2024年8月にエクスナレッジ社から『深海問答』を上梓しました。
2022年3月、編集者の方から突然メイルを受け取ったのが契機です。このサイトやブログを読んで興味を持ったそうで、いわく「海ゴリラ様の研究内容はもちろん、文面からにじみ出るキャラクターに惹かれており、本でうまく表現できれば多くの人に読んでもらえ、研究内容の意義や面白さも伝える本にできるのではないか」とのことでした。恩師や大将が一般書を出していることもあってハードルを感じないどころか、むしろ「いずれ一冊ぐらいは・・」と野心を持っていたため、誘いにホイホイと乗って執筆を引き受けてしまったのです。
ちょうどJAMSTEC50周年記念誌の編集長業務が終わり、科博の特別展『海』の監修が始まる時期で、ネタも手元に集まっている状況でした。さらにはコロナ禍によるテレワークの定着と第4子出生対応での自宅待機があって、それなりに執筆時間を確保もできそうという甘い算段もありました。
結局、出版挫折未遂も挟みつつ2年以上の時間がかかりました。自分としては満足のいくデキとは言えないながらもなんとか出版にこぎつけた、というのが実際のところです。そんな著書ではありますが、ほうぼうで好意的な書評をいただいており、今となっては「書いて良かったな」と素直に思えています。
そんなわけで、いただいたステキな書評をここで紹介し、感謝の気持ちを表明します。
日本地学教育学会『web書評』に高知大学の藤内智士さんが書いてくれました。
一足先にステキな著書『変動が作る岩石たちの関係 』を出版しており、刺激と励みを与え続けてくれる中野海洋研の同期です。
資源地質学会の和文誌書評欄に伊藤孝さんが書いてくれました。
爆発的に売れている『日本列島はすごい』の著者から称賛を受けて、嬉しいやらお恥ずかしいやらです。
日本地球惑星科学連合JpGUの機関誌JGLに藤井昌和さんが書いてくれました。
船に乗って海の中を調べる仲間として、これからも一緒に問答していきましょう。
2025年3月3日紙面の『クローズアップ』欄で著者として受けたインタビューを掲載いただきました。
大阪市立自然史博物館のウェブサイトにある『友の会読書サークルBooks』で4名の方から書いてもらいました。
山田智子さんの書評を、共同通信社からの配信で神奈川新聞や沖縄タイムスなど多くの地方紙で掲載いただきました。
きれいな海を守ろう。
海には不思議な生物がたくさんいるね。
深海は宇宙よりもアクセスが困難な人類のラストフロンティアだ。
そういう情緒的なアピールは、海に関心を持ってもらう糸口にはなるかもしれません。しかし、 情緒的なアピールだけでは、海に関する話題が娯楽として消費されるばかりで、皆さんの関心がその先へとなかなか進んでいきません。
現代に暮らす人々は、科学技術の発展によって引き起こされた気候変化の渦中にあります。 1人ひとりの暮らしを快適にするために発生した無数の小さな代償が、地球環境の変化という大きな塊となって、ボクたちに跳ね返ってきているのです。もちろん人類もただ手をこまねいているわけではありません。その原因や先行きをつぶさに調べ、必要と考えれば行動を変容しています。それと同時に、さらなる科学技術の発展によって、劇的に問題を解決するための道筋を探ってもいます。
その道筋の多くに、海が関わっているのです。
脱炭素社会に必要となる新素材の原料を海底資源に求め、化石燃料の使用で発生する二酸化炭素の行き先を海に求めることが、検討されています。往々にして、人々がこうした大規模事業の存在を知るのは、事業推進側の広報活動によってであり、そこでは事業への市民的な期待感の醸成が進められます。期待感の醸成より先に、その難点やリスクが宣伝されることは、原理的にありえません。難点をあげつらうには、事業そのものの狙いを紹介する必要があり、これが推進に向けた宣伝活動になってしまうからです。
