「燃えよドラゴン」サントラについての殆ど知られていない事柄

~ラリー・カールトン他、有名ミュージシャン参加によるレコーディング・セッション~

1973年制作の「燃えよドラゴン」。2023年には製作50周年を迎えますね。これまで「燃えよドラゴン」のサントラ・アルバムは幾度となく再発を繰り返して来て、日本でも未だに絶版になっていません。しかし内容的には同じで、一度未収録曲をいくつか追加したバージョンが限定的にリリースされた事はあるものの、完全版は未だに発売された事がないのが残念な点でもあります。50周年を記念したサントラ完全版が出てくれるといいのですが。
それはさておき、ラロ・シフリン作曲による音楽を収録したサントラアルバム、アーティスト名義は"ラロ・シフリン"となっていますが、ラロ・シフリンは作曲者であって、彼本人が演奏している訳ではありませんね。でも実際に演奏しているミュージシャン達が誰なのか、アルバムには一切記載されていません。映画音楽サントラは演奏者名まで載せる事はないのが通例ではあるのですが。
しかしながら英語版のWikipediaには、レコーディングに参加したミュージシャンの詳細が載せられています。以下英語版wikiから、参加ミュージシャン一覧を引用してみましょう。

Musicians
[trumpet] John Audino, Tony Terran, Eugene E. Young
[guitar] Al Vescovo, Bernie Lewis, Larry Carlton, Tommy Tedesco, Dennis Budimer, Peter Woodford, Bob Bain
[keyboards] Clare Fischer, Ralph Grierson, Joe Sample
[bass] Max Bennett
[drums & percussion] Stix Hooper
[percussion] Larry Bunker, Emil Richards, Joe Porcaro, Ken Watson, Robert Zimmitti, Francisco Aguabella

[trombone] Dick Noel, Hoyt Bohannon, Dick Nash, George Roberts
[French horn] Vincent DeRosa, James Decker, Richard Perissi
[violin] Israel Baker, Howard Griffin, Anatol Kaminsky, Joseph Livoti, Joseph Livoti, Jerome Reisler, George Kast, Herman Clebanoff, Gerald Vinci, Alex Beller, Bonnie Douglas, Paul Shure, Alfred Lustgarten, Erno Neufeld
[cello] Raphael Kramer, Kurt Reher, Eleanor Slatkin, Frederick Seyhora
[reeds]
Ronnie Lang, Sheridon Stokes, Jerome Richardson, John Ellis, Jack Marsh
[viola] Sam Ross, Myra Kestenbaum, Virginia Majewski, Allan Harshman, Rollice Dale

まず驚くのは、70年代後半にソロ・デビューし、人気を博したフュージョン・ギタリストのラリー・カールトンがギターを担当していたという事実。デニス・バディマーやボブ・ベインも日本のジャズ・フュージョン・ファンにはよく知られているギタリストです。そして注目したいのは、ドラムス担当のスティックス・フーパーと、キーボードのジョー・サンプル、そして実力派ベーシストとして知られるマックス・ベネットがベースを担当しているという事。この3人とラリー・カールトンに共通するのは、当時彼らは皆「ザ・クルセイダーズ」という有名なフュージョンバンドの参加メンバーであったという事です。
サントラ・アルバムはラロ・シフリン名義ですが、実際の演奏自体はクルセイダーズのメンバーを中心としたミュージシャン達によるセッションだったという事ですね。彼らはラロ・シフリンと親交が深かったようで、シフリンの他の映画サントラにも参加していたりします。クルセイダーズの主要メンバーであるウェイン・ヘンダーソンとウィルトン・フェルダーはこのレコーディング・セッションには参加していないですし、クルセイダーズ以外のミュージシャンも多数参加している訳ですから、純粋なクルセイダーズ単独作品とは言えないものの、クルセイダーズの作品の一つとして捉える事も出来るアルバムと言えるかも知れません。
そういう事を踏まえて聴くと、独特なベースの音色はマックス・ベネットならではのものですし、ドラムもスティックス・フーパーらしい感じで興味深く聴くことが出来ます。ラリー・カールトンは日本にも多くのファンがいますが、 カールトンに関するネット情報を検索してみても「燃えよドラゴン」に言及している所は一つもなく、このサントラに彼が参加している事を知るカールトンファンはまずいないようで、「燃えよドラゴン」のギターを演奏していたのがカールトンだったという事をファンが知ったらきっと驚くのではと思います。

ラリー・カールトンやザ・クルセイダーズのメンバー達にとっては小遣い稼ぎのちょっとしたバイト感覚で参加したアルバムだったのかもしれません。しかし彼ら自身のディスコグラフィよりこのサントラの方がヒットし、人々の記憶に残っているのはある意味皮肉的でもあるかもしれませんね。彼らのディスコグラフィには決して載る事がない、彼らの隠れたディスコグラフィとして改めて聴き直すとまた新な発見があるかもしれない、一つのフュージョン作品として楽しめるアルバムとも言えそうですね。

YouTubeのラロ・シフリン公式配信版が無料で公開されています。
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