矛盾のレゾンデートル
風に唄えば [R18]
風に唄えば [R18]
エス光ノーマルカップリング成人向。
「矛盾のレゾンデートル」最初のお話です。
全てはここから。ヒカセンはミコッテ、この話ではネームレス状態でお読みいただけます。
絵も描きたい。でも筆は速くないし、色々満足いかない点が多過ぎる。
ならば文字で表現してみよう。小説だって色々打ちひしがれて上手くいかない。
絵も、字も!!
……どっちつかずの私が出した、捨てられないのなら両方を選ぶという決断から始まったエスティニアンと光の戦士の物語です。
相棒という関係でも竜詩戦争以降共に行動する事も無くなった二人が一緒にクガネ方面に行くことから物語は始まります。
漆黒程度までのネタバレが含まれます。
本文中に挿絵がありますので、たまに背後に気を付けながらお楽しみください。
ー1ー
モードゥナは小雨が降っていた。
銀目湖畔からの霧が風に乗って立ち込めて、街中薄紫に煙っている。小脇に抱えた小包を湿気に気をつけるよう先方で言われただけに納品先がエーテライトから近くて助かったと、内心胸を撫で下ろした。
東方の漢方薬をクガネで受け取り石の家へ届けるという依頼をこなし、報酬を受け取り次第立ち去るつもりで来たのだが……
扉を開けたそこには相棒が居た。
俺が視界に入るなり「珍しい」と言わんばかりの顔を作った相棒だったが、それはお前もだろうと肩を竦めて返した。
ガイウスとの脱出劇を話してから数日経過して居たが、あの後イシュガルドの復興を手伝い、その帰りに再び立ち寄ったらしい。
目の前にサービスされるスコーンとイシュガルドティーが土産だという。
今来たばかりで着席すらしていない状況だというのに、断りを入れる間すら与えず金庫番のタタル嬢がティーカップへ茶を注いでしまった。
それならば丁度いいと、持っていた依頼品を手渡すと彼女は中身の確認をし、報酬を受け渡す準備の為その場を離れていく。
槍と荷物を置き、席に着いた。
このスコーンは一目見るだけでアイメリクのとこの執事が作った菓子だとわかる。
最近は滅多に食べる機会も無いが、神殿騎士団でアイツとつるんで居た頃は家を尋ねる度に出されていた定番だった。
「アイメリクは元気してたか」
「うん。忙しそうにしてたけど、それが嬉しいって顔で書類の山に目を通してたよ」
それならいい。あの馬鹿でかい本部の机が埋もれるほどの書類の山に、アイツが目を通す光景が目に浮かんだ。
相棒に「そうか」と頷いて、スコーンを半分に割り口に放り込んだ。素朴で懐かしい味が口に広がる。
「エスティニアンさ……東方で野営する時、自分で魚捕れたら便利だよね?コツとか教えるよ。今暇?」
「……俺に魚釣りを教えたいと言ってるのか?」
「うん!釣りだけど釣りじゃないの教えたいんだ。向いてると思うから」
「ほう……それじゃあ相棒の気まぐれに付き合うとするか」
両手をやれやれという仕草でアピールしてみせれば、向かいに座っていた相棒はひといきで紅茶を飲み干し立ち上がる。
アイメリクの奴が居たら「紅茶はそうやって飲むものじゃない」と例え相棒でも小言を言われたかもしれない。猫舌というのはミコッテ族には関係無いのだろうか。
そんな事が頭を過るも一応誘われた自分が遅れをとるわけにも行かず、つられるように忙しくもう半分のスコーンを咀嚼し紅茶で流し込んだ。
「それじゃタタルさん出かけるね!美味しいお土産持って帰ってくるから。数日クガネ方面に居るので何かあったら連絡してね。エスティニアン、すぐ飛んで良いかな?」
「かまわんが……というか本当に相棒はこんな調子だったんだな」
報酬入りの皮袋を手渡しに戻ってきたタタルに、茶を煎れてくれた礼を一応して自分の身辺を確認する。何時でも最小限の手荷物しかない俺は忘れ物も無さそうだ。
「いってらっしゃいでっす。美味しいお土産待ってまっす~。エスティニアンさんもこれで冒険者さんの思い付き行き当たりばったりの旅を味わえるといいでっすね」
肩を大きく揺らしながら不適な笑みを浮かべて笑い、ひらひら手を振る彼女に悪態を返す間も無く、相棒によるテレポの詠唱が終了した。
ー2ー
身体と脳がズレる微かなエーテル酔いの眩暈にももう慣れたもんだ。
ここは……数時間前まで居たクガネだな。
モードゥナは少し不快な湿り気を帯びた大気状態だったが、こちらは晴れ渡っていた。空は雲も少なく、相棒の思い付きでいきなり来たとはいえ天候に恵まれ一安心する。
露店も開店準備中のこの時間は人通りも僅かだ。
「紅玉海って呼ばれる海にはもう行ったかな?」
船着き場の方を指差しながら訪ねてくる相棒。
「海は見た。が……小竜のおもりをしながら向こうのオサード側まで通過しただけだ。島々をジャンプして渡ったから…海として満喫したとはとても言えないな」
「ええ……そんなジャンプって飛べる?…船無しで行けちゃうのかぁ……ま、エスティニアンっぽいけどね」
笑いながら船着き場方面へ歩き出した相棒に遅れぬよう着いて行く。
歩幅は俺のほうが大きいので全く苦にならない足並みだ。
相棒が船頭に話しかけると小舟に乗せられ穏やかな波のなか進むこと数分。台場と呼ばれる砲台が八方に据え置かれた人口島へ降ろされた。
ここで海から何か来たときは迎え撃つのだろうが…あまりにも火気類が時代遅れだ。急な接近には対応出来そうもない。帝国軍に対してはなんの防御にもならないだろう。…となると他の人同士…近隣勢力への牽制を兼ねた場所なんだろうと察しがつく。
島の縁から海面を見下ろせば珊瑚礁が群生し、その隙間を色鮮やかな魚達がせわしく泳ぎまわっていた。
「で……何処に行くんだ?」
「西側に見える島、火山島なんだけど、そこの手前側に人見える?」
「ん……ぁあ、なんとなくわかる」
「そこから更に渡し舟出てるから向かってもらえる?私はジャンプするエスティニアンがどんなふうに飛ぶのか勉強がてら見てチョコボで追いかけるから」
「ふむ……」
最早無意識で出来るレベルに到達した跳躍力の加減で難なく指定地点へ着地する。
「ほんと飛んじゃうんだ~!凄いね!」
一足遅れて海上をチョコボで飛行し到着した相棒は屈託無く賞賛し、瞳を輝かせた。お前だって竜騎士なら出来るだろ?と伝えたら「出来ないよ。そんな正確な長距離のジャンプは…」と、筋肉の使い方について珍しく白熱してしまう。
初めて会ったとき相棒は盾を構え、剣を携えていた。今も勿論同様のジョブで居ることが多いようだが、実際は俺同様「蒼の竜騎士」であった側面もあるし、見たことはないが白魔道士や後衛もオールマイティに熟すというから、俺より余程戦闘に造詣が深い。
跳躍時の目線や着地時の衝撃を筋肉の何処で吸収するのか…なんて談議しながら更に舟で移動した先は、クガネには劣るが漁村というにはかなり整備のされた桟橋と中型の船が停泊していた。
以前通過した際はオーン・カイが小煩いので出来る限り人里を迂回したから遠目にしか見なかった場所に今は居ることになる。
「それじゃ、ここの海岸で教えるよ。服装は濡れても構わない格好になってね…で、海中に向かってダイブするの。魚を槍で刺すんじゃなくて水中に作る衝撃波で気絶させて浮いてきた魚を捕るんだ。あ、スターダイバー級は打っちゃ駄目ね。エスティニアンのは強すぎるから生態系破壊って言う類になっちゃう。それと音も水柱も極力あげないように!ここの管理してる海賊の人達に目を付けられても面倒だからね……」
なかなかに制約が多い……
そこから、力を絞りつつ狭い範囲に衝撃を集中させる事や、浅瀬は珊瑚礁があるから避けること、ここは海岸から海低までが急に深くなる大陸棚の作りになっていて魚が多く居ること、成魚や大物の居る可能性が高い水深が深い場所を狙う事……等、更にいくつかの説明を受けた後、すぐさま俺にやってみろと勧めてくる。
「手本は無いのか」
「要らないでしょ。というか……下手するとエスティニアンが1回するだけで大漁になっちゃうかもしれないし、様子見させて」
あれだけ丁寧な説明を受けた手前、細心の注意を払う。濡れると面倒なブーツを脱いで、コートやスカーフも相棒に渡す。上着はシャツ1枚でも温かい海だから問題ないだろう。
地面から素足で海面上空へ跳躍した。
海中に向かってダイブするのは空気中と違いやはり着水時に抵抗を受ける。
鉾先の切り裂いた水面をそのまま突き進めば優に15ヤルムは潜っていた。
海底まではまだ遠いここには足場もない。再度跳躍する事も出来ない為、陽に照らされて反射を繰り返す水面へ向かって急ぎ浮上する。
