海底資源採掘や海洋気候工学など、新たな海洋利用法の確立にむけた動きが活発になっています。現時点では、新たな利用法がどんなものになるかは未確定ですが、いずれにせよ、利用法の特徴によってどのような環境影響が起こるかが決まっていきます。海洋開発事業における環境影響評価は、事業化においては、開発と評価のそれぞれの主体は適切な距離を置いて進められるべきです。一方で、事業化に先立つ海洋利用法の検討や実証の段階においては、むしろ開発と評価の主体は互いに接近して進めることが、適切な知見を得るための望ましいあり方だと考えています。
こうした背景から【人類の海洋利用拡張と環境影響評価の統合的推進】をテーマに掲げています。具体的なプロジェクトとして、SIP海洋課題における南鳥島沖レアアース泥を対象とした取り組みのほか、共同研究として海洋二酸化炭素貯留や大型藻類養殖などの課題にも取り組んでいます。
人類の介入による影響を検出するためには、介入以前の状況(すなわちベースライン)を把握しておくことが必須です。海洋生態系は、昼夜や季節をはじめ、天然にも様々な要因で変動しています。この天然変動幅を超えて起こった変化を、介入の影響として検出するわけです。もし天然の変動を把握できていないと、天然変動を介入影響と誤認してしまう可能性がもあります。
海洋生態系の変動は、それ自体が海洋学の一大テーマであり、調査が行われている最中です。海洋学の最先端の知見を常に把握しておくことが、環境影響評価としてのベースライン調査にも求められます。われわれのグループでは、先端的な海洋学研究としても通用する水準でベースライン調査を行うことで、いかなる海洋開発に対しても有用な知見を提供することを目指しています。
大規模な海洋開発において懸念される環境影響を、その評価のためだけに同等の規模で試験的に引き起こすことは、通常ありえません。そこで、開発において想定される事象に類似した天然現象を見出し、この影響を調査することによって、開発時の影響評価の参照とすることを試みます。この参照とする対象を、天然の相似形、ナチュラルアナログ (natural analogue)と呼びます。
大規模な地震や台風によって海底の堆積物が再懸濁することが知られており、これは海底資源採掘時に懸念される再懸濁のナチュラルアナログに見立てられます。海底から二酸化炭素が湧出する地点の環境は、人工的な二酸化炭素貯留時のナチュラルアナログと言えます。こうしたナチュラルアナログの調査を通じて、局所的・例外的な海洋生態系プロセスの把握に努めます。
執筆中です
執筆中