「矛盾のレゾンデートル」
サブストーリー
なりきりヴァンパイア
サブストーリー
なりきりヴァンパイア
エスティニアン×光の戦士♀のシリーズ作品
「矛盾のレゾンデートル」のお話。今回は短編です。ササッと読めます。
6.2パッチ完走済推奨。サブストーリーって感じです。
今回作中でヒカセンはたまたまノーネームですが、尻尾耳について触れてるので一応オールミコッテ風ではあります。
2024/10/31に追記修正と挿絵を変更しました。
◆◇◆
今日も豊穣海は凪いでいた。潮風に乗って届く波打ち際の満ち引きの音すら風土を体現したかのように緩やかだ。遠くには弧を描く水平線が明瞭に映る。
雲は高くをゆったりと流れ、紺碧の空には一角獣のような紫色の大岩がそびえ立ち、日の光を受け燦々と煌めいていた。
この景色を見ながら流れゆく時を日常というのならば、心もまた海のごとく穏やかだった。
視界を戻し一振り、二振り、と穂先を木人へと向け型を繋げていく様を見る。
サベネア島の北西部にあるゾットの塔の見張りの為に設営されたラザハン星戦士団の天幕だったが、塔の無くなった今も常設状態でそこに在り、今はすっかり簡易鍛錬場となっていた。対ヴォイド戦を想定した稽古の師範役をして欲しいと言われた手前、一応真面目に見てはいるが……
暁のリンクパールが鳴る。
応答するまで相手が誰だかわからないのは難点なのだが、出てすぐ煩わしい可能性はアリゼー位なもんだ。長話になるような奴も居ないのがこのリンクパールを持ってもいいと思えた面でもあるが……流石にこの場で話すわけにもいかない。昼前に鳴るなんて珍しい事も有るもんだ。
余程のことと思い木人を相手取ってる団員に一声かけ少し離れる。
数歩足を進め、海岸に向かいながら応答した。
「出たぞ」
「今ちょっといいかしら?」
「大丈夫だが?」
「エスティニアン。あなたゼロに守護天節を教えたみたいね」
声を聴けばすぐにわかる。相手はヤ・シュトラだった。
今はデミールの遺烈郷で錬金術やエーテル絡みのもの、あとはヴォイドについてのあれこれを錬金術師たちと共に研鑽しているらしいが。
「あぁ。確かに今日エオルゼアでは守護天節だと言う話をしたが?」
「ゼロ……とんでもない勘違いをしていたわよ。トリックオアトリートと言うなり、いきなり首筋に噛みつかれてエーテルを吸われたわ。まぁ……ほんの少しだけれど。あなたどういう中途半端な説明をしたのかしら?」
声からして差ほど怒っているようには感じないが、これは形だけでも謝っておくと角が立たないという場面に該当するのだろうか?サンクレッドならば多分そうするはずだろう。
「それはすまなかったな。こっちの世界の話を案外聞きたがるから、そう言えば今日はと、ふと思い出したので簡潔に伝えたのが良くなかったか……ヴォイドゲートを通って来た連中の仮装をして人を驚かすのもアイツには興味深かったみたいでな。ヴァンパイアについて簡潔に説明もしたぞ。若い女の首筋から精気を吸い取って生きながらえる言い伝えを交えてな……」
「そう……それで私のすぐ横に居た男性錬金術師は相手にされなかったというわけね……合点が行ったわ」
ヤシュトラには確かに悪いことをしたようだったが……それなら夜にでもメリードズメイハネあたりで一言言われれば終わってしまいそうなやりとりの空気感だ。連絡の本題は……多分これでは無いのだろう。
……ならば一体何だと言うんだ?