海面に顔を出した瞬間に大きく息をした。呼吸が出来るという事の有り難さを立ち泳ぎをしながら噛み締めていると、チョコボに乗った相棒が海面に白波を上げながら軽快に近づいてきた。
「水柱も小さかったし音もそんなに大きくなかったよ~で、どうだった?」
「相棒、イシュガルドには泳ぐような海が無い。勿論泳げないわけではないが……」
「ゴメン!うわ……そうだよねぇ……出身ってそういうの左右するんだった!それなのに潜らせちゃったや……大丈夫?」
「あと10ヤルム分深くダイブしてたら死んでたかもな」
「うわー……」
それでも俺が呼吸困難でもなんでもなく普通に泳いでる様から半分冗談とでも受け取ったのだろうか、会話もそこそこに相棒は海面を見渡し始めた。
「おっ!浮かんできた!あっちに!」
相棒が指差した場所になにやら白い物体が浮いている。チョコボから身を乗り出して掴むと、それを持ってこちらに戻ってきた。
「エスティニアン!イカだよ!シロイカ!」
「これが……イカ……?」
「そう、お刺身で食べると最高だよ!米酒に合うんだよねぇ…」
俺の知っているスルメというイカとはかなり見た目が違うが、この足の部分の雰囲気はかなり似ている。干物の状態になっていないイカはこんなにも半透明なのだと知る機会となった。何処を見ているのか……目を開けたまま動かないイカを見ていたら相棒から手を差し伸べられる。
「じゃ交代ね!私は最初から潜って魚捕るから、この子に乗って海岸戻ってて。そのイカ、気絶してるだけだから逃がさないでよ~?あとスミ吐いて逃げようとするかもしれないからこの網に入れておいてね」
俺が手綱を掴みチョコボに跨がったのを確認すると、相棒は入れ替わるように海へ飛び込んだ。
コイツ……俺の扱い方、少しだけ慣れてきてるな。
やりとりは自然過ぎてアイメリクと居る時の心の凪ぎ方に最早近い。だが……別に悪い気分ではない。むしろ居心地が良い。10代のうちにするような事を今楽しんでいるようにすら思える時間がここには流れていた。
「これだけあれば今夜は十分でしょ!」
大型魚と先程のイカを岩の上に並べてうんうんと頷き、腕組みしながら釣果を眺めている相棒。
「調理は私、お酒調達はエスティニアンね!よし、クガネ戻るよ~!」
「うむ」
……そしてあっという間に今朝の場所まで戻ってきた。
クガネの街はもう少しで茜色に染まる。
この時間は夕飯の材料を買いに来た客が多い。
小金通りの酒屋で米酒を選ぶ。辛口ですっきりした飲み応えのものと、甘口で呑みやすく柔らかな口当たりのものが有れば……と、店の主人に伝え見繕って貰う。
金を支払い、通りに目をやると丁度買い物を終えたらしき相棒が俺を見つけるなり小走りで向かって来る。店主に見送られ店を出た。
「酒は買い終わった」
「よしっ!じゃあ望海楼に宿とろうか」
相棒はそう言い放つとくるりと踵を返し、都市内エーテライトへと歩き出す。
てっきりこのままモードゥナ迄ひとっ飛びかと思っていたのだ。
……そういえば出発前に「数日此方に居る」と言っていたな…抜けていたのは俺のほうだったらしい。
「ここ結構高いから一緒で良いよね?」
……と当たり前のように同室にされる。
暁の連中はそれくらい皆懐の知れた仲なのだろう。確かに俺も野営やら共にした間柄ではあるが…コイツが何時もこの調子なのは気掛かりなので一応後で釘を刺すか……
部屋に通されれば、南東側の角部屋で2つの大きな窓からは夕日が海面に写り込んで揺らめいていた。
「いいねいいねぇ!紅玉海のこの凪いだ感じ夕焼けの海!良い日に来れたね!」
「1階の部屋も枯山水が外に映って、夜にはホタルが飛んでいて美しかったが……上の階だと海が見えるんだな……」
相棒は窓際でひとしきり眺望を楽しむと荷物を解き、その中からエプロンを取り出していた。
「お酒は注ぐだけの状態でしょ?良かったら魚の捌きかた、見ない?捕った魚すぐ食べれて便利だよ~」
手招きされて見ていれば、まな板の上に置かれた身の厚い魚はクエという名だった筈だ。大物で30イルム以上あるが、成魚だと倍あってもおかしくないという。二人で食べるのだからこのサイズでも十分多い。半分は金庫番の土産用に昆布締めとやらにするので無駄はないというが、実物は見たことがないのでそれは追々知ればいい食文化だろう。
魚はエラを引くように持ち上げられている。利き手で握った包丁で骨を断ち、背骨の横あたりに刃先を差し込んで背骨と身を分け、魚の向きを返したりしてまた同じような動きをして……分厚い皮を引いて……と、あっという間に半身分が刺身となって皿に盛り付けられた。
「説明しながら器用にやるもんだ」
「そう?」
「だがこの向きだといまいちピンと来ないな…もう半面捌いてる間、背後立っても良いか?」
「いいよ~じゃあ……これで……」
相棒の方が小さいのでこのほうがよく見える。特に手先の動きは同位置が断然わかる。とはいえ…見ただけでは到底出来そうもない事をやっているのは解った。
今後自分も魚を捌いて慣れるとするか……。
相棒が包丁を扱う度、揺れる頭髪から海の香りがしていた。
「そういえば……臭うな……」
「人の背後に立った途端に言う台詞として酷いよねそれ!これ終わったら下の露天風呂行くからいいんだってば。……そうだ、最初に海に飛び込んだときの服洗う?窓の手摺にでも干しとけば明日には乾いてると思う」
「なら俺はそっちをしておくとするか。相棒のも洗うなら一緒にするが?」
「助かる~じゃあこれ、お願いね」
と、磯臭いタオルが2つ手渡された。
なんとも気取らない時間だ。
眼下に広がるこの海のように心が凪いでいる。
魚を捌いて皿に盛りつける音。
海に出ていた漁船がクガネの港に戻ってきたのか風に乗って聞こえてくる男衆の舟歌。
その船に群がる海鳥の鳴き交わす声。
以前来た時より遥かに此処には音が在った。色づいて見えた。
これが日々を生きるという事なのかと気付かされて、今まで如何に縁遠い場所に身を置いてきたのか…と思う。
それでも後悔はない。それまでの俺が居たから今の俺が居る。唯それだけだ。
洗濯はざっとこんなものだろう。
窓際に干して相棒を見れば、乾燥した黒茶色のものに刺身を平たく広げて乗せている。先に風呂へ行けと促され、タオルを掴み1階の露天へと足を運んだ。
-3-
馬鹿でかい湯船で手足を伸ばす。
掛け流しの湯が滝のように降り注ぐ露天風呂は人も殆ど居らず居心地が良い。どうも閑散期らしく泊まり客も少ないようだ。
海を一望出来るこの露天風呂は街の外れに在るからか喧騒から遠い。
太陽は海岸線に半身を残すのみで、先の夕焼け空も紫から濃い青へと移り変わり、もう間もなく夜が来ることを告げていた。
クガネから出発したであろう漁船が沖へ向かっていく。海を波立たせ男達が船を漕ぐ声が遠ざかり、水面に白い筋が揺らめいていた。相棒も向こうの露天から見ているだろうか……
思わずハッとする。
「そうか…………」
頭上に乗せていた手拭いが滑り落ちて来て慌てて顔面で受け止め空を仰ぐ。
「…………いい気分だ」
誰にも聞こえない程小さな声は星が輝き始めたクガネの空に溶けた。
ノックをする。返事は返ってこない。持って出た客用の鍵で室内に入ったが、相棒はまだ風呂のようだった。
先日自分が滞在していた部屋と同サイズの部屋だが、元より広々とした間取りの為か寝台が2つ入っていても空間に余裕がある。奥の部屋が海に面した部屋で、手前の続き部屋には囲炉裏や水回りが納まっており長期滞在も難なく過ごせる。九つの雲とは雲泥の差……言わずもがな雲が泥だ。
髪の水分を飛ばすようにタオルで頭を乾かしていると程なく相棒も戻ってきた。
先の刺身が囲炉裏の机に並ぶ。
俺が先に風呂へ行った後、盛り付けた皿ごと冷気で覆っておいたと相棒は言う。
自らも2種の酒があることを説明して、好きに呑むよう伝えた。
「それじゃいただきます~!ん~まぁ~っ!!」
鈍色のぐい呑みに注がれた冷酒を一口で流し込む相棒。
自らも同様に味わった。
「良い呑みっぷりじゃないか。こっちの酒は強いだろうに…大丈夫か?」
「平気。ちゃんと自分の限界わかってるから安心して」
「アイメリクから聞いてる。相当のザルだとな」
「むぅ……あのね……酔うには酔うんだよ?でもね、最近は式典とか一番警戒してるんだ……何時襲われるかわかんないから。呑みに徹した事はもう結構無いんだよね……酷いときは呑んだふりでその日はおしまいとか……要は人前で酔い潰れたり粗相するほどに呑まないってだけですよ~」
「大変だな……英雄様っいうのは」
「あ、でも今日は別ね。いっぱい呑もう!そして食べよう~!」
そういうと直ぐ溢れんばかりに注いでは呑み干していた。
