ブルース・リー フィルモグラフィ

父之過 (ボーイズ・オン・ザ・ストリート) (未) (1953)

Father's Fault (aka "Blame It on Father")

別表記:It's Father's Fault, Boys on the Street, Bad Boy


製作会社:香港・達成影業公司
香港公開:1953年9月27日~9月30日/日本未公開

監督:孫偉、脚本:徐泰
出演:蔣桂林 (陳華兒)、小麒麟 (阿啤)、 龐碧雲 (陳秀雲)、李小龍 (大眼狗)、黃楚山 (陳繼孔)、 飄慧梅 (何氏)、冼幹持 (盲公)、錢大叔 (老僧)、陶三姑 (三婆)、小南紅 (陳細女)、李文鉅 (陳蝦仔)、他

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物語概略 (ネタバレあり)

陳華兒(蔣桂林 )は活発で勉強もよく出来る賢い少年で父母と3人の姉弟と暮らしている。父親の陳繼孔(黃楚山)は勤勉な公務員で、朝早くから夜遅くまで仕事をしていて殆ど家にいず、子供は母親にまかせきりだが、母親の何氏(飄慧梅)は賭け麻雀に夢中で家の事は疎かにしがちであり、賭けに負けた時はしばしば子供に当たる事もあった。放任状態の華兒は次第に学校をサボるようになり、親の目の届かない日中は兄弟や近所の子供達と遊ぶ毎日を過ごすようになる。「西遊記」など空想ファンタジー話が大好きな華兒は、兄弟と孫悟空ごっこをするのが一番の楽しみだ。近所の幼い子供達と遊ぶ事は楽かったが、通りで遊んでいると、近所に住む年上のガキ大将・大眼狗(李小龍)にいじめられる事もしばしばあり、華兒にとってはいやな存在である。だがそんな時は、靴磨きで生活をしている親友の阿啤(小麒麟)が彼を庇ってくれるのだった。ある日いつものように兄弟と孫悟空ごっこで遊んでいた華兒は、隣家の三婆(陶三姑)の家具を誤って壊してしまう。弁償しろと詰め寄られた母親は華兒をこっぴどく叱り、母親に叩かれた華兒は家を飛び出してしまう。その夜、家に戻らず親友の阿啤と道端で寝ていた華兒は孫悟空の夢を見る。そして孫悟空から得た神通力のパワーで、目の前に現れた憎たらしい大眼狗をやっつけ大喜びする。しかしそれもまた夢で、目を覚ました2人の前には本物の大眼狗がいる。夢とは違い現実には大眼狗の腕力に敵うはずもなく、華兒は自分の靴を大眼狗に奪われてしまう。鼻歌を歌いながら悠々と去っていく大眼狗の姿に歯噛みをし、夢を思い出して自分を慰める華兒ったが、阿啤が華兒にある提案をする。遠くの山の上にある寺は仙人が住む神仙寺で、そこに行けば仙人から神通力を教えて貰える。大眼狗をやっつけるために2人で神通力を習いに行こう、として2人は山への旅を始める。華兒が行方不明になったと家では大騒ぎになっている事も露知らず、2人は険しい山林の中を進み、山の上の寺を目指す。へとへとになりながらも寺へと辿り着いた2人は、そこにいた老僧(錢大叔)を仙人だと思い込み、神通力を教えてくれと頼み込む。2人を寺へ招き入れ食事を与えた老僧は、ここは神仙寺ではないし、神通力の様な魔法もこの世には存在しないという事を2人に諭す。華兒の行方を心配する両親だったが、学校へ来なくなった華兒を案じた教師が家を訪ねてくる。両親は学校の管理不行き届きの所為だと教師を責めるが、子供の教育は学校だけでなく家庭での教育が大切だという事を教師は諭し、両親は自分達の行いを反省する。そこへ老僧に連れられた華兒と阿啤が戻り、両親は華兒を抱きしめ、今後は子供の面倒をちゃんと見る事を誓う。しばらくして大眼狗を連れた警官が訪ねて来る。物を盗んだとして補導したという。警官の手には大眼狗に盗られた華兒の靴があった。開かれた少年裁判で華兒はしょげかえった大眼狗の姿を見る。やがて仕事に就いた華兒は、夜学に通いながら仕事に精を出す勤勉な人物となるのだった。

華僑日報1953.9.27広告

解説

ブルース・リーと小麒麟(ユニコーン・チャン)の初共演作です。小麒麟は準主役の主人公の親友役、ブルース・リーは主人公をいじめるガキ大将の憎まれ役。2人は生涯を通しての親友となりますね。
ドキュメンタリー映画「ブルース・リーの神話」(ブルース・リー神話)では、「ボーイズ・オン・ザ・ストリート」の題で紹介されている作品。ブルース・リーの子役時代作品のダイジェストを集めた映画「Young Bruce Lee: The Little Dragon」では"Bad Boy"の題でダイジェスト映像が収録されています。
題名の「父之過」は、「人之初」同様「三字経」の"養不教、父之過"( 子を養いて教えざるは父の過ちなり)に由来するもので、教育の重要さをテーマとした映画となっています。
大人の役者達は完全に脇に回って子役がメインというのは当時の香港映画としては珍しかったようですね。
映画初公開の初日は、ブルース・リーや小麒麟、蔣桂林なども登壇した公開記念イベントを開催と広告には載っていますが、当日は台風による大雨で中止、翌日改めて開催されていますね。
7つの映画館がこの映画の上映権を巡って争奪戦を繰り広げた話題作、なんて当時作成されたこの映画のパンフには書かれていますけど、蓋を開けてみれば期待に反し4日間で映画は上映終了しています。

工商晩報1953.9.27広告

この映画では、劇中主人公が見る夢として「牛魔王」というアニメが長々挿入されています。当時の広告では"「孫悟空大戰牛魔王」より"と表記されていますが、これは1941年に中国台湾省(現在の台湾)の映画会社が製作したアニメ映画「西遊記/鉄扇公主の巻」(鐵扇公主)の一部分を使った物です。
この作品はアジアで初めて作られた長編アニメーション映画として映画・アニメ史に残る作品で、日本でも1942年に公開されています。日本の漫画家・手塚治虫に多大な影響を与えたアニメとしても知られていますね。
このアニメはネットの動画や、中国では映像ソフトも色々出されているので、そちらでも見る事が出来ます。

西遊記/鉄扇公主の巻

憎たらしいガキ大将・大眼狗("大きな目をした犬"の意)を演ずるブルース・リー。この映画でもリーは"鼻チョン"やってたりしますね。彼の元々の仕草なんでしょうか?
映画の中でリーが口ずさんでいる歌は、リーの父親・李海泉が出演した戦前の映画「打劫陰司路」(1939)で、李海泉が歌う映画の主題歌だそうです。リーが生まれる前の作品ですけど、リーは父親からよく聴かされていたのでしょうか?リーが自ら選んだのか、リーが李海泉の息子ということで、監督がリーに歌わせたのかは解りませんが。

この作品は長らくフィルムの所在が不明でしたが、極最近になってフィルムが発見され、香港電影資料館によりデジタル修復が行われ、2020年7月5日に香港電影資料館開館20周年記念イベントの目玉として上映されました。
今後も電影資料館で上映される機会はあると思いますが、未映像ソフト化であり、今の所ここでしか観る事が出来ないのは残念でもあります。ソフト化して欲しいものですね。

(※ここに載せた場面画像は個人的に着色したもので、映画自体は白黒です。念のため)

公開当時のパンフ