現在進行中の研究で対象としている生物やこれまでに扱ってきた生物の紹介です(共同研究も含みます). なるべく最新の知見も含めて紹介したいと思っています(が,なかなか時間が取れず不定期更新です).
イトヨ種群(threespine stickleback (Gasterosteus) species complex)
イトヨは,繁殖期になると雄が水草の根などで巣を作り,独特の求愛ダンスを行います.この一連の配偶行動は,ティンバーゲンにより行動連鎖モデルとして示されたことでよく知られています.イトヨは,行動学のみならず,遺伝学,生態学,生理学など多方面で研究材料として用いられています.
日本産イトヨには,遺伝的・系統的に異なるイトヨ(Gasterosteus aculeatus)とニホンイトヨ(Gasterosteus nipponicus)の存在が明らかになりました.これらは,外部形態,繁殖行動,繁殖生態などが異なります.近年,このイトヨ近縁2種の種分化機構が明らかにされつつあります (研究業績:A-1,8,11,12,14,27,31,32,39,45,46,D-2,E-1など) .
イトヨ類は,東北地方から北海道の河川や湖沼に分布しています.しかし,本州では,イトヨの生息場所や生息数が減少しており,早急な対策が求められています.
1)イトヨ(Gasterosteus aculeatus)
イトヨには,遡河回遊性と淡水性(河川残留性)の生活史を持つ個体がいます (研究業績:A-3) .遡河回遊性個体は,主に北海道に分布し,日本海・太平洋に注ぐ河川の河口~下流域に春になると産卵のために遡上してきます (研究業績:A-1) .一方,淡水性個体は,北海道から本州まで各地の河川や湖沼に生息しています(研究業績:A-45).一部の淡水性個体群の由来は他地域らの侵入個体であることがわかっています(研究業績:A-18).
2)ニホンイトヨ(Gasterosteus nipponicus)
ニホンイトヨは,約68-100万年前に日本海湖に隔離された際に太平洋イトヨから分化したと推定されています.東北以北の日本海・太平洋に注ぐ河川の河口~下流域に春になると産卵のために遡上してきます (研究業績:A-1) .北海道東部では,主に河川河口域から下流域の比較的塩分濃度が高い場所で繁殖しており (研究業績:A-8,12) ,北海道西部の潮間帯にある海水タイドプールでも繁殖が確認されています (研究業績:A-2) .
岩手県大槌町では,東日本大震災に伴う津波により形成された湧水性の新規水域に,ニホンイトヨと淡水性イトヨが侵入し,そこで交雑したことがわかりました(研究業績:A-36,37).今後の動態が気になるところです.
3)ハリヨ(Gasterosteus aculeatus microcephalus)
イトヨが陸封化された個体群で,岐阜県,滋賀県,三重県に生息し,絶滅が危惧されています.体側の雲状模様が特徴です. 滋賀個体群は,非意図的に流出した北海道産イトヨと交雑し,純系個体の存続が危ぶまれています.
滋賀県のある河川に生息するハリヨでは,河川の湧水性ワンドを巧みに利用して生活していることがわかっています(研究業績:A-19).
トミヨ属魚類(ninespine stickleback (Pungitius) species complex)
トミヨもイトヨと同様に,繁殖期になると雄が水草の根などで巣を作り,独特の求愛ダンスを行います.背中に棘が9~12本あり,繁殖期になると雄が黒色の婚姻色を呈するのが特徴です.
トミヨ属は従来,トミヨ,イバラトミヨ,エゾトミヨの3種に分類されていましたが,近年の遺伝学的・系統学的な研究によって,トミヨとイバラトミヨは,トミヨ属の淡水型,汽水型,雄物型に分けられることが明らかになりました.近年,北海道に生息するトミヨ近縁3種(トミヨ属の淡水型,汽水型,エゾトミヨ)の種分化機構が明らかにされつつあります(研究業績:A-26).
トミヨ属でも生息場所や生息数が減少しています.特に本州に生息する個体群は危機的な状況にあり,残念ながら,ミナミトミヨ(Pungitius kaibarae)はすでに絶滅してしまいました.