アイメリク以外と酒を飲み交わす日が来ようとは、以前の俺なら思いもしなかった事だろう。
耳に入ってくる相棒の声。
飾らないが凛とした言い回し、聴き流すように、聞き漏らさない。
「……新天地に着いて面が割れてない頃が一番好きだなぁ。何処にでも居る冒険者って捉えて貰えてさ、ちょっとした困り事とかお遣いを頼まれて依頼受けてる位のがいいよ。好きな街が歩きづらくなる程に皆が私の事知ってると、落ち着かなくなっちゃうかな」
「俺が煩わしくてイシュガルドに居着かないのと似たようなもんだな」
「それって半分は元々エスティニアンの性格だと思うけど……アイメリクと連絡とったりはしてるんでしょ?」
その問いに頷いて返し、
「……まぁ二度と帰らない訳じゃない。呼ばれれば帰るし、今がその時じゃないだけだ」
自らも更に酒を口に含む。
すっきりとした呑み心地の奥に広がりのある酒だ。余韻すらも味わえる酒はゆったりと過ぎ行く今この空間に向いている。
「久しぶり……こういう時間……」
相棒も良い酒だと感じたらしい。
手元が空になれば各々手酌酒で注ぎ、刺身に箸を伸ばして食べる。
クエ…は脂が程良く乗っていて高級魚という部類にあたるらしい…が、美味いという事以外は良くわからん。生で魚の身を食べる文化圏で生きてこなかったのだから、むしろ生で食べることにまだ少し抵抗が有るくらいだ。「食べづらいなら炙ろうか?」と相棒が打診してくれたが、何でもかんでも炙らないと食えないようには心の何処かでなりたくないと感じ、生のまま食べることを選んだ。とりあえずこの魚を美味いと思えたらのだからそれでいい。
もう一方の皿に盛られたシロイカの身は歯ごたえがしっかりあって、山葵の効いた醤油に少しつけて食べる。良く噛めば微かに甘い。相棒の言う通り、淡白ながら米の酒と良く合った。
やはり見た目は魚とは縁遠い。その姿からは食べようと思えない上、ましてや生で食する気にも一人だったらまずならない。これを最初に食べようと思った奴は余程腹が減って居たのだろうな……
自分より遥かに手慣れた箸使いが視界に映るものだから酒を口へと傾けながら、皿に手を伸ばす所作をぼんやりと眺めた。
ガントレット越しでしかあまり見たことのなかった手が細やかな動きを繰り返していた。
俺に比べればその小さい手も指には自分の手に無いような場所にすら武器ダコが出来ている。相棒の…鎧を纏っていれば多少大きく見える上半身も、部屋着姿の今は小さく映る。
この体で幾つもの難局を切り抜けてきたとは到底思えない程に……
ギムリトのあの時。
一際強い力を感じる場所に向かって最短距離を駆けた。一度は弱まった禍々しい気配が再び膨れ上がって全身の毛穴が開く感覚に襲われながらも疾走し、目的の場所が視界に飛び込んできた時には、既に相棒は地に片膝を付き、ゼノスの片腕が今まさに振り上げられようとする、そんな状況だった。
スターダイバーでゼノスの右肩目掛けて落下し、着地の衝撃を出来る限り横軸の回転に逃がして相棒の前でゼノスに向き直り、腰を落として身構える。
槍に手応えが伝わっていたとおり、奴の右手はダラリとぶら下がって、まともな火力を繰り出せそうになく、今このタイミングでなら相棒を連れて撤退も出来ると判断し、即座に脇に抱え戦線後方へ跳躍した。
1度目の着地の瞬間、首が強くガクリと上下に動いて相棒は既に気を失っている状態だと気付く。その1回目の着地の時だけは「今ので舌を噛んでたら……」と焦ったものだ。安全な場所で呼吸を確認し、お前を絶命させるオチは避けられた事に安堵して、また移動を開始した。
アイメリクの元まで運ぶその間、片腕でも難なく抱えられた…
騎士団時代の戦いで仲間に肩を貸したり貸されたりして来た経験から、意識のない人間は重く、装備がまた更に重い事は百も承知だ。それなのに信じられないくらい軽かったんだ…おまえは。
「そう言えば……御礼言えてなかったね。ギムリトでは助けてくれて有り難う」
まさにその時を思い出してたというのに?
「……今のは超える力ってヤツか?」
目を見開いて聞いてしまった。
「え?普通にただ御礼言えてなかったなぁ~ってふと思ったから言っただけだけど……どゆこと??」
「なんだ、それならいい」
そう伝えて酒を煽る。
向かいの相棒は「意味がわからない」と頬を膨らませていた。
「なぁ、それよりきかせてくれ。第一世界での話を」
まだ宵の口にもなっていない。
酒の肴もこれだけあれば十分だ。
うなずき返した相棒がゆっくりと話を始めた。
-4-
街の喧騒も穏やかになり始めた頃、近況までの膨大な冒険が語り終わる。
相棒の話のボリュームもさることながら、とんでもない展開が続いて飽きることはなかった。聞けば聞くほど「俺が行けていたなら」……と共闘する場面を想像し、腹の中に湧き上がる黒いものを膨らませては散らしていた。
「ずっと気掛かりだったことがあってな…早い段階で俺が暁に加入して居たのなら、第一世界へ召喚されていたと思うか?」
「う~ん…………私に近くて、縁のある人ばかりがグラハの召還に掛かってったから……もしかしたらそれは十分にあり得たかもしれないね。でも、そうなってたらギムリトで私がゼノスと対峙してトドメを刺されそうだったっていうあの時に、エスティニアンは第一世界に召還済で駆けつけられなかったかもしれない……私はそこで死んで居たのかもしれないね…………何かしらの理由で生き延びれていたとしても結局少し先の未来で私は黒薔薇によって死んだことになってるから……やっぱりエスティニアンは暁に入らなかったんじゃないかな」
「この世界に残った事で、戦力不足の暁から黒薔薇を排除する依頼が来て、お前を生存させる事に繋がったのならば、それがミンフィリアという星の意志になったやつから第一世界へ行かない俺へ託された事だったのかもな……。俺はな……相棒、お前と共闘したイシュガルドでの日々を忘れた事はない。お前が第一世界という関与しようの無い場所で誰かに背を預けて闘っていると思うと歯痒くてな……さっきまでの話で尚更だ」
俺の言葉に「困ったなぁこの人は」という表情が窺える。
「以前……ニーズヘッグに自由を奪われた身体で相棒と対峙した時、意識は在ったと伝えたのは覚えているか?あの闘いの中で俺はお前の剣戟を受ける度、とてつもなく高揚した。……お前が死んでしまってもおかしくない程の火力を叩き込んでも、耐えて再び立ち上がり向かってくる姿に震え上がるほど歓喜していた自分が居た。あれは…間違い無く、俺の人生でも文句なしの愉悦だった。……だからこそゼノスがお前に執着する気持ちはわからなくもない。好敵手と対峙する喜びは闘いの中にしか己を見いだせなかった奴が味わう最高の蜜だ。……お前という蜜が吸えるのならば、どんな手段を使っても一番美味い状態で味わおうとするだろう。だからお前は今後どんなときも自分が狙われている自覚を今の何倍も持て。周りに暁の奴らが何人居ようが、エオルゼア連合のいかなる協力があっても関係無い。お前は生きていなければならないということを絶対に忘れるな」
口下手な俺にしては喋ったほうなんじゃないか。あまり語らない俺が発する言葉は効力があるのか……相棒は向かいで真剣な眼差しで頷いていた。
「俺はその好敵手と共闘する喜びを知ったから、彼方に堕ちず留まれた。今更相棒の居ない世界など考えられん…………お前1人の背中なら最後の時まで護りきってみせるさ」
俺の言葉に聞き入りながら、最後の言葉に目を丸くしていた。
「ははっ……なんか告白みたいに聞こえるね」
「そう感じたなら、そう受け取ってくれて構わん」
「…………え…………」
目が泳いだ相棒は目の前の刺身を口に放り込むと、先に注いだばかりの酒で一気に飲み下した。
「いっいつからそんな?そんな素振り何処にも……」
「さっきも言ったが、お前が第一世界に旅だったと知った後に少し思う所があって…まぁ確信に至ったのはさっき露天風呂でだ。なんなら超える力で確認してくれ」
「さっき!!?っていやいや、そんな思い通りに発動しないし!そういう為に使う力じゃないんだって!もぉお~……」
「……そうか……案外難しいんだな」
へなへなと天板に突っ伏してゆく姿を見ながら酒を煽る。喜怒哀楽のしっかりある奴だとは知っていたものの、こんなに面白い応対をされては酒がすすんでしまう。
「試しって事でも構わん。どうだ……?」
目線で背後の寝台に注目するよう合図を送ったが……全く通じず、ただその言葉に反応して勢いよく顔を上げた相棒の表情は過去最大級に目を見開いて真っ赤に染まっていた。
-5-
エスティニアンの馬鹿
エスティニアンの馬鹿!