「良いのかしら?あの人……きっと吸われてしまうわよ?」
「……!!」
「ゼロはデミールの遺烈郷からイェドリマン方面へ徒歩で向かったわ。あの人が最近ヒッポカートの運送屋に協力してるのを知ってるからよ」
暁の連中は、とことんお人好しだ。
この魔女様も相当のな……
「今度謝罪と礼を兼ねて飯でも奢る。貸し一つだ」
「楽しみにしておくわ。アナタが義理堅いのはわかっているもの。それじゃ健闘を祈るわね」
通話は終わった。終話直前のヤシュトラは楽しげで、成程俺がどういう風に慌てふためくか少し見たかったというわけだなと感じ取れた。
まぁそれはもういい。今は急がねばならない。
団員に急用が入った事を伝え、一度高く空へ跳躍する。
流石に無理か。
視たい方角はデミールの遺烈郷を囲む岩壁で情報を得られない。
開けた一本道だから上手くいけばゼロの影がどのあたりを歩んでいるか見えるかと思ったのだがな……
降下しながらイェドリマンへのテレポを詠唱し、着地とほぼ同時に発動させた。
◇◆◇
「うーん」
困った困った。
腕を組んで考える。何か妙案は無いかと。
さてどうしたものか……
木箱2つ分の腐りかけの魚類。
「悪いねぇ…私らが忙しいタイミングでアキャーリから持ってきてくれてたんだろうねぇ……調理しながら生返事したもんだから、気付いたら時間が経っちまっててね……日なたに2時間くらいは置いてしまったと思うんだよね……」
とんでもなく申し訳なさそうにうなだれているのは、料理屋のアルカソーダラ族の2人。
互いにどっちが悪いと言い合う事も無く、ごめんね、ごめんねと謝っては、木箱の上で半分痛み始めた魚を見つめていた。
命をいただく食事という行為に対し、食材となった生物への感謝を忘れない心は、何処の料理人も一緒なのだ。
彼らの心の痛みを、少しでも減らせる解決策は無いものかと……冒険者として培った知恵を総動員してみるも、魚粉的な畑の肥料しか咄嗟には思いつかなくて、長年の冒険者生活にそれだけか?他にもあるんじゃないか!?……と知識の引き出しを片っ端からひっくり返す……
「何を唸っている?」
顔を上げれば、涼し気な顔でゼロが立っていた。
ひらめいた!
もうそれは多分今一番この場を丸く収める方法!
「ゼロ~!良い時に来たね!今からお魚を試食してもらいたいんだ!いいよね!?」
嬉し過ぎてゼロの両肩をガッシリ掴み、鼻息荒くまくし立ててしまったが問題ないだろう。
ゼロは珍しくあからさまに困惑しているが、こういう展開に慣れていないだけだ。きっと。
私もあまりこういう強引な展開はしないのだけれども、今回は勢いも大切だと思うのでグイグイ行こう。
「この木箱に入ってるのは食材なんだけれども、最初にリンゴを食べた時みたいに、エーテルを吸う感じで試食して欲しいんだ。お願いできるかな?」
「……?あぁ。ではその方法でいただくとしよう」
ゼロの手が木箱にかざされる。
「木箱に入ってる魚のエーテル、全部吸っていいからね」
「…わかった。全部だな」
みるみるうちに骨と皮だけになった魚が木箱に干からびきった木片のように、ころころと残っていた。
アルカソーダラ族の2人は「うわーー!!」と大きな両腕でお手上げのポーズを取ると、悲鳴半分変わりゆく魚を見つめて喜んでいる。
「助かったよ。有難うゼロ。ねぇ、本当に味は無いの?」
「エーテル固有の感覚というか、ざらつく感じや、粘り気のあるエーテルもあるにはあるが これはそうでもない……事実私は味覚に重きを置いていないからな。以前も話した通り、味へのこだわりは無い」
「そっか……お礼になんか美味しいものでも食べてもらおうかと思ってたんだけど、うーん……」
