何故,生物はこれ程までに多くの種類が存在し,共存できるのでしょうか?この謎を解き明かすべく,海と川を行き来する淡水魚である通し回遊魚の生活史や生態を研究しています.彼らは,生活史の中で一時的に河川を利用します.そのため,一時的に多種との共存関係が生じます.また,彼らは海⇔河川の両方向での物質輸送にも貢献しています.これらの生態学的意義の解明を目指しています(研究テーマ1,2,3,4).また近年,通し回遊魚は河川横断構造物によって移動を制限されるため,彼らの生息場所が劣化・消失しつつあります.これらの改善に資する研究テーマにも取り組んでいます(研究テーマ1).ですが,興味深いテーマであれば,通し回遊魚ではない淡水魚をはじめとした様々な生物を対象とした研究も進める方針です(研究テーマ5,P1,P2).現在,以下の研究テーマを行っていますが,特に研究テーマ1と2に力を入れています.
キーワード
淡水魚・イトヨ・ニホンイトヨ・トミヨ・ニホンウナギ・メコンオオナマズ・スズキ・生息環境・繁殖生態・繁殖形質・繁殖行動・摂餌周期・食性・回遊・生活史・性的二型・適応進化・生殖的隔離・生態的種分化・湧水・汽水・環境DNA・自然災害・水族館・生物多様性・生息地復元・保全
1. ニホンウナギの保全生態学的研究
ニホンウナギの河川での生活史や生態特性は,未だに多くの謎に包まれています.そのため,これらの謎を解き明かし,絶滅の危機に瀕する本種の保全に必要不可欠な基礎情報を提供を目指します. 特に,小規模河川と堰に注目しており,バイオロギングや環境DNAなどの手法も取り入れて研究を進めています.
対象生物:ニホンウナギ
共同研究者:山下洋・三田村啓理・荒井修亮・高木淳一(京都大学)・和田敏裕(福島大学)・ 渡邊俊(近畿大学)・村上弘章(東北大学)
2. スズキの河川進出とその意義
汽水魚であるスズキは,主に河川河口・沿岸域に生息していますが,河川淡水域でも釣獲されることがあります.では,なぜリスクを冒してスズキは河川を遡上するのでしょうか?その実態と意義をバイオロギングや安定同位体分析などの手法を駆使して解明することを目指します.
対象生物:スズキ
共同研究者:山下洋・三田村啓理・市川光太郎・鈴木啓太(京都大学)・和田敏裕(福島大学)・ 渡邊俊(近畿大学)・黒木真理(東京大学)・村上弘章(東北大学)
3. 淡水魚の生活史特性,生態分岐,および生殖的隔離に関する研究
淡水魚における生物多様性の創出・維持機構,特にトゲウオ科魚類イトヨの生態的種分化,を中心に研究しています.しかし,淡水魚は多くの種類が知られていますが,未だに生活史すらわかっていない魚種もたくさんいます.したがって,淡水魚近縁種間の生活史や生態特性の違いを積み上げていき,生態的分岐や生殖的隔離機構について理解を深めるというアプローチをとっています.現在の種分化研究はメカニズムの解明も進んでいるため,異分野との共同研究を積極的に行っています.
対象生物:イトヨ類・トミヨ類・ハゼ類
共同研究者:森誠一(岐阜協立大学)・北野潤・山崎曜(国立遺伝学研究所)・石川麻乃(東京大学)・池谷幸樹(アクアトトぎふ)
4. 湧水生態系の頑強性と脆弱性に関する研究
2011年3月11日に発生した東日本大震災によって,東北3県(岩手・宮城・福島)の沿岸域は甚大な被害を被りました.そのうちの1つ,岩手県上閉伊郡大槌町の沿岸部は,湧水が豊富にあり,普段の人の生活に利用され,また生物多様性に富む湧水生態系を育んでいました.例えば,サケやイトヨは,当地の自然のシンボルとなっていました.しかし,震災によって,湧水生態系は甚大なダメージを負いました.大規模災害は,これまで幾度となく繰り返し発生し,その都度,生態系は回復していますが,どのような影響があり,どのようなプロセスを経て回復するのか,は謎に包まれています.そこで我々は,大槌町の湧水生態系をモデルにその謎の解明を試みています.
対象生物:イトヨ類
共同研究者:森誠一(岐阜協立大学)・北野潤(国立遺伝学研究所)・鷲見哲也(大同大学)・細木拓也(北海道大学)
5. メコンオオナマズの生態,および行動に関する研究
世界最大の淡水魚の1種であるメコンオオナマズの行動・生態について,野外生息個体と水族館飼育個体を用いて研究しています.また,タイ国での本種の持続的利用が可能になるように,資源管理と保全に資する研究を行いたいと思っています.
対象生物:メコンオオナマズ
共同研究者:三田村啓理・荒井修亮(京都大学)・光永靖(近畿大学)・池谷幸樹(アクアトトぎふ)
過去のプロジェクト(現在は行っていませんが,将来,新プロジェクトとして復活するかも?)
過去のキーワード
淡水二枚貝(イシガイ類)・外来種・イタセンパラ・タイリクバラタナゴ・カワシンジュガイ・ヌートリア・撹乱・氾濫原・二次的自然
P1.外来生物による在来生態系への影響評価
イシガイ類はタナゴ類の産卵基質として重要な存在ですが,外来生物であるヌートリアによって捕食されていることがわかりました.ヌートリアは従来,草食性だと言われてきましたが,少なくとも日本では淡水二枚貝も捕食しています.これが日本だけで見られるのか,それとも他の移入国でも見られるのか,そもそも原産国では本当に淡水二枚貝類を捕食していないのか,興味深いところです(誰かやってくれないかなぁ).
対象生物:ヌートリア・イシガイ類・タナゴ類
共同研究者:永山滋也(岐阜大学)
P2.カワシンジュガイによる水生生物の生息場創出機能に関する研究
準備中
対象生物:カワシンジュガイ類・水生昆虫
共同研究者:根岸淳二郎(北海道大学)