【次世代有人潜水調査船を建造・運用する意義】
JAMSTEC2016での「特別報告」の要旨に掲載した図。
「有人か無人か」という議論が遅々として進まぬので論点の明確化のために提示した。
はっきり言って(論文業績的な意味で)科学的成果をえるのであれば有人でなければならない理由はどこにもない。
有人であるべき理由は三つ。
【人類が到達できる領域を持続的に拡大する】
【要素還元的な現代の科学に寄らない方法で人類の叡智を蓄積する】
【困難に挑戦する姿で活力を喚起する】
【生態系をめぐるエネルギーぐるぐる】
エネルギーの動きに注目して光合成生態系と化学合成生態系を描いた図。博士論文で概念図として使用。
酸素(O)・硫黄(S)・炭素(C)・水素(H)について,酸化態を左に,還元態を右に置いている。
厳密にはあてはまらない場合もあるけど,大枠の理解のために。
それぞれの「ぐるぐる」は矢印の向きに動く時に発熱反応で生態系にエネルギーを与える。
たとえばメタンと硫酸を組み合わせればエネルギーがとれる(嫌気的メタン酸化と呼ばれるもの)。
逆回しの二酸化炭素と硫化水素は駆動しない。
エネルギー保存則があるので,メタンと酸素を組み合わせてもエネルギーがとれる。
酸素発生光合成の卓越する時代は一番上のO2生成がバンバン起こって,
O2を基点にぐるぐるをバンバン回すので,
各元素は酸化態(硫酸・二酸化炭素・水)になり,
還元態は希少になっている。
大昔,酸素発生光合成が開発される前や,海底下流体系の活発な地点では,
一番下のH2生成がバンバン起こって,
各元素は還元態(硫化水素・メタン・水素)になりがち。
そんな還元環境でも炭酸は存在していることが多いので,
「H2+CO2->CH4」をエネルギーにするメタン菌が最強生物であると言えるわけです。
【無機化学合成一次生産の前に隠された真の一次生産である非生物H2生成】
一般的な生態系の捉え方で言えば「有機物生成」を行う「生物」が「一次生産者」である。
でも「有機物/無機物」とか「生物/非生物」って人間が勝手に設定したものでしかない。
「生態系」ってものをエネルギーの授受で捉え直すと,
今まで「一次生産者」と呼んでいたものの前に,
一次生産者が利用するエネルギー源を用意する反応が存在している。
炭素とか生物とか,そういうものを抜きにして,エネルギーだけで見れば,
H2は物質だけど,メタン菌はH2を食べているという意味で「捕食者」であって,
そのH2を作っている反応こそが「真の一次生産」と言えるんじゃないかしら。
生態系にH2を供給する水と岩石の相互作用には,
「岩石の持つ還元力」「岩石に含まれる放射能」「岩石の結合力」の3つがある。
だから「光合成生態系」や「化学合成生態系」という一次生産者による分類をまねれば,
この3つの「真の一次生産」で生態系を見分けることができる。
でも生態系って言葉はもう定義がカッチリしている感があるので,
「真の一次生産」で分類する生態系的概念を「生命圏」と呼ぶことにしよう。
【地震生命圏仮説】
「地震生命圏仮説」を提案する図。
地震断層活動によって生じたH2を基点とする物質循環系を,
上記の「生態系」を広く捉えて「生命圏」と呼ぼうという考え方から,
「地震生命圏」と捉えている。
「地震」「海底下生命圏」「メタンハイドレート」「地球温暖化」という,
地球科学・掘削科学のメインテーマ達をガッツリ抱き込んだストーリーで,
個別の研究をいくらでも盛り込める大枠を提案するもの。
【地球科学的なメタンの分類】
メタン生成過程(メタンの起源)を2軸で4種に分類した図。
非生物(abiotic),熱分解(thermal),水素資化(hydrogenotrophic),有機物利用(organotrophic)。
左半分は無機炭素を基点としたメタン生成,右半分は有機炭素(OM)を基点としたメタン生成。
上半分は低温ゆえに生物活動が卓越する環境,下半分は高温ゆえに生物活動が期待できない環境。
酸素や硫酸の枯渇した海底下の還元環境(ぐるぐる図参照)では,
メタンは分解することなく蓄積している。
この蓄積したメタンの起源を知ることができれば,
海底下でかつてどのような過程が卓越していたのかを類推することができる。
メタンを主成分とする天然ガスやメタンハイドレートがどうやって出来たものなのか,
あるいは「地震生命圏」が本当に存在している(していた)のかなどを検証するために,
メタンの起源を調べることが重要ですね。
【海洋窒素固定活性の検出や分布把握にH2指標はどうでしょうか】
海洋窒素固定活性を把握するためにH2を利用することを提案した図。
停船採水した観測値を見るとイケそうで本当に実用的な感じがしているのだが,
これまでに乗船した研究船の研究用海水は,
ことごとくH2コンタミがあって(たぶんポンプのせい),
航走観測が現実化していない。