矛盾のレゾンデートル
緋汐海の可惜夜(後編)【R18】
緋汐海の可惜夜(後編)【R18】
エスティニアン×光の戦士♀のシリーズ作品
後編R18部分です。
先行でオンラインイベント内展示しましたが、本日より通常公開状態になります。
今回のお話には挿絵がありますので一応背後に気を付けてどうぞ!
本文挿絵ともに加筆修正してのアップとなります。
◆
柄にもなく、こんな瞬間を大切だと思える日が来るなんてな……。
相棒の肩を引き寄せ、石畳を蹴る。跳躍に合わせ相棒の手がシャツをしかと摑む感触にほくそ笑んでしまいそうな自分をいなした。
竜詩戦争中の自分なら、今の感情は到底理解出来まい……。
やはり少し複雑な気分だ。
こんな時は黙っておけばいい。そう……俺にはこれぐらいがまだ丁度良い。
エーテライトからバルデシオン委員会の建物はそう遠くもない。
軽い跳躍一度で届く。月明かりのなか青白く映し出されたテラスへ足先から静かに降り立った。
このまま……彼女を放さず、両腕でかき抱いてしまいたい衝動に駆られるが、そんな妄想はすぐさま霧散させる。
それは流石に……あまりにも身勝手というものだ。
もどかしい感情の自分と離別する為ゆっくりと息を吐き出し、腰を抱いた手を意識的に緩める。
たった一瞬の遅れ……違和感などなかっただろう。
するりと距離が空いて、彼女の消えた小さな隙間は冷たく感じる。
第一世界製の鎧が温い筈も無いのに……。
「それじゃ私、バスルーム行くね。好きに寛いでて」
目で頷き返し見送れば、部屋に残った俺の出来ることなどせいぜい茶を飲むくらいだろう。
茶葉の入った缶に手を伸ばす。
勝手知ったる動きが叶うのは、割り当てられた自室と何もかも同じだからだ。
扉の向こうから金属音が僅かに届く。耳を澄ましてやっと聞こえる程度の小さな音。アイツの身体を守っていた装備が数日ぶりに外されていることがわかる。
「……」
また俺の手が届かない場所まで行かせてしまった。
しかも今度はたったひとりでだ。
途中からサンクレッド達が合流したものの、いざ残った側の俺は待つ身の歯痒さを存分に味わった。
あまり深く考えないよう雑務をこなし、出来る限り忙しく過ごしたと言い換えたほうが余程近い。
アイツの帰りを待つ事が辛かったことなど今迄無かったのだ。
月へ行くなんぞ考えたことも無かったが、俺には第一世界とやらよりも肉眼で認識できる既知の場所なだけまだ腑に落ちはする。
とは言え……やはり理解の範疇を軽々と越えることが頻発し過ぎだ。
分かたれる前の世界から繋がり続ける因縁と最早切っても切れない渦中に俺達は居る。
「……」
月は雲一つない空へ高く昇り、満月だからやたらと明るい。
あそこに大昔の人類半数が贄になって創られたゾディアークなるものが封印されてたことも、それにまつわる細々とした事も正直よくわからん。
俺がわかるのは、相棒がそれを倒して戻ってきたということと、あのゼノスが一旦行方をくらまして、またアイツと命がけの勝負の舞台を整えるための何かを探しに失せたということだけだ。
ゼノスが単独行動になったのならば、行動原理的に不意打ちや汚い手口は使わない。
最高の舞台と戦いに生きざまと死にざまを探す狂人だ。
ひと安心などとは思うべきではないが、これでひとつ気がかりは遠ざかっただろう。それでもだ……窓辺に浮かぶ月を睨むが何の意味もない。
歯痒く煮え切らず癪に触るのは、この短期間で共に在り過ぎたから起きている贅沢者の恋煩いと言えば響きもマシか……
気付けば扉の向こうからの物音はしなくなっていた。
今一度旅を共にして、改めて相棒は気の回るヤツだと感心したもんだ。
俺より人と接してきた時間が長いからか、短時間で相手の言わんとする事や意図を汲み取っている。
何故そうだとわかるのか……と、俺が感心していれば、それを横目で見ていたアリゼーに「アンタだって出来てるわよ。たまにね」と勝ち気に言われたりもする。
