海洋研究開発機構/JAMSTEC/ジャムステックは国立研究開発法人である。「海洋・地球・生命の統合的理解」を標榜する研究機関であるが、調査船やスパコンを運用するインフラ機関でもある。最近はテレビやウェブで取り上げられることも多く、知名度があがっているように感じる。
JAMSTECには大学院としての機能がない。つまり修士号や博士号を出すことができない。だから大学院進学情報サイト『tayo』に投稿することもできない。しかし、だからといってJAMSTECで大学院生として研究ができないかというとそうでもない。大学で大学院生としての身分を持つことを前提として、JAMSTECで研究生という身分になることで、JAMSTECの設備を使い、JAMSTECの研究者から指導を受け大学院の研究を進めることができる。
JAMSTEC公式ウェブサイトに大学院関係の情報があまり載っていないのは、大学院生の指導が国立研究開発法人としての本来の任務ではないからというそもそもの部分に加え、たぶん大学に対する遠慮・配慮・嫉妬もあるのだと思う(名探偵による推理)。しかしそんなことで大学院生の希望の芽を摘んでも誰も幸せになれないので、「JAMSTECで大学院生として研究をしたい」という希望を抱く人に向けて、非公式に情報提供する意図で以下につらつらと書こうと思う。とにかく非公式情報なので、進学を考えている人はすべてを鵜呑みにしない方が良いし、うちの職員は「いい加減なことを言うな!」とかクレームをつけないでほしい。
ちなみにワタシ自身は、博士課程から東京大学大学院農学生命科学研究科に進学した上で途中からJAMSTEC研究生となり、JAMSTEC船舶を利用して海に出たり、超好熱菌の培養実験をしたりして、博士論文研究を進めた。卒業後はJAMSTECでポスドクとして雇われ、そのまま任期付研究員、定年制研究員という人生を歩んでいる。研究生を受け入れたこともある。生命系の部署に所属しているが、地質系や環境系とも接点があり、所内の色んなことに色々と詳しく(濁す)、良いところも悪いところも見ている。「結構マジで考えています」という人に向けて書いたので、全体に厳しめの内容です。
回答:実習船を持つ大学に進学するのが良いでしょう。JAMSTECに所属する研究者であっても、航海の機会が必ず用意されているわけではなく、1年間まったく乗船機会がないこともありえます。すくなくともJAMSTECの研究生だからといって優先的に乗船できるなんてことはまったくない。実習船を有する大学(北大・東京海洋大・神戸大・鹿児島大・長崎大などなど)に所属する方が、乗船機会には恵まれているのではないだろうか。
回答:JAMSTECの研究者だからといって航海機会を自由にできるわけではありません(二度目)。大学教員にもJAMSTECの船舶を使って研究を進めている人はたくさんいるので、そういう研究室を探しましょう。たとえば東京大学の大気海洋研究所は海に出る研究の一大拠点で、教員の多くはJAMSTECの船舶を利用して研究を進めています。大学院の進学先としてオススメなのであるが、あそこはあそこで入学方法が少しややこしいので、がんばって調べましょう。
回答:JAMSTECの研究者の中から、連携大学院教員あるいはそれに類する大学教員の身分を有する人を探して相談しましょう。横浜国大・横浜市大・東大・広大など、いくつかの大学で連携教員をしている人がいます。この場合も、入試を受けて大学に入ることは必須です。その上で、JAMSTEC研究生という身分(無給)となり、JAMSTECに出入りすることになります。
しかし「連携教員身分のあるJAMSTEC研究者一覧」という便利情報はどこにも用意されていないので、部署のサイトをコツコツと見て回るしかありません。部署のサイトを見ても、連携教員をしている旨を記述していない場合もあります(うちの部署の人は誰も書いていない・・・)。大学側のサイトで教員一覧から探すこともできますが、そちらはそちらで「連携教員」と書いてあっても「JAMSTECの研究者」とは書かれていない場合があるので、さらにググったりして確認する必要がある。
