暁月メインストーリー6.2パッチをクリアした方向け。
短編です。サラッと読めます。
一応前作「たまには」ではサンクレッドと吞んでますが、今回は表題のとおりヤ・シュトラとです。
お友達の漫画にコラボさせていただいて描いた漫画の更に続編にあたる感じですが、この小説のみでも問題なく読めると思います。
一応その漫画がこちら。
ヒカセンネームレス。種族も性別もジョブもあやふや設定です。
◇◆◇
星戦士団の稽古指導へ顔を出す生活にも慣れた。
頃合いを見て切り上げ、自室へ戻って軽い運動をして汗を流したら身を清め、軽装に着替えた後はメリードズメイハネで夕食と共に一杯ひっかける流れが出来上がっている。
今日はナスの中にひき肉を詰めた料理と、アームラの実が入ったサラダ。酒のつまみはカラマラキア・ティガニタ……だったか?
文字を見ればやっとピンとくるようになっては来たが、そらで料理の名前を流暢に言うには程遠いもので、まだ暫くかかりそうだ。
サベネアンカラマリをブツ切りにして、荒く挽いた麦の衣で揚げたというコレは、やたら美味い。
ここの酒は緑色の果皮が特徴のライムを搾り入れるが、こいつには黄色い果皮の、昔から馴染みのあるレモンを搾る。
渋みや酸味の違いを利用し、料理の用途によって使い分けている事にこの歳で気付かされた。
カラマリのフライは揚げたてを口に含み噛みしめると、滋味を弾力を以て伝えてくる。
鼻にはレモンの酸味を伴う爽やかさが抜け、酒を一口煽ると咥内の油分を推し流せるうえ、喉越しまでさっぱりして美味いという……まぁ、とんでもなく酒が進んでしまう組み合わせが出来上がるわけだ。
耳元の暁のリンクパールが鳴る。
この時間に連絡を寄越すのはアルフィノかアイメリク、あるいは相棒か、もしくはサンクレッドあたりだろう。
「でたぞ。なんだ?」
「サンクレッドだ!すぐ出てくれて助かった。お前、この前のヤシュトラの話、あれ黒歴史だったみたいだぞ……そうとは知らずトゥルルアワワってさっき言っちまった。多分あの感じじゃあ今日中にそっちへ戻るかもしれないから一応先に」
「すまん。もう目の前に居る……また連絡する」
かかってきた連絡を一方的に終わらせた。
切断間際に何やら言っていたが、とりあえず後でこちらから連絡すれば問題なさそうだ。
姿勢良く、脚運びもいい。黒いスカートの下に黒いハイブーツ。流石自ら魔女とは言ったものだな。
目線を上げれば、深緑の羽根飾りが揺れる淡い瞳とぶつかる。
「ちょっといいかしら?」
「ああ、まぁ座ったらどうだ。酒はボトルにたっぷりある」
手を上げ給仕係を呼び、追加のカップとカラマラキア・ティガニタを一皿頼んだ。
氷の入ったカップとライムが運ばれてくる。
テーブルに置かれたそれを手に取り、対面の椅子に腰を下ろしたヤ・シュトラへ声をかけた。
「酒の濃さはこのままだとロックだが大丈夫か?」
「ええ有難う。それで大丈夫よ」
「ライムはどうする?絞っていいなら入れるが?」
「それじゃあ、お願いするわ」
ボトルから注いだ酒にライムを手持ちのナイフで半分に切ってから絞り入れる。マドラーでぐるりとひとつ混ぜて、ヤ・シュトラ側に差し出した。
「出来たぞ。ここの酒は少し強いから、濃かったらソーダ水でも頼んでくれ」
「ええ……ありがとう、いただくわ」
カップに伸びた手が女らしい所作を伴って口元へと運ばれる。
静かに一口、二口と飲み干されて、彼女はロックでも案外問題なく飲めるという事はわかった。
「こっちのつまみも食べて良いからな。もう1皿そのうち来る」
皿をテーブルの中央へ置けば、ヤ・シュトラはゆっくりとそちらへ手を伸ばし、フライを摘まんで口元へと運ぶ。
サクサクという音がして、彼女の耳が僅かに動く。酒の入ったカップを傾け、口の中の酒を喉に流し込むと、美味そうな表情をしていた。
それを見て自分も皿の中からひとつ摘まみ上げ、口へと運ぶ。小ぶりなサイズだったので一口だ。
指先に付いた衣を舐めとって、酒を飲んでいたら、盛大な溜息が向かいから漏らされた。
