ブルース・リー フィルモグラフィ

夢裡西施 (夢裏西施) (未) (1949)
Sai-See in the Dream

別題:甘地會西施

製作会社:香港・銀鷹影業公司
香港公開1949年5月6日~5月9日/日本未公開

監督・脚本:蒋愛民 原作:廖侠懐 制作:張達權
出演:廖侠懐(劇作家)、羅麓娟(李施)、李蘭、謝君蘇、小李海泉(=ブルース・リー)、他

概略

ある舞台劇作家(廖侠懐)は、ある時虐げられていた女性歌手の李施(羅麓娟)を善意から救け保護する。李施の才能に気付いた劇作家は、彼女に様々な事を教え、そして彼の新作舞台劇の主役に彼女を抜擢する。その劇で彼女は一躍有名となり名声を得る。李施は裕福な実業家から求婚される。いつしか李施を愛するようになっていた劇作家だったが、彼女の幸せを願い身を引く決意をする。しかし彼女は縁談を断り、彼を伴侶として選ぶのだった。

解説

主演を務める廖侠懐の作による同名の粤劇(広東オペラ)舞台劇を原作とした作品。映画黎明期より香港映画界と粤劇は深く結びついていて、粤劇を映画化した作品も多く作られていますが、この作品の廖侠懐や、ブルース・リーの父親・李海泉などといった粤劇の舞台俳優出身の役者も多いですね。この作品でのブルース・リーは"小李海泉"名義で出演している事が広告からも確認出来ますが、どんな役柄であったのかは不明。子供の役であることは確かですが(笑)。現在映像として見る事が出来るものもないので、当時の記録や文献に頼るしか内容を知る術がないものの、古い作品だけに、この映画に言及した文献は殆どありません。
題名にある"西施"(せいし)とは、中国4大美女の一人として挙げられる、紀元前470年頃の中国春秋時代末期に存在した女性で、その美貌が紀元前473年に呉が滅びるきっかけになったと言われている人物です。美人の代名詞として、"~西施"と言えば、丁度日本で言う"~小町"と同じ"~美人"といった意味合いになります。この作品の場合はその両方の意味を含んでいるでしょうか。
題名の「夢裡西施」は、当時の広告や文献によっては「夢裏西施」と表記される事もありますが、"裡"は"裏"の異字体で、例えば"龍"と"竜"同様、読みも意味も同じです。因みに"裏"は中国語では"裏側"ではなく"内側"の意味で、「夢裡西施」は訳せば"夢の中の西施"といった意味になるでしょうか。

華僑日報1949.5.7広告

左に挙げたのは1952年に廖侠懐が亡くなった時、追悼上映された際の広告ですが、題名が「甘地會西施」("ガンジー、西施に会う"の意)となっています。
ガンジーとは、インド独立の父と言われ1948年に暗殺された、あのマハトマ・ガンジーの事ですが、何故そんな題名になっているのか不思議に感じますね。
右は廖侠懐の劇団"大利年劇団"による1948年舞台公演時の広告ですが、実は原作である舞台版は映画版とは大きく内容が異なっています。
粤劇辞典等の文献によれば、舞台版ではガンジーが主人公で、廖侠懐演ずるガンジーが夢の中で2500年前の歴史上の人物・西施と会い、彼女に導かれ水晶宮(龍宮、浦島太郎の話にも出て来る竜宮城の事)へ連れて行かれ、龍王と会ったり、春秋時代・呉越の武将たちに会ったりする物語だったりします。イギリスの植民地だったインドを独立に導いたガンジーが、古代中国の人物と語り合う中で、ファンタジーの要素を持ちつつも、イギリスの支配下にある香港の状況への風刺を込めた作品だったようです。
舞台版はその後「甘地會西施」と改題して上演されるようになった為、映画もこの題名で上映されたと思われますが、この題名にするのであれば映画版にもガンジーが登場しないといけませんね。
当時の映画の広告を見ると、宣伝文句に"劇中劇「西施」羅麓娟主演"、"貧乏人は西施と巡り会い、一曲で有名になった"、等といった事が書かれているので、映画の中の劇中劇として、この舞台版「夢裡西施」が登場するようですね。

実際の映画本編映像を観ない事には文献からの推測の域を脱しませんが、映画本編も観てみたいものです。

原作舞台劇版広告
華僑日報1948.11.29