その光景に遠目で気付いたアイツはこちらを見て顔を綻ばせて柔和な雰囲気を纏う。
機微に気付き積み重ねる度、確実に人を見る目を肥やせてはいるようだが、まだまだだろうな……。
「はーっ!サッパリした!月にはシャワーなんて無かったからさー。やっぱいいね!」
相棒が烏の行水でバスルームから出て来たが、自分はただ茶缶を握りしめていただけで、紅茶ひとつ煎れちゃいなかった。
「ん、飲むの?ちょっと待ってて、今お湯沸かすね」
「いや、また後にするさ」
窓の外に浮かぶそこへ自分が行かなかったことを後悔するな。
あれが最善だったと、アルフィノとアリゼーの事も考えたら尚更と思う心の片隅に、何故一緒に行かなかったかと問い正す自分も居るが……もうならんものはならん。
石張りの床に点々と水滴が落ちる、湯上がりで濡れたままの髪。
普段はゆるく波打つ柔らかな長髪は、しっとりと落ち着いていた。
首にかけたタオルは色濃く濡れて、余程いい加減に拭き上げて直ぐさまこちらの部屋に戻ってきた事もわかる。
「それじゃ……テラスの窓だけ閉めさせて?……あとカーテンも」
そう言って淀みなく終えても、こちらへ戻っては来ない。
ベッドの横で足を止め、髪から滴り落ちる水分をタオルで拭きながら
「……そっちのほうが……いい?」
と……普段迷いなど微塵も見せない闘いかたをする瞳が、そぞろに惑う。
それでも声色は穏やかで、誘う言葉としては十分過ぎた。
「あ……服……濡れちゃうよ?」
ソファから立ち上がり、数歩先の彼女を抱き寄せた。
もぞもぞと腹のあたりで動いているが、そんな事など構うものか。
両腕に収まっている身体を抱き上げ、清潔なシーツへと横たえ張り付けた。
首のタオルがシーツを湿らせる前に遠くへ放り投げ、目の前にさらけ出された和毛の生え揃う首筋に顔を埋める。
ささやかな幸せに包まれるのは束の間で、鼻孔から石鹸の残り香を吸い込めばガキかと思うほど下腹へ熱が集束していく。
彼女も俺の頭髪に鼻先を埋め、静かに呼吸を繰り返していた。
視界に映る洗いたての尻尾は緩く揺れ、隠しきれない喜びが伝播してくる。
ゆっくりと吐き出された呼吸の後に穏やかな声色が名を紡いだ。
「エスティニアン」
皆の前で呼ぶ時とは違う、含みを帯びた響きが耳朶から染み込んでくる。
何故なのか……
母が俺を呼ぶときの郷愁に近いそれを。反芻し、飲み下す。
エスティニアン……紛れもなく父母から貰ったものだ。
息を吐き出し、目を瞑り、じんわりと温かった体内に火がくべられるような錯覚を覚える。
名を呼ばれることで、こんなにも胸が熱くなるのかと。
布越しの体温がもどかしい。膝立ちになり自らの衣服を脱ぎ捨て、彼女の部屋着を早急だと悟られない程度に引き剥がせば、ブロークングラスで見たストーブの薄明かりより余程鮮明な裸体が視界に映る。
眩しさなど無いはずなのに、思わず目を細めてしまう。
大きな傷は何一つ増えていない。こいつは致命傷を避けるのが相当上手いヤツなのだ。それが如何に難しいことなのか、長く戦いに身を置いて来たからこそわかる。
鎧を着込んだまま数ヶ月を過ごした身体……満遍なくついた筋肉と、女性らしい丸みが同居した相棒のカラダ。
「綺麗なもんだな……」
「……え?!」
驚いた表情をしていた。耳が揃って勢いよくこちらを向いたものだから滴まで飛んでいた。
思わず零れてしまった本音に言及させる間は与えず、和毛のふわふわとした相棒のうなじへ自らの唇を押し当てる。
動きを止めてこわばり、尻尾すら動かない。息を堪える彼女に数度それを繰り返す。胸元まで降りては吸い上げると耐えかねた耳がせわしく動いた。
「んっ……」
バスルームで温まった肌に赤い鬱血が浮かぶ。
コイツが生きているからなのか、俺が自分の証を刻みつけたい野郎なのかもわからんが、胸のなかに安堵が沸くのは明確で、この時間を大切にしようと柄にもなく思う。