ちなみに「連携教員をしているJAMSTECの研究者」というのが、教育者としてあるいは研究者として優れているかというと、必ずしもそうとは限らない。「(誰でもいいから)(連携教員をしている)JAMSTECの研究者」という基準で選ぶと、とんでもない人にあたる可能性もある。大学院生活は、指導教員との人間関係が9割(誇張なし)なので、もうちょっとマシな基準で選ぶべきだろう。
回答:その研究者に直接連絡しましょう。「あなたの指導を受けて研究をしたい」と言われれば、普通の研究者は「うれしい!たのしい!大好き!」と返事をくれるはずです。そうならない人は、やはり大学院生の指導には向いていないでしょうから、ご縁がなかったと思って、避けましょう。ウェブサイトで連絡先を公開していない人もいますが、GoogleScholarなどで論文を探せば、著者連絡先としてメイルアドレスが記載されているはずです。いきなり連絡を取るのはハードルが高いかもしれないけど、それぐらいのハードルは余裕で越えられる押しの強さ・鈍感力がないと、JAMSTECで研究生として研究を続けていくのは大変です(後述)。
JAMSTECの研究者が乗り気になってくれれば、本人が連携教員でない場合でも、非公式(半公式?)なルートで受け入れることができます。たとえば『大学を本務とする大学教員の研究室に所属しながらJAMSTECの研究者に(丸投げされる形で)指導を受け研究を進める』ことができます。あるいは『大学を本務とする大学教員の研究室に所属して教員とJAMSTEC研究者の間での共同研究テーマの実質的担当者のような立場として両者から指導を受け研究を進める』こともできます。『連携教員をしているJAMSTEC研究者を紙の上での指導教員(オブラートに包まない表現)とし、実質的には別のJAMSTEC研究者の指導を受ける』こともできます。いずれのケースも実際に存在し、よく知る研究者が実行しています。こうしたスタイルを認めてくれる大学教員を見つける必要がありますが、JAMSTEC研究者のハートをガッチリ掴めたならば友達を紹介してくれるでしょうから、意外と問題にならないと思います。
回答:動機が不純ですね。嫌いじゃない。おおいに結構です。がんばってください。
回答:ビミョーです。研究能力とはまた別の部分での人間力や生活背景などに依存するところが大きく「絶対オススメおいでおいで」と気安くは言えないですね。
大学院生である以上、所属する大学での責任から逃れることはできません。たとえば授業を受けたりとか中間発表だったりとか。所属ラボの先生によってはラボセミナーに出席を求めたりもするでしょう。特に最近は大学院生でも授業が多いので、実質的にJAMSTECに来られるのは週三日あるかないか、ということになるでしょう。大学ーJAMー家の移動時間も余分に必要です。時間が足りないことで、研究進捗が芳しくない状況に陥ってしまいます。
JAMSTECに入り浸っている研究生はそれほど多くなく、そのせいで研究生(大学院生)同士の交流機会が少ないことは、結構深刻な問題です。特に博士課程では、普通の大学院生活でも半分ぐらいは闇落ちしていきます(個人の感想です)。JAMSTECで研究生をしていると、周囲に学生は少なく、また研究生同士でも出身大学や所属大学が違う場合が多いため、なかなか腹を割って話せる間柄にはなりにくいでしょう。愚痴を言い合ったり、慰め合ったり、励まし合ったり、比較することで自分の現在地を確認したり、そういう相手が身近にいることは精神衛生上とても大事なのですが、これが確保できません。
JAMSTECには(理研とは違い)研究生に給料を出す制度がありません。RAのような設定で幾分かは出せますが、月10万は到底出せない程度です。頼りにならない研究機関ですみません。ただでさえ大学とJAMSTECの二重生活が必須な上に、アルバイトなどをせねば生活が出来ないかもしれず、学振DCを持っていたり実家が太かったりしない限り、大変です。
ポジティブな面は言うまでもなく、設備・資金に優れたラボ環境と、プロの研究者・技術者・事務職員を使い倒せる人的環境でしょう。本人に意欲さえあれば、いくらでも研究をして、業績を上げ、能力を磨き、世界に羽ばたけます。
JAMSTECで大学院生として研究をしたいと思ったならば、とにかく一度JAMSTECに来て、色んな研究者や研究生の話を聞いてまわりましょう。どうしても踏ん切りがつかないなら、まずはワタシのところにお茶しに来てください。