有名な詰将棋作品 1
単純な疑問
誰でも知っていそうな、有名な詰将棋作品は?
「有名」という言葉はあいまいで、この疑問に答えることは難しい。しかし、詰将棋のデータベースを使えば、近い答えを出すことができそうなので、ちょっと調べてみた。
有名=何度も活字になった作品
まず、詰将棋データベース「T-BASE」の全作品(123,000作)から、同じ作品で複数登録されているものを調べてみる(※1)。「T-BASE」には、江戸時代から現代まで、主に雑誌に掲載された作品が収録されている。そのため、同じ作品が複数登録されているということは、何度も活字になった作品、つまり有名な作品だろう、というわけだ(※2)。
この調査で、6件以上登録されている作品が、451作見つかった。これを一つの候補とする。
次に、空気ラボの「詰将棋同一検索ページ」で、先に見つけた451作を検索する。
「詰将棋同一検索ページ」には、詰将棋が206,000作(※3)登録されていて、ここで検索すると、登録されている同一作品の一覧が表示される。ここには「T-BASE」よりずっと多い作品が登録されているので、この検索結果を調べれば、活字になった数がより正確にわかるはずである。
その結果を登録件数が多い順に並べ直したところ、1位から19位(同点の作品があるため21作)の作品は次のようになった。
上位21作
上位21作の特徴
以上、「詰将棋同一検索ページ」のデータを元に、有名と思われる詰将棋を21作をみてきたわけだが、いかがだっただろうか。
これらの作品に共通する特徴は、まず「古い」ということだろう。一番新しい「新扇詰」でも、60年前の作品である。古い作品のほうが活字になる機会が多いので、これは仕方がないのかもしれない。
次に、作者別にみると、伊藤看寿と渡瀬荘次郎の作品がそれぞれ4作入っていることが目立っている。ただし作品の傾向は全然別で、伊藤看寿は名作、渡瀬荘次郎は初心者向け作品といえるだろう。
また、大道詰将棋が案外たくさん入っていることに気がつく。大道詰将棋は、最近はあまり創る人がいないが、大正時代に始まり、第二次大戦前から戦後にかけて大流行した。そのため、データベースにも多く登録されて順位が上になったのだろう。
問題点
この上位21作以外にも、当然、有名な作品はあるだろう。 それらの作品は、22位以下なのかもしれないし、あるいは、新しい作品で、活字になった回数がそんなに多くなく、データベースにあまり登録されていないのかもしれない。 また、「詰将棋同一検索ページ」のデータの更新によって順位が変動することは、当然考えられる。 それ以外に、右図のように有名と思われる作品が出てこない場合もある。これは、初形にいくつかバリエーションがあり、そのため同一作としてカウントされず、結果として順位が下になってしまうためである(※4)。
まとめ
詰将棋データベースを調べることで、有名と思われる詰将棋作品を21作見つけることができた。 問題点はいくつかあるが、「(古めの)有名作をだいたい網羅した」ということで、いかがだろうか。
追記
二上達也, 福田稔著『名作詰将棋』(※5)は、30年以上前に出版された本だが、今回見つかった21作のうち16作が収録されていた。さすがである。
2016年6月に「有名な詰将棋作品 2」作成したので、題名を「有名な詰将棋作品」から「有名な詰将棋作品 1」に変更した。
2015年6月15日作成/2020年9月17日修正
注
※1 具体的には、T-BASEの図面ファイル(*.dia)の先頭100バイトが持駒と図面なので、これをperlのスクリプトで抽出(このとき、左右反転の図面も作成)。抽出したデータをソートした後Excelに貼り付けて、同一作品の数をカウントした。
※2 何度も活字になった作品といっても、単なる「話題作」なのかもしれないし、あるいは「問題作」なのかもしれないが、そのあたりは考慮しない(詰将棋にも「インパクトファクター」があればいいんだけどね)。
※3 「詰将棋同一検索ページ」の登録作品数206,000は、2015年6月15日現在の数。
登録データの提供は詰将棋保存会と全詰連データベース委員会で、その内訳は「詰棋通信」、「詰パラ(1954-2010)」、「詰将棋年報(2009-2012)」、「スマホ詰パラ(随時)」、「単行本」となっている。
※4 この3手詰のバリエーションについては、次の論考を参照のこと。森美憲. 「名作3手詰」に関する多角的考察. 詰将棋パラダイス. 2006.2, 599号, p.32-36
※5 二上達也, 福田稔著. 名作詰将棋 : 棋力を高め趣味を深める歴史的傑作選. 有紀書房, 1979