悔いのない夜にするべきだと……腹積もりは固まっていた。
◆
首筋に口付けをしていたエスティニアンの吐息が耳へとかかる。
それだけで十分こちらの心拍数は上昇し、彼の銀髪がサラリと肌にこぼれ落ちれば、こそばゆさも合わさって喉はひくりと詰まった。
自分の体温に比べ、触れ合う皮膚は彼のほうがひんやりしている。こんな格好で出歩いたエスティニアンが悪い。開襟のうえ、お腹周りに至っては、かなり露出してしまうサーマーインディゴシャツなんて、全くイシュガルド向きではない。
形の良いスラリと高い鼻先なんか本当に冷たい。
襟足に潜り込まれた瞬間に思わず仰け反りかけてしまう。
その反応を知ってか知らずか、手を緩めてくれる気配は一向に無く、薄暗くなった室内で直ぐに利き始めたミコッテ族の夜目がブルーグレイの瞳を捉えると、更なる興奮を掻き立てられた。
男性らしい骨ばった指先が肌を滑る。
武器ダコで硬い皮膚の指先が臍の穴に引っかけられて身じろぐのも束の間、お腹の産毛の上を迷わずスルリと降りると、薄い陰毛の隙間目掛け、節くれ立った指で掻き分けられる。
「ん……っ……」
前戯と呼ばれるものへ充てられる時間について考えた事は無かったけれど、今日は殊更短く、エスティニアンが早くそこへ辿り着きたいことを理解した。
それでも濡れて軟らかくならなければ、私のそこは未だ彼を受け入れられはしないことを理解してくれての行動だと察しもついた。
少しだけ自ら膝を開く。
どれだけきつく閉じていようと、私の両脚の筋肉量を上回る腕でさも愉しげに割られてしまった事のほうが多い気がする。
けれど今日は協力したい気持ちが貞淑でいたい自分を見失わせていた。
というか…私もなんだかそんなに待てないみたいで……
恥ずかしさから目線をはぐらかすと、頭上のエスティニアンから噛み殺した吐息が漏れる。
湿ったままの髪が額に張り付いていたけれど、彼の手が優しく掬い上げて露出した場所へ口付けが落ちた。
折角シャワーを浴びたのに、もう汗をかきはじめている気がする。
こんな風にエスティニアンって私に口付けをしただろうか……。滲み出るように溢れた幸せがこぼれて今度は私から吐息が漏れると、焦点が定まらない程近い彼の口元が嬉しそうにつり上げられたように感じた。
濡れたままの髪を大きな手のひらがゆるゆると梳く。
やっぱりなんだか優しい感じが凄くする。
今度は頬へゆっくりと口付けをされたら耳へ届いたエスティニアンの少し余裕のない吐息が、これから始まる行為への想像を掻き立て、私の呼吸を不安定にさせる。
顔が離されてエスティニアンの髪がこめかみや顎の付け根にさらさらと落ちてこそばゆくて、見上げるように彼を見つめたら、そっと唇を重ねられた。
やっぱりだ……優しさが凄い……とんでもない……。
こんなに緩く甘い前戯を施そうとするエスティニアンは初めてでなんだか恥ずかしい。
彼の唇はまだ少し冷たくて、互いの皮膚を柔く押しつぶし合うよう重なり、隙間から漏れる吐息を取りこぼさぬよう続く。
緩く、触れ合うように始まったそれが、熱い舌でつつかれたのを合図に口を少し開けると、ぬるりと厚く大きな舌が割り入ってきた。
エスティニアンの味がする。久しぶりで嬉しくて自分も出来る限り逃がさぬよう唇を合わせて吸い上げ舐める。もう鼻で息の出来なかった頃の自分じゃない。今は前より長く出来る。唇を合わせたまま彼の耳に手を伸ばしたらとんでもなく冷たくて、嬉しくなって暫く手の腹で温めていると、彼の指がするりと次の行動に移る。
「っあ」
「痛いか?爪は切り揃えてきたが」
「だいじょぶ、痛くない、っけどそれ続けるとわたっ…し」
言葉を舌に巻き取られ、湿り気を纏った指先に敏感な場所をくるくると舐られる。首筋から頭に向かって熱の集まる感覚が急速に膨らんでゆく。
私をのぞき込むようなエスティニアンの目線を感じるけれど、口付けの合間に吐息と混ざって出てしまう声が恥ずかしくて、思わずしがみつく手の力加減が出来なくなる。
