有名な詰将棋作品 4

短編名作選と中編名作選の歴史

「有名な詰将棋作品 2」「有名な詰将棋作品 3」で紹介した、詰将棋の短編名作選と中編名作選。これらの本がどんなふうに発行されたか、その歴史を振り返ってみよう。

まず、最初の短編名作選と中編名作選は、1976年から1978年に、(1)、(2)、(3) が発行された。(※1)

(1) 雑誌「詰将棋パラダイス」250号(1976.11)に、全日本詰将棋連盟選定「古今短編詰将棋名作選」(200局)が掲載された。対象は3手から15手の短編作品で、作品の収録年代は江戸時代から1975年。これに補遺50局を追加して、単行本『古今短編詰将棋名作選』(詰将棋パラダイス編集部, 1977.2)が発行された。

(2) 「詰将棋パラダイス」262号(1977.12)に 、全日本詰将棋連盟選定「古今中編詰将棋名作選(第1集)」(150局)が掲載された。対象は17手から29手の中編作品で、収録年代は江戸時代から1976年。翌月の「詰将棋パラダイス」263号(1978.1)には「古今中編詰将棋名作選(第1集) 補遺50局」を掲載。この2つをまとめて、『古今中編詰将棋名作選』(詰将棋パラダイス編集部, 1978.2)が発行された。

(3) 「詰将棋パラダイス」270号(1978.8)に、全日本詰将棋連盟選定「古今中編詰将棋名作選(第2集)」(100局)が掲載された。対象は31手から39手の中編作品で、収録年代は江戸時代から1976年。この第2集は、単行本になっていない。

次に、(1)、(2)、(3) の続編として、約40年後の2017年から2020年に、(4)、(5)、(6) が発行された。

(4) 短編名作選制作委員会制作『現代詰将棋短編名作選 : 1976-2015』(角建逸, 2017.7)。対象は3手から17手の短編作品で、収録年代は1976年から2015年。400局を収録。

(5) 中編名作選制作委員会制作『現代詰将棋中編名作選 : 1977-2016』(角建逸, 2018.7)。対象は19手から29手の中編作品で、収録年代は1977年から2016年。300局を収録。

(6) 中編名作選制作委員会制作『現代詰将棋中編名作選 II : 1977-2018』(角建逸, 2020.8)。対象は31手から49手の中編作品で、収録年代は1977年から2018年。200局を収録。

以上をまとめると、次のようになる。

さて、この表をよくみると、次のことに気がつくだろう。


> ★風みどり

> はっ、すると1976年以前の41手~49手の傑作は放置されたままということですかね。

(※2)


つまり、(1)、(2)、(3) は3手から39手までをカバーしているが、(4)、(5)、(6) は3手から49手までをカバーしているので、最初の名作選には、41手から49手の部分が欠けているというのである。

おそらく、(1)、(2)、(3) が選定された当時、41手以上は中編ではなく長編という認識だったのだろう。しかし、現代の眼で見ると、この欠けた部分にどんな作品があったのか、気になる。そこで、今回はこの部分、江戸時代から1976年、41手から49手で有名な作品を調べてみることにしたい。

調査手順

調査手順はこれまでと同じで、詰将棋データベース「T-BASE」で調べてから、空気ラボの「詰将棋同一検索ページ」(※3)で調べることにする。

最初に、「T-BASE」の全作品(123,000作)から、41-49手の作品の図面を抽出する(a)。次に、1976年以前、41-49手の作品の図面を抽出する(b)。(a)から(b)と同じ図面だけを抽出して、1977年以降の作品を除外する(c)。

この(c)について、同一作品で複数登録されているものを調べた結果、2件以上登録されている作品が、423作見つかった。これを一つの候補とする。

次に、「詰将棋同一検索ページ」で、先に見つけた423作を検索する。その結果、39手以下と判明した作品が出てきたのでこれを除き、さらに5件以上登録されている作品に絞ると、41作になった。

調査結果

調査結果として41作品が判明したが、今回は手数別ではなく、これまでの名作選にならって年代別にまとめてみた。ただし、大道詰将棋は一括して別に紹介する。

今回の調査で一番登録件数が多かった作品は、昭和16(1941)年に発見された天野宗歩作の47手詰(14件登録)だった(※4)。この作品、実は不詰なのだが、天野宗歩による唯一の詰将棋作品ということで、活字になることが多かったのだろう。

また、調査結果41作のうち、収録作品が複数あった作者は、酒井桂史(6作)、三代伊藤宗看(3作)、伊藤看寿、九代大橋宗桂、杉本兼秋、奥薗幸雄、岡田敏、山田修司(いずれも2作)だった。

まとめ

江戸時代から1976年に発表された41-49手の中編詰将棋作品から、有名と思われる作品を41作見つけることができた。

この手数の作品は、むかしは中編というより長編と思われていたようだが、どんな作品があったのかという好奇心は満たすことができたのではないかと思う。

2020年9月17日作成/2020年9月17日修正

※1 余談だが、この最初に発行された短編名作選と中編名作選、今となっては入手が困難なので、復刻されたらけっこう売れるのではないかと思う。

※2 風みどり. "「詰棋書紹介(31) 現代詰将棋中編名作選」へのフィードバック". つみき書店. 2020.7.6. http://kazemidori.fool.jp/?p=8386. (参照 2020-09-17).

※3 「詰将棋同一検索ページ」の登録作品数は、2020年8月28日現在329,489作で、前回の調査の時より大幅に増えている。

登録データの提供は詰将棋保存会、全詰連データベース委員会、詰将棋パラダイス、将棋世界で、随時登録媒体は「詰将棋パラダイス(2020年8月号まで)」「将棋世界詰将棋サロン(2020年9月号まで)」、「スマホ詰パラ」となっている。また、登録された本は「書籍名(693)」で、見出しは前回と同じだが、その内容は前回と異なっている。

※4 この作品については、次のサイトを参照のこと。 磯田征一. "大小詰物、ただいま39局 ". 詰将棋一番星. 2013.7.27. http://1banboshi.on.coocan.jp/page11.htm. (参照 2020-09-17).