1)エゾトミヨ(Pungitius tymensis)
他のトミヨ属魚類と異なり,背棘や腹棘が短く,先端が丸みを帯びています.また,雄は植物の茎に,植物片などを材料として,球状の巣を作ります.主に河川上流部に生息しています.
2)トミヨ淡水型(Pungitius sp. Freshwater type)
北海道から東北地方日本海側に広く分布し,主に河川の淡水域に生息しています.繁殖期には,体は黒色になり,腹棘の裏側が水色になります.分類学的位置付けははっきりしていませんが,ムサシトミヨ(Pungitius sp.)は,遺伝解析ではトミヨ淡水型に含まれます.
3)トミヨ汽水型(Pungitius sp. Brackish-water type)
北海道東部の釧路地方にのみ分布し,主に河川河口付近の汽水域に生息しています.非繁殖期は,体色が銀白色をしていますが,繁殖期には,体は黒色になり,腹棘の裏側が白色になります.
4)トミヨ雄物型(Pungitius sp. Omono type)
準備中 (というか扱ったことがないので,更新しないかも)
ニホンウナギ(Japanese eel Anguilla japonica)
海で産卵し,日本沿岸~河川で成長する降河回遊魚です.近年,資源量が減少し絶滅が懸念されます.そのため,環境省レッドリストIB類に掲載されています.
ニホンウナギの資源量減少の原因には,過剰な漁獲,生息地の劣化・分断,気候変動などが挙げられています.本種は,数年をかけて日本沿岸~河川で成長しますが,これらの水域は人間活動の影響を受けやすい水域と言えます.近年になってようやく,微生息環境や食性,河川内の移動パターンなどの河川生態特性が明らかになってきました(研究業績:A-35,39,40,42,48).これらの情報が,河川生活期の本種に有効な保全施策に繋がることを願います.
メコンオオナマズ(Mekong giant catfish Pangasianodon gigas)
メコン川に生息する大型の淡水ナマズです.本種は絶滅の危機に瀕していますが,生態や遺伝などあらゆる分野において科学的知見が乏しい状態です.現地ではメコンオオナマズ養殖が行われてたり,タイ国内では資源保護等を目的に人工湖に本種種苗を放流していますが,有効な保全策は講じられておらず,根本的な解決には至っていません.
岐阜淡水魚園水族館アクアトトぎふで行われた長期観察により,本種の摂餌周期には年周期があることが明らかになり,しかも最長約3か月の絶食を伴っていることがわかりました(研究業績:A-16).
タイ国の人工湖に放流されたメコンオオナマズの腸と体長の相対値から,本種は雑食~藻類食であると推定されました(研究業績:A-43).
イタセンパラ(Acheilognathus longipinnis)
国指定の天然記念物です.淀川水系,濃尾平野(木曽川水系),富山平野にのみ生息しています.絶滅の危機に瀕しており,各地で保全活動が行われています(研究業績:C-5).
ネコギギ(Pseudobagrus ichikawai)
国指定の天然記念物です.濃尾平野にのみ生息しています.その生息環境条件の詳細(研究業績:A-6)を明らかにし,有効な保全施策を講じることが望まれます.
ギギ(Pseudobagrus nudiceps)
本来は西日本に分布していますが,近年では東日本でも採集されている国内外来種の1つです.
イシガイ科(Unionidae)
準備中
1)イシガイ(Unio douglasiae nipponensis)
準備中
2)トンガリササノハガイ(Lanceolaria grayana)
準備中
3)ドブガイ属(Anodonta spp.)
準備中
カワシンジュガイ科 Freshwater pearl mussel(Margaritiferdae)
準備中
1)カワシンジュガイ(Margaritifera laevis)
準備中
2)コガタカワシンジュガイ(Margaritifera togakushiensis)
準備中
ヌートリア(Myocastor coypus)
南米原産の半水生のげっ歯類で,本来,日本には生息していない国外外来種です.従来の知見では草食性とされ,農作物の食害が問題視されてきました.しかし,近年の研究により,イシガイ科二枚貝類を捕食している可能性が示され,淡水生態系への負の影響が懸念されています(研究業績:A-21,A-41).