エスティニアンの馬鹿!!
もうサッパリわかんない!
何なのこの展開……
クガネで美味しい魚とお酒を呑みながら話す第一世界の話は自分の行動反芻にも繋がってよく喋れたと思う。向かいで静かに頷いたり相槌を打ってくれるエスティニアンの声と動作に久々の酒と穏やかな時間を満喫していた筈だったのに……
今迄告白されたこと……何度もあるけれど、女の私をチョロそうだと罠に嵌めようとするゴロツキか、羨望のまなざしで見つめてくる人からしか言われたことなかった……。
身近な人に改まって言われるってこんなにも逃げ出したいような恥ずかしい気持ちになるだなんて知らなかった。
こんな時……こんな時……どうしたら……
ヤ・シュトラの微笑みが頭をよぎる。
何の効果も無かった。
「試しって事でも構わん。どうだ……?」
試し!????意味がわからず思いっきり顔を上げてしまって、エスティニアンの双眸とぶつかる。私の顔が余程面白いのか、いきなりふきだされてしまって、混乱した頭で出来ることは眉根をめいいっぱい寄せるくらいだった。
「試し……って……」
完全に鸚鵡返ししか出来てない。
エスティニアンから盛大なため息が漏れた。彼がぐい呑みをコトリと置いて立ち上がる。手が伸びてきて、指先で顎を下から支えられ、頭上から影が急に近づいて来たので左腕を思い切り突き出してしまった。無意識とは怖い。
「…………」
「…………」
エスティニアンの喉元に私の左手の甲が入っている…………
「ゴホッ……おい…………」
気管に軽いダメージを入れてしまったみたいだ…しかも右手に箸、左手にはぐい呑みを握りしめたままというシールドバッシュならぬ、ぐい呑みバッシュを決めてしまった事になる。
「あっ……ごめ……急に影が近づいてくるからビックリして…」
囲炉裏のあたりは部屋でも暗い。
エスティニアンの表情は突き出した腕の向こうという理由を除いても読めなかった。
「……両手の獲物をそこに置け」
低い落ち着いた声がそう促す。箸とぐい呑みを机に置いて、エスティニアンに改めて謝罪を告げようと思った時には既に左腕がガッシリ掴まれていた。
「えっ!ちょっ……ちょっちょ!なに??なっ……ッ!!」
立ち上がらされて歩くこと数歩。転がすように倒された先は寝台の上。
部屋の窓際に設置された寝台に仰向けで倒れ込んだ今、月明かりが差し込んで彼の表情により一層の陰影を強調した。
「自らしようと思ったことは一度も無かったが、ガードされるとこんな気持ちになるんだな」
少し…怒ってる。そういう表情のエスティニアンが私の上に居る。
長い銀髪が肩口からさらりと落ちて息遣いに合わせて揺れていた。
「火が付いた……少しな」
口角が上がって何かを企んでいるようなエスティニアンの表情に、どうして良いのかわからなくて理解する為にあれこれ考える。掴まれてた腕は緩く掴まれているだけでさっきのお返しというか、なにか仕返しをしようとしている訳ではないようだ……もしかして私の反応を見て楽しんで居るだけ??どういうこと??知らず知らずのうちに眉間のしわを最早山脈の様に寄せて考えてしまうのだった。
-6-
毒牙を抜かれるというとはこういう状態を指すんだと、手本みたいな状況に出くわした。
騎士団時代に利用した公娼制度で口紅を引いた女達と体を重ねる時、口づけのねっとりとした感触が嫌だった。身勝手に悍ましいとさえ思った程だ。はじめにするなと伝えておかないと、どの女も当たり前のように強請ってくる。自分の中にアカの他人が入り込んでいるという感覚が孤独を良しとして生きていた俺にそう思わせたのかもしれない。
……それでも一般的な男女の付き合いとは、口づけを交わしたりがあってから体を交わらせるものだと理解したうえでこの手順だったわけだが。
しかし相棒は俺からの口づけを見事に阻害して、喉笛に打撃を加えた。
互いに酒が入ってるからなのか、あちらも容赦無かったし、こちらも防御が甘かった。無意識に繰り出せる程鍛錬された体を褒めたくもあるが……今の論点はそこじゃあない。
少しムッときて一気に寝台に連れ込んだものの、相棒が見上げてくるその表情から総ての合点が付いてしまって毒牙を抜かれ……押し倒したここから如何すべきか考えあぐねているのが今だ。
コイツは男を知らない。
だからこんなに真っすぐな瞳で俺を見れるんだ。
ただ俺を信頼しているのは十二分にわかる。
この状態でも俺が喉元をやられて怒ってる位にしか受け止めれていないだろう。純粋さも過ぎると始末に終えない。
気付きの機会が有れば良かったのだろうが……差し詰め、手込めにしようというゴロツキが現れても、悪者程度にしか考えず容赦なく相手を地面に斬り伏せていると思える。
憧れの対象として告白を受けたとしても「有難う」と笑顔で答え「私にはまだ助けたい人が居るんだ」と清々しくその場から手を振って立ち去ってしまうような奴だった……
ありありと浮かぶその情景……そこまで考えたら馬鹿馬鹿しくなって思わず吹き出してしまった。
「……っくっくっ、やめだ、やめ」
抑えていた相棒の拘束を解いて、そのまま起き上がり寝台の上で窓際の壁へ背中を預けた。自身の心音が少しだけ速く聞こえている。まぁ、そんなもんだろうと天を仰いで髪をかき上げた。
相棒も寝台の上で起き上がり、未だに不服そうにこちら睨み付けている。
「なに?どーゆーこと??!」
自分だけ分からないまま勝負が終わったような気がして居るのか尻尾を寝台へ何度も叩き付けて怒っているようにすら伺えた。
仕方ない。種明かしをするか……
「まぁ、さっきの“試し”っていうのは俺とヤッてみないかっていう誘いだった訳だ……」
ぺたりと座り込んだ寝台の上で相棒は魚のように口をぱくぱくとさせていた。声も出ないってやつだ。
「ヤるっていうのは勿論、取っ組み合いじゃないぞ。セックスだ」
その単語はわかるのか、只でさえ大きな目を更に見開き顔面を一気に高揚させた相棒は耳の先から尻尾の先まで、ぴんと張らせて…まるで置物の猫のようになっていた。
「…で、俺のヤるって感覚と、お前のその感覚にも相当ズレがあってだな……要は俺はお前みたいなおぼこい奴を気楽に誘っちまって悪かったなって……まぁ……そういう話だ」
わなわなと肩を震わせ、尻尾までひときわ大きく逆立てている…顔は俯いたままだが。
「ななな……なんで……知ってるの……?」
「今の一連の流れでわかった。というか、今の流れをしたら誰だってわかる」
「……そう……なんだ……」
「責めてるわけじゃない。お前は周りの…特に暁の連中に恵まれたんだよ」
手を伸ばしてそっと頭を撫でれば戦慄く肩が徐々に鎮まってゆく。
「そうでもしなけりゃ女の冒険者が守れるもんじゃない。……まぁ……少し箱入りが過ぎた感は否めないが……。あと、どんな信頼している相手でも男と二人の時は多少高くついても別部屋を取れ。何かあってからでは遅い……今回がいい例だ……」
ゆっくりと、もう一度頭を撫でてやった。
-7-
思い出があふれるように蘇る。
ヤ・シュトラが「サンクレッドには気を付けるように」……と、初めの頃は仕切りに注意してくれた事や……ミコッテは特に同族との性交渉に気を付けるよう優しく諭された事……
リセが戦闘時の揺れや擦れに強い下着を売っているお店に連れて行って一緒に選んでくれたこと……
私やヤ・シュトラが金持ちララフェルに卑猥な言葉を言われた瞬間に何処からともなく現れたサンクレッドがララフェルを連れて消えて、大きな声では言えない内容をして爽やかに帰ってきたこと……
私が適当な場所で着替えようとすると直ぐにアリゼーが飛んできて口を酸っぱくして怒られること……
女性陣の誰かが辛そうにしていると、ウリエンジェがハーブティーを煎れてくれること……
