Rijke管の自励音の発生機構の研究
音響管路の途中にある金網を加熱して対流が生じると、自励音が発生する。この現象はRijke管の自励音として知られているが、その発生機構はずっと未解明のままであった。当研究室では熱源部の空気の膨張は、対流速度+粒子速度の和で空気塊が金網を通過する時間だけ継続するので、現時点の粒子速度だけでなく過去の粒子速度も含んだ形で膨張をモデル化した。このモデルは、膨張を意味するピストン速度が無駄時間を伴う粒子速度の正帰還に比例するモデルとなっており、自励現象を説明できる。さらに、自励で粒子速度が増大すると熱源通過時間が短くなることでリミットサイクルが生じることまで突き止めている。最後に残る課題として、管路上半分における空気と管路壁の温度差が自励現象に及ぼす影響に検討を加えて一段落とする。
熱音響現象による自励音の発生機構の研究
ループ管に温度傾斜を持つ熱源を配置して、熱音響現象に起因する自励現象を発生させ、低温熱源の熱エネルギを圧力に変換して回収する研究がおこなわれている。熱音響現象においても自励機構は未解明のまま研究が進められている。第1段階として両端閉止管路を取り上げる。1次元熱伝導現象で境界条件となる端部の温度が交番的に時間変動すると、熱量は45度の位相遅れをもつことは周知である。温度傾斜部の空気隗が音響粒子速度で揺動することは、接触する壁面が交番的に温度変化するモデルと等価である。そこで、ダランベールの解を用いた時刻歴解析で、両端閉の管路をモデル化し、途中の温度傾斜部に45度の無駄時間を伴う正帰還で膨張するピストンを置くことで自励現象の説明に成功している。続いて伝達行列を用いて帰還経路を有する一巡伝達関数を計算し、不安定極とダランベール計算の発散周波数との対比も終了している。最終段階として、ループ管にこれまでの知見を反映したモデル化を行う。
粘性と熱伝導に起因する音響管路の減衰に関する研究
ウォーマスリー流では、ナビエストークス式から層流境界層の粘性に起因する音響減衰を複素密度として表現している。Tijdemanや熱音響現象の研究では、ナビエストークス式とエネルギー輸送式を起点とするエントロピーの式から、複素密度も複素体積弾性率も経由せずに、直接複素音速を導出している。そこで熱音響の式を参考に断熱圧縮ではなく、管路壁との熱伝導を許容する1次元のエントロピーの式から複素体積弾性率を導出し、複素密度と併用して剛壁管路の吸音率と音響インピーダンスを計算し、実験と比較したところ極めて良い結果が得られている。一般的な吸音材形状への適用を目指し、円筒内面から棒材の外周面や板表面の境界層のモデル化に進む。
隙間気流音の研究
マンションではアルミサッシ窓に隙間があると、風の強い日に自励音が生じる。誰もが類似の現象を経験していると思うが、意外なことに誰もこの現象を説明できていない。模型実験で自励現象の再現を試みていたが、ついに学生の苦労が実り、自励音の再現に成功した。自励音モデル精緻化と実験との対比に進む。
長さが変化する振子の揺動運動の研究
ロボットアーム旋回時の自由振動では、慣性モーメントが時変系となり、インパルス応答さえ解析的には求まらなかった。微分方程式の専門書を見ると、Sturm–Liouville型微分方程式が時変系の問題に適用できそうである。波動現象ではないが、自励現象のモデル化のカギとなった局所近傍則で時変系の現象を物理的に記述することも有用と思われる。