「すっかり出鼻を挫かれてしまったわ。貴方、案外気配り上手だったのね。それとも、こういう席に慣れているのかしら?」
両手でカップを挟み込んでもミコッテ族には大きいサイズに映るうえ、こういった席での彼女に正直慣れて居なかったが……やはり見つめている筈の目は色素があまりにも薄いからなのか、互いを見ているという感覚を受けない。
「イシュガルドでの癖だな。気に障ったか?」
「そっちはそういう文化なの?」
「いや、相席したがる女共が渡してくる酒に、どんな混ぜ物がされてるか分からんから、奢ってでも自前のを注ぐってだけさ。くだらん抗争に巻き込まれたくなくてな。女の後ろには俺に付け入りたい貴族が五万といたのさ」
「ふふっ、貴方らしいわね」
「で?どうした?たった今サンクレッドからお前の魔法が黒の歴史だったとかという、的を得ない話をされたが……?」
ヤ・シュトラの目が大きく見開かれた。
「貴方、黒歴史って言い回しを知らなかったのね。きっとエオルゼアでも三国側の俗語なんだわ……てっきり共用だと思っていたけれど、長く人の往来を閉ざしていたイシュガルドには伝わらない事もあるし、またその逆もあるのも面白いものよね。そうね……それなら一献頂戴するお礼と言ってはなんだけれど、意味を教えておくわ。黒歴史っていうのは、今のその人からは想像もつかないような幼稚な出来事だったり、とんでもない失態を示して概ね揶揄する言葉なの」
「……ほう?」
「だから……その……トゥルルル、アワワ~という詠唱を挟み込んだのは、私の失態だって事。ノッケンを使い魔とした詠唱の書き直しは出来ない。いいえ……出来ないわけではないのよ。出来るわ。それでも幼かった私が思い描いたノッケンではないノッケンが構築されて使い魔になってしまう。思いを魔法に換えるということは、そういうことなのよ。幼少期の私を恥ずかしく感じたとしても、当時の私が魔女マトーヤの元で学んだ日々は否定出来ない。その日々の積み重ねがあったからこそ私は此処にいるのだから」
「……」
「今の説明で伝わったかしら?もう一つ、あの時の話を蒸し返すようだけど、別に変なものを食べたわけでは無くてよ?」
「そうとは知らず悪かったな。俺はてっきりサンクレッド達は知ってるもんだと思って、俺も見たぞという意味合いで話してしまった。すまない事をしたな」
「大丈夫よ。貴方が人の弱みを握って楽しむ様な人ではないことくらい、元よりわかっているもの。知られたのがサンクレッドだったって事にちょっと問題があるだけ」
「なんだ?アイツはそんな困ったような奴じゃないだろう?」
「わたしとサンクレッドは長い付き合いだから……ふたりの時は少しだけ若返ったような気持ちになるわ。案外くだらない事が発端で口論にもなる。勿論その分時を重ねた互いを笑いあうのだけれど……貴方にも居るじゃない?そういう相手が」
ヤ・シュトラの声の言葉尻がメリードズメイハネの舞台で舞う踊り子達の曲が終わったことで、鮮明に変わる。
カップの酒に口を付けなくなった事から中身が空だと見計らい、ボトルを持ち上げ、呑むか?という仕草をして見せれば、頷いてカップをこちらに寄せて来た。
中の氷はまだ大きさもある。そのままそこに酒を注ぎ入れた。
テーブルに置いてあったもう半分のライムを自ら絞り入れた彼女を待って、今度はマドラーで自分がひと混ぜする。
互いに無言だが、流れるように進むその作業に、今一度彼女の目を見ても違和感もなければ、むしろ下手な相手より余程タイミングが合うことに驚く。
「失礼ついでで尋ねるが……お前の目は見えていないんだろう?最早自白されない限り、認知出来んレベルだ。常人なら誰も気付けやしない。しかし習得には魔女と云われるお前だとしても、相当の苦労があったんじゃないのか?」
その問いに対し一口酒を流し込むと、フライをひとつ摘まんでヤ・シュトラは答える。