「うん。私凄く大事にしてもらってきてる……恵まれてる」
頭を撫でてくれている手。
でもサンクレッドやウリエンジェの時とは感覚が違う……
なんだろう…安心感より明らかにドキドキする気持ちのほうが強い……
私より少しだけ年上で
凄くハッキリとした物言いをするエスティニアン。
私がわからない事には説明をちゃんとしてくれて、だからこうだったんだと……明け透け過ぎる嫌いもあって、突っ慳貪で誤解されやすいけれど本当は優しい人……
優しくって凄く強い人。
戦闘中にどんな敵が来ようが「この人ならば切り抜けられるだろう」と心から思える1人。
下手をすればそっちをさっさと片付けて私の加勢に来て「こんな敵相手になに手間取ってんだ」と凪払いながら鼓舞してくれる……そんな相棒を異性という目で見たことが無かった事が、今彼を困らせてしまっているのだから……
もし……もしも背中を預け合うように
彼と抱き合ったなら……
大きな身体に寄り添えたら……
その時私は彼の腕の中でだけ英雄ではないただの女になれるんじゃないかとちょっとだけ思えてしまった。
気付いてしまった私の気持ち
みんなの前では言えない
暁の皆に知られず行動出来るこんな夜は二度と無いかもしれない。
喉がひくついて上手く声が出せるのか怪しいけれど、口を動かした。
「お試し…………してくんないかな」
-8-
俺が聞き間違えるなんて事はまず無い。
撫でていた手を引いて流石に腕を組んでしまった。
表情を窺う。
伏せられていた耳が揃ってこちらを向き、俯き加減だった顔も上げられた。
目線は僅かに彷徨っては居たが恥ずかしさ故なのだろう…
「何言ってるのかわからないって訳じゃないな?」
「……うん」
「試すったって、俺は経験者のお前と楽しむつもりだったんだ」
「……うん、わかってる」
「はぁ…………。いいか?一度しか聞かん。……お前の初めてが俺でいいのか?」
「……うん。エスティニアンがいい……」
「…………そうか……わかった」
寝台で立ち上がりそのまま窓枠に手足を乗せ体重を掛ける。軋む音は無い。大丈夫そうだ。
「10分で戻る。それまでに心の準備しとけよ」
立待月はまだ半分も登っていない。
大きく跳躍して屋根に着地した。
酒の入った体に潮風が心地良い。
クガネの街並みが眼下に広がっている。
海側の半分は地上の露天から立ち上る湯気で白んで見えた。
あの量では俺だって酔う事など無い。
此処で10分も風に当たって居れば相棒も考える時間を作れるだろう。
怖じ気付いたり、気が変わったなら今のうちに立ち去れるよう距離を置いた。
これくらいの事で相棒との関係は揺らがない。ただここがボーダーラインだ。お互い齟齬が有ったまま越えたら大なり小なり影響は出る。
「エスティニアンがいい」というあの言葉も仕草も危なかった。他の男には言ったこともない台詞だったろう。その言葉には迷いは窺えず、変わりに恥じらいが含まれていて、もう少し自分が若かったらその場で事を進めてしまっていてもおかしくない際どさを孕んでいた。無駄に重ねた歳ではなかった自分を今回ばかりは誉める。
俺は何が何でも相棒を辞める気は無い。
アイツが手放しで背を預けられる程の男は相棒たる自分なのだから。
……しかし俺より少し年下程度ならば経験の2、3あってもおかしくないだろうに……
と思うも、実際の冒険者がどんな風に男女の営みをしているかなんて興味も無く、考えた事すら無い事にここで気付く。
そもそも俺は性欲の捌け口としてしか女を抱いたことがない上に、もうそこまでガッつくような歳でもない。
つい最近までは復讐心に身を焦がして生きてきただけで、他人なんてどうでも良かった。戦争中は竜を狩ることに全てを注ぎ、人付き合いを蔑ろにし過ぎた。と今なら客観的に思える。
貴族共の抗争は陰険なものが多く、山村出の俺にはくだらな過ぎて、自分の目標の踏み台に利用する以外は出来る限り距離を置いた。唯1人アイメリクを除いては……。
これに関しては今もそれで良かったと思える。俺は俺の思うが儘やるのが向いている。
とはいえ「お前もうちょっとだけ気を遣え……」と俺に説教をして、時には意見をぶつけ合って……腹を割って話せる相手が居る素晴らしさを教えてくれたのはアイツだった。
戦争終盤につれ、他人が思う事や純粋な願いについて、あまりにも自分とかけ離れた行動原理や思考に考えさせられるようになっていく自分が居た。人に限らずニーズヘッグを通すことで思いや願い、それぞれの正義の在り方が相反していても両立する事もあることを知って深く考える日々が増えた。
だから…竜詩戦争後俺は旅に出た。
世界を知り、なにより自分を知るために……
やはり自分には距離感を測る力がまだ欠けている。
「気楽な関係とは難しいもんだ……」
独りごちる。
自分の歪な物差しでは測れないのだろう。
アイメリクに事ある毎に大切にしろと口酸っぱく言われるが、言われなくてもやっている。
そうか……暁は……
内情を知るとどこか家族的に映る……
アイツが強く逞しい家に産まれた1人娘だと考えたら、大切に育てられ、特に性に関しては箱入りになってしまうのは仕方ないのかもしれない……
時間つぶしの筈が、とうに10分を経過していた。
しかし今回ばかりは長いに越したことはない。
この月を見ながら一人酒を呑む事を思い浮かべ、ひとっ跳びで客室の窓に舞い戻ると……
「おそい!エスティニアン!」
寝台の上で正座する英雄に叱咤された。
女ってのは覚悟が決まった時は山のように見えるもんだな。
抱きたいと思った相手を抱くのは
俺も初めてだが……
寝台に膝を付き、乗り上げる。
月明かりに大きな瞳が照り返していた。
相棒の後頭部に手をさし入れ、柔らかな銀髪ごしに伝わる頭部の体温が夜風に当たっていたからだろうか……温かい。双眸を覗き込むように見つめると堅く目を閉じられた。緊張からか長い睫毛が震えている。
「はいっ!さっきの続きどーぞっ!」
……そう言い放って押し黙った相棒。
正座をし、膝の上で握り締められていた拳に力が篭もる瞬間を目にしてしまって、自分の手管がコイツに通用するのか一抹の不安に駆られた……
真一文字切って身構える唇がコイツとの初めてになるのか……と
それでも口づけた唇は酷く柔らかかった。
男女共に公娼はエレゼン族で固められている為、他の種族とのこういった事は経験が無い。とりあえず俺は口紅を引いていない唇のほうがいい。
こっちのほうが断然だ……
上唇、下唇と順に触れてみるものの、この器官の何が自分は気に食わなかったのか……そんな事どうでもよくなる。
全ての唇を合わせると息継ぎの仕方を知らないのか、相棒の手が袖にしがみついて抗議じみた力を込められた。口づけすら自分が初めてだったのかと、ここで気付かされることになる。
はじめ強かった力が、今は縋っている……という強さに抑えられている。慣れてきたか……唇を触れ合わせたまま教える。
「口を少しだけ開け……鼻で呼吸していい……」
呼吸音を確認してからそっと舌先で唇や歯列をつつけば、袖に加わる力がまた変わる。
歯列に混ざる鋭く尖った歯に舌を添わせると、肩を揺らしてピクリと跳ねた。それ程奥まっていない位置にかなり尖っている歯がある。ミコッテ族のような歯はエレゼン族には無い……しかも俺より小さな口だ……口淫は避けるべきだな。させるつもりもない行為が頭を過っていった。
上手く呼吸が出来ないのだろう、先程よりも口が瞬間的に開いたのを見逃さず舌をねじ込む。自ら絡め合わせたくも無かった過去が嘘のように熱く柔らかな感触を楽しんでいる自分が居た。驚いて逃げる小さな舌を捕まえ絡め捕る。
「っ……ン……」
敵と対峙する時に聞こえる荒々しい息遣いとは全く違う声が微かに上がった。