それゆえ事業への抑制的な意見を口にする者は、構造上、常に世間から「反対派」と認識されることになります。よくも悪くも情緒先行が国民的慣習となっている日本では、「難しいこと言って反対ばかりしないで、一度やらせてあげようよ」と言われることが、少なくありません。そうこうしているうちに、いつの間にか後戻りできないところまで事業が進んでしまっている。そういう流れがあることは、五輪や万博を例にあげるまでもなく、みなさん経験的にご存じでしょう。
海での大規模事業の推進も、「海を守ろう」のかけ声も、どちらも情緒にまかせているだけでは危なっかしく、どちらに転んでも将来世代に禍根を残す事態へと発展することが懸念されます。未来は常に不確実です。そんな未来を悪くないものにするため、科学的な知見を集積して議論し、しかし情緒を無視することもなく、慎重な検討と大胆な決断とを重ね、事後にはその影響を振り返り次へと活かしていくこと。これこそが、ボクたちがコロナ禍から学ぶべき、もっとも大切なことだと思っています。
情緒に訴えるわけでもなく、小難しい研究の紹介に終始するわけでもない。子供だましでボヤかさず、老若男女に噛み応えがあるけど、決して難しくはない。海の科学の面白さと難しさとともに、 海と人類の未来を考えるために知ってほしいことを伝え、一緒に考えていく土台を作りたい。海・地球・生命の科学を伝える魅力的な書籍がすでに山ほどあるなかで、蛇足とも言える一冊を出す以上は、世にある優れた書籍へと誘う本にしよう。そんなことを考えて、この本を書きました。
蒲生俊敬、高井研、平朝彦の三巨頭からは、深海の調査研究において多大な支援と薫陶を受けたのみならず、それぞれに個性的な文体で綴られた書籍からも影響を受けました。異分野の研究者たちとの交流は常に愉快で、日本学術会議若手アカデミーに集う優秀で情熱的なメンバー、とくに生物情報科学者の岩崎渉さんと心理学者の高瀬堅吉さんからは、大きな刺激を受けています。地質学者の藤内智士さんからは、今はなき中野の海洋研で大学院時代をともに過ごした頃から現在に至るまで、柔らかで力強いエールを受け取っています。同じ組織でともに深海を研究している野牧秀隆さんには、日常の下世話な会話での憩いに加えて、アラの多い初稿の細部にわたって目を通し修正案を提示してもらうなど、お世話になりっぱなしです。
家族を養うためのお賃金をいただくべく従事している海洋研究開発機構での職務として、創立50周年記念誌をまとめ、国立科学博物館での特別展「海」開催に携わったことは、海と人類の関係について歴史的な視座から考える契機となりました。ボクが外回り仕事や駄文錬成や子育てにかまけていても、辛うじて海の研究者を名乗っていられるのは、同位体地球化学の研究成果を創出し続けてくれる深海棟301ラボのメンバーや、航海準備を一手に引き受け船上作業を粛々とこなしてく れる腐れ縁のメンツのおかげです。この本では、一緒に研究しているみんなのおかげで出せた研究 成果を紹介することができず、申し訳なく思っています。
海のものとも山のものともつかぬ野生のボクを発見し、「一緒に本を作りたい」と声をかけてくれたエクスナレッジ編集部の森哲也さんがいなければ、この本は誕生しませんでした。あらためて感謝いたします。オファーを受けた2022年 月から2年以上もかかってしまったのは、ワーク ライフバランスの実現を優先したわけではなく、ただひたすらボクの怠慢のせいです。執筆のラストスパートで頑張れたのは、ササオカミホさんの描く楽しいイラストから受けた刺激のおかげです。感謝します。不勉強のため、本書には正しくない記述や誤った情報が残されているはずです。そんな修正すべき点を見つけられた方は、インターネットに悪評を書き連ねていただいて構いませんので、それと同時に修正点を直接連絡くださいませ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。