私は今日爪を切ってない。それでもそんな伸びてないはずだけど……緩かった刺激が強く変わり執拗に皮の厚い指の腹が擦り上げる刺激に仰け反る。
「ンっ……!!」
心臓が跳ねた。一気に快感が突き抜ける。
荒げた息を吐いて吸っていたら、おでこの髪の生え際にエスティニアンの少し荒げた吐息がかかって、彼の運指が下の割れ目につぷりと当てられると、湿り気を纏って戻ってきた指先が何度も往復して腰に甘い痺れが広がった。
その動きに耐える力が籠もるたびに腰が動く様を見て、胸板にしがみついて、口付けを交わす。
ゆっくりと一本の指が恥肉を分け入り、今までこんな挿れかたなんてしてないと言いたい口元は舌で舐るように絡め取られ、食い入るように見つめ返される。
「おい……」
唇が軽く離されて苦悶の声が挙がる。
その低くて優しい声すら夢心地だけれど、なにかと思ってそのまま言葉の続きを待つ。
「こっちは抑えてるってのに……はぁ……そんなに美味そうな顔するようになったのか?煽りが過ぎるぞ」
と…不満をわざと露わにして、少し幼い顔を作っていた。
「そう、なの……?」
「構わん」
「ええ……?」
「これから先の旅路で今日のお前が何度も俺の妄想に出るくらいがいいってもんだ」
「んなっ……」
見下ろす視線は熱く、睫毛の内で火の灯った瞳がギラリと映る。
そんなセリフ…言えるひとだったっけ……?
確実に言葉が上手くなってると思う。
エスティニアンの唇が貪るように口を塞いできた時の表情は苦しげで舌が絡み捕られゆく度に、その本質を理解させられた。
彼が凄く興奮しているのだと。
長い指が押し上げるそこに目印でも在るのか、押しつぶされると気持ちが良くて、断続的に続けられてしまうとお腹と腰が言うことをきかなくなって勝手に動いてしまう。揺れる股の合間に骨ばった腕が蠢いていた。
「んっ…んっ……!」
涙混じりの視界に映る彼の手はこんなに卑猥に動いていて、アリゼーやアルフィノ達を励ますあの掌でもあることが不思議に見えて、気持ちが良すぎて何を自分が考えているのかわからなくなる。
濃い色の革手袋や爪先が尖った造りの装備に普段身を固めた彼の素手。
ぬぷりと湿った音をたて一筋の糸を作って引き抜かれた二本の指が、ぬらりと光を反射しながらエスティニアンの大きく反り返った雄へ沿えられる。
両目に映ったそれは私への興奮の証で、久しぶりに直視した。自分の腕周りほどある血管の浮き上がった太い竿に大きくエラの張った傘。彼の槍使いに恥じぬその業物に痛みを感じなかったことは無い。それでも身体を重ねてゆくうち私の体は女の喜びを教えられた。あれが出入りを繰り返し最奥を突かれる度甘い痺れが身体を巡り、息も絶え絶えになるほどの快楽を続けざまに与えられるあれは甘露の毒。
想像しただけで腹の底がぎゅっと疼く。
鼻孔に感じる雄の香りが私を興奮させる。
さっきまで冷たかった彼の肌はしっとりと汗ばみ暖かい。
私の片足を持ち上げていた腕が、腰へ回され二度三度と彼自身の先端が互いのぬめりを纏わせ、ゆっくりと挿入されてゆく。大きくてとても苦しいのに幸せを感じる。
「っんぁ」
「いい声だ」
「あ、待っ」
「なんでっ……だ」
指からそれに変わっても気持ちの良い場所に狙いを定められてる気がして、もう
「んあっはぁ!んう」
数回そこを突かれただけでごりごりと胎内を擦る感触に力が抜ける、まだマットレスに対し張っているシーツへ水滴の落ちる音が耳に届いて、しっぽの付け根まで濡れたのがわかる。
心臓もばくばくしているし、何よりお腹のなかがエスティニアンでいっぱいだ。
好きな男に抱かれる至福が体中からこぼれ出す。意識が跳びかけるそこにぐいと強く押し当てられじんと痺れる。
彼の胸板の鼓動を聞きながら、ちゃんと言っておこうと思って口にした。
「っ……気持ち……い……」