お前もそんな声を出せたのかと、耳の付け根から喉元に向かってゾクリと来て、一度燻ったものに火が点く。
コイツの戸惑いを孕む艶めいた声を聞きたい気持ちが加速して、寝台に着いていた手を腰に回して引き寄せた。
-9-
慣れない息継ぎの仕方に困っていたら、直ぐに気付くものなのかエスティニアンが囁いてくれた……。
今してるこれは大人のキスだ。
頭を支えられて腰を引き寄せられて……
唇だけをあわせる行為でも十分にドキドキするのに、吸われたり舌で探られたりすると、今までにないゾワリとする感覚が背中を駆け抜ける。
今までは闘う時くらいしか横に居ないし、いても一瞬だし、一番長く一緒に過ごした旅の道中でもエスティニアンは人前で一度もアーメットを外さなかった。初めて見た素顔は病院だったかもしれない。
ちょっとだけ感じるお酒の味。
その中に感じる私ではない味。
それが彼の味なんだと思えたら、覚える事へ夢中になっていた。
わたしの鼻先や頬に彼の長い髪や鼻先が微かに掠めるので、少しだけ目を開けてみると、彫りの深い整った顔立ちの彼が瞳を閉じている様が飛び込んでくる。
長い睫毛の三日月が幾重にも煌めいて、彼の広い背に隠れた窓からの明かりが行為の揺れに銀髪を光らせて筋を作っていた。
刺激が背筋を駆け上がる度に息が上がって、人前で出たことも無いような声が出てしまう。恥ずかし過ぎるから出来る限り潜めるよう努める。
唇がそっと離れていく。ちょっと名残惜しい。
今度は首筋を強く吸われて、予想外だったから変な声が出てしまった。今日は慣れない感覚ばかりだ。
部屋着にしているアラミガンガウンの襟元まで唇は滑り降り、彼の銀髪が視界いっぱいに映って頭から清潔な香りがふわりと漂う。思わずその髪に指を差し入れたくなった。
私とあまり変わらない長さの髪…でもエスティニアンのほうがコシがある。頭髪からはほぼ同じ匂いがした。洗い場にあった備え付けのものを使うあたり、私と髪の扱い方は大差無いようだ……それにしても大きな耳だなぁ……
銀髪下からシャキッっと生えている耳。
私のみたいに毛だらけじゃないし、なんと言っても硬さがある。
歯はたてないよう唇でかぶりついてみた。
「っ……」
声が上がった。ちょっと嬉しい……
このコリッとムニッとしてる感じは……鳥軟骨にそっくりだ……そうか……大きな軟骨なんだな……
エスティニアンが顔を上げてしまうから口から外れてしまった。
「案外余裕ありそうだな?」
嬉しそうな顔。
「耳にね……興味あったから……」
「前向きで助かる」
エスティニアンが寝台を降りて床に靴や上着を脱ぎ捨て始めた。
静かな部屋に金属音や衣擦れの音が微かに響いて、窓から差し込む月明かりに照らし出されて隆々と筋肉で盛り上がる上背と引き締まった腰が露わになる。
男性の筋肉は私がどんなに武器を振るっても同じになることが出来ない憧れでもあり、嫉妬の対象に近いのかもしれない。
エスティニアンの筋肉は槍を振るう上半身が主に発達していて、全身を使ってジャンプをするからか脚の筋肉付き方もしなやかで無駄がない……
彼の手が淀みなくズボンのベルトを外し始めたから慌てて後ろを向き、自分も寝台から飛び降りてひと思いにガウンを脱ぐ。
グラスレザーパンツもグッ押し下げて脱いで……私はそこで気づいたのだ……
下着が全く可愛くない……と
長年機能美ばかり追求した結果の上下よ……
「ごめんエスティニアン!可愛い下着じゃないんだ……凄く……すごく地味だ」
だって吸水性が高いほうがいいじゃない?!布面積多いほうが装備とこすれても怪我しないじゃない!?……白状しておけば少しは私の気持ちもマシになるし……
「別に下着とするわけじゃない。ほら来い」
既に寝台の上で胡座をかいているエスティニアンに手招きされ、前を腕で隠しながら近づく。
寝台に乗るときばかりは片手を着くしか無かったけれど、その手を素早く掴まれてエスティニアンの左腕に腰を抱かれたまま寝台に寝かされてしまった。
肌の大半が直接触れ合う。服越しと密着感が違い過ぎて温かくて、恥ずかしい。
さっきの襟元付近に口付けが落ちてくる……そこから肩へ、腕へお腹へとまるで優しい雨のように降ってきて、背後に移動していた彼の左腕が背中の紐の結び目を解き、外そうとしている事に気がついた。
更に7つ縦に並んでいるはずのホックですら、後ろ手にも関わらず順に容易く外していってしまう。
「なんで……なんでそんな器用な事出来るの?!」
「神殿騎士なら誰でも出来る」
当たり前だと言わんばかりの声で回答が返ってきた……神殿騎士団恐るべし……
-10-
こんなに留め金が並んでるもんなんだな……
戦闘中に胸が揺れて痛いとか聴いたことはあったが、成る程こうやってガチガチに固定するワケか……娼婦の下着は男を興奮させる為に着飾って胸を寄せて上げるモノ、それで居て情事に移行しやすいよう留め金はひとつふたつしか無かった。
だが1個も10個も大差ない。留め金を外す毎に未だかと焦れるような気持ちが腹に湧く。肩口の紐に噛みついて引き下ろしその熱量を逃がして居たら生地が肌から浮きあがった。すぐさま腕から引き抜いて畳へ放る。
現れた白い肌と膨らみに相棒は女性だったのだと至極当然の事に内心僅かに驚いている自分が居て……悟られぬよう静かに唾を飲み下す。
はだけたばかりのそこからは何故か乳の香りがして、胸の内側に顔を埋めて吸い上げれば弱い皮膚は直ぐに赤く鬱血した。
相棒の心音が速い。汗ばみ始めた張りのある柔肌をなで上げると、小さな身動ぎに石鹸の香りが混じる。片手に収まるもハリのある乳房にゆっくりと力を入れて掴み、形を変える。堪えるように上がる意を成さない短音。淡い乳輪の中央で張り詰めて主張する場所に舌を絡めて吸えば
「んっ……っ……」
頭上から困惑の混じる切なげな声が小さく上がる。数度拠り所無く引っ掻いたシーツをやっと掴んだのか、そこで力を逃がしているらしい。
声をずっと抑えようしているのもわかる。
それでも耐えられない時にだけ上がってしまう自分の声に恥ずかしがればいい。
どんなに堪えても、全部拾ってやる。
演技のない素の反応に浮かされ始めた自分に気付く。前戯など程々に抱いてきた俺が、声のあがる場所を探す行為に没頭していた。
これは…………新雪の原に……足跡を着ける感覚に似ている。
-11-
わき腹を滑り降りる大きな手がショーツにかけられる。
「あっ……待って……しっぽ穴が先……」
エスティニアンの肩に手を伸ばしてそこに力をかけて半身を捻る。
「ん」
お尻側を引っ張られたショーツの中から尻尾を抜いたら急に掴まれた。
「はうっ……な、なにすんのぉ!?」
「目の前でチラつかれたら触りたくもなる」
「そっか……やっぱりイシュガルドにあまり居ない種族だと珍しい?」
「あぁ」
尻尾を触る手が尾てい骨付近まであがってきて付け根の毛並みを逆立てては戻される。なんでこういう時にここを的確に触れるのか……身体に力が入らなくなる。
「そこ、そんな触っちゃだめ」
包まれた手のひらをすり抜けてエスティニアンの顔にぺしっと当てる。
覆い被さるように居た彼が言葉遊びのように尋ねてきた。
「お前抱かれる気あるのか?」
「……ごめん、ある。続けて……でも、強くしないで……」
お願いしたら、一瞬の間があって何か気に障ったらしく舌打ちをされた。
腰に回された腕で抱き上げられ膝立ちになった瞬間ショーツが一気につま先迄引きずり降ろされて、そのまま視界から消える。多分畳の上だろうな……。
「肩に手まわして掴まってられそうか?」
言われた通りにすると……調度良い高さにエスティニアンの肩がある。これなら彼に近いので矢傷刀傷火傷だらけの身体をまじまじ見られる率も下がるんじゃないか……なんて思っていたら太腿辺りで支えていた手が内股に滑り込んでいた。