「ここへはお前に用事があるから来た。腹八分目を超えてしまうが、たまにはいいだろう。トリックオアトr」
「待て!ゼロ!」
聞きなれた声が頭上から飛び込んだ。
声の主は地面へ綺麗に降り立つと、私とゼロの間に割り入る。
口元が半開きのままでゼロは不思議そうに首をかしげて見せた。
「なんだ?お前に聞いた言葉を唱えてからエーテルを貰って喜ばれる祭りをしていたのに」
「俺の説明不足だった。だから訂正に来た。その言葉を唱えたからと言ってエーテルを吸って良いわけでもなければ、ましてや喜ばれる祭りではない。誤解させてすまなかったな。今から改めて説明しよう」
その言葉を聞くと口を閉じたゼロは頷いていたが、2人のやり取りは正直なんの話なのかサッパリで私が首をかしげる羽目になったのは言うまでもない。
◇◆◇
まさかエスティニアンが空から降って来るなんて思わなかったからなぁ~
彼が何処から飛んでこようが正直今更驚くことでは無いのに、やはりそれでも心は踊る。
イシュガルドへ立ち寄った際アイメリクと話すとエスティニアンの話題になることは多く、激務の合間のお茶休憩に「ほんと困ったヤツだよ」とこぼす言葉から、離れているこの時も大切な相手なのだと労りが伝播し、それに気づいて微笑み返してしまう自分も幸せになってしまうやり取り。
そこでさっきの出来事を思い出し反芻し、ふと横を見上げれば「お前思い出してるな?」と言わんばかりの目線とバチッと会う。それが面白くてまた笑ってしまう。
ゼロは守護天節の早とちりを謝罪しにデミールの遺烈郷へ立ち寄ると言って別れたので、今はエスティニアンと二人、ラザハン迄帰って来て部屋に入ろうとしているところだ。
手土産に出来立ての料理を何品か持って行ってもらった。これで根を詰めがちな遺烈郷の錬金術師達も笑いながらひとやすみしてくれたらいい。
エスティニアンがヤシュトラに怒られている姿を見たかったとは思うものの、その後訂正の為にすっ飛んでくるなんてなかなかの展開でこれは次アイメリクに会った時の土産話にしようと思えた。
なにより、言葉足らずでもゼロに教えたという、彼がまたひとつ人らしさを手に入れた事が嬉しい。
喜ばないとは思うものの、私からお菓子をあげようかなと思う。
「ねぇエスティニアン。守護天節用にグリタニアで貰ったクッキー持ってるんだけどさ、一緒に食べない?夕飯前に珈琲で一息って感じでさ!」
「あぁ、そうだな。貰うとするか」
夕映えの渡り廊下に伸びた二つの影が植物の描かれたレリーフに重なっては途切れ舞い踊る。
風は優しく吹いていた。
◆◇◆
相棒の部屋に通される。
自分が与えられた客室と然程変わらぬ作りになっており、迷うこと無く扉横の武具置き場に槍を立てかけた。
彼女も手荷物を置くと、湯を沸かす為に水差しの水を銅製のケトルへ注いでいる。
簡易型のコンロへかけると、そのまま茶器やら菓子をテーブルへ並べ始めた。
所作をこなす襟足から続くうなじに、ふと目をやる。
前に流れた毛束を指先で後ろに梳いて払う仕草に目を奪われながら、ソファーへ腰を下ろし手招きをした。
この星を救った英雄とは思えぬ、あどけない表情で寄ってきた彼女は少しだけ興味深げに首をかしげる。
表情の裏には、剣線の一振りで絶命させる無慈悲さも有ることを知っているからか、無垢にも映るそれは危険な輝きだ。
あらわになった首筋は贄として差し出された獲物のようで、相棒の後頭部に手を差し入れ、引き寄せる。
バランスを崩して前に倒れ掛かりそうになった身体を反対の腕で受け止めると、少し慌てた様子の声が上がった。
「どうしたの急に!?」
「湯が沸く迄だ」
「……ん、もぉ……」
晒された滑らかな首筋にそっと口付ける。