「そうね……失明したとわかった時は流石に意気消沈したわよ?ナナモ女王暗殺騒動の際、あの人達を逃がす為、追手ごと下敷きにするつもりで地下水道を崩壊させたわ。それでも振り切れなかったから、最後の手段でエンシェントテレポに手を出して……今思えば、他にも手段があったのではないかと思えてしまうけれど、あの時の私にはあれが最良の手段だった。今思えばまだまだツメが甘かったわ。半分は失敗しているのだもの……それでも地脈から救い出されて、失ったものが視力だけだったと前向きに捉えられたのは私の性分でしょうね。エーテルで視界を代用する事に気付いた時、既知の中からの未知に繋がる連想が溢れだしてね、私の知識欲が新たな地点に達したの。視力では見えなかったものを見れるようになった事がこの世界への探求心をより高めたわ。……ただし、無意識化で調整が出来るようになるまでは何年もかかったのだけれどね」
「イシュガルドでお前と会った頃の記憶が殆ど無いのだが、まだ傷が癒えてなかった頃だったんだな。どうりで魔女というイメージが当時の俺に残っていないわけだ」
「可憐な暁の女性陣側に加えて貰っていたのであれば、今となっては光栄だわ」
肩を揺らして笑えば深緑の羽根飾りがひらりと揺れる。個人的な話をあまりしたことも無いヤ・シュトラとそうやって言葉を交わしているうちに、追加で注文していたカラマラキア・ティガニタが運ばれてきた。
「お待たせいたしました。よろしければこちらのソース、使ってみてくださいね。特製レモンタルタルソースです」
「美味そうだ。世話になるな」
感謝の意を伝えれば微笑まれ、同時にアイスペールとライムを2つ置くと給仕が一礼して去っていく。
「揚げたて、とっても美味しそうだわ」
「あぁ食えよ。その為に注文したんだ」
互いに新しく来たばかりのフライに手を伸ばし、普段は添えて出されないソースを掬い取って口に入れる。
これも美味い。
酸味が消されているのに、鼻にはしっかり柑橘の香りが抜ける。かなり美味いな。
そう思いながら酒を傾けて居れば同様に酒で流し込んでサッパリした顔のヤ・シュトラが嬉しそうに語りかけてくる。
「にしても貴方、本当にカラマリが好きね」
「俺もイシュガルドから出奔しなければ知らずに一生を終えていたかもしれないな。生きる為の……日々をやり過ごすための飲食しか知らなかった俺に、味わう、楽しむという飲食の在り方を教えてくれた。暁にはそういう意味では感謝しなけりゃとは思っているさ」
「貴方がそんな言葉をいうだなんてね……私だって貴方には感謝しているわよ?アルフィノ様を支えてくれて有難う。それと、あの人を支えてくれて有難う」
酒を呑みながらもスルリと吐き出された言葉に一瞬、胸が熱くなる。
それは俺が感謝する相手でもあるのだから。
「俺はアイツらに命を救いあげられた。だからここにいる。俺こそ感謝する側だ。それだけさ」
その言葉を聴いて、白い耳を僅かに動かして微笑んだ彼女はカップに落していた目線をゆったりと上げて天井を仰ぐ。色とりどりのランプの灯りを酒に潤んだ瞳が吸い込んでいた。
「そうか……その目の雰囲気はオパールに似ているな。やっとピンとくるものが降りてきた」
顔をこちらに向き直したヤ・シュトラが破願する。
「貴方には、私の目がそうやって映るのね……ありがとう」
なんだ、案外普通に笑えるじゃないかと酒を傾けながら思っていたら
「そういうセリフ。貴方あまり言っては駄目よ。勘違いする相手が山ほど居るわ。あの人が悲しむような事は嫌よ。でも……うれしいわ。こうなった目を見てもまだ、宝石に例えてくれた人は数える程だから」
「そうか……まぁ、気を付けよう」
「肉眼で貴方を見ることは叶わないけれど、皆の話を聞く限り相当の美丈夫なのでしょう?あまりあの人をヤキモキさせないで頂戴ね。どちらかといえば風来坊同士の根無し草みたいな2人がそんな関係だという事自体が不思議でならないのだけれど、幸せであってくれて、私へ火の粉さえ飛んでこなければ大人同士ですもの、好きにすればいいと思うわ。実際、旅の間もちゃんとわきまえて居てくれていた事にも好感を持っているわよ?」
「…………」
口を噤む。危うく口で咀嚼中のフライごと吹き出すところだった。
やっぱりか……コイツも黒。