紡いだ言葉のあとに彼のモノを締め付けてしまって、それが一層イイ場所に当たってしまう。ぴゅくりと出てしまった潮が彼の腹を濡らした。
竜の目を摘出した傷の残る皮膚を滑る滴を目で追う。彼の目線も多分そこにひとときはあったと思う。
無言のまま今一度子宮をゆっくり押し上げられ、たまらず声をかみ殺し息を吐く。
吐ききったタイミングに合わせて再度抉られて気が付けばまた彼の腹を飛沫が滑っていた。
「っあ!ごめっ、エスティニアンとこういうのするの久しぶりでっ……身体が……」
「ここ……だろう?」
「……!」
その場所を開発した男は容赦なく矛先を突き立てる。
強く押し当てる一撃で背筋に甘い痺れが走って、膣はさざめき貪欲に彼の矛を飲み込もうとする。
続けざまに2度3度と張り出した矛先がえぐり、引っ掛け、快楽の高みから降ろされない。
言葉遊びは得意じゃなかった。
けれど今はわかる。
「そこ……エスティニアンので……凄いのっ……ひっかかって……」
「っぁくっそ……っっ」
最奥にびゅくびゅくと打ちつけ脈動するそれがなんなのか知っているし、その瞬間の彼の眉間の皺がいっそう寄った表情も、薄い唇を苦し気に噛み耐える色香も、彼の早鐘のような心臓の鼓動も好きだ。
エスティニアンの少しだけ軟らかくなった槍の質量が本当は丁度いいんだよね……
ほんの少し軟らかいこの状態も今は結構好きだったりするんだ……
◆
やられた
今まででコイツとの最速かもしれん
こんな日は夜通し抱き潰す覚悟でと思った筈だったんだが……
実際のところ未だに潰せた試しは無い。
イシュガルドの娼館で抱いた女達とはこっちのやわさも違うらしい。
女は達すると気を失うものとばかり思っていたが、どうもそれは違うようだ。
生憎と俺が紆余曲折あって惚れたと気付いたコイツは死線で背を任せるに足る相棒で、この世界を事実股に掛ける英雄様だ。
体力と持久力、耐久力もそりゃ折り紙付きで、快楽の海で沈みかけかと思わせては閉じた瞼を開け放ち、まなじりを赤く腫らして涙をいっぱいに浮かべた瞳をこちらに向けてまだ出来ると言わんばかりの表情を湛え、頬を撫でてくる……そんな相手だ。
長く長く精液を搾り取るようにうねる膣。
潮が飛んでひたひたとしたシーツ。
予定より早期に終結した初戦の敗因を噛み締めながら、どこかで覚えた駆け引きだったら嫌なもんだと思うものの、これに関しちゃそういったことが出来ない相手だった事に思考は即辿り着く。
この先何番煎じでも独りの際に有り難く使い倒せそうな流れだ。悔しさなんぞ捨ててやる。
抱え上げていた相棒の筋肉質な脚を下ろし、繋がったまま背後にまわって頭部に鼻先を埋めれば、洗い上がりを彷彿とさせる石鹸の香りと相棒の匂いが混ざって鼻腔に届いた。
清めたはずの身体から石鹸の匂いが薄れていく過程を案外好んでいる自分が居る。
耳の根元あたりなんかはもう石鹸の匂いは無い。鼻先を押し当てスンと鳴らせば、汗ばむ肩をすくめビクリと彼女が身じろぎして膣が締め付けてくる。
「すっかり欲張りな身体になったなお前」
「ただ嬉しいんだと思う……それだけなんだよ。好きな人とのこういう時間、今まで知らなかったんだもの」
言葉にこそしないが、それは自分もなのだろう。
「……あのさ……欲張りついでなんだけど……」
まだ穏やかに続く嬬動を感じつつ、いつになく小声の願いに聞き入れば、今日はもう少しだけしたいのだと言う相棒に眩暈を覚えた。
「……あー……ごめん……流石のエスティニアンもひいちゃった?」
腕に触れていた指先が離れていくのを感じ、思わず手を掴む。
小さくて細いが武器ダコの沢山ある……戦いに身を置く者の手。
シーツの上で握られた指先からコイツの落ち着かない様子が窺えた。
耳は忙しく小刻みに向きが変わる。尻尾も俺の腰回りで行ったり来たりを繰り返して……これはまぁ……失言したとでも思っているのだろう……と。
以前よりお前の動きで感情が読めるようになっただろう?