それだけで彼女は強張り、尻尾の付け根から先に向かってぞわぞわとした刺激が通り抜けている様が視界の下でよく映った。
「ひっ…くぅ!」
水揚げされた魚のように動く身体を両腕で固定するのは容易く、うなじを吸い上げ舌先を皮膚に当て軽く音が出る程度に更に吸い上げれば、耳は羽ばたくように動いて伏せられた。
室内に七色の虹彩が散らばる。
肩当てに触れた相棒の耳飾りが窓辺に刺す名残の斜陽を乱反射させていた。
「ちょ……っ……!」
自分はこの行為でエーテルの供給を受ける事は無いが、お前がゼロに食われるのだけは嫌だったのだと思い知る。
これは多分……独占欲だ。
今後の旅路でどうしてもゼロにエーテルを渡さねばならない事態が起きようものなら、俺のを優先でくれてやるし、コイツのを渡さねばならない戦局ならば手渡しでやってもらいたいとすら思う。
この気持ちは不可思議でいて、実にらしくない。
有り体に言えばとんでもなく面倒な男だなと、少し可笑しさまで込み上げてくる始末だ。
「おかげでゼロに今後も優しく接してやれそうだ。感謝する」
薄く唇を離して発した言葉の後、もう一度口付けて少しきつく吸う。
首筋に性感帯がそんなにあるとは思えないが、うちの相棒がやたらと弱い事だけはわかっている。
「なんでそこでゼロが?わかんな…んん!」
抱き寄せた腰回りからビクリと動かれるたび自らにも興奮が沸き起こる。
相棒が堪えながらも漏らす吐息を耳が拾えば、胸はにわかに高鳴った。
「おい、あんまり挑発してくれるなよ?夕飯に出れなくなるぞ」
胸元に添えられていた筈の相棒の指先が、ひたと首筋に触れた。
殺意も無く、一息で首元へ。
「もう…エスティニアンの鎧、ゴツゴツしてて手上げにくいんだから……」
何をするというのか……
俺と比べれば小さな細い指とは言え、日々武具や工具に農具迄使い分ける指先の皮膚は固く、喉元を滑られれば本能がビリリと危険を感じとる。
こんな急所、信用の無い奴には触らせたくもない。
強化が困難であり、首の長いエレゼンにとって弱点にあたる部位だ。
縊り殺せずとも、ここを落せば身体など数秒で動きを封じれる。長くて短い嚥下のさなか喉が相棒の親指の腹で上下し、一瞬だけ強い眼光と交わる。
「んぐっ……おまえ……」
「うっ、ペペっ!砂舐めちゃったや。エスティニアン、珈琲呑んだらお風呂入ってからメリードズメイハネ行こうね、あとなんかしょっぱいよ?」
見計らったかの如く、ケトルから蒸気の溢れだす音が漏れ始める。
スルリと緩んだ腕から抜け出してしまう相棒。
絶対口付けされるものと思った俺が馬鹿だった。
……が
表情は背後からでは伺えなくとも、お前の顔はきっとそこのケトルと変わらない状況なのだろう?
「まったく……今夜は酒も程々にしとけよ。戻ってきたら……わかってるな?」
「うわっ!もう……。今豆蒸らしてるからっ。クッキーは大きいから1枚ずつでいいよね?」
「あぁ」
珈琲の焙煎された香りが鼻孔をくすぐる。酸味と苦みが今にも感じられそうだ。
円を描きながらケトルの湯を豆床に注ぐ彼女の姿はもうケロッとして、いつも何でも出てくるカバンから、ごそごそとクッキーを取り出した相棒に観念して、ソファーから渋々腰を上げテーブル席へと移動した。
蔓で編まれた小皿にはカボチャのランタンが型取られた大きなクッキーがこちらを向いて笑っている。
言い伝えでは、今日の地上は聖人たちの加護が弱まって居るらしいが、固く門扉を閉じて魔物を締め出しても、そこでは俺が魔物になるか、アイツが魔物になるかだ……
かじりついて噛み締める。一筋縄でいかない相手と過ごす守護天節の夜も悪くない。
2022/10/31了 2024/10/30一部修正追記&挿絵変更