「ちょっ!!」
「おい、閉じるな」
慌てて元くらいまで閉じてしまった脚を戻すと直ぐさま唇が奪われた。ゆっくり合わされて直ぐにとろけだす思考……私に口づけをしたまま、そっちにも手を出す気なんだと解ってしまい、やたらに心臓が早鐘を打った。
くちゅと……水っぽい音が耳に届いて、恥ずかしくてもう駄目だと……顔から火が出そうだった。思わず耳を伏せてしまう。私に聞こえるならエスティニアンだって聞こえているに決まっているから。
「ちゃんと濡れてるな」
下唇だけ触れ合ったまま、しれっと言い終わったら直ぐに塞がれてしまう口では反論のしようもない。
弾力まで楽しむようにひたひたと触れられていた場所から割れ目に指が添えられて前後に指が動かされる。私から溢れる体液を長い節くれだった指に纏わせて、恥ずかしい音を立てたまま数回往復されると割れ目を撫でられて居るだけの筈なのに腰が揺れてしまそう。
指が少し強く押しつけられたと感じた瞬間1番弱い場所を剥き出しにされた。流石に刺激が強すぎてエスティニアンの肩に抗議の意味で力を込めたけれど、指の腹でそこを執拗にこねくり回されて膝に力が入らない。
「はっ、エス……ティニあんッ…………」
彼の唇から逃げたら、指の動きがもっと激しくなって、首元にしがみついて与えられる快感の波を儘ならぬ呼吸で耐える。それでも何処にも逃がせない快楽は達することを余儀なくされて、肩をすぼめて堪えようと最後の抵抗をしていたけれど頭が真っ白になって…………背筋からしっぽの先、耳の先まで駆け上がった快楽が弾けて漂っていた。
ぼうっとしてしまう。
汗でぺたりと襟足に張り付いてしまった髪を掬い上げ口付けされて「お前……いい声で鳴くな?」なんて囁かれて、危うく腰が砕けるところだった。
「後はしがみついていろ」
その言葉と共に今一度寝台へ横たえさせられた。
両脚を割られ、膝立ちしたエスティニアンが力強い両腕で私を引き寄せる。脚を掴んでいた右手が離れてから数瞬、体内へ浸入される刺激がついに来た。熱いものがあてがわれ、グッと強く押し込まれそうな感覚。それでもそれは入り口付近で一度停滞して…少しの間の後に、更に強い力で一気に抉られたような……そういう感覚だった。
「う……くぅっ……」
「辛いか」
なんて重い一撃なんだろう……あっという間に脂汗が身体から染み出すのがわかる。
「異物感が……すごいね……じんじんする」
「デカくてすまんな」
そんな言い方ある?って問いただしたかったけれど、年上の美丈夫が眉根を寄せて切なげな顔をするものだから、横暴なのではなく謝罪の言葉だと理解出来て何も言い返せなかった。
お互いの少しだけ上がった息遣いが静かな部屋に聞こえる。さっき好き勝手するような物言いだった筈なのに、私の痛みが退くのを待っているような間。
「なんだかんだ言っても優しい……じゃない……」
「は、その言葉、こっちの状態見ても言えるか?」
後頭部をぐいっと支え上げられて…
視界に飛び込んだ光景に思わず唾を飲み込む。私の身体に比率のあわないモノが突き刺さっていて……鍛えられた下腹部に白銀の陰毛と竿状の一部が目視出来てしまい…思わずお腹に力が入ってしまう。
「っぐ」
彼が小さく呻くと頭が元の位置に戻された。
「十分暴力的だっただろ?」
「ちょっと……忘れられそうに無いね」
「俺もだ」
髪を梳きあげるようにあやされて、啄むような口付けをくれる。
エスティニアンの肌からも汗ばんだ香りがしていた。
暫くドキドキとする互いの鼓動だけが聞こえる時間が過ぎてゆく…
どれくらい経っただろうか。
「動いてもいいか」
彼のブルーグレーの瞳が私を射止める。
目を合わせてからそんな事聞かないでほしい。
お腹の中に直接ダメージが入ったようにきゅうっと切なくなって、今口を開けたら変な声が出ちゃいそうで、首を縦に振って伝えた。
……ゆっくり出て、また入ってくる。
総毛立つ全身に意識が白む。
痛みが折り混じったそれは繰り返しの筈なのに、ちょっとずつ違ってたまに堪えられない声が漏れてしまう。
少し速くなって、少し奥を突かれて…聞こえてくる水音に粘性があって耳につく。
中を擦りあげる場所や速度差で音の種類が増えて、私の中に広がる快感も増えていく。自分の中に彼が出入りを繰り返しているという事実を現実だと気付いてしまうと気持ちは居てもたってもいられなくなって、反射的に耳を伏せて頭を横に振ってしまった。
「……音っ……はずか……しっ……」
「それでっ……興奮するから、……お前の胎内ッ、傷つかずに、済んでんだ」
痛みは薄れ、気持ち良いいとさえ感じ始めている自分が恥ずかしくて、たまに声も押さえ込めなくなりつつあって、自分の変わりようが見えなくて、痛みを快楽にすり替えていく夢中で縋ってた逞しい腕は、今まで相棒と呼んでくれていた一線を超えてしまったエスティニアンで……身体が揺すられる度に彼の吐息や滴る汗や髪の揺らめきが、今凄いことをしているって突き付けて来て…私の下腹がもっと切なくなる。
「お前、ちゃんと、気持ち良いか」
そんな声で聞くのはズルい。自分の声が私にどれだけ身震いを与えているか気付いていない。もう揺すられながら頷くだけで精一杯だ。
「イケそうか」
即答できない!そんなの今考えていられない位に初めての感覚に対応中なんだから
「わかんないっ……ただもう……エスティニアン見てるだけでっ……えっちで、たまんない」
顔は汗まみれで真っ赤になってて、涙目で鼻すら垂れているかもしれない位に熱に浮かされてる。
-12-
相棒に「強くしないで」と尻尾の扱いに注意された筈の言葉と上目遣いが蠱惑的で参った。
抱き慣れた対応で終始行くつもりだったのに、触れる度徐々に乱れ行く姿に興奮が尽きず、息が上がってると悟られないように唇を塞ぎ嚙み殺そうとしながらも結局それは自分に薪をくべただけで、呼応するように上がる吐息や抑えきれなかった声を聞くと、背筋から直結した場所まで、何度も震えあがるような快感が通り抜けるだけだった。
思う儘に抱きたい衝動をなんとか沈めながら繋がるときのとんでもない物理的抵抗感と視覚的な背徳感。今まですんなり入る場所だと思っていた事自体が間違いで、種族を超えたこの行為には狂気を孕む事を全身で感じた。押し返すその入り口をこじ開ける覚悟を決めて、挿ったその場所は痛い程に締め上げてくる。
お試しだと、相棒は言って見せたが…俺には無理そうだ。試しで終わらすつもりはもう無い。
「わかんないっ……ただもう……エスティニアン見てるだけでっ……えっちで、たまんない」
「っくそ…煽るな。阿呆」
ぐずぐずに蕩けた声と表情にタガが外れかける。
命懸けで挑まれた相手。憤怒怨嗟に執着する俺を救い、新たに生きる意味を与えてくれた英雄が初めて曝す情欲の顔。何時もは勇ましく武器を操る細腕が、ただ一心にしがみついて、押し殺した声で俺の名を呼ぶ。不慣れな身体を深く突き上げては辛いだろうと頭ではわかって居るのに、穿てば上がる堪える声、震える睫毛や濡れた瞳、滲む涙まで…俺がそうさせていると考えるだけで身体を思い遣る余裕が薄れゆく。
左肘をつき片腕で自重を支え、右手を己が穿った場所に伸ばし、陰茎がねじ込まれ限界まで引き攣っている薄い皮膚の上で固く張りつめている場所を指の腹で擦り上げた。
「ひうッ……あっ……」
動きに併せて擦り続けると、むき出しの刺激に嬌声が上がる。
「これならイケそうか?」
乱れた髪で頷く応えが返る。
強く弱く繰り返せば、膣は急激に締め上げては、さざめく様に中へと誘う。
結合部からはどちらのものとも最早言えないものが泡立って、打ち込む度に淫猥な音と飛沫を上げていた。