今日はもっと色んなオマエを見たいし、覚えておきたい。
「ひくかよ。わかるだろ?」
温かくぬかるむ膣に締め付けられながらゆっくりと押し込む。
入れて直ぐの浅い場所にあるやたら狭いくびれ、その先にある上側の凹凸のある部分に雁首を押し付けながら腰を進めると、胸元付近にあった耳がピクリと跳ねて顎に当たった。
「ンンッ…っ」
「これはこれで滑りやすくなったな」
余裕ぶっていられる感覚ではない。連続した凹凸が雁首を刺激し擦れるだけで、たまらず息を殺す羽目になる。腹に回した手で臍の下あたりを押すと相棒の肉を押し広げて入っている我が身の手応えを感じた。
「ちょっと!……外から押さないでよ」
「……」
押してまずそうな雰囲気は無いが……。まどろっこしい探りあいは性に合わない。コイツもそういう感覚派だと思うが、こと閨事となると口が動かない。
真意を確かめるべく手のひらで腹を圧迫しながらナカを突き上げる。
自分の性器は根元まで納まらずとも最奥に到達する。異種族間の性交で溢れた精液が陰茎を滴り落ちていた。
すっかりぬかるんだそこは掻き回せば水音も大きい。
高揚した表情を見逃さぬよう覗き込んだまま腰を揺らす。
ああ、そういうことかと理解した。
耳は伏せられて、相棒の尻尾が腹に回り込み、拠り所を無意識化で探しはじめていた。
意識をこちらに向けさせる為に名前を呼ぶと、耳は正直なものでこちらを直ぐ向く。
水音をもっとたてるために角度を変えて不規則に膣内へ打ち込むと時折飛沫が陰茎の隙間から洩れ滴る。意味の成さない短音しか上げられなくなった彼女の腰が跳ねても、片手はリーチのある自らの手で動きを封じ、腹を前から抑え込みながら薄い陰毛に隠れた陰核を擦り上げ、お構いなしに突き上げて音をこれでもかと聞かせてやる。固定した手は強く握り返され、前を暴く手から逃れようと相棒の右手はまずまずの力で抵抗をしてはいるもののこれは本気じゃないだろう。
まだだ。
もっと、もっと……俺にしか見せないお前をみせてくれよ
◆
「んあ!っは!っあ!んっ」
エスティニアンの反り返って張り出した傘が私の弱いとこを擦り上げ続ける。
最後に奥を突かれるのが気持ち良くてふわふわする。
前はあんなに痛かったのが嘘みたいだ。
腰が言うことを利かず勝手に震えている。気持ち良すぎて自分を制御できない感覚が少し怖いくらいなのに、大きな手が私を放さない。
ほんとは逃げたくない。今このときがもっと続いて欲しくて、もっと溺れていたい。
こんなこと、誰にも……エスティニアンにだって絶対言わない。
官能的なシーツの海で、お腹を押さえ込んだまま器用に私の弱いところを弄り続ける骨太の指。
さっきまで普通の会話をしてたのが嘘みたいで、エスティニアンにえっちなスイッチが入ってしまった。
肉と肉がぶつかる卑猥な音に、荒い吐息が混じって届く。戦闘中に私の真横には滅多に来てくれないから、あまり聞けない彼の呼吸音。
私がエスティニアンを興奮させられて嬉しいという気持ちがゆらゆら湧いてるのに、快楽が上書きされる状態を、まるで闘いの中のラッシュみたいだな…なんて思いながら頭が白んだ。
「っ……っふ……っ……!」
背後でエスティニアンが声を殺して唸ってる。揺らさせ続ける私は確かにいま達して、一瞬で戻ってきたけど、身体はまだ達し続けてる。そこを容赦なく抽挿されれば、高みから戻されないままもう一度達する事は今の私には容易い。自分だって気持ち良くて仕方ないのに私の気持ち良さそうな姿を少しでも長く見るために達さぬよう懸命に堪えてるエスティニアンが愛おしくて……感極まった嬉しさでまた軽く達してる自分の身体がぐらりと動く。
彼の腕に半分抱かれながら没頭していた体勢が、跨って見下ろす体勢に変えられていた。
荒げた呼吸に上下する胸板と長い首筋を伝って酸欠気味で虚ろな目線を顔へと移せば、頬にひとすじの汗が流れて銀髪が僅かな束になっていた。
「えへへ……すごいえっちな顔してる。エスティニアン」
しっとりと張り付く銀髪を手櫛で後ろに流すと、首筋と喉が露わになって男特有の色香が溢れるように感じ、思わずにやけてしまった。
「この姿勢、痛くないか?」