ヤ・シュトラは穏やかな表情のまま、目の前のボトルをに手を伸ばすと、カップの半分ほどまた酒を注いだ。あなたもどう?という仕草をされたのでこちらのカップを持った手を突き出し、そのまま注いでもらう。アイスペールから氷をトングでつかみ取る所作も、ライムを絞り入れる際に汁が飛び散らぬようふわりと手で囲いを作る仕草も、マドラーでかき混ぜる指先まで、良く見れば一番暁で女らしい仕草振舞いだった。
「自身のエーテルが他人の身体を巡る様子ってね、興味深いものなのよ。癒した時のエーテル、ゼロに吸われたときのエーテル。同じ筈なのに全然違うの」
「……ふむ」
「貴方のエーテルも、あの人のエーテルも、互いの身体を巡っているときは少し違う雰囲気なのよね……感覚的にではなく、もっと論理的に解明出来れば面白いのだけれど……ふふ、焦らないで頂戴。これは今のところ私だけが見えてる私専売のお楽しみなのだから」
「やれやれ……全部筒抜けか……おまえには余程の事が無い限り逆らわないと肝に銘じたからな……」
大きなカラマリを皿から摘まみ上げ、少しだけ自慢げな表情で食べる姿に、サンクレッドが言っていた「勝てない」という意味を思い知る羽目になった。
2人でつまんで居ればあっという間に皿は空になる。
「とてもおいしかったわ。1品しか食べていないのだけれど、夜中の小腹にはこれで十分ね、ご馳走様」
「このくらいだったら遠慮なく一緒に飲み食いしても構わない。暫くはこっちで滞在する者同士だしな」
「やっぱり……オールドシャーレアンへ向かった旅の初めより、貴方友好的になったわね」
「まぁ、独りを好むのは今も変わらんが…...他人と理解しあう為には、共に過ごす事も方法の一つだと知っただけさ」
その言葉に思うところがあるのか、彼女は目を瞑ってカップを空にして席を立つ。
「それじゃあ、貴方の大好きな手合わせでもして解散としましょうか?」
今何と言った……?
危なくテーブルから肘を滑り落としそうになる。普段お堅そうなヤ・シュトラからは、そんな提案が上がるなんて思いもよらない。
……素面そうに見えて、実は思ったよりも酔っているのか?
こちらも喉を鳴らしてひと思いに酒を流し込んで、ゆっくりと立ち上がる。
ふらつく感じは無い。問題なく立ち回れそうではあるが……
「こんな酒が回った時じゃなくてもいいだろうに。珍しい誘いもあるもんだな」
手を挙げて給仕係に退席を告げ、ご馳走様と2人で歩きだす。
「こんな時だからこそ手合わせをするのよ?酒の席への襲撃で、確実に動ける仲間は多い方が良いでしょう?」
「経験談から来る特殊訓練というわけか、さて何処に行く?……」
街の外へ飛び出したあとは、夜風に吹かれる程度で済まないほどに白熱し、砂浜を陥没させ、海を凍らせ雨雲を切り裂いては地鳴りを響かせ、水柱や大波を立てまくっていたら、ヴリトラがすっ飛んできたところで決着はつかないままお開きとなった。
エスティニアンはともかく、君までとは……と、ヴリトラに言われたときのヤシュトラの顔と来たら…………良いものを見たんだろうな。
2022/10/05 了
ヤ・シュトラと二人きりっていうのが、まずなかなか作りづらい展開だったのですが、原作側メインストーリー上で沢山絡ませていただけた事により、一緒に吞ませることが叶いました。有難うございます。
そして6.1パッチでサベネアン・カラマリを追加していただけた事により、イカ料理が増えました!!わーーー!!
エスティニアン、イカだよーー!!(ハァハァ
推しに美味しいものを食べてもらうのは幸せですね。
前作「たまには」でもそうだったんですが、美食家でもないエスティニアンは事細かに美味さを表現しきれないけれど、美味いって事だけは伝わるように言い回して、文章を書くのもなかなか面白かったです。
原作プレイ中はでは後から暁に加入した彼と、古株のヤ・シュトラが会話をするシーンはやっぱり嬉しいのと、IDでエスティニアンがどれだけ被弾してもヤ・シュトラがバリバリ回復入れたげてる様子を見てたらニヤニヤが止まらなくて死んだりして…いや美味しいです。
ほんとフェイスシステム楽しい!!有難い……。