エスティニアン×光の戦士♀
ヒカセンネームレスです。女性ではありますが種族も特に指定の無い書きかたにしています。
彼の幸せを願う一人として筆を執った作品です。
プレゼント用に書いた小説でしたが2年近く経過したのでこちらにも掲載しました。
◇◆◇
「君に来客だ。先に挨拶させてもらった」
響くも穏やかな声音が呼びかけた先で男がひとり本を読んでいた。
その声に、もう来たのかと返事をすると栞も挟まず本はいい加減に閉じられる。
紫檀の椅子から腰をあげて振り返るころには、客人はもう彼の目前へと通されていた。
「久しぶりだね……こうやって逢えて嬉しいよ」
嬉しさを隠しきれない高齢の男性エレゼンは幸せの皺を豊かに刻み、嫋やかに両手を広げ体現する。
細やかな装飾のステッキを片手に携えたものの足取りはまだ幾何も猶予があり、長く柔らかな銀髪は銀細工の髪留めで緩やかに結われ、白が基調のシャーレアン特有である、ゆったりとした衣に全身を包んでいた。
「お前……こっちに来るときはそんな暑苦らしい恰好は止めたらどうなんだ?」
「これかい?すっかりこの服を着ることに慣れてしまってね。大丈夫、体内エーテルの調整はまだ無意識下で出来るよ。今や他の服なんて寝間着くらいさ」
皴の刻まれた骨ばった手ではあるが爪は綺麗に切りそろえられ、仕草は穏やかさを体現するかの如く優しさに満ち、フルシュノの面影を色濃く見せる目元で袖口から胸元へ滑らせていた。
今や見上げるまでに成長を遂げた長身のエレゼンはかつて旅を共にした大切な仲間であり、弟のように接し、家族のように"彼"は今も思っている。
迎えた男の声は落ち着きのあるバリトンで、歳の頃合いは40にもなっていないであろう壮年のエレゼン。
腰まであろう長さの銀髪は鮮やかな色彩の組紐で大雑把に束ねられていた。
「ほんと……君は……変わらないね」
エスティニアンを訪ねてきたのはアルフィノであった。
◇◆◇
ここの錬金術師達が最初にごっそり俺のデータ収集をした頃、相棒は既に思うところがあってウルティマ・トゥーレへと赴く少し前、一声かけに行っていたそうだ。
「エスティニアンの能力が太守様の能力と重なる部分を調べて欲しい」と……。
それは兄竜たるニーズヘッグを一時的にもこの身に宿らせ同化したからこそ起きている未知の事象であると既に素人考えで推測しているからに他ならない……と更に言葉を続け、錬金術師の探求心を煽る巧みな言葉の数々にニッダーナをはじめとした錬金術師達は、その後わずか数年で俺が『半身竜化してしまっている』という結論を導き出した。
肉体的な外見は人族と何ら変わりはないものの、並外れた治癒力、そして老化しづらい身体は竜族のまさにそれで、人の生きる時間の規格から俺を乖離させたのは明白だった。
研究が進んで表に出た初めは、サンクレッドと呑む酒の席で羨ましいぜと言われ笑い合いもしたが、年月の経過と主に同じ歳であるアイツに白髪が混じり、肉体的な衰えを隠し切れなくなって来たころには事の重大さがじくりと身に染みてきたものだった。
アイメリクもまたイシュガルドでの大役から退いた頃、ゆっくりと過ごせるような時を共にして、こんな時間を過ごせるとは思いもよらなかったと、幾度も竜詩戦争時代を思い出しては小旅行に出かけたり、今度はアイツの見聞を広める旅へ共に赴いたりもした。
ひとり。
またひとりと、恩師や友が星海へと還ってゆく。
まさか自分がそれら全てを見送る立場になろうとは露知らず、ニーズヘックの奴には随分と厳しい役回りを割り当てられたもんだなと嘆くのも束の間で、アイツの腹には俺との子が宿り、父として生きることで目まぐるしく日々は過ぎていった。
「そういえばアルフィノよ、魔女様には最近会ったか?」
「いや?ここ最近は手紙だけなんだ。何か……あったのかい?」
「見たら驚くぞ?今度はあの魔女様を今代の錬金術師たちは調べるべきだな。毎年こちらのほうには顔を出してるものの、10年前とも20年前とも変わらん姿に映る。正直たまげるぞ」
「はははっ!流石だね……世界も次元をも超える魔女は自分の時さえ止めてしまえるのか、それとも他者からはそう見えるように特別な魔法を編み上げたのか……ヤ・シュトラにも会いたいものだね。うん……アリゼーは美貌に興味はないだろうけれど同じように会いたがるだろう。今2人目の孫が彼女の娘のお腹に居るんだ。その子がこの地に産まれてくれるその日まで、もてばいいが……」
「……そうか……近いうちに必ず見舞いに行く。すまんな、言いづらかっただろう……」
今日突然の来訪はどうやらそのことを伝える為……だったのかもしれない。
見上げるような体躯でも、アルフィノはアルフィノだ。気を使い過ぎる。
頭に手を置いてくしゃりと撫でれば「いくつだと思っているんだい?」と破顔してみせた。
「お前もせいぜい長生きしてくれよ。俺の子達がアリゼーの孫を鍛えてやる日が待ち遠しい。なんなら俺が鍛えてやってもいいぞ?」
「確かに……体術はエスティニアンに教えてもらうのは妙案だ。それを見たアリゼーが、アタシも!なんて言いながらベットから飛び起きてしまうかもしれないね」
そう言って、涙をこぼす姿に今一度頭を撫でてやる。
歳のせいで涙もろくなったと言い訳をこぼすが、いくつになってもコイツは泣き虫の坊ちゃんで妹思いなのだ。そんなコイツだからこそ愛おしい。
「おやじー!アルフィノさん来てるんだってー?!あっヴリトラ、ただいま~!」
扉が勢いよく開け放たれ、大声と共に騒がしくなる。
やれやれ……部屋に入って来るなり忙しない。
半分アイツの血筋だとわかっちゃいるものの、俺はこうは育てちゃいなんだがな……
なんと言ってやろうか考えあぐねていると再び扉が大きく開いた。
「とうさーん!アルフィノさん来てるんでしょー!?あっヴリトラ!はいっ、これお土産!」
「……」
娘は俺に似たかと思ったが、気質は結局お前譲りらしい。
「お前たち、後でみっちりしごいてやる。……逃げるなよ?」
七大天竜の住まう宮内の大部屋はアルフィノを前にあっという間に人だかりが出来上がる。
この雰囲気はそう……お前と共に過ごしたあの頃を思い出さずにはいられない。
ヴァルシャンの身体と、すぐ近くのヴリトラ本体からは今にも何か言いたげな気配が伺える。
全部お見通しだって事だろう。それはお互いさまというやつだ。コイツとはまだ暫く一緒に過ごすんだろうからな。
なぁ……
俺はお前と何時になったら星の海で再会できる?
瞼を閉じて一つ息を大きく吐いて。
何度となく巡るこの思いに焦がれながら、今を生きる。
◇◆おわり◆◇