ブルース・リー フィルモグラフィ

人之初 (未) (1951)
Two Neighb
ors (aka "Infancy")

表記:The Birth of Mankind、The Bigining of a Boy


製作会社:香港・大觀聲片有限公司
香港公開1951年4月12日~4月17日(追加上映5月9日~5月18日)/日本未公開

監督・脚本:泰劍
出演:呉楚帆(何書記)、黄曼梨(牛媽)、張瑛(陳經紀)、麗兒(全母)、李小龍(牛仔)、李兆勲(全仔)、碧茜(B女)、他

概略

牛仔(ブルース・リー)、全仔(李兆勲)、B女(碧茜)の3人の子供は、同じアパートメントに住む幼なじみであった。牛仔の家庭は貧しく、父・何書記(呉楚帆)の稼ぎでは家族を養いきれていない。一方、全仔の家庭は裕福で、父の陳經紀(張瑛)と母親(麗兒)から溺愛され甘やかされて育てられていた。子供達の母親達は一緒に麻雀をする事が日々の愉しみで、特に牛仔の母親(黄曼梨)は麻雀狂いで、家事を放り投げる程であった。ある日幼なじみ3人の子供は一緒に映画を観に行くが、ふとした事が元で牛仔と全仔は喧嘩となり、牛仔は全仔を殴ってしまう。家に帰った3人は親たちから諭されるが、それ以来、牛仔と全仔は反目するようになる。学校の教室で再び牛仔と全仔は喧嘩となり、その夜牛仔は母親から厳しく叱咤され、牛仔は家出してしまう。行く宛てもなく彷徨っていた牛仔は、辿り着いた山寺に懇願し、寺に住まわせて貰うが、寺の厳しい鍛錬に耐えかねた牛仔は寺を逃げ出してしまう。家には帰れず、再び街を彷徨っていた牛仔は窃盗団に拾われる。窃盗団にスリを教え込まれた牛仔は金をすろうとするが、すろうとした相手が自分の母親であることに気付き逃げ出した牛仔は車に跳ねられてしまう。病院に運ばれた牛仔は家族が見守る中息絶え、親たちは彼を追い込んだ自分達の過ちに気付き後悔するのだった。

解説

同じアパートメントに住む複数の家庭と、その家庭の子供達の姿を通して描く、児童教育映画だそうです。ブルース・リーは悲惨な末路を辿る少年の役。映画本編映像は今現在時点で観る事は出来ないので、上のあらすじは当時香港で発刊されたノベライズから要約したものですが、ノベライズを読む限り、事実上の主役はブルース・リーですね。
映画公開時、当初は6日間で公開が終了しますが、当時の香港映画はよっぽどヒットしない限り1週間以上上映されることがないのが通常のパターンなものの、この作品は好評を博したようで、その後翌月になって単館ながら10日間の追加上映が行われています。単館で始まった再上映も、最後は7館程のロードショー館に拡大公開されたりと、好評だったようです。公開時は連載小説と銘打ったフォトストーリーが新聞連載されてもいますね。
題名の「人之初」は直訳すれば文字通り"人の初め"ですが、これは「三字経」と呼ばれる中国の学習書にある有名な文"人之初、性本善(ひとのはじめ、せいほんぜん)"からくるもので、人が生まれた最初は皆善人であり、育つ環境によって人は善人にも悪人にもなるという、性善説を唱えた文を意味します。物語の冒頭でこの「三字経」を学校の授業で習っているシーンが出てきますが、学校の教科書としても使われているものでしょうか。その辺詳しくはないのでよく知りませんが。
因みに英題は現在"Infancy"と表記されて知られていますが、製作当時の宣伝チラシでは"Two Neighbors"と表記されています。但しチラシでは"Neighbours"とスペルが誤表記されていますが。
ブルース・リー演ずる牛仔は、カンフーの架空の英雄・方世玉(ほうせいぎょく)の大ファンで、映画の初めの方で「方世玉血戦白眉道人」という映画を観に行くくだりがありますが、そういう題名の映画は実在しないものの、方世玉物の映画は当時から沢山作られていますね。日本でも公開された作品だと「嵐を呼ぶドラゴン」や、ジェット・リーの「格闘飛龍 方世玉」シリーズ等、様々な映画が作られています。
ところで、ブルース・リーの役名"牛仔"は、英語で言う"カウボーイ"を意味する中国語ですが、広東語方言の俗語としては"チンピラ"の意味が含まれるそうです。日本語だと、本来は米国白人を指す語であったものが、今の日本では別の意味で使われている"ヤンキー"が丁度これに相当する言葉でしょうか。ただ日本語でいうチンピラやヤンキーはもっと高い年齢層に対して使われる語句なので、この場合"悪童"か"悪ガキ"、またはもうちょっと軽く"いたずらっ子"か"やんちゃ坊主"といった意味合いになるでしょうか。広東語はおろか中国語も門外漢なので、ニュアンスまでは判りませんが。方世玉を崇拝(?)する牛仔と仲違いをしてしまう全仔は、アメリカのカウボーイに憧れてカウボーイの恰好をして対抗したりして、牛仔対牛仔状態でちょっとややこしいです。
映画は児童教育映画と銘打っていますが、子供向けの映画かというと、そういう訳でもなく、大人たちの姿も描かれていて、子供と子を持つ親の双方に向けた内容の映画となっているようですね。

余談ですが70年代に芳賀書房から発刊された「シネアルバム/ブルース・リー」では、この作品の事は載っていませんが、「細路祥」として紹介されているストーリーは実はこの映画のストーリーだったりします。

華僑日報1951.4.11広告

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