「エスティニアンっ……もっ、もう……あ……!」
「待て、もう少しっ……我慢しろ」
「んっ!んっん……ッ」
着いていた腕を相棒の首元に差し入れて口付けをする。
唇を奪い、歯列に舌を割り入れ、逃げ回る小さな舌を吸い上げた。
膣内のザラリとした一角へ何度も己を突き入れて引き抜く。
俺の腕に相棒の手が伸びて強い力で掴まれる。声も上げられない身体が僅かに跳ねて震えると、中で張り詰めるよう膨らんでいたモノが膣の強い収縮に先導され、何度も長く吐精した。
互いに抱き合ったまま荒げた息が強く速いペースの心音と共に聞こえている。陰茎を未だに搾り上げる膣。これだけ名残惜しそうに蠢めかれては収まるものもおさまらない。
腕に縋りついたままの相棒も力が抜けて少しずつ息が整ってきていた。
互いに前衛職なだけはある。
「流石だな、余裕じゃないか」
「体力的には……へいき……でも、のど乾いた……カラカラ」
「ちょっと待ってろ、水持ってくる」
今日のところはこれで終わりがいいだろう。一応相棒の「試し」なのだから
「っ……くっ」
離れる際、どちらともなく苦悶の声が漏れた。胎内から引き抜いて寝台から降りる。
水を湯飲みに注いで手渡し、同じように自らも喉を潤した。
「ありがと……」
「あぁ」
「違うの……ありがとう」
なんとなく、意味がわかって声を返すのをやめる。
室内は青白い月明かりに照らし出されているのみで、薄ぼんやりとしている。
数時間前まではシワひとつ無かったシーツが完全にヨレきっていた。
「お前、動けるなら風呂行って来い。俺も後から行く」
夕方に干したタオルを相棒に渡す。
視界に入った相棒の肌には明らかな情事の跡が残っていて、露天風呂に首までしっかり浸からない限りは見えてしまうだろう。
頷いて、散乱した部屋着と下着を拾って着ると風呂へと出て行った。ここへ来て難点はコレだったな…と今更気づく。
露天風呂という風情あるものが利用できても、変わりに室内にバスタブやシャワーの無いところだ。幸い宿に客は殆ど居ないと聞いていたので、こんな深夜に廊下や風呂場でも他人と出くわす事は無いと思うが、あまり誉められものではない。
部屋には静寂が訪れる。
先程まで行っていた情事の匂いが微かに漂っていた。
まだ耳元にアイツの声や息づかいが残って居て、思い出すだけで熱が集まって来る。暫くは自慰中に困ることは無さそうだ。自分の吐き出した精液とアイツの体液…混ざり合ってシーツに染みを作っている。それと血の匂い。
自らの指や陰茎、陰毛に付着する赤いぬめり。
これは俺が付けたアイツの傷。
血の量自体はそんな多い感じでは無いが、まさか膣内まで傷付けているのではないかと、快感を前に加減しきれなかった自分を悔やむ。
とてもじゃないが、この上で寝るのは無理だろう。シーツを剥がし木桶で洗い、窓際に干して部屋を出る。手早く風呂に行けば上がってくる時間もそう変わらないはずだ。
-13-
戻ってきた部屋にはエスティニアンは居なかった。多分お風呂場に行ってるんだろう。窓際にシーツが干してある。
そうか……洗ってくれたんだ……と、彼の宿側への気遣いに感謝した。
囲炉裏の椅子に腰掛けて、寝台を見る。座る瞬間、下腹部に痛みが走るが……これはきっと仕方ない。実際は歩くのでさえ丸太を挟んで居るような錯覚を覚える程の違和感がある。そしてさっきしてしまったあれこれを思い起こしてしまう。彼の私を見る目つきや息遣い、逞しい身体に、大きなアレ……
あれ入るもんなんだなぁ……という素朴な感想と、出入りしてる最中に私を弄り回した手の動きを想像してまた下腹がキュッとしてしまう。
ああいう腰使いとか痛みの逃がし方とか……経験者って感じでやっぱり大人なんだなって思うと少し悔しい。私の知らないエスティニアンが彼を形成してきているのだからそれは仕方の無いことだけど…でも今は身内で私しか知らない彼がいる。それだけでもなんかちょっと嬉しいかな。気恥ずかしくて思わず肩を抱く。さっき抱かれた腕はもっと大きくて温かかった……駄目だ……すぐさっきのアレに繋がってしまう。自分の抑えきれないこの浮き足立った状態を机に突っ伏して耐えた。
程なく扉を小さくノックされて返事をする。
静かに部屋へ入ってきたエスティニアンに
「おか……えり」
と呟いた。どんな顔で言えたんだろう。
「あぁ」
机に置いてあった湯呑みに水を注いで飲み干すと、そのまま窓際まで歩いていく。
月はかなり低い位置にある。もう空が白み始めそうな時間だ。
「お前……その……大丈夫か?」
「……うん。大丈夫」
「……寝るか……夜明け迄間近だが、寝ないよりはいい」
「そうだね」
「こっちは使えないから、ちょっと狭いかもしれんがそっちでいいな」
「うん」
そう言うと、この時間まで腰を下ろしてすらいないほうの寝台の上掛けを捲り、さっさと潜り込むエスティニアン。
その一部始終をボーッと見てたら
「なんだ、お前まだ寝ないのか?俺が先に寝たら空きは無いぞ」
「えっ、あっ、それは困る……」
急いで寝台まで駆け寄ったら上掛けを持ち上げ、首で「ほらよ」と言わんばかりの合図を送って来られた。
「お……お邪魔します」
どうしたらいいのかわからず、とりあえず寝台の端で横になり、仰向けで手が当たったりしないように胸の上で手を握り合わせる。
「お前何時もそんな就寝方法なのか……?」
ギョッとしているような声が聞こえた。
「いや……緊張してるだけ……だよ」
横目でチラッと彼を見たら、肩をすくめて迄笑いを堪えていた。
そんなに私の何が可笑しいのか説明してほしいとは思ったものの、取りあえず多少自分の状態がおかしいのは理解したので、墓穴を掘るくらいなら何も言わずに居ようと判断し、諦めて目を瞑る。
朝日が差し込む部屋で、私は大の字で目覚めた。
日の光は偉大だ。短時間だけど寝た気持ちにさせてくれる。今日も1日頑張れそうだ。うーんと伸びをしてハッと気付く。
私は昨日寝台で横になってものの数分で寝たんだと。
「うわ…………」
自分にちょっとだけ呆れた。
それくらいに精神状態がオーバーヒートしてたんだと思うものの、ろくに会話もしないで寝こけた自分をちょっと恨む。
そして…………エスティニアンが居ない。
朝風呂……って訳じゃないよな…部屋には彼の荷物は何一つ残って無い。
ガバッと寝台で立ち上がると、まだ下腹部には広がるような痛みがある。相変わらず丸太を挟んでいる感覚もだ……
これはどれくらい続くのだろうか……
昨日ここであった事は夢ではないと、告げられているようだった。
おなかを一度さすって、更に部屋を見渡すと……
囲炉裏の机に置き手紙を見つけた。
『先に出る。
悪いが石の家へは1人で行ってくれ。
ソウルサイフォンとやらが完成する迄にまた戻ってこい。
全部読んだら燃やせ。』
一応二度読み直して、黒魔にジョブチェンジした。
やっぱり、こういうところがエスティニアンっぽいな……なんて思ってしまって手に集めた魔力を炎に変えて手紙に近づけ……
「んんん!?」
危ない……紙の裏にとんでもない事が書いてあった。
『寝ている間に2度殴られた』
「……うそ」
自分の寝相を恨んで紙は消し炭にした。
宿を出て石の家に戻り、昆布締めにした魚をタタルさんに渡してクリスタリウムにテレポして、今は無心で巨匠の水薬を作っている。そしてヒドロゾアの傘が無くなって作業が止まった。
大丈夫だ、問題ない。
これを全部納品したらコーヒークッキーを作る。材料はいっぱいある。
最終的にリーヴ券を使い切ったら疲労感がどっぷり来て、まっすぐペンダント居住区の自室に戻り、私は泥のよう眠ったのだった。
矛盾のレゾンデートル風に唄えば20210813 了