がいないように錯覚させる。

④反撃させないように逃げる。

たとえば捨てゼリフのようにして攻撃する。

⑤敵に常識や誠実を求める。

反撃することが「悪い」ことや

「みっともない」ことのように思わせる。

非常識に思わせる。

⑥敵を不安定にし、混乱させる。

無理な欲求や過剰な欲求をする。

した行動に価値がないように振る舞う。

今の立場や将来の不安を煽る。

⑦他や回りを攻撃して、間接的に牽制する。

⑧無視する。

直接に攻撃せず、反撃させない。

情報や知識を教えず、その者の能力を無視する。

能力がないように自信を無くさせる。

⑨反撃の意味ないように、問題をすり替える。

⑩反撃出来ないような、細かな攻撃を繰り返す。



 人には二種類のタイプがある。

快楽追求型と不快苦回避型である。

もちろん両タイプに明確に別けることは出来ないが、

どちらかに偏る傾向はある。

前者は他者との関係が競争型であり、後者は協調型である。

前者は上の戦略を取ろうとし、後者は上の戦略を受けやすい。

後者は、前者の餌食になる。

そして前者は、競争に勝って、社会の成功者、

または負けて、脱落者になる可能性が高く、

後者は、競争の勝ち負けの、そのどちらにもなりにくい。


 しかし、競争型が全ての者を敵とするわけではない。

当然、明らかに立場が上の者、かなわぬ力を持った者には、

逆らわないからと敵としない。

同様な戦略を用いる「悪意」者や、

手下と使える者は、味方に引き入れようとする。

そして敵とするのは、自分と異質で、

自分より上か下かわからない、

自分を脅かす存在、

または自分より明らかに下なのに、

自分を敬わない存在である。

そして協調型である。

協調型は、誰とも強調しようとする。

彼らは攻撃されても、よほどのことがない限り反撃しない。

反撃してこない人間に、反撃しにくい攻撃をするのであるから、

すごく容易であり、自分の欲求を通す餌食としやすい。


 しかし、競争型と協調型は、同等ではない。

競争型は本能的であり、

協調型は知性的である。

すなわち競争型は無秩序的であり、

協調型は秩序的である。

ゆえに競争型は勝てば快感だが、

いつも不安に見舞われてストレスを受けており、

協調型は興奮する快感はないが、

安定した幸福感に満たされている。


 それでは具体的に「悪意」に対応する方法を挙げよう。

「悪意」と言っても、たわいない冗談に近いものから、

自分の悪意に気づいていないもの、

人を絶望に追い込むほどの悪質なものがあるが、

被害者にとっては同じである。


 上で挙げた「悪意」の戦略に対して、

①相手の威圧に怯えない。

②自分の弱点を知り、

それを負い目と思わず、いい面でもあると発想を変える。

自信を失わない。

③孤立を恐れない。

④卑怯な手口には、そう言う輩として判断する。

⑤相手の自分都合の常識や誠実に取り込まれない。

常識や誠実という言葉の持つ社会的な正義感に圧倒されない。

⑥自分を不安定にし、混乱させようとしていること、

不安を煽ってることに気づく。

無理な欲求や過剰な欲求には、無理でいい。

⑦間接的な攻撃は、自分に関係ないと無視する。

⑧無視に対しても、無視で返す。

無視されることによる情報不足には、

情報収集の手段や方法を変える、

無理なら諦める。

⑨複雑に考え過ぎない。相手の思いを深読みしない。

⑩冷静沈着で理性的、知性的な態度は望ましいが、

感情的、衝動的な態度をとっても後悔し過ぎない。

自分も動物であることを必要以上に恥じない。


 再び言おう。

秩序的な者は協調的である。

そして、競争的な者は秩序を重視しない。

無秩序者は攻撃に容赦なく、

秩序者は、その餌食になりやすい。

しかし秩序は完璧を求めない。

秩序が弱点になってはいけない。

秩序思考は、回りを見やすくし、先を見通す。

または冷徹と言えるほど徹底する秩序意識も必要である。

それが秩序主義である。


 人は、満足した生活を送るようになると、

やがて自信過剰になり、傲慢になる。

変化を恐れ、成長を止めてしまう。

そうなったならば、誰の意見も聞かなくなる。

反省しなくなる。

悪意をもった者の行為は、

そんなあなたに冷水を浴びせる、

まさしく彼らは反面教師である。

彼らは不安定な無秩序という世界に自分を置き、

無駄な大きなエネルギーを使って、

あなたを戒めてくれる反面教師である。

そのように考えることも必要である。


(2019.9.20)