「大丈夫。お腹破けちゃいそうだけど、それより気持ちいいから」
「……おい……」
「ホント。こんな色気全開のエスティニアン滅多に見れないから、思い出にするよ」
そう伝えれば、どっちがホントなんだと聞きたげに、困ったような呆れたような表情をした彼は目を閉じると、程なくはぁと息を吐き出して尻肉をガッチリと掴まれた。
「奇遇だな。俺も今日のお前をもっと目に焼き付けたい。今から本当に止めて欲しい時だけドラヴァニア雲海のモンスターの種類、片っ端から言え」
「…………は?」
そんな意味のわからない事をこんな時に言えるエスティニアンだったろうか?……なんて一瞬頭に過ったけれど、視界に映った彼の目線が本気だと告げるから、慌てて息を吸ったらもう戦いの火蓋は切って落とされていた。
奥を探るように始まった一撃から続く快感。
私の全てにおいて未知だった女の部分を開拓し、育てた彼だけが知り尽くすそこを徹底的に攻めたてられる。
呼吸は乱され、腰はあっという間にふにゃふにゃで、とても自立できそうにないから慌ててエスティニアンの腕に摑まった。
筋肉はみっしりと張りつめ、私の尻を鷲掴みに固定している。下からの容赦ない突き上げに快楽を流し込まれ続ける身体が半分自分のものではないみたいな感覚。
半開きの口から洩れる自分の声がいやらしくて耳を伏せても、水気を帯びた卑猥な音は続く。
彼の割れた腹筋に指を滑らせて、気付いてしまったらもっと恥ずかしい。
「やっ、だ……びちょびちょ……!……あ……!」
「おまえのだ……なっ……!」
抜けるギリギリのとことで引っかけて、お腹の前側を執拗にグリグリと擦られると、何も考えられなくなる。
「っふ、っ……あっ!……っぁ!!」
両手で摑んだ尻ごと上へ引き抜かれ、胎内からエスティニアンの熱い陰茎がぶるりと飛び出す。
自分のなかの空虚を感じる間もなく潮の飛沫が吹き出した。
ここ、エスティニアンのお腹の上なのに……。絶対わざとやったってわかる。呼吸が上手く出来なかった分意識が朦朧として、快楽の園から還されない気怠さで彼を見れば、興奮しきった雄の顔で、よりにもよって顔まで飛ばしてしまったらしい私のものを舌で舐めとっていた。
「う……えっち過ぎ……見てら……んあっ!」
言ってる間にずるりと今一度腰を降ろされ深々と飲み込まされて
「んなもん……ただ感じてりゃ……いいだろ」
ゴツリと奥に当てられただけで真っ白になった。彼の欲情しきった声に耳から背筋に痺れが走る。
もう気持ちが良過ぎて本格的にわけが分からなくなっていた。
ただの仲間だったのにこんな好きになって、英雄だなんて思えないくらい剝き出しの性を晒しても、安心してるって……
凄いことだよな……なんて考えてられる私もまだ余裕あるのか……とか。
身体は勝手に達して瞬間的に気絶して、直ぐ意識が戻って来てまたそれが繰り返す……。
初めてエスティニアンとこういう関係になったあの日に、私が願った未来の一つはもうここにあると思うと、涙が零れてしまいそう。
抱き寄せられ厚い胸板の上で全体重をエスティニアンに預けたまま揺すられる。
すごい汗。耳元に届く彼の熱く荒い吐息に喜びを感じながら、深く奥まで何度も突き上げられて。
なかで急速に質量を持ったエスティニアンがうめき声を上げて、切なげな吐息を吐き出したから、思わず「頂戴」と言ってしまったのだけど……その直後お腹に感じる脈動に安堵感で満たされたら、にやけてしまったのだった。
◇
わりと早く、互いの息は落ち着いてしまう。
それは2人とも前衛職だから当たり前と言えば当たり前なんだろうけども。
「ねぇ……」
「……なんだ……?」
「今日のさ……過去イチ気持ち良かったよ……」
「そりゃ良かったな……まぁ……俺もだ……」
「……」
どちらともなく吹き出して、そのままちょっと笑い合ってたらエスティニアンのがまたおっきくなって来たから、流石にちょっとこれ以上は……と怪訝な顔を作ったら、眉根を寄せて頷きながら、ナカにまだ入ってるのに笑って締めつけられたら仕方ないだろ?だって。
……ちょっと理解は出来なかったけど、これ以上する気はなかったみたいで安心した。
