歯科医師のライフサイクルを考えると、大学を卒業してすぐに開業ということはありません。誰でも一定期間の勤務医時代をへてからとなります。開業をめざす先生方は、医院建築・資金計画などを立てる前に、まず考えて欲しいことがあります。
開業するのは、歯科医師本人だという自覚が一番大切です。あたり前のことと思われるかも知れませんが、いざ開業となると様々な計画立案・業者との交渉・書類作成など、煩雑なことが多く、勤務医時代とのギャップに直面します。関連業者や税理士、経営コンサルタントなどは、良き相談者として活用する意味はあるかも知れませんが、何よりも自分が開業するんだという自覚をもってすべてを行っていく必要があります。
また、一番の相談相手であり開業する際のパートナーでもあるのは家族、特に配偶者であるということを忘れてはいけません。一人ですべてを決めるのではなく、常に話し合って計画を立案し、実行しましょう。
歯科ではもともと医科と違い定年まで働ける勤務先はほとんどなく、大多数の先生が開業の道を歩まざるを得ません。
しかし、医療を取り巻く情勢は、開業しさえすれば万事順調に推移するという状況ではなくなっています。政府の医療費抑制政策のもと、2年に一度の診療報酬改定は近年実質マイナス改定となっています。
さらに、患者は、度重なる医療や介護、年金、生活保護などの社会保障が切り下げられる中で、受診抑制の傾向にあります。
開業するには一定の設備・機材が必要で借入金も膨らみますから、一度開業してしまったら、たとえうまくいかなかったといって、すぐに撤退できるものではありません。
開業にいたる動機はいろいろあると思いますが、なぜ開業するのか、どういう目的・理念・診療スタイルを持って開業するのかをはっきりさせておきましょう。
目的が明確になったら、自分の医院のあるべき姿を構想してみます。標榜できる科目は、歯科・小児歯科・矯正歯科・歯科口腔外科です。
【ビル開業のメリット】
・資金が少なくても開業できる
・物件によっては、駅の近くといったアクセスの良い場所で開業できる
・他店舗の集客能力も活用できるし、医療機関があれば連携できる
【ビル開業のデメリット】
・テナントのため診療所が融資の対象とならない
・使用可能なスペースが限定されるため、診療内容が制限されたりする
・専用の駐車場や駐輪場が確保できない場合がある
どちらにするか迷ったら、判断の基本に置くのは、患者の立場になったらどうなのか、ということです。これは他の選択についても同様のことがいえます。
診療日(休診日)はいつにするか、診療時間は何時から何時にするか、訪問診療はどうするか――など、他にも考慮することがあります。
診療所の経営は、「サービス業」「立地産業」でもあるという側面を持っています。地域住民から認知され、患者の再来を促すために、医院がどのようにニーズを把握し要望に応えていくか、治療の周辺での姿勢が問われる部分です。
インフォームドコンセント、セカンドオピニオン、カルテ開示、明細領収書発行などに象徴されるように、医院と患者の関係が大きく様変わりしています。患者は治療の的確さだけでなく、受付の対応や診療所の雰囲気、説明の丁寧さなどで、次に受診する医院を変えてしまうことが少なからずあります。そうしたことから、①診療サービス②応対サービス③情報提供サービス④アメニティ――の4つの要素から、患者のニーズに応えうるサービスの提供とはどういうものか検討されることが大切です。
ここまでの開業の基本構想がまとまったら、構想を実現させる作業=具体的計画に入っていきます。下図例を参考にしながら自分でおおまかなタイムスケジュールを作成してみて下さい。実際に作業に入ると、当初考えていなかったことが出てきますので、ゆとりを持ったものにしておくことです。
以後は、個々の項目ごと(立地選定・資金計画・従業員確保・諸届けの作成と提出など)の作業を、作成したタイムスケジュールを目安にしながら行っていきます。
個別の作業を行う中で、自分の当初行いたかったことが、資金や立地などの関係で難しくなったら、その時点で当初の理念を基本にしながら修正を行っていきます。場合によっては根本的に変更するとか計画自体を断念するということもあるかもしれません。その場合でも開業の時期や立地を変更するなども考え、焦らずにじっくり進めていきましょう。