「バスルーム、行ってきなよ」
「あぁ……」
エスティニアンが向かったあと、ベットの上でごろりと寝転がった。
よれたシーツは少し気になるものの、枕にエスティニアンの匂いが残っててちょっと嬉しい。雄と雌の匂いが混ざり合う情事の後のここは静かだ。
少し広めの部屋だから拡散して薄まっているだろうけども、室外から入った瞬間はそこまで鼻の利かないヒューラン族でも十分感じ取れてしまうかもしれない……。
彼がバスルームから戻って来て入れ替わり、私が出てくるとベットのシーツを剥がして丸めたものを抱えたエスティニアンがバスルームに消えて、その間に私が代わりのシーツをベットに張る。
部屋も少し換気したし、これでオジカ・ツンジカに迷惑もかからないはず……。
「さて、それじゃあ俺は戻るとするか」
余韻も何も無いけれど
「うん。また明日ね」
私はこれくらいで良い。
もうお互いの距離はいつもとあまり変わらなくて、頷いたエスティニアンが窓辺へ足を向けた。
重厚な窓がゆっくりと開け放たれて、ひんやりとした風が部屋に吹き込む。
次……また出来るといいな。
何も気負わずに過ごせたひと時を心から惜しむ私も、もういつもの私に戻りかけてる。
湯を軽く浴びただけの肌にはこの夜風は寒そうだなと、エスティニアンの大きな背に思う。
手すりに易々と片足を乗せ、ふいに振り向いてひとこと。
「じゃあな。……相棒」
……と。冷たい夜風を感じさせない穏やかな声と抑揚に、ただゆっくりと頷き返す。
もうエスティニアンもいつものエスティニアンだ。
「うん……またね」
彼もまたゆっくりと頷き返してくれる、そして……私が瞬きをする間に居なくなってしまった。
もう慣れてきたから良いけれど……戸締りしないで自分の部屋もこんな風に出てきていると思うと、ここじゃ無ければ不用心にも程がある。
アイメリクだったら絶対注意してるはずだし、それでもこの調子って事は、そう簡単に治せる習慣では無いのだろうと思えたところで諦めた。
テラスの窓を閉めてベッドへと向かう。夜風が少し吹き込んだ部屋でも私の身体は未だ温かい。
さっきまでの熱がまだ冷めて居ないから……。
ベットに入って毛布を頭までかぶり丸くなって目を閉じれば、全ての気怠さがぶり返すようにあくびが出た。
おやすみ。またあしたからはいつもの私。
どうせ死ぬまでしか生きれないのだ。
めいいっぱい生きてあがくのが私の信条。
おやすみ。私。
◆
「…………」
サンクレッド・ウォータースは思う。なんつう色気立ち込めた女晒させてるんだ……と。
出発前に皆で食卓を囲んでいるのだが……。
アリゼーやアルフィノ、グ・ラハの前で普通に振る舞う姿はぱっと見いつも通りだ。
でもわかる。
わかってしまう。
そんな雰囲気を纏わせた女が今日に限ってふたりもいるなんて…….。
「…………」
なんとなく、ちょっと前あたりからうちの英雄様に、そこはかとない色気を感じることはあったものの、自分より年下の……暁で妹分みたいなコイツを異性として好きになりもした事もあるが、俺はやはり仲間として、妹分としての感覚のほうが強いらしい。
だからそういう関係になったこともなければ、普段から何でもケロリとやってのける今迄通りのコイツだったなら明確な理由まで推測出来ずに居たんだが……
アシャのヤツが硬いパンにかぶりつく際、微かに気怠げな事にも、ヤ・シュトラがスープの入ったカップを口元に運ぶ指先の淡い仕草にも裏がある。
伊達に両手で余るほどの女を抱いてきちゃいないんだ。
表面上繕っているのを見抜けない訳がないだろう。
コイツをこんな風に追い詰められるのは消去法で一人しか居ない。
今俺の前で肉を噛みしめているエスティニアンしか。
「…………」
終末だなんだと騒いでも、こういう展開が有ることに俺は嬉しく思うよ。
なぁミンフィリア。未来は俺達が繋いでいかなきゃだよな。
大きなマグカップでほろ苦くも香り高いコーヒーを傾けながら、人知れずサンクレッド・ウォータースは微笑したのだった。
◆2023/12/15 緋汐海の可惜夜(あたらよ) 後編・了◆
2024/2/16 本文挿絵一部修正加筆